月一度、奥銀座で密会を。|編集者・池田園子

ライター紹介

池田園子
池田園子
フリーの編集者/記者。女性向けメディア「DRESS」編集長。著書に離婚経験後に上梓した『はたらく人の結婚しない生き方』など。プロレスが好きで「DRESSプロレス部」を作りました。

「東京の西側」への憧れ

田舎者ほど世田谷区に住みたがる――私が「東京の東側」に移住した後、元恋人がそんなことを話していたのを思い出した。

29歳で離婚したのを機に、三軒茶屋から新富町へと引っ越した。銀座を少し湾岸沿いに入った奥銀座エリア・新富町。

八丁堀(新富町の隣)で暮らした経験のある妹から「このあたり、複数路線使えて便利だよ。銀座も徒歩圏内だし」とすすめられたのを機に、大胆なマインドセットを試みたのだ。

川崎市(東門前)に住んだ時期を除き、18歳で上京してから荏原町(品川区)や学芸大学(目黒区)、三軒茶屋(世田谷区)など「東京の西側」で暮らし続けた。通勤や結婚との兼ね合いもあるものの、地方出身者の私は、西で生きることへこだわりがあった。今思えば、あの頃は「西」という宗教に入信していた。

さらば、恵比寿・三軒茶屋。こんにちは、奥銀座

東に来て早10ヶ月。付き合う人々も食事をする場所も様変わりした。西時代、22〜25歳頃までは、友人と会うのも合コンをするのも主に恵比寿、渋谷エリアばかりだったと思う。

26歳になる頃、元夫と付き合い始めてからは、自宅周辺の三茶・池尻大橋で食事をする機会が増えた。今まで縁のなかった下北沢にも足を伸ばすようになった。

三茶から下北まではバス1本で行ける。下北沢駅から少し離れた三茶寄りのエリアには、落ち着いた名店が点在していることも知った。もう訪れる機会はないが、美味しい経験を数多く積めた場所だ。

そして、東へ――。1月某日、Facebookで「離婚報告」をすると、ぽつぽつとメッセージが届いた。うち1通は、4年ほど前に知り合った、ハンサムという言葉が似つかわしいアラフォー男性。

仕事絡みの用件の後に「(ぼくも新富町)近くなので今度食事でも」とあった。好みの男性が発する「今度」を流さずに、デートの予定に変換してしまうのが私だ。

たとえ社交辞令であっても、いい男から食事の提案をされたなら、それを形にしないともったいないと思う私は欲深い女だろうか。いや、自分の欲望に忠実であるほうが、人生楽しいですよ。

大人のしっとりデートで外さない新富町「Nodo Rosso」

初デートで訪れたのは、新富町駅と八丁堀駅、宝町駅の中間地点にある「Nodo Rosso」。広い通りから1本入った路地にある、カウンターだけの隠れ家的なイタリアン&ワインバー。

1頭分の内臓を仕入れるお店だからこそ提供できる、タンモトやオッパイなど、様々な希少部位を集めたグリルの盛り合わせ「本日の内臓のグリルミスト」(2,380円)は肉汁が滲み出る、やわらかいお肉に感動する。

迫力のある塊で登場する赤身肉「山形尾花沢牛A5クリのロースト」(1,780円)も絶品だ。

以降、彼とは鰻の「しらゆき」、洋食の「煉瓦亭 新富町店」、バルの「八十郎」など新富町が誇る美味しい店で月1デートをする仲になった。

今はこれくらいゆるやかな距離感がちょうどいい。会った後は1ヶ月後が待ち遠しくて、体の奥底が疼く感覚があるけれど、月に1回の逢瀬は「限定品感」が効いているのだと思う。何度会っても新鮮味が薄れず、程良いうっとり感が持続している。

お気に入りの街で積み重ねる、食事の記憶

5月に会ったとき、彼は私に「遅くなったけれど、誕生日プレゼント。ベタなモノでごめんね」とボディケア用品を贈ってくれた。

永久に残るモノではなく、消耗品。その心遣いが嬉しい。この関係は近々終わる、と頭でわかっている。終焉を迎えたときにモノと向き合うつらさを想像すると、消えてなくなるモノや形のないモノのほうが断然いい。

好きな人とは食事の時間を共有できるだけで十分だ。たとえば新富町の「Nodo Rosso」を訪れる度に、彼と初めて来たのだったなぁと思い出し、心がふわりと風になびいて、じわっと温かくなる。そんな食の記憶を今暮らすお気に入りの街で、たくさん作っていきたい。

・この記事の続きはこちらから!
奥銀座とおじさんの思い出

最新の人気グルメ情報が届く!

イイねするだけ!
最新の人気グルメ情報が届く!

Facebook

「いいね!」するだけ!
最新の人気グルメ情報をお届けします。