こんにちは、Retty編集部です。
連日テレビなどで、豊洲新市場への移転問題が騒がれていますね。
移転するかどうかは未確定ですが、みなさんは「築地市場にあるお店もそのまま豊洲に移る」と思っていませんか?
実は、今回の移転によって食べられなくなる「名店の味」があるんです!
そこで今回、TVチャンピオンで築地王に輝いた築地の第一人者、小関敦之さんにその真相を聞いてみました。
「築地王」になるきっかけは、ちょっと不純だった。
今回はよろしくお願いします。そもそも小関さんはどういうきっかけで「築地王」になったのでしょうか?
当時、雑誌で特集されたり結構「築地」ブームが来てたんです。その時、築地のすぐ近くにある職場にたまたま勤めてまして、「毎日食べれば日本中からうらやましがられるぞ!」……というのが最初の動機でした。
そこから築地王への道が始まるわけですね。でも動機が不純…(笑)
そして、場内※にある「魚がし横丁」という飲食店街の39軒をすぐ全制覇しました。
※場内とは、「築地市場内」のこと。築地市場には「場内」と「場外」の2つがあり、今回の移転で話題にになっているのは「場内」の話なんです。
おお、有言実行ですね!
実はその前は、ラーメンが好きで年間400杯くらいは食べていました。
1日1杯以上食べてたんですか!?
食いしん坊なので。当時テレビ東京の「TVチャンピンオン」という番組が流行ってました。
私も昔、よく見てました!
で、「TVチャンピオン ラーメン王選手権」という、ラーメンに詳しい人達が競い合う回の出場者たちが集う「裏話の会」に参加していました。ラーメン王選手権に出ている人は、年間1,000杯とか食べてるんです!
ケ、ケタが違う……!1日3食ラーメンじゃないとほぼ無理ですね……。
なので自分がラーメン王になれるとはこれっぽちも考えてはいませんでした。
なるほど。
実は私は、食べたものの記憶が残りにくいタイプで、ラーメンもいろいろな店で食べても忘れちゃって、2回目に行った店で「あっ、ここはチャーシュー外れだったんだ!」とチャーシュー麺を食べるときに思い出すという有様で。
確かに、昔に食べたことって忘れることありますよね…。
2度と同じミスはしたくなくて、築地ではちゃんと記録を残そう!と思い、ブログが世の中で始まるはるか昔だったんですが、行った店をネット上に投稿するようにしたんです。
ブログが始まる前から!
割と一生懸命、時間をかけて書いていたので、テキストだけなのにアクセス数が伸びました。読んでくれる人が増えると、やる気が出てきて、結局1年間毎日記事を更新し続けました。場内は行き尽くしてしまったので、場外や自分が名付けた「裏築地※」という周辺エリアまで広げて行きまくってましたね。
※裏築地とは、1丁目から7丁目まである「築地」という土地の中で、場内でも場外市場でもないエリアを指します。
TVチャンピオンへの出場、そして築地王に!しかし……。
そんな時に、TVチャンピオンで「築地王選手権」をやることになって。
いよいよTVチャンピオン出場ですね。
番組のディレクターが私の投稿を見てくれていて、自分から応募しなくてもオファーするつもりだったようです。
それは嬉しいですね。
ただね、何百万人も観てる番組ですから、全然できなかったら恥ずかしいと思い、出場しようか迷いました。
確かに、テレビにいきなり出ることになったら、とまどいますよね。
そうしたら出場してくれたら勉強代として3万円くれる!っていうんで、3万円もらえるんなら恥かいてもいいぞっ!と出場決定です。
意外とあっさり…そして動機がやっぱり不純…(笑)
とはいえ準備はしないといけないので、番組収録までの1ヶ月はがむしゃらに勉強しました。そして結果、ぶっちぎりで優勝することになったんです。
おおお、すごい!
ラーメン王になった人たちは、チャンピオンになった後、本を書いたりしていたので、自分もオファーがくると思っていたのですが、待てど暮らせどなんのお話も来ませんでした。
ゴールデンタイムでも1回の放送では本を書けないんですね…。
存在をアピールする必要がある!と気付いて、本を書きたい人と出版社を結ぶ会というのがあったので、そこに参加しました。そして光文社の編集者と知り合いになり、めでたく「築地を食べる」というデビュー作を出版することができました。
本への執念がすごい…。
本を書くためにまた調べて、知識もさらに倍、また倍と増えていきました。それまでランチだけだったのを、『俺が知らないところはない』と胸が張れるように、隣のエリアや夜まで範囲を広げました。
築地は意外とお金になった
そこまで突き詰めるだけの魅力が築地にはあるんですね。
幸い季節によって魚は種類が変わるので、食べ尽くした感が生まれるまでは時間がかかりましたが、さすがに毎日食べてブログを書き続けるのには、途中から大分飽きてきました。
!?
正直言うと、もう辞めようかなって、思ったこともありましたよ。
(すごい正直だな)。
自分のサイトに記事を書いて、たくさんの人に見てもらえれば、それはそれで嬉しいのですけれど、さすがにそれだけだと、毎日続けるのにはインセンティブとして弱くって。
なるほど。
ちょうどそんな時に、グーグルアドセンス※が始まったのが、大きな原動力になりましたね。それまではバナーを貼っても1クリック1円くらいだったのですが、アドセンスは一桁違っていて、ちょっとしたお小遣い稼ぎになったので。クリックしてもらえればお金になる!とまた俄然やる気が出てきました。
※グーグルアドセンスとは、広告をネットワーク化したオンラインのサービスで、これをブログなどに張ることで、ブログを書いている人に収益が入るようになります。
やっぱりお金なんですね
続けたおかげでテレビにも出られるようになり、築地ツアーの案内もしています。大学の社会人講座で教えたり、活動の幅は広がりましたね。2003年に築地王になってから9年目、2010年に会社を退職しました。以降、ライター業を中心に出版プロデュースや食品開発などいろいろとやっています。
継続は力なり、なんですね。不純な動機が多かったですが(笑)
移転で食べられなくなる、場内を支えた食堂
ところで、移転の影響でもうすぐ食べられなくなってしまう、おいしいと評判の場内のお店がある、という噂を耳にしたのですが。本当なのでしょうか?
はい。お店によっては契約の問題などで、屋号(お店の名前)は残っても人が変わってしまったり、店の形態も変わってしまったりで、今までと同じ料理は食べられないお店があります。
今回、Rettyにオススメする「江戸川食堂」はまさに、もうすぐ食べられなくなってしまう店の一軒です。
- 江戸川食堂
-
東京都 中央区 築地
定食
市場では何千人もの人が働いているので、その人達が食事ができる場所が必要です。今の「魚がし横丁」にある飲食店も、「市場の食堂」というのが本来の役割でした。私が通い始めた頃は、おでんやなどもあり、バリエーション豊かな食事が楽しめたのですが、段々と観光客ウケのいい寿司屋や海鮮屋に変わってしまいました。
海鮮のお店、多いですよね…!
そんな中で、「江戸川食堂」は昔ながらの食堂の形態を残した貴重な店でした。海鮮だけでなく、ラーメンやチャーハンもある、まさに食堂ですね。
そんなお店があったこと、知らなかったです。
このお店は豊洲移転に伴い、オーナーが変わる予定だったのですが、移転自体が延期となり、移転を待たずしてオーナーが変わってしまうので、今のような食堂の形態が維持されるのか不明です。ですので、古き良き魚河岸の食堂の味を味わうにはあと少しの短い日数しか残されていないのです。
食べられるのも、あとわずかしかないんですね。
本当に場内で働いている人しか行かないようなお店でしたからね。でもすごい美味しいんですよ。
小関さんが特にオススメのメニューは?
アジの干物とか焼き鮭とか、わざわざ外で食べなくてもと思うけれど、やっぱりここは違う。ご飯もうまい。甘辛く炊いたイカやタラの煮物が、ご飯に最高でね。
定食はないので、好きなおかずにご飯と味噌汁を別途オーダーするシステムなのですが、この味噌汁がまたうまい!具はアサリかシジミで、なんていうか嫌なことがあった時に飲むと、胸のささくれだった感じがとれる、そんな味がします。河岸のおじさんたちも、仕事終わりにここに来て昼から飲んでるんだけど、やっぱりホッとするんでしょうね。
そんなお店が変わってしまうのは、なんとも名残り惜しいですね。
移転もまだどうなるかわからないし、お店の人もさみしい思いをしているかもしれませんね
もう気軽には行けない、コスパ最高のお店
他に食べられなくなるお店は…?
食べられなくなるわけじゃないですが、今みたいに気軽にいけなくなってしまう「高はし」というお店があります。
- 高はし
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東京都 中央区 築地
魚介・海鮮料理
以前、グルメニュースでもご紹介いただいた太鼓判のお店ですね。
よくオススメを聞かれるけれど、ここは魚のクオリティーがとにかく高い!のど黒なんてここと同じレベルのものを銀座で食べたらいくら取られるか。せっかく築地に来たんだかいいもの食べたい!という人にはぜひオススメ。
小関さんのイチオシのメニュー教えてください!
刺身、焼き魚、煮物とどれをとっても抜群ですよ。店の常連さんには、老舗料亭の社長や有名店のシェフもいるので、プロを納得させるため、気が抜けないんでしょう。
このお店は経営者を変えずに、豊洲へ移転しますよね。
そうです。今はストップしてるみたいですが、すでに移転先の内装工事にも取り掛かっていたようです。ただし、移転後は高級路線で行くことが決まっていて、今のように定食で気軽に食べられるのは、やはり築地でおしまいだそうです。
今しか食べられないんですね。他にも営業を終えるお店があるのでしょうか?
喫茶「愛養」、 魚料理「山はら」、 和食「かとう」 もなくなるか、経営者が変わると聞いています。豊洲市場は新築なので、今のようなレトロな雰囲気は当然ながらありません、古くてボロボロだけど、昔ながらの店構えで食べられるのも最後になるので、ぜひ食べに行ってほしいですね。
いかがでしたか?
移転の裏に、こんな切ないエピソードも隠されていたんですね。
「江戸川食堂」は今月(2016年10月)末までの営業が決まっており、胸にしみいる味噌汁が飲めるのもあとわずか。
お店にぜひ足を運んでみてください!