グルメワンダーランド「銀座・有楽町」で、憧れの社会人ランチを堪能してきた

ライター紹介

笹山美波
笹山美波
『東京右半分』に生まれ育つ。編集記者を経て、Webプロデューサー、ライター。東京と食に関連する歴史/文化/文学/お店を調べるのがライフワーク。鰻については今や他人に引かれるほどのオタクに。

学生時代は手の届かなかった銀座ランチ

お昼時が近くなると、なんだかそわそわして来ませんか。「今日は何を食べよう」と一旦悩み始めると、あのお店へ行ってみようかな、混んでいないかな、食べる時間は取れるかな、なんて自問自答してるうちに、ええい!と席を立ってお店に走っていたりして。

こんなことを言っておきながら、学生だった10年前は、せっかく飲食店の豊富な東京・銀座でアルバイトしていたというのに、外でお昼を取るなんて考えたこともなかったです。節約していたのに加え、数十分の休憩時間で人気店の行列に並ぶだなんてできるはずもなく、いつも自分で作ったお弁当を持参し休憩室で食べていました。

とはいえ、グルメ雑誌やお店の看板を見ては「大人になったらいつか」と憧れを抱いていました。今回は、そんな若き日の思いを胸に、10年前に働いていた有楽町・銀座でなんの遠慮もなしに思う存分外食してみようという夢のような企画です。

創業120年を越える老舗洋食屋で、とんかつのルーツを味わう

まず訪問したのが、銀座3丁目にある「煉瓦亭」。雑誌やテレビの洋食屋特集では「この店を訪れずして洋食を語るなかれ!」と言わんばかりに(!?)扱われるお店ということもあり、ずっと伺ってみたかったのです。

レンガを使った外壁や、看板のフォント、きちんとテーブルクロスを敷かれたテーブルを見ると、どこか懐かしくも格式高い雰囲気を感じます。お年を召したご夫婦や親子で食事に来られている方が多く、客層にも歴史が垣間見える気がします。

注文したのは「元祖ポークカツレツ」(1700円)。初代のご主人が、フランスの牛肉のパン粉焼き「コートレット」を日本向けに豚肉で揚げてアレンジし、キャベツの千切りを添えて提供したメニューが、とんかつの始まりと言われているんだとか。

▲特製ポークカツレツ

▲特製ポークカツレツ

大きなカツにナイフを入れると、お肉が柔らかく、スッと切れるのに驚きます。下味がついているので何もつけずにそのまま食べられて、ロース肉の旨味や甘味を存分に味わうことができます。ラードを混ぜた油で揚げられた衣は粒が大きくもサクサクと軽い口当たり。

そういえば池波正太郎はウスターソースをたっぷりかけて食べるのが好きという記述を『食卓の情景』で読んだのを思い出しやってみましたが、スパイシーなソースが衣にじわっと染みて一層美味しかったです。

カツはわらじのように大きく、キャベツも山盛りでしたが、不思議なことにペロリと食べられるので、お腹に余裕のある方は「特製大カツレツ」を頼んでみてもいいかもしれません。

▲特製大カツレツ

▲特製大カツレツ

画像引用元:https://retty.me/area/PRE13/ARE2/SUB201/100000004793/447495/]

昔も今も、私にとってはチェーン店のとんかつ定食も十分美味しく感じられますが、30歳を前にし、古き良きお店でフォークとナイフで「ポークカツレツ」を食べていると「大人になったんだなあ」とじんわりと涙が出てくるような気持ちになりました。

煉瓦亭にはとんかつのほか、ひき肉と卵とご飯を混ぜてフライパンで焼き上げた「元祖オムライス」やハヤシライス、カキフライなど、日本の洋食の元祖と呼ばれるメニューがあるので、何度も足を運んで味わい尽くしてみたいところです。

▲元祖オムライス

▲元祖オムライス

画像引用元:https://retty.me/area/PRE13/ARE2/SUB201/100000004793/15985414/
▲ハヤシライス

▲ハヤシライス

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土鍋でグツグツ! とろける肉厚タンシチュー

歌舞伎座のすぐそばにあり、歌舞伎役者の「贔屓の店」としてよくメディアで取り上げられ子供の頃から気になっていたのが、昭和30年創業の銀座4丁目にあるシチュー専門店「銀之塔」。

市川海老蔵さんの父・12代目市川團十郎さんは銀之塔の「タンシチュー」(3600円)がお気に入りで、よく召し上がっていたそうです。

学生の頃なら気が引けてしまう値段ですが、一応もう大人ということで気合いを入れて「タンシチュー」を注文。

土鍋に入ってグツグツと音を立てて運ばれてくる熱々のシチューには、2センチはあろかという厚みの牛タンが4枚も(!)入っており、口に入れて一度噛んだだけで、肉の繊維がどんどんとけていきます。すかさずレンゲでひと口スープを飲むと、サラッとした優しい味わいが広がります。

洋食屋のそれとはまたひと味もふた味も違ったどこか和のテイストです。3日も煮込まれ、丁寧にアクを取り除くことでさっぱりしているのだそうですが、和風の味のレシピは企業秘密なんだとか。

▲タンシチュー

▲タンシチュー

この分厚いタンが、口に入れた瞬間溶けていく

この分厚いタンが、口に入れた瞬間溶けていく

「シチューにご飯なんて」とはじめは思っていましたが……意外にも相性抜群! シチューが染みた硬めのご飯をワシャワシャと頬張るのも最高ですが、ご飯の上でタンをほぐして食べても◎。

付け合せに提供されるお新香、ひじきの煮物、切り干し大根、ぜんまいの煮付けは薄めの味付けで、箸休めにばっちりなので、お代わり自由なご飯がいくらでも食べられてしまいそうです。シチューは具材をタン以外にも、ミックス(タンとビーフ)、ビーフや野菜(2600円)を選ぶことができます。

硬めのご飯がシチューに合う

硬めのご飯がシチューに合う

ところで、タンシチューを注文して待っている間、実家の晩ごはんのビーフシチューが楽しみで仕方がなかったのを思い出しました。

子供の頃の気持ちを取り戻した感覚になったのは、銀之塔の店内に、懐かしくて気取らない雰囲気が漂っていたせいでしょうか。

丼一杯飲み干せる! かえしの効いた、シャキシャキせり入りカレー蕎麦

数年前、年の離れた先輩に紹介してもらって以来気に入っている蕎麦屋が、元アルバイト先の近くにあります。10年前と同じ街を歩いても、こういった些細なエピソードを積み重ねると、思い出が風景に塗り重ねられ、少しだけ違う街を見ている気分になります。

コリドー通り近くの銀座6丁目にある「泰明庵」は、昭和25年創業。先輩曰く、1階はサラリーマンに愛される蕎麦屋、2階の座敷は飲み会にちょうど良い居酒屋ということで連日賑わっています。

画像引用元:https://retty.me/area/PRE13/ARE2/SUB201/100000021001/13909040/

壁にズラリと貼られたお品書きには「もり」「かけ」「けんちん」「玉子とじ」などバラエティ豊かな蕎麦屋のメニューのほかに、「平目刺身」「皮はぎ天盛り合わせ」「そら豆」など季節の素材を中心にした一品料理が並びます。あれもこれもと、食べるのを想像するだけで興奮してきてしまいます。

いつもなら普通に飲んでしまうのですが、今日はRettyで人気の「せりカレー蕎麦」(1200円)を注文。旬の時期なら「根っこ入れますか?」と店員さんが聞いてくれるので、出来れば入れてもらうのをお勧めします。

運ばれてきた蕎麦の丼にはカレーがたっぷり。それに鮮やかな緑のせりがたくさん乗っています。レンゲでひと口つゆを飲むと、スパイシーな味わいの後に、鰹節の効いたかえしの旨味がしっかりと広がります。

▲せりカレー蕎麦

▲せりカレー蕎麦

せりの茎を食べてみると、シャキシャキした歯ごたえと苦味がカレーによく合う。根っこはその味も食感も茎より強く、鼻に抜ける独特の香りも強烈でたまりません。カレーの海をかき分け蕎麦をすすると、少し柔らかめでとろみのあるカレー、水々しいせりとベストマッチ。一心に食べてしまいます。

つゆはそのままでも十分美味しいのですが、蕎麦湯を頼んで割って飲んで見たところ大正解。辛味や粘度が和らいで、最後まで一気に飲み干してしまいました。

せりの入ったメニューはカレー以外にも「せり蕎麦」や「せりかしわ蕎麦」、「せりせいろ」など有りますが、秋口から春先までの季節限定なのでご注意を。

▲せりせいろ

▲せりせいろ

画像引用元:https://retty.me/area/PRE13/ARE2/SUB201/100000021001/

鰻丼か、鯛茶か――それがランチの別れ道

この記事の打ち合わせ中、編集Yさんから「鰻オタクの笹山さんですし、折角ですから鰻屋もいかがですか…?」

(「うなぎ狂の私が『クリスマスこそ鰻屋へ行け』と断言する理由 」ご参照)と悪魔的な提案をいただきました。正直学生時代には銀座で鰻を食べるだなんて考えたことなかったですが、もちろん行ってみたいお店、ございますとも!

銀座8丁目の「竹葉亭 本店」は、夏目漱石の「吾輩は猫である」に登場することや、鰻好きで知られる歌人の斎藤茂吉が、息子の縁談の際に、義娘が緊張のあまり全然食べられずにいた鰻重を横取りしてしまったというエピソードなどで有名です。江戸の末期の慶応2年創業とあって、語られるサイドストーリーにも凄みがあります。

▲鰻丼A

▲鰻丼A

「鰻丼A」(2400円)は、丼に行儀よく盛られた鰻と肝吸い、お新香のセット。優しく焼き上げられ、掴んだら崩れてしまいそうなほどフワフワの鰻を口に運ぶと、ねっとりとした豊かな脂の旨味を感じます。

タレは甘さ控えめで醤油の角もなく、上品な味。薬味の山椒は、蓋を開けた瞬間から香るほど強い香りが印象的で、鰻との相性抜群でした。

箸休めにするお新香は柴漬け、菜っ葉、大根と三種盛られており、肝吸いも酸味が効いていて、後味が軽やか。細部に行き届いたさりげない心配りに感銘を受ける思いになります。

鰻をしみじみ味わっていると、ご年配の夫婦が座る隣のテーブルに「鯛茶漬け」が運ばれて来て、「鰻屋で鯛茶」という驚きの組み合わせに仰天!

▲鯛茶漬け

▲鯛茶漬け

画像引用元:https://retty.me/area/PRE13/ARE2/SUB201/100000002019/6563451/

2人は慣れた手つきですり鉢に入った胡麻をすり、1膳目はご飯に鯛の胡麻和えを乗せて、2膳目は胡麻と出汁をかけて……とどんどんご飯をたいらげて、お代わりまでしていました。

お店の方に聞くと鯛茶漬けは昔からの人気メニューなんだとか。あまりに美味しそうだったので、次は鰻を注文するのをぐっと我慢し、試してみたいところです。

二日酔いの時の朝に食べたい、酸味がクセになる「レモンソバ」

有楽町・銀座のお店を選ぶなかで、「そういえば!」と思い出したのが、有楽町の駅前に夜遅くまで営業している中華料理屋「中園亭」。

創業60年以上、いつもお客さんが吸い込まれるように入っては行くけれど、知人やメディアでそのお店の感想を聞いたことがなく、私にとってはちょっとミステリアスな存在。

極め付けは入り口脇の食品サンプルの中にある、黄色いレモンが並べられたラーメン……! 一度見てしまったその日から、頭に焼き付いて離れませんでした。

食べてみるなら今しかないということで、訪問してみることに。提供された「檸檬湯麺(レモンソバ)」(920円)の丼の中を覗くと、確かに食品サンプル通りのビジュアルで、透き通った褐色のスープの上に輝く2枚の薄切りレモン、湯がいた挽肉、少し太めの白ネギ、その下には縮れ気味の麺が泳いでいます。

▲檸檬湯麺(レモンソバ)

▲檸檬湯麺(レモンソバ)

ひと口スープを飲んでみると、レモンの酸味が効いており、ラーメンにお酢を入れた時のような、スッキリとした味わい。シャキシャキの白ネギとともに歯ごたえのある麺をすすると、食感が楽しくて幾らでも食べられてしまいそうです。好みは分かれるとは思いますが、私、これ、大好き……!

二日酔いになってしまった日の朝や、飲んだ後の〆に食べたくなるようなラーメンで、早朝や終電前にこの店が駅前で営業していたら絶対に吸い込まれてしまいそうです。レモンソバ、知らなければよかったような、知ってよかったような……。

ジョン・レノンもお気に入り 日本最古の喫茶店でコーヒー休憩

ちょっとひと息、という時に飲みたくなるのがコーヒーですが、貧乏学生時代もたまの贅沢に飲みに行くこともありました。と言っても、訪問するのはチェーンのコーヒーショップばかりでしたが。

仮に、あの頃の銀座に戻ってコーヒー休憩ができるなら、一番古い喫茶店に行ってみたいなあ……と思って調べてみると、現存する喫茶店で日本最古と呼ばれる銀座8丁目の「カフェーパウリスタ」が今なお営業しているというから驚きです。

らくだ色の革のソファに座り、BGMのボサノバに耳をすませると、心が静かに和んでいきます。注文したパウリスタオールド(580円)は、苦味は強めですが酸味が少なく、優しい味わいです。創業当時の味を再現しているとのことで、確かに子供の頃の苦いコーヒーのイメージに近い気がしました。

▲パウリスタオールド

▲パウリスタオールド

カフェーパウリスタは、明治44年から銀座にお店を構えていたこともあり、当時時事新報社に勤めていた菊池寛と芥川龍之介の打ち合わせによく使われていたり、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが来日時に気に入って3日連続で訪問していたなど、昔の著名人にちなんだエピソードが豊富です。

来店を記念するメッセージはジョン・レノンらが座った席のそばに飾られている

来店を記念するメッセージはジョン・レノンらが座った席のそばに飾られている

また、今の人にはあまり馴染みがないかもしれない「銀ブラ」という言葉も、その頃の人たちにとって珍しくも新しいこのカフェーパウリスタでブラジルコーヒーを飲む行為が、その言葉のルーツになっているとも言われています。

過去につながるお店巡りは、人生に奥行きを与える

つい先日までチェーンのコーヒーショップで「ラテ」を飲んでいたはずが、気づいたら同じ銀座で古い喫茶店に入り、昔ながらのブラックコーヒーに安心しながらお店の歴史に感心しているなんて……そう思うと、あっという間の時間の経過に驚きを隠せません。

10年を振り返ってみると、長いようで短い気もしていましたが、流行に敏感な銀座の街並みは、再開発も手伝って随分と変わってしまっていました。

その中で何十年と営業を続けるお店には、本当に敬意を払いたい気持ちになります。

私も実家を出て社会人となり、文化や味の違いもほんの少しは分かるようになり、昔はよく迷子になっていた銀座の街に多少の土地勘を持てるようにもなっていました。

人生の折々に出会った、馴染みの街の老舗の味を愛しむだなんて未練がましいような気もしますが、時間を確保し過去の伏線を回収するのは、次の10年の自分の変化を楽しむための、1つの契機になるような気がしています。

新しい流行りのお店に行くのも楽しいですが、たまにはそんなグルメ探訪をしてみると、毎日をより味わい深く感じられると思います。

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