大人気本「新しい卵ドリル」で異彩を放つ「三不粘(サンプーチャン)」
昨年末に発刊され、瞬く間に話題となっている「新しい卵ドリル」(マガジンハウス)。ゆで卵、オムレツ、プリン……。おなじみの人気メニューを生み出す卵の新常識に満ちたこの本の中に、見たことのない卵料理が存在している。
その名も「三不粘」。皿、さじ、歯につかないところから命名されたという、中国のデザート。カスタードのような味わいで、もちもちしているのに、粘着質ではないという不思議な食べ物なんだとか。本場の中国でもこれを作れる料理人は稀有と言われているほど、難易度の高いこの一品。そのレシピが、この書には掲載されている。
「新しい卵ドリル」98ページにそのレシピは掲載されている。
でも……一体どんなものなのか。やっぱりまずは本物を食べてみたい!ということで、「卵ドリル」の著者・松浦達也さんに尋ねてみた。
松浦氏:「三不粘は、まず難易度が高い。そしてその技術を習得していてもとにかく手間がかるため、メニューに載せているお店が国内に数件くらいしかないんですよ。コースのあくまでも一品として提供しているところが多くて…」
いきなり、企画が暗礁に…
「でも、千葉県成田近くに、予約さえすれば一品だけでも頼めるお店があるらしいんです。遠いんですが、行きますか?」
それは行くしかない。
幻料理・三不粘を求めて本格中華料理店「エムズスタイル」へ
この「三不粘」は、中国の王府井にあった料理店「承華園」の料理人が編み出し、それが北京の「同和居飯庄」に引き継がれたもの。現在、中国でもここでしか出されていないのが、幻のスイーツといわれる所以だ。
そんな三不粘を求めて、松浦氏と訪ねたのは、都心から電車で約1時間半という千葉県富里市にある「エムズスタイル」。
「自分たちが心から美味しいと思う料理だけを提供したい」をモットーに自家菜園や地元の新鮮な野菜で作った本格中華料理を求めて、地元だけではなく東京・神奈川・埼玉・茨城などからも遠方から訪れるファンも多いんだとか。
そして、この店の佐野貢一料理長こそ幻の卵スイーツ三不粘を作れる達人本人なのだ。
エムズスタイル 佐野貢一料理長。
佐野料理長:「三不粘は、以前に勤めていた千葉県柏市の中国料理店『知味斎』の親方に学びました。難易度が高く、作れる人が少ないといわれるこの技術をなんとか習得したくて、かなり練習しましたね。あるとき、親方からこれなら大丈夫だと許されて、お客様に出すようになりました」
松浦氏:「お客様に提供するのにとても手間がかかる、料理人泣かせの一品というのが三不粘の評判ですが。なぜ、それをメニューに?」
佐野料理長:「作れる人が少ないからですね。食べられる機会が少ないからこそ、ぜひ食べてみてほしい。だから大変だけど提供したいなと」
松浦氏:「おお、すごい情熱ですね。では、実食させていただきたいのですが、エムズスタイルの三不粘の材料や分量を教えてください!」
いきなり秘伝のレシピを聞き出そうとする松浦氏。(あせる、Retty編集部スタッフ…)
佐野料理長:「材料はこちらになります」
佐野料理長:「卵黄6個。水200mlに馬鈴薯でんぷん60gをつけ、砂糖90gを加えたもの。ピーナッツオイル50ccです」
松浦氏:「ピーナッツオイル!もともとの三不粘レシピはラードを使いますよね?」
佐野料理長:「ええ、これは本当にうちのオリジナルなんですけど、ラードだと重すぎて…。もう少し軽やかにヘルシーに仕上げたいと考えて、ピーナッツオイルに辿りつきました。また、本来は緑豆でんぷんなんですが、他の料理でも使うことの多い馬鈴薯でんぷんにしています。ポイントはこの馬鈴薯でんぷんを水に4〜5時間つけて置くことです。これで歯ざわりが全く変わるんです。だから要予約じゃないとご提供できないんですよ」
松浦氏:「なるほどー。いやー、ピーナッツオイル×馬鈴薯でんぷんの三不粘楽しみです」
佐野料理長:「では、早速調理にかかります!」
摩訶不思議な新食感、三不粘を食してみた!
調理に入った佐野料理長。カンカンカンカン、カンカンカンー
おたまで中華鍋を叩く音が鳴り響くこと数分…
汗だくの佐野料理長が、テーブル席に三不粘を運んできてくれました。
松浦氏:「おおおおー」
佐野料理長:「早速取り分けますね」
松浦氏:「おおおおお。では、いただきます」
松浦氏:「おおおお!これは!この食感!!まさしく『三不粘』!!!
」
佐野料理長:「歯にも皿にも箸にもくっつかない。引っ張ると伸びるし、でもすぐに切れる。もちもちしてるけどさらっともしている」
松浦氏:「そういえば、『三不粘』の解釈って、歯にも皿にも匙にも派と、歯にも皿にも箸にも派がありますよね」
佐野料理長:「私は歯にも皿にも箸にも派ですね!」
松浦氏:「そして、この味わい!あっさりしていてスルスルと胃の中に収まって行く!!今まで食べたことのある三不粘とは一味違います!」
佐野料理長:「三不粘はデザートなので、コースの最後に召し上がるもの。お腹いっぱい料理を食べた後のバランスも考えて仕上げたんです」
松浦氏:「中華料理のデザートって、甘くて重くて胃にどーんと来るものが多いんですが、これは料理とのバランスも考えられていて、ある意味フレンチのデザートの流れを組むような感じが本当に新しい。歴史ある幻のデザートなのに、新しいってすごい!」
カスタード風味であるものの、どこか日本の昔のおやつにも繋がる、もっと懐かしい味。食感と味わいを堪能しながらすぐに完食。箸にも、皿にも残らず!
動画で紹介!三不粘は一体どうやってできるのか?
この三不粘の材料は前述の通り、卵、砂糖、ピーナッツオイル、でんぷんだけ。こうした食感に仕上がるのは卵とオイルの乳化作用と加熱による変化のおかげ。ポイントは火加減と叩く力。では、その作り方を動画にて、特別に大公開!
佐野料理長:「とにかく体力勝負と言っても過言ではありません。卵を強く叩き続けるので、おたまもすぐにダメになっちゃうんですよね(笑)」
柄の接着部分が壊れてしまったお玉。1回でダメになってしまうことも…
松浦氏:「幻の料理といわれる三不粘を、お客様に美味しく食べてほしいと創意工夫しながら進化させ続けている佐野料理長。本家のレシピにこだわりすぎず、それでいて敬意も忘れない、その姿勢に何より感銘を受けました。水と油のどちらにもなじむ卵の特殊な性質が見事に生かされた、この三不粘、多くの人にぜひ食べて欲しいですね。千葉県富里まで足を伸ばす価値、絶対アリ!僕も来月の予約を取るために、友人と予定を調整することにしました!」
■エムズスタイル
【住所】千葉県富里市七栄127-48
【電話番号】0476-93-2573
【営業時間】ランチ / 11:30~14:00(L.O) ディナー / 17:30~21:00(L.O)
【定休日】水曜日(4月1日〜月曜日)
*三不粘は3〜4名分1,800円 / 6〜8名 3,000円(今回の写真は3〜4名分)。要予約で、 ご来店後のご注文は承りません。
*一度食べたらクセになるとリピーター続出の「四川麻婆豆腐」もおすすめ
- 本格中華料理 エムズスタイル
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千葉県 富里市 七栄
中華料理
■「新しい卵ドリル おうちの卵料理が見違える!」(松浦達也著・マガジンハウス刊)
「肉のバイブル」と絶賛された『大人の肉ドリル』から2年。続編のテーマは卵! ゆで卵、オムレツ、目玉焼きといった基本の料理を構造的に見直し、「今日から」「一生」使えるレシピを再構築。老舗鮨店直伝の卵焼きやカステラ、さらには「三不粘」のような幻のスイーツも。無数の科学論文&8000個の卵と向き合った結論が凝縮された一冊。