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「赤塚不二夫」と「染もの」と。ノスタルジックな街「新宿・中井」を食べ歩き

東京都心・新宿から3駅。静かに流れる妙正寺川のほとりにある町・中井は、かつて京都、金沢と並ぶ染色の三大産地といわれた場所。一方「ギャグ漫画の王様」とうたわれた漫画家・赤塚不二夫さんが愛した町でもあります。

もうすぐ、待ちに待った春。都会の喧噪を忘れさせてくれるようなノスタルジックな街で、江戸の粋と昭和の人情を訪ねるショートトリップを楽しみませんか?

川面を、町を「染め」が彩る 早春の「染の小道」イベント

大都会新宿のお膝元とは思えぬほど、静かな時間が流れる東京・中井。春の気配を少しずつ感じる、去る2月25日。街は鮮やかな染め物で彩られ、多くの人でにぎわいました。

そのわけは、今年第9回となる「染の小道」。この地域の染色職人と商店、住人たちが一体となり、街全体を染め物で飾るイベントです。

もともと東京・中井は、かつて染色産業がさかんだった地域。商店街のすぐそばを流れる妙正寺川では、染工場の職人達たちが染め物を水洗いする光景があちこちで見られたといわれます。

そんな町の記憶を現代に引き継ぐべく、開催されるようになったのがこのイベント。今や、日本各地や海外からも訪れる人がいるそうです。

一番の見どころは、なんといっても「川のギャラリー」。妙正寺川に沿って染の反物を張り、かつての染め物の水洗いの光景を再現しています。

染の美しい色が水面に映り、風に静かにたなびく様子は、時間の流れを忘れるほどの美しさ。川沿いの遊歩道には、カメラを手に、自然のギャラリーを眺める人が多く見られました。「

川のギャラリー」には、職人による鮮やかな作品の他、住人や近隣の小学校、保育園の人々による「百人染め」の反物も。街をあげてのイベントならではの温かさが感じられます。

「川のギャラリー」に対し、商店街を彩るのが「道のギャラリー」。

店先には、作家が作り上げたのれんが飾られます。細部まで書き込まれた繊細な柄から、大胆な色合いのもの、店に合わせたモチーフを取り入れているものなど、個性的なものがずらり。

眺めながら歩いているだけでワクワクしてきます。のれんの中には、購入が可能なものもあるそう。作品に直に触れる貴重な体験です。

ほかにも、陶芸や小物が販売されていたり、染めの体験やミニコンサートなどが盛りだくさん。「染の小道」を訪れる人の中には、和服姿の人もちらほら。おだやかな春の日、江戸の粋を感じてアートに触れる、よい機会となりました。

ギャグ漫画の王様、赤塚不二夫が愛した「中井」 人情食べ歩き

駅と妙正寺川を中心に広がる中井の街には、どこか懐かしさを感じる路地が数多くあります。そして、昭和にタイムトリップしたような気分でそぞろ歩きをしていると多く出合うのが「赤塚不二夫」という名前。

そう、中井は、漫画家・赤塚不二夫さんが長く暮らし、愛した街。地元の人たちとの交流を大事にしていたという赤塚さんの面影が今もいたるところに残っています。

「ギャグ漫画の王様」といわれ、「天才バカボン」や「ひみつのアッコちゃん」「おそ松くん」など多彩な作品を残した赤塚さん。その思い出をたどり、通っていたお店を訪ねました。

大好物の組み合わせが”いちおしセット”に 洋食のお店「ぺいざん」

「食事というよりも、おかずをつまみにお酒を飲むことが多かったですね」

笑顔で語ってくれたのは、「洋食の店 ぺいざん」の料理長・高木啓司さん。

赤塚不二夫さんは先代からの常連。一人のときはカウンターで、仲間と一緒のときは奥の座敷席で。お酒といっしょに料理を楽しむのが、赤塚さん流だったそうです。

料理長・高木啓司さん

料理長・高木啓司さん

「おろしハンバーグ」と「ヒレ串カツ」は特にお気に入り。実は「ヒレ串カツ」は赤塚さんのリクエストで生まれたもの。「串カツというと普通はロース肉を使うんですけど、先生は豚の脂身が苦手でね。『ヒレ肉で作って』といわれて作ったのがきっかけです」(高木さん)。

店内には常連やファンから贈られた赤塚グッズも

店内には常連やファンから贈られた赤塚グッズも

中井の街を愛していた赤塚さんは、人気作品に実在のお店を登場させることもしばしば。「ぺいざん」も、ときどき登場していたため、当時から赤塚ファンが訪ねてきていたそうです。

いちおしセット(税込800円)

いちおしセット(税込800円)

そんなファンにむけて作られたのが、赤塚さんの愛した料理を2つとも楽しめる「いちおしセット」。「先生が亡くなられたあと、よく食べていただいていたものを組み合わせて作りました。今やうちの人気メニュー。先生のファンだけでなく、いろいろな人に味わってもらっています」(高木さん)。

名店の鮨を肴に思い出をたどる 鮨処「白雪鮨」

「先生がうちに来るのは大抵2軒目か3軒目。ほろ酔いでにこにこしながら入って来こられる様子を、今でも思い出します」(店主・磯貝森一さん)。

赤塚不二夫さんが来店するようになったのは先代のころから。磯貝さんが赤塚さんに初めて会ったのは、小学生のときだったそうです。

中井には、赤塚さんの事務所「フジオ・プロダクション」があるため、事務所の若手や、芸人さんを連れて訪れることも多かったそう。

「先生は貝の柱や白身など、さっぱりした刺身がお好きで、いつもそれをつまみにお酒を飲んでいましたね。若手には『何か握ってやって』と、よく寿司をふるまっていました」(磯貝さん)。

ときには奥様の眞知子さんと2人でカウンターに座ることも。

「奥さんが好きなのは、いくら、いか、うに。ほかに、トロ、いか、貝割れを巻いたものも。よく注文されるので、『眞知子巻き』と言ってました(笑)」(磯貝さん)。

店主・磯貝森一さん

店主・磯貝森一さん

当時、テレビにもよく登場する人気ものだったため、店内で他のお客さんからサインを求められることも多かったとか。「大先生なのにもったいぶることがなくて、サインにもすぐにササッと絵を描いてくれました。人が好きなやさしい人でしたね」(磯貝さん)。

お店に残る赤塚さんのキープボトルにも、大人気キャラクター「バカボンのパパ」や「ニャロメ」の姿が。赤塚さんの思い出とともに、店の宝物として大切に保管されています。

飲み仲間からの付き合いは50年以上 「炉ばた焼 権八」

店とお客という間柄になる以前から赤塚不二夫さんと親交があったと語るのが店主・関澤義男さん。

「もともと、私の兄と先生が飲み仲間でね。店をオープンしてからはとても贔屓にしてくれていました。店が出来る前からだから、本当に長い付き合い。家族のようなもんです」(関澤さん)。

お品書きに混じって、思い出の品が。

店の壁にズラリと並ぶお品書きにまじり、赤塚さんとの思い出の写真や、残した絵などがチラホラ。付き合いの長さや深さが感じられます。

店主・関澤義男さん

店主・関澤義男さん

「先生は座敷の角の席がお気に入り。そこに座って、店を見渡しながら、にこにこお酒を飲んでいました。そうすると先生に気がついて話しかけてくるお客も多いんですが、断ったのを見たことがない。気がつくと一緒に飲んでたりしてましたね」(関澤さん)。

おだやかで豪快。赤塚さんはそんな人柄だったといいます。

「ゲソわさ」(税込500円)

「ゲソわさ」(税込500円)

赤塚さんがよく注文されていたおつまみは、「里芋焼」や「ゲソわさ」など。そして、おつまみと一緒に飲んでいたのが「白いの」。「席に座ると『白いのちょうだい』って(笑)。ハイサワーのことなんですけど、毎回頼まれるので、すっかり通り名になりました」(関澤さん)。

赤塚さんの好きだったつまみは、今も人気メニュー。店を訪れる赤塚ファンのために、「好物」として貼り出されています。赤塚さんの好きだった景色を眺めながら、好物をいただくのもいいですね。

2016年、西武新宿線の駅改札の地下化により、新しく生まれ変わった中井駅。

しかし、一歩外に出ると、町並みや景色は、昔のままの面影を残すといわれます。はじめて降りたのにどこか懐かしい。

そんな想いを感じるのは、この街を愛した人々の想いが大切に残されているからなのでしょう。江戸の粋や昭和の面影、思い出散歩にぜひ出かけてみてください。

(ライター 田久晶子)

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