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”カレースター”水野仁輔さんに聞く!日本が世界に発信すべきは、和食よりカレーだ

2020年の東京オリンピックまで3年を切りました。日本に注目が集まるこの絶好の機会に、日本人として世界に誇りたい日本文化は山ほどあります。

中でも、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」や、今や世界的な人気を誇るラーメンは、日本が生み出した代表的な食文化といえますよね。

そんな中、日本国内では和食やラーメンに匹敵する人気がありつつも、海外にその魅力を十分に伝えられていない国民食が存在することに気づいていますか。そう、それは「カレーライス」。

街の食堂から高級レストラン、そして一般家庭まで垣根を越えてメニューに名を連ねるカレーライスですが、そんな日本のカレーが類を見ない独自の進化を遂げていることは日本でも意外と知られていません。
今回、そんな知っているようで知らない日本のカレーについて、これまで40冊以上のカレー本を執筆してきた“カレースター”(命名:糸井重里さん)こと、水野仁輔さんに教えていただきました。

日本において有数の「カレー思い」の水野さん。5月10日(水)に発売する新刊『カレーライス進化論』では、日本人が愛してやまない国民食・カレーライスの進化の歴史に触れつつ、日本のカレーが世界へはばたくためのアイデアを紹介しています。

紹介してくれる人

水野仁輔
水野仁輔
AIR SPICE 代表。カレースター。スパイス&カレーの専門家として、日本全国各地のイベントに出張してライブクッキングを実施、「カレーの学校」の講師をするなど、幅広く活躍。『カレーの教科書』(NHK出版)、『スパイスカレー事典』(PIE BOOKS)などカレーに関する著書は40冊以上。現在は、毎月届く本格カレーのレシピつきスパイスセットサービス「AIR SPICE」を運営中。5月10日(水)には新刊『カレーライス進化論』が発売。

世界でカレー文化があるのは日本だけ!?

――今日は2020年に向けて、世界に誇るべき日本のカレー文化についてお話をお聞きできたらと思います。早速ですが日本のカレー文化の特徴は何なのでしょうか?

水野仁輔さん:「日本のカレー文化」というより、そもそも日本にしかカレー文化はありません

――えっ!? 海外にカレー文化はないんですか?

そう言い切ってしまうと、インドやタイなどの海外のカレーはどうなるんだという話にはなります。もちろん海外にもカレーと呼ばれる食べ物はあるにはありますが、インドにはインド料理があって、タイにはタイ料理があって、それぞれの食べ物の中のごく一部に、私たちがカレーと呼んでいるものがあるんです。

少なくとも、日本のように“文化”といえるほどの盛り上がり、バラエティの豊富さ、そしてディープさは他にはないでしょう。

ただ、当の日本人にとってはカレーが身近すぎて、そこに気づきにくいんです。例えば、海外にはカレーだけを提供するカレー屋さん、いわゆる「カレー専門店」が存在しません。

――日本だと至るところにカレー屋さんがありますよね。

日本にはカレー専門店がおよそ6,000軒あります。今年、僕はカレーの取材でニューヨーク・上海・ソウルの3箇所に行きましたが、ニューヨークの「ゴーゴーカレー」や上海の「CoCo壱番屋」など、日本から進出したチェーン店以外のカレー専門店なんて全然ないんですよ。

日本のカレーは最強の「プラットフォーム・フード」

――同じ国民食的存在のラーメンは今や世界でも大人気ですが、カレーも世界で愛されるようになる可能性はあるのでしょうか?

その可能性は高いと思います。日本のラーメンについて研究しているケンブリッジ大学のバラック・クシュナー准教授が、ラーメンが世界中で愛される理由を「プラットフォーム・フードだから」と説明しています。

プラットフォーム・フードとは、ある一定の分かりやすい様式を持ちながら、具材などをカスタマイズできる料理を指します。

例えば、寿司はシャリの上に具を乗せた食べ物、ピザは丸くのばした生地の上に具が乗せてオーブンで焼いた食べ物、ラーメンはスープに麺が入っている食べ物というように。

――1枚のお皿にカレーとごはんが盛られるという様式もあるし、トッピングもできるし、カレーはまさにプラットフォーム・フードですね!

そうなんです。さらに、海外に打ち出すうえでカレーライスのプラットフォーム・フードとしての強みは、スパイスさえ使っていれば、カレーソースの味わいは様々に応用できるということです。

例えば、東南アジアの人が好むようにココナッツミルクの風味を強くしたり、ヨーロッパの人が美味しく食べられるように少し辛味を落として牛肉の赤ワイン煮込み風にするといったように、それぞれの国の人の好みにアレンジしやすい。

加えて、「カツカレー」や「唐揚げカレー」など、トッピングという概念でバリエーションを無限に増やすこともできます。キムチを乗せて韓国風、ジャークチキンのようなスパイシーなチキンを乗せてジャマイカ風なんてこともね。

――カレーなら毎日食べても飽きないと思っていましたが、この様式の自由さが一因だったのかもしれません。

様式だけでなく、「味」にもポテンシャルがあると僕は思っています。昔、フレンチの三つ星レストランで世界的に有名なシェフ・トロワグロ氏が来日した際、日本の食事で一番好きなものを聞かれて、「カレーライスです」と答えたそうです。寿司でも蕎麦でも天ぷらでもなくね。

その理由として、彼は「フレンチはメインの食材を引き立てるための脇役としてソースというものが存在するけれど、この濃厚なソースを主役にしてご飯にかけて食べる料理というのはカレー以外に知らない」と言ったそうです。料理人の世界でも、日本のカレーは一目置かれる存在なんです。

日本のカレーは世界に挑戦すべき

――聞けば聞くほど、カレーの凄さを自覚してきました。しかし、その割に世界での認知度が低いのは日本人の怠慢だったのでしょうか?

怠慢というか、海外に知ってもらおうと積極的に考える人が今までいなかったんだと思うんですよね。

もちろん、カレーの最初のルーツはインドで、そこからイギリスを経て日本にやって来た料理です。しかし、僕たちはここ150年ほどの間にすっかりカレーを自分たちのものにしてしまった。

――“してしまった”といいますと、ちょっと内向きすぎたというニュアンスですか?

そうですね、日本人だけで楽しむカレーはもう十分だと思うんです。日本では多くの人がカレーが好きだし、もっと美味しく作りたいと思っている人も多いし、カレー専門店は次々とできている。

国内でこれだけ素晴らしく成熟したカレー文化をもっと海外の人に知ってもらいたいと、そろそろシフトする時期だと思いますね。**野球でもサッカーでも、国内で敵なしの優れた才能は、次のステップとして海外に出るわけじゃないですか。

だから、料理の世界でいうなら、カレーという選手はもう次のステップに出たほうがいい**と思うんですよね。勝てるポテンシャルはあるわけだし。

――日本のカレー文化を海外に広げるアイデアとしてはどんなものがあるでしょう?

2020年の東京オリンピックまでは海外の人が日本に来る機会が増えるので、とにかく来日外国人にカレーを食べてもらうのが一番のチャンスだと考えています。カレー屋は日本に何千店もあるわけだから、ゲスト側にも選び放題というメリットがあります。

そこで、まずは日本のカレーを知ってもらって、自分の国に戻ったときに土産話として「日本でカレーライスというのを食べたけど、インドのカレーとは違っていてうまいんだ」という話になるといい。その国で日本のカレーの噂が広がっていくような流れができると、カレーの世界進出への足がかりになると思うんです。

日本人にとってカレーは我が子のようなもの

――ちなみに、前回の1964 年の東京オリンピック前後は、カレーをめぐる日本の状況はどうだったのでしょうか?

現存しているカレー専門店の創業年数を考えても、当時存在したカレー専門店の数はごくわずか。ほとんどは洋食屋さんのいちメニューといった状況だったはずですから、オリンピックのために来日した外国人がカレーを食べるチャンスはほとんどなかったでしょうね。

そう考えると、たった50年ほどでカレー専門店はおよそ6,000軒まで増え、急速に発展を遂げていったと言えます。今では、日本ならどの街でも一定水準以上のカレーを食べられる環境が揃っていますからね。

――確かに…。こんなにもカレーに恵まれた環境にいながら、今日までその凄さに気づいていませんでした。

カレーライスという食べ物が、日本の国民食であるということに異論がある人はおそらくいないんですよ。

ということは、ほとんどの日本人にとってカレーライスは自分の子供みたいなものなんです。

ともすると、「うちの愚息はね、なんの取り柄もなくて…」みたいな感じで、身近な存在ゆえに素晴らしさに気づけなかったりする。今の日本人にとってカレーライスという食べ物はあまりにも当たり前に存在していて、同じことが起きている。

今回の新刊『カレーライス進化論』は、そんな状況に対して僕のようにカレーのことをずっと考えてきた人間が「いやいやお父さんお母さん、何を言っているんですか。お宅の息子さんってすごいですよ!」と、こっそり教えてあげる本です。

だから、読んでくれた人が、カレーについて「なかなかやるじゃないかお前も! あの水野って人に聞いたんだけどさ(笑)」みたいなことにちょっとでもなってくれたら最高に嬉しいです。

――今日、水野さんのお話を伺い、カレーライスの素晴らしさを再発見することができました。意識的ではなくとも、日本人が病める日も健やかなる日も愛してきたカレー。実はとってもデキたいい子なのだから、世界に打ち出す日本の食文化としてみんなでカレーを応援していきたいですね!

書籍紹介

『カレーライス進化論』

日本人が愛してやまない国民食・カレーライスとは、いったい何なのか? インド、イギリスを経て日本にたどり着いた後、独自の進化を遂げ、今や日本オリジナルの料理になっているカレーライス。
そんなジャパニーズ・カレー150年の歴史から、カレーのおいしさの構造分析、最新ご当地カレー事情まで、カレーライスの未来につながるアイデアを、カレースター・水野仁輔が大放出。カレーライスの正体を知れば、明日のカレーがもっとおいしくなること間違いなし!
・書籍の購入はこちら

ライター紹介

皆本類
皆本類
昭和生まれの90年代育ち、出版社勤務を経てフリーのライターに。広告案件や企業のオウンドメディアを中心に女性向けコンテンツ作成を担当するほか、紙媒体含めニュートラルに節操なく仕事しているキャリアウーマンです。
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