【独占インタビュー】岩田渉さんが日本一のソムリエに輝いた理由とは

3年に1度開催される、日本一のソムリエを決定する「全日本最優秀ソムリエコンクール」(日本ソムリエ協会主催)決勝戦が4月12日に行われました。

全ての競技が終わり、コンクールの結果が発表されたとき、会場にどよめきが湧き起こりました。なぜなら優勝したのは、大会初出場、しかも決勝進出者中最も若い選手だったからです。

その人の名は岩田渉さん(コンクール当時27歳)。彼は京都のワインバーに勤めるソムリエです。東京の一流店のソムリエが数多く参加する中、地方から出場した選手が優勝したのは、なんと初めて。そんな若きソムリエの大躍進に、誰もが驚きを隠さずにはいられませんでした。

ソムリエコンクール決勝戦で求められるのは「オールラウンドにサービスできるかどうか」

5人の決勝進出者の中で、岩田さんは決勝戦にトップバッターで登場。決勝では、ワインのテイスティング、サービス、説明、料理の提案、ワインに関する口頭試問と矢継ぎ早に課せられる問題を、制限時間内にこなさなければなりません。

やや緊張した面持ちながら、岩田さんは得意の語学力を活かし、スマートで若者らしい溌剌とした演技を披露しました。

決勝戦の1シーン。フランスの高級甘口ワインのソーテルヌをサービスし、ワインの説明と合わせる料理を提案。

ソムリエというとワインの専門家をイメージしますが、コンクールで審査委員長を務めた田崎真也さんによると、「最近では専任のソムリエは減っていて、他の業務と兼務しながらサービスをする人が増えている」とのこと。

それゆえに「ワインだけでなく、カクテルから食事に合わせるワイン、食後に楽しむブランデーまでトータルでサービスできなければならない」と話すのは、世界コンクールで優勝し数々の世界大会で審査を行なっているジェラール・バッセさん。

「最近ではロンドンのレストランでも、日本人シェフがイタリアのチーズで料理を作り、フランスのワインをサーブしているように、ガストロノミーの世界では国の垣根がどんどん無くなっている」んだとか。

仮装ゲストを務める田崎真也さんとジェラール・バッセさんにワインをサービス。

今回、岩田さんの群を抜いた語学力に注目が集まりましたが、実は準決勝、決勝とサービス課題でトップの成績を収めました。岩田さんの瞬時に対応できるオールラウンドなサービス力が、優勝への切符に繋がったことは間違いありません。

なぜ、京都のワインバーの弱冠27歳のソムリエが優勝を勝ち取ることができたのか?

その理由を探りたく、岩田さんの働く京都「Cave de K(カーブ ド ケイ)」を訪れました。

数々の名バーテンダーを輩出した京都のバーで、ワインのプロを目指した理由

重厚な店構えが印象的な「Cave de K」の入り口。お店は二条通りのザ・リッツカールトン京都の並びにあります。

実は、岩田さんは昨年12月にRettyグルメニュースに登場。ソムリエを目指したきっかけ、これまでの歩みを語っていただきました。ですが、今回お店には初訪問(インタビューはこちらをご覧ください)。壁一面にワイン、床にはハードリカーが収められている落ち着いた大人の社交場といった趣の店内です。

ー前回の取材ではありがとうございました。そして、今回! 初出場で見事に優勝を果たし、おめでとうございます。決勝戦を拝見していて、岩田さんの緊張感がこちらにも伝わってきましたが、堂々とした素晴らしい演技でした。

岩田さん:終わって2週間が経ちますが、未だに優勝したという実感が湧きません。まさか決勝に行けるとは思っていなかったので。

ーコンクールを振り返っていかがですか?

岩田さん:一番嬉しかったのは、自分の演技について「この人にサービスしてもらいたいと思わせた」と評していただいたことですね。この通りワインバーなので、テーブル席での接客はしたことがなかったのに、準決勝、決勝とサービスでトップの得点を取れたことが本当に嬉しかった。テイスティングも独学でやってきたので「このやり方で合っているのか」ずっと迷いがあったのですが、勝ち進むうちに「自分のしてきたことは間違っていなかった」と思え、自信に繋がっていきました。

ーそもそも岩田さんは学生の頃からソムリエを目指していたのに、なぜレストランではなくバーで働くことにしたのですか?

岩田さん:海外から戻りアルバイトを探している時に、前の店の先輩から、英語が話せてソムリエを目指している人を探していると聞いて、まさに自分にぴったりだと思い、そのまま働くことにしたんです。なので特に店を探して入ったという訳ではなかったんですね。

ーカクテルやウイスキーがメインのバーで、ソムリエは岩田さんが初めてですよね? お店ではコンクールのための勉強やトレーニングをすることに対し、理解が得られたのでしょうか?

岩田さん:「Cave de K」オーナーの西田稔は、この店の2階にある「Bar K6 (ケイ シックス)」や祇園四条にある「Bar KUGEL(バー クーゲル)」を立ち上げ、京都では先駆者的なバーテンダーです。店の先輩達もバーテンダーのコンクールに出場する機会が多くあり、自分がソムリエのコンクールに挑戦することも応援してくれました。そのとき「2位、3位では意味がない。お客様は1位になった人がいる店に行きたいんだ。出るからには優勝を目指しなさい」と言われたことが励みになりましたね。

ーバーテンダーとソムリエ、ジャンルは違くとも、コンクールに挑戦する人がいる環境は刺激になりますね。

岩田さん:そうですね。またうちの店ではルールが厳格で、バーテンダーは一つ一つテストに合格しないと、カクテルを作らせてもらえないんです。それは水であっても同じで、その水がどの銘柄でどこの産地なのか、即座に応えられるようになるまでは、たとえお客様のグラスが空になっていても注ぎたすことすらできません。オーナーの考えは、お客様にサービスするからにはその物に対して精通していなければならない、というのが徹底していて、自分もすぐにワインをサービスさせてはもらえませんでした。店に入った頃は、お客様の上着を預かったり、皿洗いからスタートしましたから。

店で提供しているチーズについての知識を高めるため、岩田さんはチーズプロフェッショナル資格も取得。

酒の嗜み方を知っている京都の客に、カウンターで鍛えられた3年間

ーお店は昼11時〜深夜2時まで通し営業されているので、様々なお客様がいらっしゃりそうですね?

岩田さん:自分が勤務しているのは16時からラストまでですが、食事を召し上がる方も、食後にお酒を飲みに来る方もいます。パスタやサンドウィッチなどの料理メニューも一応用意していますが、材料があれば基本的にご要望にお応えします。お昼のカフェタイムにも、クレープシュゼットはバターとオレンジの風味が効いているので、コクのあるシャンパンにぴったりで、夜のデザートとしてもオススメです。

ーワインはどのくらい置いているのでしょうか?

岩田さん:ワインリストに記載しているのは9割がフランス産ですが、店のセラーには700〜800種類、店の倉庫には3000本ストックしています。お客様のリクエストに応えられるよう、チリ、アルゼンチン、南アフリカなど他の地域のワインも常時そろえ、手軽にグラスワインで楽しんでいただけます。当店ではシャンパン「クリュッグ」のマグナムボトルのグラスサービスを初め、スパークリングワインも常時5種をグラスで用意。いいシャンパンをグラスで気軽に楽しめるとあって、お客様から好評をいただいています。

もともと人見知りで話し下手だったと語る岩田さん。3年間のカウンター仕事で弱点を見事に克服。

ー今回のコンクールでは、ワインの知識以上にソムリエの人間性、サービス力が問われたように思うのですが?

岩田さん:そうですね。自分にとって大きかったのは、これまでカウンターで接客を学んだことだと思います。カウンター越しのお客様までの距離は1メートル。レストランのテーブルでの接客に比べ、お客様との距離が近いんです。直接対峙する分、お客様が何を望んでいらしゃるのか、瞬時に見極めなければなりません。
カウンター越しの会話の中で、お客様の要望を読みとる経験が、違う形で今回のコンクールでも活かせたように思います。

ー確かに今大会で審査員を務めたジェラール・バッセさんが、岩田さんについて「いわゆるグランドメゾンと呼ばれるレストランでの経験がないことがマイナスにならず、むしろワインバーでの経験がプラスに働いた」と評されていました。

岩田さん:当店には地元の名士のお客様も多く、入った頃は緊張して話すどころではなかったのですが、この3年間で大夫度胸が付きました。今はどんなお客様が来ても大丈夫です(笑)

京都のお客様はお酒の嗜み方を知っていらっしゃる方が多く、中にはコンクールの前に自分の貴重なワインコレクションを持参して、私にブラインドテイスティングさせてくれる方もいらっしゃいました。今、自分があるのはお客様に育てていただいたおかげだと思っています。

ー来年は、世界コンクールの前哨戦である「アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール」が京都で開催されますね?

岩田さん:プレッシャーもありますが、可愛がっていただいたお客様、今まで支えてくれた周りのスタッフのためにも、優勝して恩返したいと思っています。自分の活躍する姿を見ていただきたいですね。

にこやかな笑顔で人を和ませる岩田さん。

年代物の高級ワインを構えて飲むのではなく、リラックスして楽しませてくれる、
そんな岩田さんのサービスを求めて訪れる方も多いのではないでしょうか?

気さくな雰囲気とは裏腹に、学生時代から大変な努力をし続け、
これまでも深夜まで立ち仕事をしながら、ワインの勉強を怠る日はなかったそうです。

日本一のソムリエになるという夢を叶え、今、まさに世界へ羽ばたこうとする岩田さん。Rettyグルメニュースも、世界一のソムリエを目指す岩田さんを応援しています!

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