餅つきといえば年末やお正月を連想しますが、杵(きね)と臼(うす)を使って手間と時間をかけた手づきのお餅が一年中食べられるお店があると聞き、訪ねてみました。
場所は上野駅の隣、鶯谷。
駅から3分という好立地ながら静かな路地に今回の目当てのお店「月光」があります。
13年前に東京三ノ輪にオープンした月光は、昨年末に鶯谷に移転してきました。お餅だけでなく、店主が厳選した日本茶も楽しめるお店です。
店内に入ると、早速お餅のいい香りが店中に広がっています。
厨房を覗くと、すでに主役のもち米が蒸し始められていました。手間と時間がかかるため朝早くから仕込みを始め、オープンの12時までにはお餅を完成させなくてはならないそう。つまり、お店に食べに行っても、残念ながら餅つきをしているところは見られないのです。
なんとかして「月光の餅つきを是非見てみたい!」と店主の堀口さんにお願いをし、開店前にお邪魔して特別に仕込みの様子を見せてもらいました。早速動画を見てみましょう!
月光で使用しているもち米は、青森県五所川原の「あかりもち」という品種。冬になると雪に覆われる五所川原でできるもち米は甘みがあって美味しいのだそう。
そのもち米を一晩給水し、蒸すことおそよ1時間半(季節により異なる)。1.5升のもち米が蒸し上がりました。
もち米を臼に入れて杵を使って、まずはもち米をつぶしていきます。つぶし始めておよそ3分すると、なんとなくひとかたまりになってきました。
ここからいよいよ餅つきの始まりです。杵を振り上げ「ペタン、ペタン、ペタン」とついていきます。
何度かついたらしゃもじを使ってひっくり返し、またつく。
それを何度も、何度も繰り返していくうちに、お餅はどんどん滑らか、艶やか、そして粘度が増していきます。手で触れる温度になったら手で返しながら、つき上がりを確認していきます。
つき始めておよそ20分。見た目にも伸びが良くて滑らかさがわかるような、つやのあるお餅が完成しました。
しかし、これで終わりではありません。仕込みはまだまだ続きます。お餅は冷めると切り分けられなくなってしまうため、温かいうちに切り分け丸めていきます。
あざやかな手さばきで切り分けたお餅を優しい手つきで丸め終わると仕込みが終了。ここまでの作業を堀口さんは毎日一人で黙々とこなしています。
今回は夏の限定のずんだもちをオーダー。先ほど切り分けたお餅を一度さっと湯にくぐらせ、お皿に盛ったら、山形県から取り寄せているずんだあん(枝豆を使ったあん)をたっぷりとかけ、「ずんだもち」(ほうじ茶付き 640円 税込)の完成です。
早速試食してみました。
箸でお餅を切り分け、持ち上げてみるとお餅がよく伸びる!
口に入れると、まず口の中に枝豆の青々とした香りが口に広がります。ねっとり滑らかにもかかわらず、柔らかすぎずに歯ごたえがあって歯切れがいい。今まで食べてきたお餅とは食感がまるで別物!
しっかりした食感がクセになり、あっという間にペロリと完食してしまいました。
この独特の歯ごたえに仕上がる理由を堀口さんに聞いてみると、季節によって異なる蒸し加減を調節すること。そして手で返し、直接お餅に触れることでこね上がりを見極めることでねっとりしながらもしっかり食感のあるお餅に仕上がるのだそう。
一般的に販売されているお餅は機械でこねているものが多く、機械の力に頼らずに人の手と長年培った感覚で、ブレのない均一な品質を保ち続けるのは難しいそうで、手づき餅を出す店は、今や東京では唯一「月光」のみだそう。今日仕込みを見学させてもらっただけでも、いかに大変な作業かを痛感しました。
この店のもうひとつの楽しみは、日本茶。もともと、堀口さんは日本茶の美味しいお店を開きたいという夢があり、日本茶に合うもので誰も他にはやってないものはなんだろうと思って、手づき餅と日本茶の専門店を始めることになったそう。
今回は、暑い季節にぴったりな福岡県八女の茶葉を12時間以上かけて水出しした「水出し煎茶」(420円 税込)を選びました。渋みがなく、甘みのあるすっきりとした味わいです。
今回感じたのは、この一皿にかける堀口さんの想い。毎日その日に販売する分だけを朝早くから仕込む。お客さんにとって月明かりのように静かな癒しの場所になってもらいたいと思って毎日お店を続けているのだそう。その想いはしっかりお客さんにも届き、長く通い続けている常連客も多いのだとか。
春にはよもぎを使用した草もち、秋冬にはお雑煮など季節の限定メニューを楽しむのもおすすめです。ぜひここでしか味わえない手づき餅を食べに訪れてみてください。
- お餅と日本茶の喫茶 月光
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東京都 台東区 根岸
甘味処