いま、東京は第2期「とんかつ黄金時代」を迎えている。第1期は昭和30年代から50年代にかけて、上野、浅草といった下町の専門店で食べられるとんかつは戦後生まれのわれらの御馳走の横綱だった。
そして、30年を経ていまはその波が東京23区外まで拡がっている。銘柄豚を使った平成のとんかつは、昭和のとんかつ小僧の私たちを満足させた上で、外食のご馳走のチャンピオンになりつつある。
〜『東京とんかつ会議』 P2より引用〜
いま「とんかつ」がアツい。誰もが一度は食べたことがあるであろう昔ながらの「とんかつ」が、新たに脚光を浴びている。そのきっかけを生んだ一冊がこちらの『東京とんかつ会議』(ぴあ刊)。
こちらの書籍が絶好調に売れているそうだ。
パクチーやレモンサワーなど、若い女性が食のトレンドを作るようになって久しいが、その女性たちが常に気にしているダイエット・ヘルシー指向の真逆をいくような「とんかつ」がウケているのがおもしろい。
庶民的だけど、ご馳走。昔ながらの料理だけど、フォトジェニックで今っぽい。とんかつの新たな魅力を知るべく、『東京とんかつ会議』の著者である山本益博氏、マッキー牧元氏、河田剛氏が開催したイベント「東京とんかつ学術会議」に潜入してきた。
とんかつを学問する?
都内で屈指のとんかつ人気店である高田馬場・成蔵で行われた本イベント。「東京とんかつ学術会議」は、おいしいとんかつを食べながら、とんかつを学問しようという斬新な試み。
会場へ着くと、さっそく成蔵のとんかつが参加者に振る舞われた。
お店で提供される豚の銘柄は時期によって異なり、今回振る舞われたのは「栃木の霧降高原豚」「新潟の雪室熟成豚」「岩手岩中豚」という3種類の銘柄豚のとんかつ。
霧降高原豚は、しなやかな肉質で優しいうまみ。2週間雪室で熟成させた雪室熟成豚は、しっとり柔らかく、甘い香りが口中に広がる。岩手岩中豚は、うまみが濃く、肉の脂がじわっと溶けだす感じがたまらない。
それぞれ個性の違う3種のとんかつの美味しさに沸き立つ会場。しばらくすると、会場に集まったとんかつ好きの方々から、成蔵の店主・三谷成蔵氏への質問がはじまった。
豚肉より衣にこだわる?
--とんかつを作るとき、一番こだわっている点はどこですか?
「とんかつを調理するにあたり、僕が一番大事にしているのは『衣』です。もちろん豚肉も大切ですが、まずは衣。最初に口の中に入るのは衣なので、とんかつの第一印象は『衣』で決まると思っています」(三谷成蔵氏)
「揚げる温度、パン粉の付け方、油とパン粉の相性など、こだわるべき点は山ほどあります。僕が目指しているのは、食べたときにサクッと音が聞こえるような衣で、噛んだ瞬間にふわっと溶けるようになくなり、すぐにお肉の味が楽しめるのが理想です」
「成蔵のとんかつを見ていただくと、衣が白っぽいことに気づくと思います。パン粉は特注で注文していて、普通のお店で使うパン粉より糖度を4分の1にまで減らすことで、揚げたときに衣を焦げづらくしています。それを綺麗な油でゆっくり低音で揚げることで、この白さになります」
「パン粉の付け方も大切です。パン粉を上から抑えて付けると、揚げたときに衣が平らな仕上がりになるため、食感がよくありません。そこで、僕はパン粉を斜めに刺すように付けていきます。そうすると、油の中に入れたときにふわーっとパン粉が独りでに立っていきます。僕はこれを"パン粉の花が咲く"と呼んでいるのですが、これがサクッとした食感の秘密です」
「とんかつ」はシンプルだからこそ差が出る
--「とんかつ」の魅力は何ですか?
「とんかつの工程は、豚肉に小麦粉をつけ、卵にくぐらせ、パン粉をつけて油で揚げるだけ。この単純な調理工程だからこそ、料理人ごとの差が出やすいんです。どの工程にも注意すべき点がいくつもあり、それをやるやらないで仕上がりは全くの別物になるんです」
「僕も最初にとんかつをはじめたときは、簡単だと思ったんですよ。でも、実際にやってみてると、次々と新たなやるべきことが見えてきます」
『東京とんかつ会議』のなかで河田氏は、「シンプルなのに奥が深い。とんかつは三ツ星レストランの料理にも負けない」と語っているが、料理人から見たとんかつも簡単には言い尽くせない世界が広がっているようだ。
揚げ時間はじっくり20分
--とんかつにする豚肉はどんな点にこだわっていますか?
「豚肉は、全く同じ揚げ方をしていても、火を通すと固くなるお肉と柔らかくしっとりしたままのお肉があるんです。この柔らかい豚肉を低音でゆっくり揚げるのがコツです」
「低音で揚げる理由ですが、厚みのある豚肉を高温で揚げると、中まで火が通る前に衣だけが焦げてしまう。ですので、低い温度から徐々に温度を上げていき、油切れのいいタイミングで取り出し、油を切りながら余熱でじっくり中まで火を通すと柔らかくジューシーに仕上がります。ロースの場合、入れはじめが110度、20分くらいゆっくりと揚げ、揚げ上がりが145度、取り出して10分寝かす、このような工程で作ります」
--今後の目標はありますか?
「これからの夢は『とんかつと言えば、成蔵』と言われることです。この成蔵の名前が、全国に知れ渡るように頑張りたい」
※※※
今回紹介した成蔵は、書籍『東京とんかつ会議』のなかで”殿堂入り”のとんかつ店として紹介されている。
東京とんかつ会議「殿堂入り店」とは?
著者の3名(東京とんかつ会議評議員)が別々に店を訪れて、各々が採点し、一定の点数を超えたお店が殿堂入りとなる。とんかつはもちろん、ご飯や味噌汁、お新香などの品質も求められるため認定率は低く、2017年6月現在認定率は10%程度となっている。
書籍では、成蔵を含む殿堂入りのとんかつ店が15店舗紹介されている他、都内の人気店から老舗まで幅広く、カツ丼・カツカレー・カツサンドに至るまで「とんかつ」の魅力が余すことなく語られている。
読めば必ずとんかつ愛が深まる一冊。ぜひこれを片手に、東京のとんかつ最前線を実感してみてはいかがだろうか?
山本益博・マッキー牧元・河田剛 著 1400円(税抜・ぴあ株式会社刊行)
超一流の大衆料理「とんかつ」愛にあふれた完全ガイドが誕生。とんかつ豆知識、映画の中のとんかつ、マッキー牧元さんがペンネーム露臼勝太郎(ろうす・かつたろう)として執筆したとんかつ小説も特別付録として掲載されています。
- 成蔵
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東京都 新宿区 高田馬場
とんかつ