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味を讃える日本人、時間を讃えるフランス人。パリで注目の新進気鋭シェフが語るレストランの楽しみ方

世界中の美食家が集まる街、フランス・パリの「Restaurant Kei(レストラン・ケイ)」。

2017年、日本人オーナーシェフの店としてはじめて、仏版ミシュランガイドの2ツ星に輝き、連日満席の人気店となっています。

今回は、来日中のオーナーシェフ小林圭氏にインタビュー。邁進し続ける厨房での日々、パリのゲストとの関係性、彼の考える食事の真の楽しみ方などについてお話を伺いました。

▲小林圭長野県生まれ。長野、東京でフランス料理店に勤務後、21歳のときに渡仏。南仏やアルザス地方の星付きレストランで修業ののち、パリの3ツ星「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」で7年間勤務。最後の4年間はスーシェフ(副料理長)を務める。2011年3月に自身の店「レストラン・ケイ」をオープン。わずか1年でミシュランガイド仏版の1ツ星に輝き、2017年、日本人オーナーシェフとして初の2ツ星を獲得。

空間、時間そのものを楽しむフランス人に学ぶ、レストランの楽しみ方

「フランス人と日本人のお客様の一番違う点。それは食事の後、日本人は『おいしかった』と言うのに対し、フランス人は『いい時間をありがとう』と言うことかな」(小林圭氏、以下同)

パリで舌の肥えた美食家たちを相手に、日々、真剣勝負を繰り広げている小林圭シェフ。日本人とフランス人のお客の違いを尋ねたところ、こんな答えが返ってきました。

「もちろん、フランス人、日本人に関わらず、いろいろなタイプのお客様がいます。しかし『いい時間』と表現するのは、海外のお客様ならではの言葉だと思います。レストランで料理がおいしいのは当たり前のこと。食事の際の空間や、時間、スタッフのサービスなど、さまざまな点を含めて『いい時間』と言っていただけるのはうれしいです」

小林シェフによると、レストランの楽しみは、予約の電話を入れたときから始まっているといいます。予約の電話を受けるスタッフの対応、そしてレストラン当日までの期待感、当日お店に入ったときの喜びなど、全てを楽しんでいただいてくことが、レストランの醍醐味なのだとか。

▲ブール・ドゥ・ノエル…バジルとフロマージュ・ブランのパルフェ、みかんと柚子の風味

▲ブール・ドゥ・ノエル…バジルとフロマージュ・ブランのパルフェ、みかんと柚子の風味

「クラシックなフランス料理をベースに日本の”何か”が入った、自分のガストロノミーは、それ自体がアートだと思っています。絵画や彫刻とは違い、食べてなくなってしまうものですが、それ自体もアート。となると、レストランは劇場ですよね。音楽や芸術を楽しむように、料理を楽しんでいただきたいと、自分は考えています」

最高の劇場を用意するために、常に真剣勝負をしていると語る小林シェフ。そのため、スタッフへの指導も徹底しているのだそうです。

「ときには、お客様からいろいろなご意見をいただくこともあります。それはお店をよりよくしていくためにも、スタッフに伝えます。スタッフは日本人を含め、総勢18名。経歴も性格もいろいろな人がいますが、大事なのはみんなで同じ方向を向いていることです。常に前へ、ではなく、常に上へ、ですね」

そうして、日々育て上げたスタッフは、「何ものにも変えられないレストランの宝」と語る小林シェフ。お店が全力で用意してくれる極上の時間を、いかに受けとめ、楽しめるか。レストランは、お店とお客との真剣勝負の場であるかもしれません。

料理を記録に残すのか、記憶に残すのか。写真撮影はアリなのか?

料理の楽しみ方として、最近、日本でも定着しつつあるのが「インスタ映え」などの言葉に代表される「写真を撮ること」。料理の写真を撮ることについて、作り手であるシェフはどのように考えているのでしょう。

「うちのお店でも、写真を撮るお客様はいらっしゃいます。写真を撮って紹介してくれることで、さらにいろんなお客様が足を運んでくれるのはうれしいことです」

写真を撮って楽しむことについては否定しないものの、シェフとして気になることもあるのだそうです。

「熱心に何枚も写真を撮ることで、料理が運ばれてから時間がたってしまうのが気になりますね。作り手は一番の食べ時を考えてテーブルに運んでいるので、時間がたつとそれを逃してしまう。料理によっては、秒単位で計算していることもあるんです。写真を撮っていただくのはほどほどに。食べどきをしっかり味わっていただきたいですね」

▲ジャルダン・ドゥ・レギューム(野菜の庭園)

▲ジャルダン・ドゥ・レギューム(野菜の庭園)

確かに、美しい料理に夢中になり、ついいろいろな角度から撮ったり、時間をかけてしまいがち。早めに食べることの大切さは理解していても、秒単位で「食べどき」が用意されているとは。認識の甘さを感じました。

一方、レストラン側も写真を見て足を運ぶ、新しいお客様に対しての心構えもあるそうです。

「当たり前のことかもしれませんが、テーブルに運ばれた料理は、写真の料理以上に美しく感動的でなければいけません。写真と同じではなく、それ以上に。レストランに足を運んでいただいたお客様に対しての真剣勝負ですね」

日本滞在は食・人との出会いの場。刺激を受けて新たなステージへ

現在、パリを拠点に活動している小林シェフ。仕事を通じて日本を訪れる際に、必ず食べたくなる日本の味などはあるのでしょうか?

「焼き肉です」

と即答。気鋭のフレンチシェフの意外な答えに、理由を尋ねると、

「自分で焼けるのがいい」とのこと。食べどきを逃さず真剣勝負をしている、小林シェフらしさが伺えます。

「スタッフをつれて焼き肉屋に行くこともあります。焼くのはすべて僕がやりますね。焼き加減とかタイミングとかうるさいから、きっと僕といくのは嫌だと思いますよ(笑)」

憧れのレストランに行き、食事を楽しむ。それは、目からだけではなく、香り、食感、そしてレストラン全体の空気感などを、五感で感じるチャンスです。記録に残すよりも記憶に残すこと。レストランを楽しむ上級テクとして、ぜひ身につけておきたいものです。

焼き肉のほか、やはり和食なども食べに行くのだとか。

また、食事以外でも日本での滞在を利用して、いろいろな人に会うのも楽しみだそうです。

「日本にいる間は、むしろ他の業界の人と会うほうが多いくらい。刺激を受けて新しいものを創りだすいい機会だと思っています」

そうして、さまざまな人や食との出会いからインスピレーションを受けることにより、生み出された料理もあるそうです。

日本から世界へと活躍の場を大きく広げる小林シェフの情熱は、新たなステージへ。日本での新たな展開も期待されます。

「Restaurant KEI」
住所:5 Rue Coq Héron, 75001 Paris
電話:01 42 33 14 74(日本語可)
定休日: 月曜日、日曜日のランチとディナー、木曜日
営業時間: ランチ12:30〜 ディナー19:45〜

ライター/田久晶子

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