あなたにとって、「おにぎり」とはどんな存在ですか?
海外から帰ってきた時につい食べたくなる、子どもの頃の懐かしい思い出がある…などなど。
そんな、日本人にとって最も身近な食である「おにぎり」に着目し、2014年2月に一般社団法人おにぎり協会を立ち上げたのが中村祐介さん。ミラノ万博をはじめ、数多くのイベントや取材を通じて「おにぎり」の魅力を国内外に発信しています。そんな「おにぎり」に魅せられた男が語る、「おにぎり」とは!
価値があると気付かれていない「おにぎり」に光を
−そもそも「おにぎり協会」を立ち上げたきっかけは?
中村祐介さん(以下中村):「おにぎり」に注目したのは5年ほど前です。寿司、天ぷら、ラーメンなど、世界的に「和食」がブームのなか、「おにぎり」も少しずつ注目されはじめました。
ところが日本では「おにぎり」が当たり前すぎて、その価値に気がついていた方はいなかったと思います。価値がないと思われているからこそ「おにぎり」に光を当てよう。特に海外で「おにぎり」を流行らせて逆輸入させられたら効果的と考え、仲間とこの協会を立ち上げました。
−「おにぎり」の価値、スゴさってどんなところでしょう
中村:寿司はネタが海産物中心だったり、シャリは冷めた酢飯だったり、ルールが色々とあります。ところが「おにぎり」は温かいごはんさえあれば、具材は梅干しでもツナマヨネーズでも何でもOK。スープやおかず、お茶やお酒といったドリンクとの組み合わせも問わない。
つまり「おにぎり」には、ごはんを使うコト以外一切ルールがありません。また、初対面の人とでも「好きなおにぎりの具材?」「思い出のおにぎりは?」という質問をすると、それだけで会話が弾んだりします。
「おにぎり」はコミュニケーションツールでもあります。さらに「おにぎり」には日本各地の郷土色が濃く出ているので、自分が生まれ育った町を説明するのにも向いています。
そこで、おにぎり協会では「おにぎり」を日本が誇る「ファストフード」であり「スローフード」であり「ソウルフード」であると定義しています。
おにぎりの具がおにぎり、というご当地おにぎり知ってますか?
—たしかに。全国各地に「ご当地おにぎり」がありますね。中村さんが特に変わってるなーと思った「おにぎり」はありますか?
中村:宮城県三陸地方に“おにぎりの具がおにぎり”という摩訶不思議なおにぎりがあります。まず、通常のおにぎりの1/4程度のご飯を握り、海苔でくるんでミニおにぎりを作ります。次に、それをご飯で包むように握って出来上がり。
三陸地方はわかめの一大産地なので、ご飯はわかめご飯にして握るのが定番です。外側に海苔は巻きません。この地方では海苔が貴重だったため、このような形になったようです。
—なるほど、地域で採れる食材と「おにぎり」は密接に関係しているのですね。ところで「おにぎり」って一体いつの時代からあったのでしょう。
中村:石川県中能登町(旧鹿西町)や神奈川県横浜市では、紀元1世紀頃、弥生時代中期のコメが炭化した塊、「おにぎりの化石らしきもの」が発掘されています。
また、奈良時代に編纂されたとされる常陸国風土記には「握飯」の記述があり、少なくとも稲作が始まった頃からおにぎりの原型があったと推測されます。「おにぎり」が最古の和食であることは間違いないです。
—ところで、「おにぎり」と「おむすび」に違いはありますか
中村:この質問、何十回、いや数百回も聞かれていますね(笑)
「おにぎりはどんな形でも良いが、おむすびは三角形でなければならない」
「おにぎりは三角型で、おむすびは俵型である」
「東日本ではおにぎり、西日本ではおむすびと呼ばれる」
などなど、おにぎりとおむすびの呼び名にまつわる説は色々あるのですが、実はこれ、すべて俗説。「そう言われているらしい」というだけで、確かな根拠がある説はほとんどもありません。
その中で唯一確からしいのがその語源について。おにぎりは「握り飯」の丁寧語、おむすびは宮中や大奥の女官言葉がルーツだそうです。
三角おにぎりが主流という歴史はまだまだ浅い
—「おにぎり」の形は、昔から「三角おにぎり」が主流なのでしょうか
中村:非常にいい質問ですね!
実は最近まで「三角型」はマイナーな存在で、ひと昔前まではまんまるな「球型」が主流でした。お米が貴重だった頃、特に農村部では野菜をまぜてかさを増す「かてめし」が主流。この場合、「球型」の方が成形しやすいので主流になったと考えられます。
「三角型」が一気に主流になったのは昭和50年代、コンビニエンスストアでおにぎり販売が始まり、大量生産に適した形状だったため普及しました。
この頃から「おにぎり」は内食から中食の中心に。共働きが当たり前となり、「おにぎり」は家でつくるものから外で買うものへと変化していきました。街中に「おにぎり専門店」が登場したのも戦後の話になります。
—「三角おにぎり」が主流になったのは、わずか40年前の話なのですね。今後「おにぎり」はどんな発展をしていくとお考えですか?
中村:ここ2年の間にも「おにぎらず」「スティックおにぎり」「オイルおにぎり」「パッカンおにぎり」など、多種多様な「おにぎり」が誕生しました。
おにぎり協会としては、江戸時代に広まった寿司もおにぎりが発展してできた、ある意味「おにぎりの子ども」です。「おにぎり」はごはんをベースにさまざまな形に変化しているので、今後も時代によって「進化系おにぎり」が続々と出てくると考えています。
日本人の食文化と密接な関係をもつ「おにぎり」の進化は止まらない。そして「おにぎり愛」を語る中村さんのトークも止まる気配がありません。次回、中村さんに「地元で愛されるおにぎり店」をご紹介いただきます。
撮影協力
大塚にある、創業58年のおにぎりの店『ぼんご』。店主が握る新潟産コシヒカリのおにぎりは、種類が豊富でサイズも大きく、美味しいと大人気。店内で食べても、テイクアウトしても。
- おにぎり ぼんご
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東京都 豊島区 北大塚
和食
ライター紹介
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関克紀
- 食と旅、街をテーマに活動する食生活ジャーナリスト。黒ホッピーと焼酎ハイボール片手に大衆酒場を飲み歩く。お米を中心に食のプロデュースを行なうTokyo Onigiri Labo代表。