こんにちは、熱燗DJつけたろうこと日本酒ライターのKENZOです。
最近は自宅にある日本酒のストックが50本を超えてしまい、来年から山梨に移り住むことが決定いたしました。
これで日本酒専用のセラー部屋を作ったり、常設の燗床(かんどこ:熱燗の湯煎のお湯)を作ったりと心置きなく熱燗ライフを送れるようになるのが今から楽しみです。(※本業はIT企業のサラリーマンです)
さて、みなさん「酒サムライ」ってご存知ですか? 巷では「ミスユニバース」などといった名誉ある称号がありますが、実は日本酒にもそうした称号があります。
今回は2017年度の酒サムライに叙任(じょにん)された、肉と日本酒のペアリングの創始者でもある六花界グループのオーナーシェフ・森田隼人さんにインタビューをさせていただきました。
(※森田さんが運営する六花界グループの焼肉屋は、「日本一予約の取れない焼肉屋」とも言われるほどの話題店)
酒サムライとは一体なんなのか? 今後どういった活動をしていくのか? そもそも森田さんは肉と日本酒のペアリングをなぜ始めようと思ったのか?それらを中心にお話を伺ってみたいと思います。
海外のイメージは「日本酒=カップ酒」?
まさかKENZOさんと一緒に仕事をやるとは思わなかったなぁ〜!(笑)
僕もです(笑)
※KENZOは森田さんのお店の常連で、六花界グループのただのファンでした。
でも嬉しいですわ。こうして面白い形でご一緒できて。
ありがとうございます。僕もワクワクしています。
2017年度の「酒サムライ」の叙任おめでとうございます。
ありがとうございます。
まずは、「酒サムライ」をご存知ない方に酒サムライについてご紹介いただけますか?
はい。酒サムライは、日本文化と日本酒の素晴らしさを国内外に広めることを目的として結成された団体です。そして僕は、今までの活動が評価され、これからもっと日本酒の魅力を広めていくことを期待され、今回酒サムライの称号を叙任しました。
なるほどー!その「広める」にあたって、森田さんはどんなことをされていくのでしょうか?
一番最初にやりたいのは、北緯35度圏内・南緯35度圏内の別の国に日本酒を造ってもらうことです。これをすることによって、日本酒をグローバルに発展させていきたい。
おおお!
ただ、いま日本酒自体が海外で売れてしまいだしたんですよね。
それは良いことなのでは?
それが実際には、四合瓶でも一升瓶でもなくてパック酒が一番売れてるわけですよ。
え、カップ酒が!
パック酒もしくはカップ酒が売れちゃっていて、どっちかというとハードリカーに近い飲み方をされてるんですよ。僕は日本酒って、そういうお酒じゃないなって思っているので、日本酒の正しい知識を伝えられる人を海外にも増やしたい。
なるほど。日本でもワインの造り手がいるように、海外にも日本酒の造り手がいるのを当たり前にすると。
そうですね。もう1つやっていきたいことは、視認性のある日本酒ボトルの普及ですね。ワインで例えると、ボルドーのワインボトルはいかり肩で、ブルゴーニュはなで肩みたいにボトルを見ればどこのワインなのか見分けがつく。日本酒も、同じように視認性のあるボトルが必要だと思ってるんですね。
どんな日本酒かボトルで見分けがついたら確かにいいですね!
そうでしょ。ボトルを見れば、ひと目で大吟醸だとわかったりね。世界中の人が見て、ああこれって日本酒の中のこれだよねって、ボトルで差別化をしなきゃいけない。
言語の違う国に展開するのであれば、必須ですよね。
1人の女性との出会いが「肉と日本酒」を誕生させた
今回、酒サムライにはどのような経緯で選出されたんですか?
そもそも、酒サムライは30ほどの酒蔵によって決められるんですが、酒蔵が推薦状を書く、もしくは過去に叙任された酒サムライの人が推薦状を書くんですね。今回は、トータルで60人ほどが推薦されました。その中で酒蔵同士が話し合いを重ね、日本酒の未来を託せると判断した5名を酒サムライとして選出します。
今回、なぜ森田さんが選ばれたのでしょうか?
日本で「肉と日本酒」という分野を作ってきたことが酒蔵の方々から評価されたのだと思います。
たしかに「肉と日本酒」というペアリングで、今まで日本酒を飲んでいた層以外にも日本酒ファンが増えましたよね。
酒サムライの他の叙任者の人たちは海外で活躍されている方々がほとんどなので、僕は国内でも、もっと日本酒を飲む人を増やしたい。蔵元と一緒になって、日本で飲む人に新しい日本酒の可能性を広めていかないと日本のマーケットが衰退してしまう。肉と日本酒も、日本酒の可能性のひとつなわけです。
なるほど。そもそも、この「肉と日本酒」は、どういった経緯で始まったんですか?
それは高橋えりという1人の女性抜きには語れないですね。
高橋えりさん…?
以前まで、僕と一緒に働いていた高橋えりという人間で、彼女がいなかったら今の日本に「肉と日本酒」という組み合わせは存在していないです。
おおおおお…!どういうことですか?
肉と日本酒のペアリングは、高橋えりが考えた「生レバーに鍋島(※)の特別純米酒」という組み合わせから始まったんです。
※鍋島(なべしま):佐賀県の富久千代酒造の日本酒。
レバーと鍋島!!
昔2人でお店の研究も兼ねて、新橋でベロベロになりながらハシゴ酒をしてたんです。1日8軒とかね(笑)。
8軒!!(笑)
で、新橋のとある酒場で鍋島の特別純米酒を飲んだ高橋えりが「これとレバーは合うと思うんですよ」ってポロっと言ったんですよ。その場は「へー」って生返事を返したんですが、その後ほんまにレバーを僕が買って持ってったんですよ。「これ、さばきたてのレバーやで」って高橋えりに渡したら、「私のほうで鍋島の特別純米酒を用意しときました」って言われ、2人でそれを食べたらむちゃくちゃ合ったんです。
すげーーー!!
元々僕がやっていた六花界ではハイボールとホッピーが流行ってたんですけど、軽い気持ちで始めた「生レバーと日本酒」の組み合わせが六花界の運命を変え、後に飲食業界の一大トレンドを作っていくわけです。
高橋えりさんの何気ない一言から!
でね、六花界が秋葉原の近くにあって「生レバーと鍋島」を最初に出したときに、アキバ系の若い女子がむちゃくちゃやってきたんです。メイド服来てる人とか(笑)。
- 六花界
-
東京都 千代田区 鍛冶町
焼肉
アキバ系の女子にウケたんですか!(笑)
それでアキバ系の人らって、すっごい発信力を持ってるんで、勢いよく発信していってくれたんですね。で、メディアにバーンと出るようになった時に「肉と日本酒」という見出しになって世の中に広がっていったんです。
おお!そうして「肉と日本酒」の組み合わせが知られていったんですね。その功績が対外的に認められて、酒サムライの流れにつながるんですね。
そうです。高橋えりなくして、僕の酒サムライはないわけです(笑)。
なるほど!高橋えりさんに会ってみたくなりました!
「日本酒のビール化」は実現するか
少し話は戻るのですが、先ほどお話にあった「日本の方々に日本酒の可能性を広めたい」というのは、具体的なイメージはあるのでしょうか?
今の日本酒の可能性の中で、1個あるとしたら「日本酒のビール化」やと思ってるんですよね。大吟醸っていうスペックも皆に伝わってないし、アル添(※)の話も伝わってないし、なんなら純米と特別純米の差なんて分かる人おらへんって思うんですよ。どうでもええわってなるカテゴリーの分け方じゃないですか。
※アル添:醸造アルコールを添加したお酒。この場合「純米」という表記はつかない。
たしかに、それで味を想起するのは難しいですねぇ。
GEM by moto (※)というお店に千葉麻里絵さんという方がいるんですが、彼女はビールで日本酒を割ったりするんですよ。でも、それは奇をてらってるように見えて、そこにはしっかり裏付けがあるわけです。そういうお店へ行くと、日本酒に対してインビテーションをもらうんですよ。
※GEM by moto (ジェム バイ モト):恵比寿にある日本酒バル。温度の違いや、スパイスとの組み合わせなど、常識にとらわれない新しいスタイルで日本酒を提供するお店。
- ジェム バイ モト
-
東京都 渋谷区 恵比寿
日本料理
インビテーション…?
例えば、僕とKENZOさんが合コンを開催するとするじゃないですか。
はい、しましょう!
例えね、例え(笑)。そこで、僕からKENZOさんを「日本酒好きの人です」ただそれだけで女の子に紹介したら、「あっ、私は日本酒好きじゃないからこの人違うな」って判断しちゃうかもしれないですよね。
そもそも、日本酒に興味がなかったらそうなりますよね。
でも、ちゃんと説明して「実はこの人は色々やっていて、ネットサービスを運営しつつ、メディアでライターもやりながら、更に日本酒が大好きで熱燗をつけるのがうまいんですよ」って言ったらちょっと興味を持つじゃないですか。そういうインビテーションの仕方を日本酒でやってかなきゃあかんと思うんですよね。
なるほど!(笑)日本酒に多くの人が「興味」をもつように、日本酒に触れる機会を多くする。そしてそのタイミングで、間違った知識や偏見を取り除いて、日本酒を好きになってもらうと。インビテーションの意味がわかりました。
それを日本酒業界全体でやらなあかんっていうのが「酒サムライ」として僕の役目やなって思ってます。
日本酒に一度失恋させる
森田さんの中で、日本酒全体の正しいインビテーションの第一歩とはどういうところなのでしょうか?
例えば、この記事に関心を持って読んでくれる人を正しく導くこともそのひとつ。
というと?
きっとこの記事を読んでる人は、ほとんどすでに日本酒が好きな人で、普段から飲んでいる人。その人らに日本酒の深いところであったり、昔でいうトリビアみたいなちょっとマニアックなんだけど、全員が使える知識を発信してもらわなあかんと思うんですよね。そういうことが、日本酒の門戸を広げていくと思うんですよね。
なるほど。
僕らが教えたことをやりはった人が、教えたままにそれをやったら日本酒に興味がない人にはマニアックな知識が通じへんっていうことに気づくはずなんですよ。気づいた時に「あれ?これ何で通じへんのやろ?」って言うて、もっと追求する人が出てくるはずなんですよ。その後、そこに僕らがレクチャーしていくところまで考えていかんとあかんと思います。
あえてマニアックで正しい知識を伝えてそれを皆に使ってもらうんですね。日本酒をある程度のところまできて知識を披露したくなったら、皆痛い目にあったりしますよね。周りがついてこれなくなって。そこからどうするかに、森田さんは日本酒の未来があると。
そうなんです。日本酒を飲んでる人らがいかにマニアックで、あかんかったことに気づくはずなんです。なんで通じへんねんって、一度日本酒に対して失恋させなあかんですよね。一度失恋すると考えるからね、それが大事なんです。
「風が吹けば、桶屋が儲かる」日本酒が売れるための風はどこから吹く?
確かにそうですよね。僕の中で日本酒好きのラインがひとつあって「酒屋に行って自分で日本酒を買ったことがあるか」って大きいなと思っていて。
正解ですよ。それが全てです。それしかないです。
それを超えた人は何て言うんですかね。分かってくれるんですよね。
そこに持ってくプロセスの話なんですよね。
だから1回失恋して、それで酒屋に行って日本酒を買ってそこからっていうことですよね。
そうです。日本酒はいかに売れてないかって話なんですよ。ビールなんか夏は唸るほど売れるわけですから。冬に日本酒飲むかって言ったら飲まないってなるでしょ。冬はクリスマスがあるから、絶対ワインやシャンパンになるんですよ。そこに日本酒はいないんですよ。
そうですね…。
風が吹けば桶屋が儲かる、そのシステムのどこに日本酒を置くか。桶を日本酒にして、こいつ売れるためには「風はどこやねん!」っていうとこまで考えないかんのですよ。それをやっぱり僕らが種蒔いていかんと。
もう、ホントそうですね!森田さん、その種を蒔くのを僕にもお手伝いさせてください!
ぜひ、お願いします。日本酒をもっと飲んでもらうための種を見つける企画!これを連載にしていきましょう!
ぜひ!!!
※※※
ということで、連載が決まった森田さんとの日本酒の種蒔き連載ですが、次回は今回のお話にでてきた「高橋えり」さんという方にお会いしに行こうと思っています。「肉と日本酒」のカルチャーのきっかけを作った女性とはどんな人で、今どういった想いで日本酒造りに携わっているのでしょうか。
このライター活動をさせていただいてから半年くらいが経つのですが、ある一定のラインを超えたスゴイ方々は個人や会社などの単位ではなく、業界全体や未来(次の世代)のことを考えるようになるという共通点を見つけました。どうしたら、もっと”みんな”が良くなるのか?どうしたらもっと”みんな”の未来が明るくなるのか?と。
僕自身はスゴイ人間でもなんでもないですが、ただの日本酒好きのサラリーマンでもこうしたライター活動を通して、微力ながらスゴイ人たちの素敵な未来に協力できることがあるんだなと実感しています。
僕のような普通の人間でも大好きな日本酒の未来をほんの少しずつでも良くしていける、未来に向かってなにかできることがあるというのは楽しいですね。みなさんも森田さんがおっしゃった第一歩として、酒屋に行って、自分で日本酒を買ってみませんか?