ライター紹介
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皆本類
- 昭和生まれの90年代育ち、出版社勤務を経てフリーのライターに。広告案件や企業のオウンドメディアを中心に女性向けコンテンツ作成を担当するほか、紙媒体含めニュートラルに節操なく仕事しているキャリアウーマンです。
好きなものは「ピンク色、木漏れ日、菊地成孔」。こんにちは、フリーランスライター皆本です。
気楽に生きているようですが、これでも自分の足で生きる個人事業主。小さなことから大きなことまで、毎日が選択の連続です。そうすると、本当にお節介なことに気になり出すのが「人の主体性」の有る、無し。
「食べたいものある?」といった問いかけに、「何でもいい」なんて答えられた日には、自分との温度差を感じて切ない限りです。そして、そのジャッジは、特に同世代の30代男性に強まる傾向があると自覚していますが、アッと驚くような主体性の持ち主には、なかなかお会いできておりません!
そんな折、Retty編集部から「元・外務省官僚で、今は北海道天塩町の副町長として、地域活性に取り組む男性を取材してほしい」とのご依頼が。なんでもその男性は、ロシアとの間で北方領土交渉を担ったりした外交官時代、首相官邸で国際広報戦略に関わった官僚時代を経て、2016年に自ら志願して人口約3000人の北海道・天塩町副町長に着任されたのだとか。
異色の経歴の持ち主ですが、ご年齢も36歳と私とほぼ同世代。並々ならぬ主体性の予感を感じて、お話を伺いに行くことにしました。
お話を伺う人
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齊藤啓輔(さいとうけいすけ)
- 1981年、北海道紋別市生まれ。2004年4月外務省に入省。対ロシア外交でキャリアを積んだ後、首相官邸で安倍晋三首相のスタッフとして国際広報戦略に携わる。2016年7月から地方創生人材支援制度で北海道行きを希望し、天塩町副町長に就任。
今回の取材場所は、神楽坂の閑静な住宅街に佇む「トラットリア ラ タルタルギーナ」。隠れ家的雰囲気の素敵なお店を、齊藤副町長自らご推薦いただきました。
- トラットリア ラ タルタルギーナ
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東京都 新宿区 赤城下町
イタリア料理
天塩町の活性化に取り組んでいる齊藤さんは、天塩町の食材のPRにも力を入れており、その成果は銀座「六雁」、ビブグルマン掲載の「ソラノイロ」、老舗イタリアン「エリオ ロカンダ」、人気店「カブト」など東京の名だたる名店とのコラボーレションを次々と実現されているそう。
そして、今回の「トラットリア ラ タルタルギーナ」もその一つ。今日は、天塩町の自慢の食材を使ったイタリアンをいただきながら、インタビューすることに!
「2度と北海道には戻るまい」と思っていた
初めまして、本日はよろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
早速ですが、現在は北海道の天塩町の副町長をされている齊藤さんですが、もともと北海道のご出身だそうですね?
北海道の紋別出身です。小・中学校は全校生徒で10人ほどの小さな田舎町で、どこか閉塞感を感じて育ちました。高校ではもう別の町へ出て、大学進学に伴い上京したときも「2度と北海道には戻ってくるまい」という思いでしたね。将来は国に関わる、デカい仕事がしたいと考えていたので、地元からできる限り離れたところに行きたいという気持ちがありました。
その2度と戻るまいと思った北海道で今活躍なさっているわけですが、どういう経緯があったんですか?
大学卒業後、外務省に入った際、北海道出身だから 寒さに強いだろうという理由で、日露関係における北方領土問題を担当することになったんです(笑)。多いときで2週間に1度は北海道へ出張するという日々になりました。
2度と帰るまいって思っていた場所に、2週間に1度…。思いがけない展開ってあるものですね。
えぇ(笑)。でも、子どもの頃とは違って経験値が増した目でみる北海道は、とても魅力的でした。
大人になって見た地元の北海道は違って見えたわけですね。
はい。風景もそうですし、食べ物もそうだし、儲かる要素がたくさんあると思ったんです。そこで、この資産を自分たちでもっと売り込んでいったらどうですか、と北海道の行政関係者に伝えました。そこで言われたのが、「本州と競争条件を合わせてくれないと戦えない」という言葉。つまり、道路や空港などのインフラを整備してくれないと、自分達では何も出来ないというのです。でも、世界的に見たら、日本のインフラはどこも比較的に整っています。それは言い訳に過ぎません。
公共事業に依存しようとしても、今の日本にそこまでお金もありませんよね。
将来的にも、人口減少の問題が待ち構えていて、国の税収は減る可能性が高いです。だから、国を頼るのでなく、地方が自らやっていくようにならないと。一方、内閣官房で「地方創生」に関する施策にも関わりながら、東京から一方的に「地方創生」と言っているだけでは、状況は変わらないとも感じていました。だったら「自分が地方創生のモデルケースをつくろう」と、去年の7月から天塩町の副町長になったというのが今回の経緯です。「地方創生人材制度」という、国家公務員や研究者、民間企業などの人が地方の町に派遣される制度を利用しました。
「衝撃に備えつつ、未来に向けて投資をする」
主体性の塊ですね…! 現在、副町長としては、どんな課題に取り組まれているのでしょうか?
天塩町の人口は、現在約3000人。今後も人口減少と、それに伴う産業衰退、税収減が予測されます。まさに、危機的状況と言っていいでしょう。そこで、「衝撃に備えつつ、未来に向けて投資をする」というコンセプトで政策を進めることにしました。天塩町に赴任してから、最初の半年間だけで、立ち上げたプロジェクトは10本以上にもなります。
今日ご案内いただく天塩町の食材活用もその一環なのでしょうか?
はい、「天塩國(てしおのくに)眠れる食資源活用プロジェクト」です。地元の人は当たり前過ぎてその価値に気づかない、“眠れる食材”って、どの地方にもきっとありますよね。例えば、天塩町ではアンコウがたくさん捕れるんですが、あん肝のところだけ取り出してあとは捨てられる場合もあったりするんですよ。
もったいない……。アンコウといえば、高級魚ですよね。
天塩町にたくさんあるそれらの資源を、首都圏や海外のスペシャリストたちと引き合わせるプロジェクトを実施することにしました。去年東京で行ったプロジェクトのお披露目会には、山本幸三地方創生担当大臣や俳優の岸谷五朗さんなど、各界を代表する方々が多く来てくださって、天塩町の食材のポテンシャルを体感してくださいました。
良質な食材を、プロの最高の調理法で
さすがのご人脈、豪華ですねぇ。……あれ、なんだかすごいものが運ばれてきました。ものすごくいい薫り!
天塩町で獲れたアンコウを南イタリア風にローストしていただきました。
おいしそう!
これが先ほどお話したアンコウです。先日のお披露目会には、こちらのシェフの濱崎さんも来てくださったんです。南イタリアで修行されているので、お魚の扱いがとても巧みなんです。さぁ、温かいうちに召し上がってください。
北海道といえば、魚介ですよね。有り難くいただきます!
こんなに肉厚でぶりっとしたアンコウ食べたことがないです。お魚好きなのでアンコウ鍋なども大好きなんですが、身そのものをこんなに美味しくいただいたのは初めてです。こんな素晴らしい食材を、これまで廃棄していたなんてびっくりですよ。
アンコウは皮や肝は美味しいけれど、身は意外と淡白なイメージをお持ちの人も多いかもしれません。でも、シェフの火入れが完璧なので、身もしっかり味わい深いですね。
天塩町のアンコウは、素材が本当に素晴らしいんですよ。他のアンコウと比べて、新鮮さはもちろんですが、輸送のときの氷の詰め方なども細やかで、調理のしがいがあります。私が修行した南イタリアは、シンプルで素朴な料理が多いのが特徴なので、素材の味を最大に引き上げて提供することを考慮すると、天塩町の食材はとても魅力的です。
素材と火入れの妙ですね! お肉料理に劣らない華やかさがあります。天塩町のアンコウ、多くの方にぜひともこの料理で味わって欲しいです。
美味しいものを食べて、笑顔にならない人はいない
2品目も召し上がってみてください。天塩町の渡り蟹で作っていただいたパスタです。
渡り蟹のパスタ、普段から好きでよくいただくのですが、ソースだけでなくもっと蟹自体を堪能したいという欲望がありました。こちらは完全に理想形です。
外交官時代、要人たちとハードな交渉をたくさん行ってきましたが、美味しいものを食べて笑顔にならない人はいないと実感しました。私もできる限り美味しいものを食べたいと思って生きていますが、天塩町の寿司屋へ行くと、魚のレベルの高さにはあらためて驚かされます。
天塩町の魚介のレベルはそんなに高いんですね。外交官時代においしいものを食べてきたであろう齊藤さんがおっしゃると説得力が違いますね。
天塩町では美味しい魚介が当たり前過ぎて、現地ではそんなに価値があるとは思われていないんです。東京であればきっとかなりの評価が集まるはずです。
天塩町のホタテを使ったカルパッチョも、鮮度が一つ頭を抜いている印象です。
実はフランスのホタテの輸入量のうちほとんどが日本で、その中でもオホーツクはかなりの割合を占めます。ホタテだけでなく、世界とダイレクトに繋がれる素材が、地方には相当眠っています。その価値を認め、ブランディングしていくのが大事だと考えています。
天塩町を基盤にして、グローバルに通用するモデルケースをつくっていかれているんですね。人口減少などシビアな問題もありますが、主体性を持って行動しているリーダーがいるのだと思うと希望が湧いてきます。今日は、本当にありがとうございました!
大事だと思いつつも普段は具体的に考えることがなかった、地方創生。「美味しいものを食べて笑顔にならない人はいない」という齊藤さんの言葉通り、私たちの生活に身近な「食」から地方創生を捉えることで前向きに考えられました。
食事を通じて食べものをつくる人と食べる人がつながる、それがより楽しくより豊かな世の中を目指す一歩となるのかもしれません。
みなさんも天塩町の素晴らしい食材と出会いに、タルタルギーナさんへ行ってみてください!
- トラットリア ラ タルタルギーナ
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東京都 新宿区 赤城下町
イタリア料理