デートで男性がご飯を奢らないことは非常識?「口説きたいなら奢って欲しい」「愛情と奢ることは別問題」など、色んな意見がある恋愛におけるお金の問題。
世代や関係性によっても正解が別れるこの議論に、人気精神科医の名越康文先生と、恋愛ジャーナリストのおおしまりえさんが大激論。
でも話を深めていくと、実は「奢る」という行動の裏側には、人間の色んな感情が混ざり合っていることがわかってきます。
なぜ「奢り」「奢られ」はこんな問題になるのか
―さっそくお二人にちまたで言われる「奢り」「奢られ」について聞いていきます。そもそも今の日本ではなぜ、こんなにもデートにおいて奢られないことが、賛否両論語られるようになったのでしょう?
名越康文氏(以下、名越):1番は日本がもともと恋愛にかぎらず“察する文化” 、ということがまずは基準線としてあるのでしょうね。
たとえばアメリカではもっと率直に思ったことは口に出すでしょうし、ルールも明文化させる文化ですよね。一方の日本は、重要なことほど察することで進めようとする文化的側面があります。その代表が「お金」の話です。
デートはある意味、一緒に食事を楽しむという“契約”を男女でしているわけですから、1番重要になるお金、すなわちお会計の部分を“忖度”で進めようとして、不満が生まれるというおそれは絶えずありますね。
おおしまりえ氏(以下、おおしま):確かに日本はお金のことを細かく決めようとすると、場合によっては「あの人ははしたない!」なんて思われたりしますしね。奢り問題は忖度で解決するには無理があるんですね!
名越:お金に対してあからさまにしない粋な心を持つというのも、良い文化だとは思うんですけどね。ただ阿吽の呼吸ができるほど関係が深くない相手とのデートで、確実に自分の希望を通す(奢ってもらう)ことは、どうしても無理があると思います。
おおしま:あと奢られなかったと嘆く女性を見ていて気づいたのですが、日本には「お心付けの文化」がありますよね。
その人の判断で感謝の気持ちをお金で表す行為ですが、デートの際に奢ってもらうことを“女としてお心付けをいただいた”という風に「奢られる=自分の価値が認められた」ことと考える人も多いと思うんです。
名越:日本人は絶えずお金に心が乗ってしまうから、奢られなかったことで大きな不満が出るんですね。
日本には「お金と愛情」がワンセットの事例がいっぱい?
―先程「奢られる=自分の価値」と考える女性がいるという話がありましたが、それは恋愛以外にも当てはまるんですか?
名越:日本には、いろんな部分で当てはまると思いますよ。僕はカウンセリングを通じて遺産相続に関係した場面も多く見た経験がありますが、兄弟間で遺産を分けるとなったときって、金額に関係なくかなり酷くモメるんです。
それはお金が欲しいだけじゃなく、どの兄弟も“親の愛”を財産の配分に乗せているんですよ。「私は親の面倒をこれだけ見たんだよ!」みたいな事を言うんですけど、つまり「多く遺産をもらうこと=親からどのくらい愛されたか」をみんなが確認しようとしているんです。
無意識的にどっちが愛されたかを、お金の取り分で図ろうとするんですね。女性の奢られたいという気持ちも、こういった愛情とお金の関係にリンクしている気がしますね。
おおしま:ここでも忖度ですね(笑)。私が思ったのは、「飲み会で先輩が多く支払う」みたいな文化も、給料の差だけじゃなく、面倒見の良さというある種の愛情を金銭に変えているのかなと思いました。
―お金の話はいろいろ話題になりますが、愛情と忖度によって金額に変化が生まれるというのは、日本文化に根付いた部分があるようです。
奢ることよりも大切な金銭感覚!その見方とは
おおしま:先生にうかがいたいのですが、心理学において奢る男性と奢らない男性、それぞれに特徴などを見つけることはできるのでしょうか?
名越:残念ながら、正直個々の事例を見ないと言い切れないところはあります。
ただ男性の特徴という点では、奢る行為は幼少からの金銭感覚と深く関係していますから、あまり「奢ってくれないからこの男はナシ!」と決めつけない方がいいですね。短期的に奢ってくれたとしても、それはただ外面がいいだけかもしれませんよ。
おおしま:もっと長期的な目線で見よってことですね。では名越先生が考える、「奢る」より観察すべきポイントはどこだと思いますか?
名越:ご両親の金銭感覚がどうだったかを1番注目してほしいです。お付き合いしているなら、彼のご実家に行った際に必ずキッチンを見てほしいです。
キッチンに物がたくさんある家は、よく言えば人生を楽しむ家風、違う言い方をすると浪費家である傾向があります。逆にキッチンがきれいに片付いている家は、使う時と節制すべきところのメリハリが効いている家、まあでも堅苦しいかも知れません。
たとえば賞味期限切れの食材を捨てることに抵抗があるかとかって、生理的な部分が関係しています。こういった広い意味での金銭感覚は、キッチンに現れるんです。
おおしま:なるほど!結婚前の女性は要チェックですね。今の話を聞いて思い出したんですが、よく「理想がわからない」っていう女性には「親の年収と生活を基準に考えてみよう」って私はアドバイスするんです。
これは生活水準や住居環境などの多くは、親が与えてくれた環境が心地よいと感じている人が多いので、そこを基準にみていくと、自分の居心地のいい理想の価値観が見えてくるよってことなのですが、名越先生のキッチンの話とリンクしているように思いました。
名越:キッチンを見られなくても「どういうものにお金を使う人なのか」という部分は見たほうがいいと思いますよ。
一般的に消え物(食事や飲み会)にお金を使う人は、浪費家の傾向がありますね。かといって、消えないものでも記念品や時計、宝石などの装飾品にお金をかける人は、釣った魚に餌をやらないタイプが多いんですよ。
おおしま:女性も付き合ったら、飾られる宝石と同じってことですね。
名越:その通りです。しっかり見抜くには心理学の講義を受けてもらわないと判断は難しいですが、彼のことを注意深く見るきっかけにはなるんじゃないでしょうか。
奢ることより価値観の一致に目をむけ、自分を知ることから始める
―奢り奢られを糸口に、日本の文化や価値観など話が大きくなった今回の対談。最後に二人が考える恋愛において1番大切なこと、読者に伝えたいことを教えてください。
名越:最後は相手を尊敬できるかどうかを大切にしてみてください。年を取って髪が白くなったり太ったりしても、相手を尊敬できる部分があるということは、相性がいいってことですよ。
奢ってくれなかったことに腹を立てるときは、その行為に自分の心や価値を乗せているだけです。「この人はそういう人なんだ!」と、相手を1つの傾向として分類してから、愛情や魅力にもう一度向き合ってみると、「この人はケチだから」といった偏った見方にならず、相手との相性を冷静に判断できると思います。
おおしま:誰かに愛し愛されることも大事ですが、自分を愛していない人はなかなか心から幸せになることはできません。自分を愛するとは自分を知ることですから、「奢られなかった」という出来事からも、自分を振り返り、愛と自己認識を深めていってほしいと思います。
お話を聞いた人
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名越康文
- 1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。新刊本『SOLO TIME 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』が好評発売中。 ・購入はこちらから → https://www.amazon.co.jp/dp/4906790259/