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蒙古タンメン中本に人生を捧げた男は語る「中本は登山だ。登るたびに楽しさが違う」

1980年代に誕生した激辛ブーム。1986年には「激辛」が新語・流行語大賞を受賞し、グルメ界に新たな旋風を巻き起こしたこの潮流は、様々な食のジャンルに波及しながら、激辛マニアを多く生み出してきた。

特に昨今は、2012年にはじまった「激辛グルメ日本一決定戦 KARA-1グランプリ」や「激辛グルメ祭り」(第1回は2013年)など、激辛グルメに関するイベントも盛んに行われ、第二次激辛ブームとも言われる流れがきている。

そのブームを大きく盛り上げたのがラーメン界だ。かつては見られなかったような「辛さ」を売りにしたラーメンは、現在はどの店のメニューにも必ず1つはあると言うほど、当たり前の存在になっている。その数ある激辛ラーメンの中でも、必ず挙げられるのが「蒙古タンメン中本」だ。
 

激辛ラーメンではない。ただ、純粋に旨いラーメンだ――
 

そう語るのは、同店のファンサイト「蒙古タンメン中本の道」の運営者・づけとご氏。

週6以上中本に通うという同氏のサイトは、中本愛好家の間では知らない人はいないほど。今回、同氏に中本の魅力、そして初心者にも優しい中本の楽しみ方を教えていただいた。

紹介してくれる人

づけとご
づけとご
蒙古タンメン中本のファンサイト「蒙古タンメン中本の道」運営者。同店に通うため、サラリーマンでは時間が自由にならないと、脱サラして起業。現在は、週6以上同店に通い、毎月全21店舗を訪れ、年間400杯以上食べる。

「蒙古タンメン中本」は“中本愛”から生まれた

「蒙古タンメン中本」は、1968年に東京・板橋区に中本正氏が創業した「中国料理中本」を前身に持つラーメン店。

先代は、いわゆる町中華の料理店であったが、その中でも人気だったのが、辛いラーメンである「蒙古タンメン」だった。

評判が、さらなる評判を呼び、人気店となった「中国料理中本」だが、中本氏の健康上の理由から1998年12月28日に惜しまれつつ閉店を迎える。

閉店後は、様々な人間がその味を再現したいとアプローチをしてきたが、ことごとく断っていたそう。その中でも熱心にアプローチをしつづけ、唯一中本氏に"中本愛"を認められ、その味を受け継いだのが、「蒙古タンメン中本」の白根誠社長なのだ。

▲白根誠社長

▲白根誠社長

2000年2月10日、先代の味を受け継ぎ、人気メニューの名を冠した「蒙古タンメン中本」(以下、中本)が同じく、東京都板橋区にオープンする。当時のことを、づけとご氏は「一生忘れることのできない、大切な記念日ですよ」と笑顔で語った。

初めて食べた時は、分からなかった“旨さ”

――はじめて蒙古タンメンに出会われたのは、いつですか?

づけとご氏:今から29年前のことですね。元々ラーメンオタクだったんです。それで、ラーヲタ仲間から上板橋に“辛くて旨いラーメン”があると聞いて、食べに行ったんですね。

――そこから、激ハマりしたと。

それが、そうじゃないんです。実は、最初は「これは辛すぎて食べられない……」と、美味しいよりも先に“辛さ”に拒絶反応が出てしまい、半分も食べられなかったんです。

ところが、どんどんお店に人がやってくる。この魅力は何だろうか?と、ラーメンマニアの心がくすぐられて、1週間後にもう一度行ってみたんですね。そうしたら「あれ?そんなに辛くない……!」となって、旨さを感じはじめたんですね。

――たまたま、初回が辛かったということですか?

もしかしたら作り方間違えたの?とか自分も思いましたが、そうじゃないんです。これは、中本の“初心者あるある”なのですが、最初に食べた時は、あまりに辛くて、その記憶が次に食べるまでの間に増幅されていくんですね。

そのため、2回目に食べにいくと「辛さ」のイメージがあまりに大きくなりすぎて、実際に食べて感じる辛さが、そうでもなくなっていくんです。

――つまり、中本は2回目以降からが旨さに気づくということですね。

だからこそ1回しか行ったことなくて「辛いからな……」と拒絶している人は、ぜひ2回目に挑戦してほしいです。自分も、3回、4回、5回と行くうちに辛さよりも、辛さの奥に潜んでいた「旨さ」に気づいていった感じです。なので、本当に旨いとハマったのは10回目くらいだと思います。「あ、こりゃ旨いなー!」って。

――ラーメンオタクだったのに10回も通ってしまったというのは、すでにその前にハマっていたんでしょうね。

そうだと思います。中本の辛さを、辛いと感じなくなった瞬間に、舌を通じて旨さだけが全身に染み渡るんです。その時には、既に“中本好き”として道を歩まざるをえない身体になっていると思います。自分が実際に、気づいたら中本以外のラーメンを食べなくなってしまったほどですから。

自分は、あまりに好きすぎて、中本をいつでも食べられるようにと、脱サラして起業しました。今では、こうして中本グッズを身にまとって仕事していますよ。

――スカジャン、気になってたんです! 普段からこの格好で居てらっしゃるんですね!

これは、お店で食事をするともらえるスタンプカードを集めてもらえるものです。寝る時は中本のTシャツですし、グッズで身の回りを固めていますね。ちなみに今日履いているGパンは、白根社長から頂いた非売品です。

――おお!これは貴重ですね。非売品ということは、持っているのは中本の従業員の方ぐらいということですか?

いえ、従業員も持ってないと思います。これまで何枚かいただきましたが、このタイプは社長以外では自分だけしか持っていないでしょうね。創業時から通いつめて、徐々に社長から「よく来てるな!」と認識されて、ようやく中本好きと認めてもらったお古なので。言うならば、勲章みたいなものです。何せ、21店舗全部を毎月くまなく回っていますからね(笑)

――毎月全店を回っていると! それは、脱サラしないと無理ですね(笑)

そうなんですよ。中本に出会って、人生が変わりました。

中本道は「登山」に通じる

――づけとごさんのような中本の愛好家は、ラーメン二郎・愛好家の“ジロリアン”みたいな感じの呼び名はありますか?

一部では“モンゴリアン”なんて呼ぶ人もいるようですが、僕らは「中本好き」「中本マニア」ぐらいしか言わないですね。

――中本好きの人の多くは、辛さを追求している感じなんですかね?

それが、そうじゃないんです。もちろん、辛さを追求する人もいますが、僕らは単に“旨いから食べている”だけであって、辛いから食べているわけではないんですね。

実際に、中本好きの中には、辛くないメニューを毎回注文する人もいますし、「辛いのを食べないのはバカだ」みたいに言う人がいれば、「まだまだだな……」と思うほどです。

――それでは、初心者が食べるのにオススメなのは、どのメニューでしょうか?

そうですね、まずは看板メニューでもある「蒙古タンメン」からが良いと思います。

辛さの目安が10段階あり、「蒙古タンメン」の辛さは4です。他には、辛さ9の「北極ラーメン」、最も辛い辛さ10の「冷し味噌ラーメン」など、辛さを選べるのが特徴です。

初心者が、最初から辛いのを食べると、“ただ辛い”だけになってしまいがちです。それでは、中本を楽しめない。言うならば富士山の登山のようで、いきなりヘリコプターで頂上に行くのではなく、駐車場のある5合目辺りからはじめて、徐々に山を登っていくのが、良いと思います。

――「蒙古タンメン」からはじめて、頂上である「冷し味噌ラーメン」まで極めていくと。

いや、それが頂上から見下ろしてみると、蒙古タンメンの下にも辛さ0の「塩タンメン」や「醤油タンメン」があることに気づくんです。

そこからがさらに登山の楽しみで、麓まで下りてみて、辛さ0を味わい、さらに「蒙古丼」のようなご飯メニューにも手を伸ばして、再び5合目の「蒙古タンメン」に戻ってくる。

――それが中本を極めるということなんですね。

極めるとは違うかもですね。まさに登山と一緒で、“頂上“も“麓”も楽しんだ後、四季によって移り変わる山の景色を楽しむように、何度も登りたくなるんです。

つまり、極めるなんてどうでもよくなるんですよ。最初に言ったように「ただ、旨い」ですから。

――づけとごさんは、登山もお好きなんですか?

いえ、全くしませんよ(笑)

辛さに躊躇したら「別皿」がオススメ

――初心者には「蒙古タンメン」がオススメと言われましたが、どこまで辛いのかがわからずに躊躇している人もいると思うんですよね。

そういう人にオススメなのが、少しだけ値段が上がるのですが、「味噌タンメン」と、追加で「麻婆単品」(130円)を注文する方法です。

「蒙古タンメン」は、実質この2つを組み合わせたものなので、「味噌タンメン」をまず一口食べてもらい、そこに少しずつ別皿で注文した「麻婆」を加えて辛さを調整してもらうと良いと思います。

言うならば薬味のように麻婆単品を使っていく感じですね。ちなみに、「蒙古タンメン」で麻婆を別皿という注文はNGなので、必ず「味噌タンメン」に「麻婆単品」で注文してください。

――大丈夫だと思っていきなり「蒙古タンメン」に挑戦したけど、やっぱり辛かったという場合は、何か裏技的なものありますか?

追加で「バター」を注文してもらえると、辛さがマイルドになります。あとは卓上にある「お酢」を入れてもらっても、辛さが和らぎますね。

――自分、辛いのを食べると、汗が止まらないから、愛好家の人に怪訝な顔をされませんかね? 辛いの苦手なら来るなって感じで……。

僕らもそうですよ。だから、タオルは必須アイテムです。

――気にしなくていいんですね!

そうですよ。中本好きは、変なしきたりとかむしろ好まないです。店もすごくアットホームで、それが中本を愛してしまう理由でもあるんです。

なんだか殺伐してそうだとか思う人も結構いるんですが、実際に行ってもらったらそんなことないと分かってもらえると思います。

中本が食べたい…だったら弁当があるじゃない

――その他に、初心者が知っておいたほうが良いことはありますか?

中本好きになってしまうと、家の近くに中本がないことがツラくなります。そんな時に中本好きが活用しているのが、店舗で売られているテイクアウトのお弁当です。

――テイクアウトメニューもあるんですね!

テイクアウトなら並ばずに買うことができますから、店が混んでいる時はオススメの食べ方です。お弁当は、ご飯ものだけですが、なかでも中本好きがよく購入するのが、ごはん抜きの「麻婆単品弁当」です。

これを、小分けして冷凍保存しておくんです。食べたくなったら、ご飯などに乗せて食べる。カレーとか味噌汁とか、温かい系のメニューならなんでも合いますね。もちろん、カップラーメンとかに入れても合います。自分は使いやすいように、氷のようにキューブ状にして、細かく量を調整してストックしています。

▲凍らせた「麻婆単品弁当」

▲凍らせた「麻婆単品弁当」

づけごと氏が語る「中本とは?」

――そこまでハマらせてしまう、中本の魅力って何でしょうか?

何度も言ってしまいますが、辛いじゃなくて「旨い」んです。白根社長が、先代の味に惚れ込んで、その味を大事に守り続けている。

そして、その味に惚れ込んだ従業員が、さらに味を継承していく。カップラーメンにもなるほどの有名店ですから、工場生産してチェーン展開なんて方法もあるんでしょうけど、白根社長は味を大切に守るため、そうしないんですよ。

中本は、白根社長を頂点とした、中本好きたちが集まったお店。社長も従業員も、お客さんもみんなが中本が好き。僕ら、中本好きが一番だれが中本好きかといったら、白根社長だと口をそろえると思います。

なにせ社長に「美味しいですね」と言うと、「ありがとうございます」じゃなくて「そうだよなー!旨いよなー!」と言うほど、完全にお客さん目線になっていますから(笑)

だから、どの店に行っても味にブレがないし、かつ挑戦的な限定メニューもある。何度も言いますけど、富士山と同じです。山自体はそこに、いつも同じようにそびえ立つ。

だけど、四季によって表情が変わる。味自体はブレないけど、従業員の配置換えや、お客さんによって変わる雰囲気、豊富なメニューや、その時しか食べられない限定メニュー。登るたびに違う楽しみを与えてくれるんです。

――中本、食べたくなってきました。

自分もです。

――何度も聞きますが、登山は?

しないですね(笑)

――づけとごさんにとって「蒙古タンメン中本」とは?

「“あたりまえ”であって、“あたりまえ”じゃないもの」ですかね。おふくろが作る味噌汁って、幼い頃にはあたりまえに食べていたけど離れて暮らすと、その味噌汁が恋しくてなるじゃないですか。久しぶりに食べると「これだ、これ!」ってなる。

仮に離れることがあっても、ずっと身体が欲している。だから、家族みたいなもので、言うならば「愛」そのものなんだと思います。

 
 
 

(写真提供/蒙古タンメン中本の道)

ライター紹介

黒宮丈治
黒宮丈治
1978年生まれ、福岡県出身。30種以上の職を渡り歩いた後、フリーライター/プランナーとして活動。取材&インタビュー記事を中心に、エンタメからグルメ、ビジネスまで幅広く執筆。食べ物写真を掲載したTumblrブログ・飯写はフォロワー12万人超のフォロワーを持つ。Yelpエリート。Instagramでの食べ歩きフォトのほか、自ブログでグルメ記事も更新中。 ・Instagramはこちら
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