年々、下北沢の独自のカレー文化が発展している。
毎年「下北沢カレーフェスティバル」を開催していたり、新たなカレー店が続々とオープンしたり。
下北沢にいるサブカル指向の客層と親和性が高いことも相まって、「下北といえばカレー!」という印象は強まってきている。神保町とはまた違うベクトルで、カレーの街と呼んで差し支えないだろう。
2018年2月、そんなカレーの街・下北に、また新たなカレー店が産声を上げた。その名も「カレーショップ 涅槃(ねはん)」だ。
2017年7月に限定的に「カレー大學 銀座食堂」を営業していた店主が開いた、念願のお店である。
「涅槃」とは仏教用語で、全ての煩悩(ぼんのう)が消滅した安らぎの境地という意味がある。
生きている以上、どんなに少なく見積もっても108個はあるといわれている人間の煩悩だが、正直なところ、煩悩にまみれて生きるのは楽しい。楽しすぎてヤバい。
しかしたまに、煩悩や俗世間のすべてから離れたくて、崇高な領域に近づきたくなることがある。
それが、私たちがカレーを食べる理由である。
店先には、開店祝いのお花が飾られている。その中には松尾貴史さんからのお花も見受けられた。
それもそのはず、ここは松尾さんがオーナーを務めるカレー店「般゜若」の移転前の地なのである!
このように、カレー界隈のつながりを感じることができるのも、実際に店に足を運ぶ醍醐味だ。
また、跡地に開店したことで、「般゜若」の閉店を知らずにこの地へ訪れたお客も、「ここもカレーなら、一度食べてみよう!」と入店する、そんな良い連鎖を生むこともあるだろう(ちなみに「般゜若」は、下北沢駅寄りに移転)。
さて、今回は「涅槃スペシャル」(1,500円税込)をオーダー。食券制なので、着席前に食券を購入する必要がある。
「涅槃スペシャル」は、鶏肉を煮込んだ「チキンニハリ」、竹炭で黒く色付けした「和風黒キーマカレー」、パニール(カッテージチーズ)を使用した「トマトパニール」のなかから、2種類のカレーを選ぶことができる。
メニューを読んでいるだけでも味を想像して、どれにしようか迷ってしまうのだが、今回は「和風黒キーマカレー」「トマトパニール」をチョイスした。
さて、この鮮やかな色合いである!
「和風黒キーマカレー」は、ジューシーなひき肉がたっぷり入っており、出汁と醤油がコクを出している。この手のスパイス系カレーは、ともすると表面的な味になってしまいがちだが、醤油と出汁、そしてひき肉の豊潤な肉汁が、それをうまく補完している。
「トマトパニール」は、トマトとパニールの相乗効果がとても印象的なカレー。トマトの青臭い酸味を、パニールがカバーし、まろやかな風味になっている。
また、ライスも、ケールを使用した緑のライスと、トマトを使った赤いライスとなっている。「トマトパニール」側にケールライス、「和風黒キーマ」側にトマトライスが来るように盛り付けられており、口に運ぶ際のバランスも計算されているのだろう。
「涅槃スペシャル」は調和のカレーだ。
付け合わせも、それぞれあっさりとしながらも特徴があり、箸休めとしても、ひとつの副菜としても、カレーと混ぜても、楽しめるように作られている。
特にウズラの卵は、トマトよりも強い酸味があり、全体のメリハリをつけるのに重要なアクセントとしての働きをしている。シソとターメリックに漬けこまれたウズラの卵は、見た目や形もポップでかわいらしい。
そして、「涅槃スペシャル」を7割くらい食べたときだろうか。
店主から1枚のカードを手渡された。
「こちらスタンプカードです。3回で1回無料になるので、ぜひまたお越しください」
耳を疑った。
ドリンクや副菜が無料になるのかなと思ったがそうではなく、1回分のカレーがまるっと無料になるらしい。
太っ腹すぎないかい!? これが悟りの境地というものかっ…!?
計算つくされた、抜群のバランスのカレーが食べられる「カレーショップ涅槃」。
こんな魔法のカードをいただいてしまったからには、何度も通うことになるだろう。かつてない崇高な日々の幕開けだ。
- カレーショップ 涅槃
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東京都 世田谷区 北沢
カレー