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タモリさんが"日本でいちばん美味しい"と語る鰻屋。150年継ぎ足したタレの香りに全身がよろこぶ

酒を飲みながら、蒲焼を待つ楽しさ。心が踊るとは、まさに、この状態を言うのではないか。……匂いが何とも言えない。匂いだけでも飯が食えるというくらいだ。

池波正太郎氏が鰻について語った一説。数ある食べ物のなかでも、鰻ほど「心が躍る」という表現が似合うものも少ないでしょう。

しかし、そんな鰻をめぐる状況の先行きが怪しいようなのです……。

近年では鰻の稚魚(シラス)の漁獲高が著しく減少していると言われており、ニホンウナギの国内採捕量の減少や資源としての管理、都道府県や漁業者による取り組みを水産庁が「ウナギをめぐる状況と対策について」という資料にまとめ発表にするに至っています。

おそらくどこの鰻屋さんでも仕入れや価格の維持にご苦労されていることでしょう。そんなことを思っていた折、福岡に訪れる機会があったため、中洲で150年近く続いている老舗「吉塚うなぎ屋」を訪れ、老舗の鰻を食べつつ現状のご苦労などを伺ってきました。

なんでも、この「吉塚うなぎ屋」は芸能界の食通として知られるタモリさんが、「日本で一番好きな鰻屋」と公言しているらしく、味への期待も高まります。

西日本一の繁華街・中洲を見守る

那珂川と博多川に挟まれた中洲に「吉塚うなぎ屋」はあります。

改装で綺麗なビルになっておりますが150年続いた老舗、ずっと中洲を、博多を、福岡を見守ってきた存在。

大きな部屋は畳敷きにテーブル・椅子席が。この度通された和室はふすまで仕切られていました。ふすまの向こうからは家族連れの楽しい声が聞こえてきます。ファミリーで鰻を楽しみにしているのでしょう。

メニューが限定されたものに

お店の代表的なメニュー、うな重を頂きました。鰻の漁獲量が話題になる前は鰻の枚数を選べていたのですが、訪問時はうな重、蒲焼きなどのメニューがすべて4切れのみとなっています。

「こういう状況ですけれど、少しでも多くの方に召し上がって頂きたいので」

と女将の徳安淳子さん。心して頂きます。

先にタレが出る

吉塚うなぎ屋では、まずタレだけが入ったお皿が登場します。このお皿はちょっとしたスマートフォンと同じくらいのサイズがある大きなもの。それだけで甘辛い香りが漂ってきます…。

そもそもうな丼とかうな重を食べるときって、タレの香りで食欲がそそられるじゃないですか。タレからの香りが鼻に入ってくるだけで、すでにクラっときてしまいます。

「味付けはしていますけれど、足りないときにはお皿のタレを使ってください。さらに足りなければテーブルに据え付けのタレもどうぞ!」(女将の徳安淳子さん)

焼肉のタレだけをご飯につけて食べても美味しいと感じてしまう筆者は、このタレだけでご飯を食べたくなってしまっています。鰻を前に不謹慎ですが、衝動がとまりません。

鰻とご飯は別の器に

待つことしばし、ついにうな重が到着です。うな重という言葉どおり、ご飯の部分と鰻の部分がお重の形で出てきました。

1段目にご飯、2段目に鰻が入っていました。鰻のテリは目から食欲を刺激されます。目も鼻も鰻に魅せられて、撮影する時間がもどかしいくらいです。

それでは、頂きます。

まずは肝吸いから。塩分が控えめで出汁の旨味が十分に出ています。とてもやわらかいお汁でほっと癒される気持ちになりますね。

そして、鰻を頂きます。まずはタレもなにもつけずに、そのまま。

東京で食べる鰻とは、まず歯触りが全然違います! かりっとした歯触りの後に鰻の香りが口の中に広がってくるんです。カリッからの、ふわっ。

そして皮の脂が乗った、ねっとりとした柔らかさが最後にやってくきました。歯ざわりと味の波状攻撃が、押しては引いて、押しては引いてとやってきます。

東京の鰻は蒸した後に焼く行程があるため、食感がふわっとしたものになります。西方の鰻は焼きから入るため、かりっとした歯ざわりになるのが特徴的ですが、吉塚うなぎ屋の鰻も、かりっとした歯ざわりを楽しめました。

女将の徳安さんが、焼き方の秘訣を教えてくださいました。

「鰻をくねらせ、揉み、たたきながら焼く『こなし』という手法を使っています。創業以来ずっとこのやり方でやっているんですよ」

まさに伝統の製法、伝統の味ですね。

タレとご飯のバランスが楽しい

鰻だけを味わった後に、鰻をご飯に乗せて食べてみます。こうして食べると、最初からご飯に乗っているうな重との違いがよくわかりました。ご飯の歯ごたえがあるんです。

鰻にタレをかけると、全体の柔らかさが増し、タレの旨味が増します。鰻のカリッとした歯ざわりを追うように、とろりとしたタレが口の中に広がっていきます。

このタレが絶妙に美味しいんです。単なる甘辛ではない、何か脂の乗りのようなものを感じます。ええ、なんでだろうと思っていたら、女将が教えてくれました。

「鰻を焼く際にタレをかけますけれど、タレの瓶の上に焼いた鰻の串を渡して、その上にタレをかけるんです。そうすると、香ばしく焼いた鰻の脂が瓶の中へポタポタと落ちていく。

継ぎ足して使っているタレには毎回毎回、新しい鰻の脂が入っていきます。これを150年近く繰り返しているので、もしかしたら150年前のタレが1滴分くらいは入っているかもしれませんね(笑)」

単なる味だけではない、歴史の重みが詰まっているタレだったとは。味に急に重みが増してきました。

ご飯とタレだけで食べても美味しい、そこに山椒をかけても美味しい。鰻・ご飯・タレ・山椒をどのように組み合わせても満足する味わいを全身で感じ取ることができました。

長く地域の人に食べて頂きたいと願う

お店にはお年寄りから、小さな子どもまで年齢層は実に様々。

「いろいろなお客様に支えられて今があります。地元の方の団欒の場として、使ってもらえると嬉しいです」

と女将。福岡出身のタモリさんも年に2〜3回は同窓生と食事にいらっしゃるそうで、福岡人にとってひとつの集いの場ともなっているようです。

そして、これからの若い世代にも鰻を食べてもらおうと、12月18日には「吉塚うなぎ屋こどもの日」としてお子様連れのお客様に、子供向けの半額メニューを提供しているのだとか。(12月18日は江戸時代に鰻を人気食品化させた平賀源内の誕生日)

「これから先のお客様となるであろうお子様に召し上がっていただきたいんです」

人気が出ても地域のお客様を大切にする姿勢、有名店となっても決して驕らず、丁寧な接客態度で気持ちの良い一時を過ごせました。

今年はどうなるでしょうか。鰻の漁獲量が厳しい状態にあるのは事実です。需給バランスを取っていただき、150年続いたタレが途絶えないようにと願ってやみません。

ライター紹介

奥野大児
奥野大児
ブロガー・フリーライター。250人ほどが集まる日本最大級のブロガーイベント「ブロガーズフェスティバル」の実行委員長。ライティングはIoTやクラウドサービスの関連記事から食レポ・階段まで様々。趣味は愛好歴35年にもなる将棋でアマ三段。特技は初めていった居酒屋さんで常連のような扱いを受けること。
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