一過性のブームに留まらない、ここ最近の日本酒人気。若い飲み手や女性ファンも増え、日本酒イベントや飲み放題店には多くの人が殺到しています。
間口は広くなったものの、「日本酒って難しそう」と思っている人はまだまだ多いはず。その要素の一つとして、日本酒の特徴である“温度によって味わいが変わる”という点が挙げられるのではないでしょうか。
飲み慣れてきたという人も、お酒の種類や合わせる料理によって適した温度がわかれば、日本酒のことをもっと深く理解し、楽しめるようになるはずです。
今回は、日本酒の温度にこだわる「ぬる燗佐藤 六本木店」で、日本酒のおいしい温度と絶品料理とのペアリングを学んできました。
銘柄は120種類以上! 日本酒好きの大人たちが集まる上質な空間
訪れたのは、日本酒ダイニング「ぬる燗佐藤 六本木店」。老舗の懐石料理店を思わせるような落ち着いた店構えです。
暖簾をくぐった先にあるのはゆったりとしたカウンター、そしてずらりと並ぶ日本酒の数々。日本酒専門店ならではの品揃えで、全国47都道府県から120種類以上の銘柄が揃っているといいます。
そして、もっとも特徴的なのが日本酒の“温度”にこだわっている点。日本酒の温度というと、一般的に知られているのは「冷酒」「ぬる燗」「熱燗」といった表現ですが、実は5℃刻みで11段階にも分かれています。「ぬる燗佐藤」では、その11段階の中から、それぞれのお酒に最適な温度で提供してくれます。
一番おいしいのはぬる燗? 気になる日本酒と温度の関係
今回、日本酒と料理のペアリングを提案してくれたのは、店長の金子陽樹さん。温度によって味わいが変わる日本酒は、料理とどのように合わせると良いのでしょうか?
「基本的には、お酒の温度と料理の温度を合わせることです。冷たいお酒には冷たい料理、温かいお酒には温かい料理。それから、キレのあるお酒にはサッパリした料理、コクのあるお酒にはこってりした料理など、料理の味付けに合わせるというのもいいですね」(金子さん。以下同)
11段階の温度の中でも、店名に掲げている「ぬる燗(40℃)」にはどのような特徴があるのでしょうか?
「日本酒に含まれる、うまみ成分のアミノ酸。これが多く出るのがぬる燗と言われていて、一番うまみを感じる温度だということは科学的にも証明されています。とはいえ、お酒によっておいしく飲める温度というのは変わりますし、お客様の好みもそれぞれ違いますので、冷酒や熱燗でお出しすることももちろんありますよ」
120種以上ものお酒に対し、それぞれおいしい温度を把握して提供できているということは「利き酒師」や「酒匠(さかしょう)」などの資格を持った目利きのスタッフがいるのでは? と思いきや、「酒を選んでいるのはごく普通のスタッフ。資格を持っていたとしても、あえてその人に選ばせることはしないと思います」と、金子さんは言います。
「利き酒師など資格を持っている人が選ぶと、どうしても専門的なセレクトに偏りがちになると思うんです。できるだけそうならないように、初めて日本酒を飲むような人から玄人さんまで、幅広く楽しめるものを揃えています。プロの目というより、お酒好きとしての目で選んでいますね」
鯛の刺身には甘みの少ない冷酒を
ここからは、金子さんに選んでもらった温度別の日本酒と、それぞれのお酒に合う料理の組み合わせを紹介していきましょう。
まずは、冷酒(「花冷え」・10℃)。合わせたのは「タイのお刺身」(時価)です。
「一般的に、冷酒に向いているのは甘いお酒。冷やすと適度に酸が出て、味のバランスが良くなります。ですが、お刺身に合わせるときはあえて甘みの少ないもの、とがっているものがいいですね。酒米でいえば『美山錦』や『五百万石』を使ったお酒がおすすめです。お刺身に醤油ではなく塩をつけて食べると、一層日本酒の味が引き立ちます」
いただいたお酒は「乾風(あなぜ)吟醸」(京都)。冷やすことですっきりとした味わいになるのが特徴のお酒です。
淡白な鯛のお刺身の食感を楽しんでから、爽やかな吟醸酒を一口。舌の上で絶妙に混ざり合い、吟醸の香りが鼻からスッと抜けていく感覚を楽しむことができます。
常温のお酒とクリームチーズは相性抜群!
続いて、常温(20℃)のお酒に合わせるのは「いぶりがっことクリームチーズ」(600円)。
イタリアンパセリと香草を混ぜた手作りのクリームチーズに、酒かすに漬けた漬物・いぶりがっこを合わせた、お酒好きにはたまらない一品です。
「常温で飲むなら『山田錦』を使ったお酒がおすすめです。甘みが強い山田錦は、酸が少ないのでどの温度帯でも合わせやすく、常温で飲んでも口の中に残る感じがしません。クリームチーズなど、濃厚な味わいを日本酒の香りと一緒に楽しむ、というのが鉄板です」
セレクトしてくれたのは、山田錦を使った「旭菊(あさひぎく)綾花 特別純米 瓶囲い」(福岡)。
「瓶囲い」とは、一升瓶で保管・保存される日本酒のこと。タンクに貯蔵するよりも温度管理がしやすく、品質が安定するという特徴があります。
クラッカーの上にいぶりがっこ、その上からクリームチーズをたっぷり。
チーズの濃厚さ、いぶりがっこのポリポリとした食感が楽しく、クセになる味です。やさしいうまみのお酒が、口の中に残るチーズのもったりとした後味を和らげてくれます。
ぬる燗と合わせる、贅沢カニクリームコロッケ
お店一番のおすすめ温度・ぬる燗に合わせるのは「ずわい蟹クリームコロッケ」(1,200円・税込)。
「人肌よりやや熱いと感じるぐらいまで温めることで、日本酒特有の酸が和らぎ、クセのあるお酒でも飲みやすくなります。こちらは最初にお話しした、温かい料理に温かいお酒を合わせた例です。クリームを使った料理と重めの日本酒は合わせやすくておすすめです」
ずわい蟹の風味豊かなホワイトソース、その上に乗ったパン粉がカリッと揚がっていて、ソースのとろ~りとした食感とのギャップを楽しめます。
ぬる燗でいただいた日本酒は2種類。「作 穂乃智(ざく ほのとも)純米吟醸」(三重県)は、ぬる燗にすることで米のうまみがしっかり感じられ、ホワイトソースのクリーミーさに負けない味わいです。
もう一つ、女性杜氏が醸(かも)した「ゆり 純米吟醸」(福島県)は、やさしい甘みを感じる女性らしいお酒。その甘さがコロッケの味を邪魔することなく、舌の上で見事に調和させてくれました。
熱燗には揚げたて熱々の天ぷらを
最後は熱燗(50℃)。旬の食材を使った「天ぷら盛り合わせ」(時価)と一緒にいただきます。
「すっきり系の熱燗ではなく、山廃(やまはい)や生酛(きもと)などクセのあるお酒と天ぷらはよく合います。特に、店の水槽から水揚げした新鮮な海老の香りは、日本酒に含まれる酸と非常に相性がいいですね」
合わせたお酒は「三井の寿(みいのことぶき)美田 山廃純米」(福岡)。山廃独特のどっしりした口当たりが、温めて飲むことでよりふくよかな味わいに。
ぷりぷりの海老、カラッと揚がった衣、まろやかなピンクソルトとの相性もぴったりです。
気分や好みに合わせてお気に入りの日本酒を探してみよう
さまざまな組み合わせを紹介してくれた金子さん。日本酒は「これが絶対おいしいですよ!」と言い切れるものではなく、「こちらから提案したものを参考にしていただきつつ、ご自分の好みで選んでもらえれば」と話します。
「好みが自分でもわからないという方には、『飲み比べセット』(1200円~)がおすすめです。蔵元別や地方別、純米酒だけ、吟醸酒だけ、など、いろんな組み合わせを少しずつの量で楽しめます。自分の舌が何に刺激を感じているのか、酸味なのか、アルコール度数なのか、香りなのかというのをまずは感じていただいて、そこから自分好みのお酒を見つけていく楽しみ方が広がっていけばいいなと思います」
温度によって、種類によって、多種多様な味わいを楽しむことができる日本酒。
知れば知るほど奥深い世界ですが、初心者の方はまず気になるお酒を数種類選んでみて、「自分はこういう味が好みかも」というポイントを見つけるところから始めてみてはいかがでしょうか。
芳賀取材後記
私も日本酒が好きでよく飲みますが、温度についてはざっくりと「夏は冷酒!冬は熱燗!」ぐらいの意識しかしていませんでした。お酒の種類や合わせる料理によって適切な温度で味わえば、もっとおいしい日本酒体験ができるのかも。個人的にもとても勉強になる取材でした。
ライター紹介
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芳賀直美
- フリーライター/編集者。神奈川県出身。WEB制作会社、編集プロダクションを経て2016年に独立。カルチャー、美容、グルメなど、ジャンル問わず執筆中。パンダとお酒が好きです。
- ぬる燗 佐藤
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