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なぜ漁港の食堂に100人が行列!? 湘南の地元民が愛する「最先端の漁港食堂」とは

こんにちは、釣りアンバサダー中川めぐみです。

この連載では「釣り」「美味しい魚」を切り口に、日本各地の魅力的な人やお店をご紹介します。

ライター紹介

中川めぐみ
中川めぐみ
GREE・電通で新規事業の立ち上げ、ビズリーチで広報などに関わる。その間に趣味としてはじめた釣りの魅力に取り付かれ、昨年12月に退職し「釣り × 地域活性」事業で独立。釣りを通して日本全国の食、景観、文化などの魅力を発見・発信することを目指して、2018年は100地域での釣り旅を計画している。

今回ご紹介するのは神奈川県・平塚にある漁港からすぐ。

休日にはランチだけで250人が押し寄せる、「平塚漁港の食堂」です。

平塚の釣り船に乗った帰り、友人に「めちゃくちゃ美味しい魚を出してくれるお店があるから寄って行こう」と誘われたのが最初。

訪れるたびに満席で、週末は行列必至。

なぜこんなに人気なのか? その秘密を探るため、実際にお店の料理をいただきながら、代表の常盤嘉三郎さんにインタビューさせていただきました。

すると、思ってもみなかった常盤さんの熱い想いと“他にはない工夫・努力の数々”が…!

最先端の漁港食堂の挑戦、あなたも知りたくないですか?

ランチだけで250人が押し寄せる人気の食堂

平塚駅から向かう場合はバスで10分。平塚漁港(新港)から向かうなら徒歩10分。

交通の便がよいとは正直言えない場所に、いきなり現れる白い建物。

それが「平塚漁港の食堂」です。

訪問したのは平日の月曜だったため、周囲にあまりひとけはなし。
それなのにこの食堂の前だけは、絶えず人が行き交います

扉を開けると満席なのは当たり前。
待ち合い所にもずらっと列ができていました。

店内を見渡すと「漁港の食堂」というイメージは全くありません。

吹き抜けになった開放的な空間には柱やライトがオシャレに配置されており、どちらかというと「カフェ」といった雰囲気

そのためか客層を見ると、家族連れやカップル、女性だけのグループがほとんどでした。

キッチンスペースもオープンで清潔感があります。

カウンターの内側では男性が手際良く魚をさばいていく様子が見られます。

席につくとメニューが。

どのお料理も魅力的で迷ったため、注文をとりにきてくれたお母さんに相談して、お勧めの「おまかせ刺盛膳」をオーダー。

追加でお隣さんが美味しい〜と食べている「アジフライ」を。

新鮮・絶品のお膳に舌鼓

少し待つとお膳とアジフライが出てきました。

作り置き感がなく、お刺身はふっくらツヤツヤ。揚げ物は熱々です。

この華やかさ、このボリュームで「おまかせ刺盛膳」は1,580円

お刺身だけでこのサイズ。

内容は上から時計回りに、
・赤サバ
・イシモチ
・ホウボウ
・タチウオ
・真鯛

赤サバ? ホウボウ?
聞き慣れない魚の名前に、どんな味か興味津々。

さっそく赤サバからいただきます。

パクリとひと口。

おお!

サバということで臭みがあるかと思ったら、むしろサッパリしています。

軽く炙られた皮目が香ばしく、身は新鮮なカツオのような味わい
お醤油でシンプルにいただくのはもちろん、漬けにしても美味しそうです。

次はイシモチ。

こちらも炙り目が香ばしく、身はクセのない上品な味わいです。
ぷりっとした身は適度に脂ものっており、噛むごとにじわっと甘みが広がります。

そしてホウボウ。

こちらは弾力がすごく、モチモチぷりぷり
甘みが強いのに爽やかで、いくらでも食べられそう。

お刺身だけでもすごい満足感。
白飯もどんどん進みます。(ちなみに大盛りは無料)

続いて揚げ物。

アジフライは、身はほくほくとやわらかく、脂がたっぷりのっています。下味として身には塩味が足されているようで、アジ本来の甘み・旨味が引き立てられています。

何も付けなくてもじゅうぶんな味わいですが、味変として皿に添えられた、さっぱりタルタルソースをつけても、また絶品でした。

続いて「おまかせ刺盛膳」のセットになっている、サワラのフライ。

旨味が強く、アジフライと同様に適度に効いた塩味が、その味わいを引き立たせます。厚みがすごく、ボリューム満点の一品。

最後はサバのフライ。

こちらもドン! とボリュームたっぷり。
お箸で持つと重いくらいです。

臭みがなく、ほっこり優しい味わい。
ソースが添えてありますが、使わなくてじゅうぶん美味しいです。

完食してお腹いっぱい。

それにしても、この量、この味、この華やかさ
赤サバやホウボウなど変わった魚もいただけて、満足度がすごいです。

これは平日でもお客さんでいっぱいなのが頷ける。

こだわりを詰め込んだ人気店。代表の常盤さんに、お店の成り立ちからインタビューさせていただきました。

挑戦のはじまりは、消えた“昔の当たり前”

左:代表取締役の常盤嘉三郎さん、右:料理長は35歳の若さ

左:代表取締役の常盤嘉三郎さん、右:料理長は35歳の若さ

代表取締役の常盤嘉三郎さんは藤沢市のご出身。
地元の美味しい魚を食べられるのが当たり前の環境で、幼少期を過ごしました。

進学や就職で地元を離れることもありましたが8年ほど前に、地元である湘南地域の平塚で飲食店を開くことを決めます。

業態は美味しい魚が食べられるバールに決定し、さっそく新鮮な地の魚を仕入れようと町に出た常盤さん。

そこで驚きの事実を目の当たりにします。

「地元の魚が、どこにもない」

町を見て回っても、地魚料理を提供する店はおろか、販売しているお店さえ見当たりません。

壁に飾られた漁の風景

壁に飾られた漁の風景

平塚は古くから漁が盛んで、国内でも有数の水産資源に恵まれた漁場をもちます。
港は10年ほど前に新たに建て替えられ、市場も大きくなりました。

それなのに、市場に並ぶのは別の地域や海外から取り寄せられた魚ばかり。

疑問に思った常盤さんは、漁業関係者へのヒアリングを開始します。

消えた魚の行き先は

平塚漁港の魚や釣り船がデザインされた壁

平塚漁港の魚や釣り船がデザインされた壁

ヒアリングから見えてきたのは、流通の変化による漁師さんの販売事情

平塚の周りには小田原や横浜など、大きな観光地・都市がいくつもあります。

そうした場所には高級な飲食店やホテル・旅館が多くあり、他より良い食材を集めようと仕入れに力を入れています。

だから観光地や都市の市場の競りでは価格がどんどん吊り上がっていき、生産者は高値で商品を買ってもらうことができるのです。

昔は地元(平塚)で魚を販売していた漁師さんも、新鮮なまま魚を運べる流通技術が発達したことで、徐々に高値で買ってくれる観光地や都市へ魚を卸していくように。

気がつくと地域から地元の魚が消え、漁港があることすら知らない住民が多数という状況になってしまったのです。

本当は地元に美味しい魚がたくさんあるのに、その美味しさを知っているのは地元以外の人ばかり

常盤さんは、この状況に危機感を覚えます。

漁港と地元の媒体になりたい

筆者が先日釣った、平塚の美味しい魚たち

筆者が先日釣った、平塚の美味しい魚たち

なんとか地元の人たちに「平塚の魚はこんなに美味しい!」ということを知ってほしい。そのためには、自分が漁港と地元の人の媒体になりたい。

そこでまずは、地元の魚を扱えるようにならなくては…

常盤さんは自ら平塚漁港へ通い、漁師さんたちと交渉しました。

その結果、「他の地域へ卸す価格と同じであれば、優先的に販売しても良い」という条件に。たしかに、地元=安く販売する…では商売になりません

常盤さんもそれを理解しているので、今まで価格交渉はしたことが無いそうです。

その代わり、常盤さんには漁師さんたちと話す中で思いついた秘策がありました。

規格外や知名度の低い魚を武器に

平塚漁港では定置網を使った漁が多く、人気のある魚はもちろん、規格外の小魚や知名度の低い魚もおのずと上がってきます。

そういった魚はタダ同然で取引され、加工品などに使用されてきたそう。常盤さんが目をつけたのは、そんな魚たちでした。

「規格外でも知名度がなくても、平塚の魚はどれも美味しい」

それを知っている常盤さんは、人気のある高級魚と一緒に、他では価値が付きにくい魚も一緒に仕入れていきます。

他では敬遠される魚も、手間をかけ工夫をすれば立派な一品になるのです。

市場価値の低い小さなサバやタチウオで作った棒寿司

市場価値の低い小さなサバやタチウオで作った棒寿司

知名度のある高級魚だけで勝負すると、せっかく地元なのに、観光地や都市と同じ高値で提供することになってしまう。

でも、美味しいのに安い“低利用の魚”をうまく混ぜ込めば、トータルでお手頃&満足度の高い料理を提供することができる

これが常盤さんの出した答えです。

メニューはいつも当日まで未確定

こうして聞くと、「確かに! 高い魚と安い魚を混ぜればバランスとれるよね」と単純な答えに感じるかもしれません。

でも、それを実践するには苦労の連続が…。

“低利用”や“大漁に獲れすぎた”など安値で取引される魚は、当日まで何がどれだけ獲れるか全く予想できません

よって事前に予約をすることは不可能。

毎朝、漁師さんが漁から戻って来る時間には港へ出向き、他の市場へ魚が割り振られる前に瞬間的に何をどれだけ買うか判断しなくてはいけません。

だから、お店のメニューはいつも当日まで未確定

あがってきた魚を見て、その場で「あれを刺身に」「あれは小さいけどタタキにすれば使える」「ミンチのコロッケにすれば美味しいかも?」とメニューを決めていきます。

お客さんが何人来るかもわからないなか、高級魚と低価格な魚をうまく混ぜ込んだメニューを毎日その場で考えて仕入れをするのは至難の業。

「スタートした頃は、原価率がとんでもないことになる日もありましたよ」と苦笑いする常盤さん。

この計算は本当に難しくて、今でも常盤さん自ら、毎日仕入れに行っているそうです。

料理をする側も、今日はどんな魚が入ってきて、どんな料理にしてくれといわれるか毎日見えない状況。

最初は「この魚はなんだ…」と戸惑うこともあったけれど、今では楽しんで調理されているそうです。

最近では余裕も出てきて、珍しい魚が入るとそのまま店内で展示。
常連さんに丸ごと販売して、調理するといった遊び心ある挑戦もされています。

まだ届いていない人たちがいる

こうして苦労を重ねながらも、地元の魚を安く美味しく食べられる常盤さんのバールは人気に。

地元の若い人たちが通ってくれる繁盛店となりました。

でも、常盤さんはここでまた課題を感じます。

「平塚には若者以外に、お年寄りや小さい子供のいる家族もたくさんいる。その人たちだって地元の美味しい魚を食べたいんじゃないか…」

そこで仲良くなった漁協と手を組み、2014年4月に農水省の6次産業化事業認定も受けてスタートしたのが「平塚漁港の食堂」なのです。

広々としていてベビーカーや車椅子でも大丈夫そう

広々としていてベビーカーや車椅子でも大丈夫そう

老若男女みんなが足を運びやすい店にしようと、よくある浜小屋のような作りでなく、開放感あるカフェのようなデザインに。

メニューはバールと同様、毎朝の仕入れ次第で決まりますが、ベースは老若男女が食べやすい定食が基本。

売り切れごめんの人気メニューたち

売り切れごめんの人気メニューたち

そのなかで、女性を意識して少しずつ色んなものが楽しめるDELI御膳(1780円)や、ガツンと食べたい男性向けの丼など趣向を凝らしています。

デリ御膳

デリ御膳

ひとつの「定食」といっても、仕入れによって刺身の内容も変わるため、連日通っても飽きることはなさそう。

お店の「原価調整」という事情が、そのままお客さんの「今日は何が食べられるんだろう♪」というワクワクに繋がる、素敵な仕組みです。

お店をオープンするときには駅から遠いこともあり、お客さんが入るか不安な声も聞かれたそうですが、いざオープンすると開店前から100人待ちの日もある大人気店に!

「大成功ですね」と常盤さんに言うと、意外な答えが返ってきました。

「地元の魚のことはあの食堂に聞けばいい」そんな食堂を目指して

「成功や達成を感じたことは全くありません」

常盤さんは謙遜ではなく、本当にそう思っている様子で淡々とお話しされます。

「確かにこうしてお客さんは来てくださっている。でも、まだこの食堂がオープンして4年しか経っていません。

もっと長い期間をかけて、"この食堂があって当たり前"となりたい。そして、町に溶け込みブレないファンがついてくれたとき、もしかしたら、それがひとつの達成かもしれません。

それに、この食堂は漁港と地元の方達をつなく“媒体”として、もっとできる役割があると思います」

役割とは?と質問してみると、

「こうした老若男女、様々な方に来ていただけるのは嬉しい。でも、『身体が悪くて外に出られない方』『普段から外食する習慣がない方』など、この平塚にはたくさんの方が住んでいます。そんな全ての方たちに、もっと地元の魚を届けることができないかと考えています」

そう言って指さしたボードには、

「出来る事は何でもやります!! ご相談下さい!!」

の文字。

平塚漁港の食堂では、各家庭のお皿を持って行くとそこにお刺身やフライ、煮物などを盛りつけて持ち帰りをさせてくれます。

こうすれば各家庭でしか食事が出来ない方たちにも、お店と同じように地元の美味しい魚を味わってもらえます。

「あと、余裕があるときにはお惣菜も販売しているんです」

お惣菜は食堂で出している和食メニューだけでなく、バール側のメニューも織り交ぜているそう。

「最近は漁港でも『直売会』など、地元の方が地元の魚を買える仕組みが出てきています」

ただ、まだ魚を丸ごとは捌けない方や、刺身・焼き魚・煮付け以外の調理法を思いつけないという方もたくさんいる。

そこで、漁港とご自宅の間に入って調理やメニュー提案をする媒体になれたらと思っています」

お惣菜は、食堂内はもちろん、直売所でも販売することがあるそう。

地元の魚のことは、あの食堂に聞けばいい…そんな風に思ってもらえたら嬉しいですね!」

そう言って笑う常盤さんはキラキラされています。

実は某大型ショッピングモールから出店のオファーをもらったが、お断りしたという常盤さん。

「私は儲けたくてこの商売をやっているわけではありません。『地元の魚を、地元の人たちが美味しく食べられる当たり前を取り戻したい』それが私の目指すところ。まだまだやりたいことだらけです」

これまでも平塚漁港の食堂には何度も通い、その美味しさのファンになっていましたが、それ以上に常盤さんのファンになってしまいました。

「漁港と地元を繋ぐ媒体」と位置づけて、新たなチャレンジをし続ける常盤さんと平塚漁港の食堂。

その進化にこれからも目が離せません!

平塚漁港の食堂
住 所
神奈川県平塚市千石河岸51-14
電 話
0463-86-6892
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