こんにちは、釣りアンバサダー中川めぐみです。
この連載では「釣り」や「美味しい魚」を切り口に、日本各地の魅力的な人やお店をご紹介します。
ライター紹介
今回ご紹介するのは中野駅から徒歩4分の場所にある居酒屋「魚谷屋(うおたにや)」さん。
「1.漁師直送の」「2.旬のものを」「3.最上の鮮度でご提供」というコンセプトで、美味しい魚介が食べられること間違いなし!のお店なんです。
実は私、釣りをするようになってからやっと魚介の「旬」というものを意識するようになりました。
これまでも「秋のサンマ祭り」のように話題になる魚は、なんとなく旬を理解していましたが、他の魚介についてはお恥ずかしながら「えっと…」という状態。
保存や輸送の技術が発展したことで、一年中、飲食店やスーパーに安定した価格で魚が提供されている。
そんな便利に慣れたことで「旬」という楽しみ方を忘れてしまっていたんです。
でも釣りをすると、「春過ぎからフグが白子をもつからフグを釣りに行こう」「冬はアマダイ・金目鯛が釣れるから、いっぱい釣ってしゃぶしゃぶにしたい」など、気付くと魚の旬を覚えるように。
実際、旬の時期に釣れたての魚を食べると感動級に美味しいです! その一方で、それまで当たり前に感じていた「1年中、お店に同じ魚が並んでいる状態」に疑問を持つように…。
そんな時、友人に勧められたのが今回の「魚谷屋」さん。なんでも旬の魚を出すために「固定のメニューを作らない」のだそう。
旬の魚へのこだわりの裏にある想いを知るため、さっそくお店へお邪魔してきました。
魚谷屋の料理は漁場からはじまる
お店の表には、こんなボードが。なにやら魚介の販売を行われているようです。
地下1Fにあるお店の扉を開けると、笑顔で迎えてくださったのが、魚谷屋代表の魚谷浩さん。
さっそくメニューを見たいとお願いすると、
「こちらは先ほど書いたところなんですよ。字の上手い子がいてくれて良かった!」
と手書きのメニューを差し出してくださいました。
オススメを聞くと、
「やっぱりお刺身。あとはソイも東京では珍しいし、ホヤは絶対食べてほしい! ホヤは今から夏までが旬なんだけど、東京で1番美味しいホヤを出しますよ」
という魅力的なご提案。そのとおりに注文させていただきました。
「はい! まずはホヤです。最初は何も付けずに、そのままどうぞ」
「きれい! 何もつけなくていいんですね、いただきまーす!」
「うわ、何コレ! 私が知ってるホヤじゃない!」
「このホヤは僕が知るなかでは、東京で1番うまいホヤなんですよ」
「ホヤといえば独特な風味で苦手という人も多いですが、このホヤは驚くほど爽やかですね。臭みがまったくなく、ただただ甘みが残る……ホヤの概念が変わるくらい美味しいです。でも、なんでこんなに違うんですか?」
「それは、このホヤは漁場から料理がはじまっているからですね」
「え、漁場から?」
「ホヤは人の手に触れるごとにストレスで味が劣化するので、収穫からお客さんの口に入るまで、『収穫する人』『調理する人』の2回しか人の手に触れないルールにしています」
「だから、こんなに鮮度がいいんですね」
「食材の美味しさには生産者さんの協力がかかせません。料理は漁場からはじまっているんです」
新鮮な刺し身に、希少なホヤのへそ
「本日のお刺身満天盛りです。左上から、カジキ、スズキ、ソイ、ヒラメ。端のはホヤの『へそ』です」
「どの切り身も澄んだ色ですね!そして、ホヤの“へそ”なんて初めて食べます」
「ホヤの“へそ”は一体にひとつだけしかない部位で、特に甘みが強いので食べてみてください」
「まずはカジキ。上品な脂がのりながらサッパリとした美味しさ!」
「次は、スズキ。3日寝かせたという身はもっちもち。噛むほどに濃厚な旨味が滲み出てきます」
「珍しい『ソイ』のお刺身。あっさりしながらも甘みが強く、美味しい!」
「ホヤの“へそ”。先ほどのホヤの身も甘かったですが、“へそ”は更に甘みが強いです」
「そして、ソイの塩焼きです」
「わー! 1匹丸ごと! 華やかですね。」
「身はホクホクしていて、塩のおかげで上品な甘みが引き立ちます」
漁師直送のこだわりの魚介のおいしさに触れた私は、魚谷さんがなぜこの店をオープンするにいたったのかが気になり、伺ってみることに。
魚谷屋をはじめたキッカケ
魚谷さんはもともと関西の飲食店で働いており、独立するために2011年に務めていたお店を卒業。
それからすぐのこと、東日本大震災が起こります。
実は1995年・阪神大震災の被災者であった魚谷さんは、とても他人ごととは思えず、震災の翌月から宮城県・石巻でボランティアをすることに。
最初は2週間くらいのボランティアのつもりでしたが、被災地の状況に触れるなかで、「飲食店での独立は必ず叶えたい。でも今はそれ以上にやることがある」と、短期ではなく長期での支援に関わろうと考えるにいたります。
そうして瓦礫や泥をかき出す作業を続け、気付けば2年間、包丁を握ることもなかったそう。
しかし、徐々に「自分の夢を我慢しながら支援し続ける他に選択肢はないのか」と考えるようになり、そこから石巻のためにできる“自分ならではのポジション”を摸索するように。
そこで、地元の人たちに楽しんでもらえる飲食の仕事を……と、再び包丁を握り、空き地で「おでんの屋台」をはじめます。
それからしばらく、屋台の常連だった若者から「地元のつながりを増やしたい」と相談を受け、一緒にカフェの立ち上げなどを行います。
そのカフェは漁村に位置していたため、魚谷さんも気付けば漁村の暮らしにどっぷり踏み込むことに。
漁師や加工業者、水産の学校、海を生業とする人たちと濃い関係を築いていきます。すると、10年以上飲食業界にいたのに知らなかった発見が次々と。
「自分がつかう食材のストーリーを知る、そしてその素材を最大限表現する重要性に気づいたんです。そして『宮城の食材のストーリーを表現するお店をつくろう』と、東京で独立に向けて動き出しました」
「宮城の食材のストーリーを表現するのに、なぜ東京に?」
「それは、自分以外の表現者を集め、育てるためです。自分は宮城の食材のストーリーを表現し、伝えていきたい。でも1人の力では限界がある。それに、他の地域のストーリーを表現する人間もどんどん生まれていってほしい」
そう考えた魚谷さんは、多くの人や情報が集まる東京でお店を出すことを決心します。
お店の目標は3つ。
1.宮城の食材のストーリーを表現・発信する
2.表現者を育てる
3.次世代へ食文化を残す
ちょうどその頃、「カッコいい、稼げる、革新的」な漁師を目指す「フィッシャーマンジャパン」という三陸の漁師団体も、食材PRをするための飲食店展開を東京で検討していました。
彼らとも連携しながら、2016年6月に魚谷屋をオープン。
そしてお店のオープンに際し、「決まったメニュー表をつくると価格を一定にしなければならず、価格を一定にするには同じ価格で仕入れ続けなければならない……つまり時には漁師から安く買い叩かなくてはならなくなる」ことに疑問を感じます。
「自分だけでなく、漁業者までみんながハッピーになれる仕組みをつくりたかったんです。改めて考えてみると、はるか昔はメニューなんてなくて、仕入れありきで出すものを決めてたんじゃないかな。
そして、仕入れがベースであれば買い叩きなんてしなくていいし、良い魚がたくさん獲れた時はお客さん側にも安く提供できる。そして結果、旬の美味しい魚を常に提供できる状態になるわけです。その喜びに比べたら、毎日メニューを考えて対応するなんて大したことない」
そう笑う魚谷さん、カッコいいです!
魚谷さんの更なる目標
「魚谷さんの次の目標は何ですか?」
「魚谷屋をしっかり守りながら、他の地域の課題にも貢献していけたら嬉しいですね。現在も交換留学のように数週間単位で、石巻の飲食店とスタッフさんを行き来させるなどの挑戦を開始しました。もし学びたい人がいたら、どんどん魚谷屋に修行にきてほしいです」
「漁業関係者の交換留学なんて、おもしろい発想ですね」
「この仕組みを全国に広げていき、各地で日本の豊かさを表現できる人を増やしていきたいと思っています」
私は自然体で挑戦し続ける魚谷さんのファンになってしまい、思わず取材の最後に次の予約を入れてしまいました。
メニューが毎日変わる魚谷屋さん。
今度訪れる時はどんなメニューが並んでいるんだろう……。今からわくわくが止まりません!
- 宮城漁師酒場 魚谷屋
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- 住 所
- 東京都中野区中野2-12-9 高田ビルB1階
- 電 話
- 03-6304-8455
- 宮城漁師酒場 魚谷屋
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東京都 中野区 中野
魚介・海鮮料理