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ハンバーグは常に無難を求められてきた。松屋の最高傑作「ブラウンソースハンバーグ」にみた前例なき挑戦

前回は、松屋が常に「大盛りご飯をぐいぐい食わせる」というゴールに向かって、いかにまっしぐらかを解き明かしました。

▼前回の記事
松屋はいつだって「僕たちに米の飯を食わせたがっている」

今回は松屋がその目的を果たすために繰り出してきた、チェーン店では普通考えられない、そして個人店の定食屋でもまずやらない"前例無き挑戦"をテーマに、過去の季節商品を中心にいくつかの名作をピックアップしていきたいと思います。

ロールキャベツ定食 (2018年)

 

ロールキャベツ、という誰もが知っているけど、定食のメインディッシュとして扱われることはまず無いものを持ってきたことが、まず地味に凄いです。

前例の無いことをさらっとやってのける松屋らしい意欲作。

しかし、ロールキャベツという料理はほっこりと優しい味わいが身上。ご飯に合うイメージが無いわけではありませんが、それはあくまで洋食屋の小上品な皿盛りライスのイメージ。

果たして本当に松屋の大盛りご飯を迎え討つだけのおかず力を備えることができるのか?と、食べる前は僕も不安でした。

しかし、実際に提供されたものを目の前にして、その不安は一瞬で吹き飛びました。基本は松屋お得意のあの「ニンニクがっつりのご飯によく合うトマトソース」による仕立て。

そしてそこまでは予想の範囲でしたが、驚愕したのはそのソースにはさらに挽肉がプラスされていたこと!

つまり、ほぼミートソース。肉を包んだ料理にさらに肉のソースを合わせるという馬鹿の料理(←もちろん褒めてる)。さすが松屋は肉の力を信じてます。

そしてそのことにより、このロールキャベツは見事に大盛りご飯を迎え討つだけのおかず力を実装したのです。

とにかく飯を食わせるための執念、そしてそれを突き詰めることで自ずと生まれたオリジナリティの高さに僕は感動すらおぼえました。

クリームシチュー定食 (2016年)

 

まずクリームシチュー定食、という字面が出オチ的なインパクトを備えています。

「クリームシチューは飯のおかずになるか?」という話題はしばしネットを賑わせますが、そんな議論はどこ吹く風、何食わぬ顔でいきなり「さあ、これで大盛りご飯を食え」と提示してきたわけです。

当たり前のように味噌汁が付いてきたのも「シチューは汁物」という多くの日本人の持つ誤解に対して挑戦的でした。

そしてこの料理、クリームシチューというキャッチーな名称をあえて用いつつ実質「チキンフリカッセ」でした。つまり、鶏肉のクリーム煮。

フランス料理でもメインディッシュとなる一品に、松屋流のおかずアレンジが施されたものだったのです。

フリカッセとしてはしょっぱめのソースがたっぷり絡まった白菜は、おかず力を一段と引き上げていました。

それでもクリームシチューという字面の先入観ゆえか、ネットでは「これはおかずになるのか」という議論は起こったようです。

それに対して松屋の開発陣は「社内では普通に皆が受け入れたから議論になること自体が想定外だった」とコメントしたとか。

松屋という異能集団の凄みを感じさせる素敵エピソードです。

タイ風グリーンカレー(2017年 他)

miya_kuniさん(@brassica57)がシェアした投稿 -

 

松屋のカレーはカレーマニアの評価が高い、というのは昔からよく言われています。

チェーン店では、特にカレーは老若男女を問わず受け入れられる無難なものを提供しがちな傾向がありますが、松屋はなぜかそういう配慮をあまりしません。

はたから見てても「カレー好きの開発者が自分の好きなカレーを勝手に作って売ってるだけだろこれ!」みたいな印象です。そこがまた、マニアのツボをくすぐるんですね。

ここまで松屋の、おかず力を高めるためのアレンジが圧倒的なオリジナリティを生む、というケースを紹介してきましたが、このタイ風グリーンカレーは逆に何のアレンジも施されていないという点に凄みがあります。

そう、タイ料理屋で出てくるグリーンカレーそのまんま。なぜか?それはタイ風グリーンカレー、つまりゲーンキョーワンという料理が、そもそもご飯をぐいぐい食わせる力を最初から充分に備えた料理だったからです。

これは「最大多数の嗜好にマッチしていること」をゴールにしがちな凡百のチェーン店にはなかなかできないことです。

邪念無く「飯を食わせる」にまっしぐらだからこそ、こういうことがためらいなくできる、これもまた松屋の魅力です。

ブラウンソースハンバーグ定食 (現在販売中)

松屋のハンバーグは、これ以前に展開していた「うまトマハンバーグ」も実は地味に革新的な商品でした。

 

ケチャップ味ではないトマトソース、つまりイタリア料理のサルサポモドーロ的な味付けをご飯が主役の定食に配する、というのは意外にありそうでないのです。

そのありそうで無い、を実装するためのニンニク使いとメリハリの効いた味付けが生み出すオリジナリティは、やはり松屋らしい一品でした。

その名作を引っ込めてまでリリースしたのが、このブラウンソースハンバーグ。

タイトルだけ見たときは正直「ファミレスでもありがちなデミソースにクリームを加えたものか?松屋にしてはえらく凡庸じゃないか?」と少しがっかりしました。

 

しかし、それは大きな誤解だったのです。あまり期待せずにそれを初めて食べたとき、僕は驚愕のあまり椅子からずり落ちそうになりました。

「こ、これはシャンピニオンソースじゃないかっ!!」

シャンピニオン、つまりマッシュルームや香味野菜をみじん切りにしてじっくり炒めた、いわゆる「デュクセル」がベースと思われる見事にフランス料理的なソースだったのです。

チェーン店に限らず、街の個人店でもハンバーグは、だいたい無難にデミソースもしくは醤油ベースの和風ソースです。

ハンバーグという食べ物は、常に無難であることが求められがちだからでしょう。そこでなぜ、あえてこんな冒険をする?ここはセーヌ川のほとりの小粋なビストロか!?

そしてそれは、これまた実にご飯が進む按配にチューニングされていたのは言うまでもありません。

ニーズとは欲望に応えることではなく欲望を作り出すこと、というのを見事に体現した素晴らしい作品だと思います。

このブラウンソースハンバーグは、本当に美味しい料理です。個人的に、焼肉定食と並ぶ松屋の最高傑作だと思っています。まだの方は是非ご賞味あれ。

これからも松屋は、きっとこのような意欲的な作品を次々とリリースし続けてくれることでしょう。次は何でどう驚かせてくれるのか本当に楽しみです。

そして僕は、少しでも胃に余裕があれば、いや余裕がなくてもご飯は大盛りにし続けようと思います。信念に対しては誠意で応えたい、そんなふうに思うのです。

ライター紹介

イナダシュンスケ
イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般承ります。和・洋・エスニック、ジャンルを問わず何にでも喰いつく変態料理人にしてナチュラルボーン食いしん坊。世の中のあらゆる美味いものを愛してますが、美味しくないものも同じくらい愛してます。「理想は高く、意識は低く」がモットーです。
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