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【相撲めし】初土俵から50年、今日もまげを結いちゃんこを作る。武蔵小山「ちゃんこ西海」

「◯◯ロス」ってつらいですよね。大相撲夏場所が5月27日に千秋楽を迎え、相撲ロスに陥った筆者です。

でも、相撲グルメを食して、相撲パワーを受け取ることなら、いつだってできます。

元力士が営む飲食店を訪ね歩く本連載「相撲めし」4回目で伺ったのは「ちゃんこ西海」

オーナーは最高位幕下5枚目の元・西海副雄さん(山口副雄さん、以下山口さん)。

1950年(昭和25年)生まれの67歳。1967年(昭和42年)の初土俵以来、引退後も髷(まげ)を結って、店に立つ山口さんの人生には、青春時代から今までずっと相撲があります。

「出身が長崎県西海町(2005年から西海市)なんですよ。長崎で秋祭りといえば、神社の奉納相撲が定番。神社内にある土俵で小学生のころから、相撲をとっていました。東京の秋祭りで若い人がお神輿をかつぐのと同じような感覚ですね」

50人の力士の世話をする? 相撲部屋の暮らし

地元で「相撲が強い」と言われ、知人の紹介で中学卒業後、片男波部屋へ入門。

昨今、相撲界に入るための新弟子検査で、背伸びして規定の身長をなんとか満たし(?)合格する子もいますが、昔は検査が厳しく「173cm、75kg以上」と決められていました。

日本相撲協会は26日、東京・両国国技館で初場所(来年1月13日初日)の新弟子検査を行い、前日までは1メートル60だった伊藤爆羅騎(ばらき、18=式秀部屋)が身長1メートル67以上、体重67キロ以上の合格基準を満たした。


身長計の上ではかかとが上がっていたが、角界の懐の深さも味方し、奇跡の7センチアップで力士への第一関門を突破。


引用元:背伸び上等!1メートル60「爆羅騎」“盛って”合格(スポニチ・アネックス)
https://www.sponichi.co.jp/sports/news/2012/12/27/kiji/K20121227004859530.html

山口さんは3〜4回検査に落ちて、上京した翌年、晴れて初土俵を踏むことになります。

力士デビューをはたしても、部屋の中で地位は一番下。所属力士約50人という大所帯の生活を支えるのは、決してラクではありません。

「入門したばかりの頃は、朝4時に起きて稽古をして、7時くらいに兄弟子たちが稽古場に降りてくると、掃除をしたり、昼夜のちゃんこ(力士が食べる料理全般)を作ったり、洗濯をしたりして、22時に就寝。そんな毎日でした」

ときは昭和40年代。全自動洗濯機がなかったので、洗濯板で50人分のパンツやステテコ、浴衣などを洗い、必要なものは糊付けして陰干しする、というハードすぎる家事を若い衆は任されます。

昼食は毎日ちゃんこ鍋

力士の食を支える「ちゃんこ番」も相撲部屋において大事な仕事のひとつです。

それも50人分。とはいえ、並の50人分ではなく、一般人の想像を超える量を作るわけです。

「昼食はちゃんこ鍋、と決まっていました。他のおかずを作らなくても、稽古後に鍋ひとつでさっと出せますからね。

ちり鍋や鶏つくねちゃんこ、豚の味噌炊き、ホルモン鍋なんかはよく食べました。豚バラ肉と大量の野菜、にんにく、少量の砂糖を入れた鍋も覚えています。くじらのちゃんことかすき焼きも食べましたね」

巡業中も調理器具を持ち歩き、地方の食材を買って調理するのが恒例でした。

常に大きな体を維持するための健康的な食事を作り、いろいろな食材で工夫をする力士の皆さんがグルメで、食に詳しく、引退後に飲食の仕事に就くことが多いのにも納得です。

関取に近い地位へ上がったけれど

番付を上げて、最高位幕下5枚目の地位についたときは、入門から8年の歳月が過ぎていました。

「25歳くらいまでに関取(十両以上の給料がもらえる地位)になりたい」と目標を掲げていた山口さんでしたが、右膝の内側側副靭帯や前十字靭帯などを断裂。

その大きなケガが、引退を決めるきっかけになります。

幕下5枚目は全勝優勝すると、十両に上がれる可能性が濃厚なポジション。

そこまで上がれる力士は多くはありません。それでも「体よりも心がダメになった」ことが、取り組み内容に大きく影響し、負けが続いて、番付をどんどん落としていきました。

「相撲をとるのが怖くなるんです。手術をして膝にボルトを入れたりもしましたが、また壊してしまったらどうしよう、と気持ちが萎えました。

ケガをすると稽古もできませんし、土俵でも踏ん張れない。再起しようと思っていろいろなことを試したけど、ダメでしたね」

相撲の世界は過酷です。横綱という最高位を除き、ケガなどで休場したり、負け越したりすると、番付が容赦なく下がっていきます。

相撲をとれなくなった山口さんも、最後は番付外まで落ちてしまい、27歳のとき12年の力士生活に幕を閉じます。

引退後、30歳で店を出す

引退後、働き始めたのは焼鳥屋。所属していた片男波部屋の後輩力士の実家でした。

2年ほど修行し、30歳で独立。15坪くらいの物件を借りて、「ちゃんこ西海」をオープンしたのです。

現在の広い店舗で営業を始めたのは22年前。武蔵小山という地で40年近く愛される店になりました。

この日いただいたのはキムチ味のちゃんこ鍋(一人前2500円)。

とにかく豪華です。魚やえび、ホタテ、カニなどの魚介、豚・鶏・牛と肉3種、たっぷりの野菜……出汁が出るものは何でも入っています。

色鮮やかなはんぺんは、ちゃんぽん麺などに入っているもの。長崎出身の山口さんが、地元色を出そうと、長崎から取り寄せています。シメでちゃんぽん麺(400円)を楽しめるのも嬉しい。

たっぷりのゴマが香る至福のちゃんこ鍋

たっぷりのゴマをすって、そのなかにスープや具材を入れて、香ばしい風味や香りと一緒にいただくのも、これまた初めての経験です。

食材から出たやさしい味わいのスープとゴマの絡みも、えも言われぬ幸福感を運んできてくれます。

ちゃんこ鍋はキムチ味(甘口・辛口を調整可能)のほか、しょうゆ味、みそ味、しお味の4種類から選べます。

一品料理では「焼きおにぎり(お新香・ニンニクみそ付) 」(一人前2個、550円)が名物。

女性の手に収まりきらないくらいでっかいおにぎりは、それ単体で食べても香ばしく、中はもっちり。

ちゃんこ鍋、焼きおにぎりとも、「この金額で大丈夫ですか?」と尋ねたくなるほどボリューミーで、モリモリ食べる人間にとってはたまらないメニューでした。

会いに行ける元力士

5月16日〜10月いっぱいまでの火〜金曜日はランチ営業もしています。

長崎ちゃんぽんやもつ煮込みなど、こちらも元力士らしくボリューム感たっぷりのランチが楽しめるそう。

「夜、お酒を飲むといい加減なことばかり喋ってますよ(笑)。一声かけてくれたら二言も三言も喋りますよ(笑)」と終始笑顔で、楽しく接してくださいました。

最後に握手をしていただいたところ、分厚くて大きくて温かい手にぶわっと優しく包み込まれて感動です。

厳しい勝負の世界に身を置いてきた人特有の、人としての器の大きさを感じさせる山口さん。美味しい相撲めしを食べに、山口さんに会いに、武蔵小山のお店を訪れてみては。

本連載では、元力士が経営していたり、元力士が働いていたりする飲食店を常に探しています。「こんなお店があったよ」などの情報があれば、ぜひ筆者のTwitterFacebookなどにご連絡をいただけると幸いです。

ライター紹介

池田園子
池田園子
フリーの編集者/記者。女性向けメディア「DRESS」編集長。著書に離婚経験後に上梓した『はたらく人の結婚しない生き方』など。プロレスが好きで「DRESSプロレス部」を作りました。
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