突然ですが、高知県と聞いて、皆さんの頭に一番始めに浮かぶものは何ですか?
最も有名なのは坂本龍馬でしょうか。ほかにはカツオのたたき、ゆずなどを思い浮かべた人もいるかもしれませんが、真っ先に他の食べ物を思い浮かべた人はきっと少ないはずです。
実は昔から高知県は、日本各地でその土地の食材を使って作られる「郷土寿司」の種類が日本一多く、「郷土寿司大国」とも呼ばれていることをご存知でしたか?
「郷土寿司」で有名なものは「ふなずし」(滋賀県)、「柿の葉寿司」(奈良県)、「江戸前寿司」(東京都)、などで、皆さん一度は食べたことがあるかもしれません。
しかし、その「郷土寿司大国」高知が、高齢化によって後継者不足が深刻化し、危機を迎えています。
郷土寿司の中にはごく限られた地域でのみ作られているものもあり、高知県在住の人でさえ存在を知らないお寿司もあります。
そんな状況を打破すべく立ち上がったのが、高知にある酒造会社、司牡丹(つかさぼたん)酒造の代表取締役社長・竹村昭彦さんです。
お話を伺った人
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竹村昭彦さん
- 創業1603年の老舗・司牡丹(つかさぼたん)酒造の代表取締役社長。東京のファッション雑貨や菓子を扱う会社で勤務したのち、平成2年から故郷の高知に戻り、司牡丹酒造に入社。高知の食文化などを研究する「土佐学協会」の理事長も務め、高知の魅力発信を続ける。
竹村さんは、「土佐伝統料理の生き字引」と称される92歳の郷土料理研究家、松崎淳子さんと協力して高知の郷土寿司についての書籍『土佐寿司の本』を今年10月に出版する計画をたて、県内外に伝統食を知ってもらうプロジェクトをリードしています。
そこで、竹村社長にお会いし、高知の郷土寿司の魅力や気になる書籍の内容についてインタビューしました。
「陸の孤島」だから残った独自の食文化
竹村社長にお話を伺ったのは、東京国際フォーラムにある酒蔵レストラン「宝」。
実はこの場所、土佐藩上屋敷の跡地なのです。高知県と縁を感じながら取材スタートです。
- 酒蔵レストラン宝 東京国際フォーラム店
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東京都 千代田区 丸の内
居酒屋
ーー高知の郷土寿司の歴史を教えてください。
昔はお米が貴重品で、普段はあまり食べられませんでした。郷土寿司はもともとハレの日など、特別な祝いの席で振る舞う目的で家庭で作られたのです。
高知の言葉で宴会のことを「おきゃく」と呼ぶのですが、たくさん作って家族や近所の人を招いて振る舞っていたんですね。
ーーみんなで宴会っていいですね!高知県の郷土寿司が全国で一番多いのはなぜなのでしょうか?
地理的な条件が大きいですね。高知県は海のイメージが強いと思うのですが、実は森林面積比率が日本一なのです。つまり、山が多いんです。
周囲を峻険な山に囲まれ、南側には太平洋が広がっていて、土讃線開通まで(全通は1951年)は「陸の孤島」の状態でした。
他の地域との交流が限定されたことが、独自の食文化を育むことに繋がり、郷土寿司が昔のまま残ることになりました。
ーー様々な地域との交流が少ないと、逆に食文化が発展しないと思っていました!
今回の出版プロジェクトで協力をお願いした松崎淳子先生は、「新幹線の駅ができると、伝統料理が消える」と話しています。
多様な人との交流によって、新しい料理が生まれる可能性はありますが、失われていくこともあります。
たとえば、土佐料理として有名な皿鉢(さわち)料理のようなスタイルは、もともとは全国にあったものですが、衰退していってしまいました。
*皿鉢(さわち)料理とは・・・家庭や宴会、法事など、大人数で大皿を囲んで食事できるように、郷土料理を大皿に盛り合わせたもの。
高知の郷土寿司ってどんなもの?
ーー高知県の郷土寿司にはどんな特徴がありますか?
一部の地域では米酢も使いますが、酢飯をゆずなどの香酸柑橘(ぶしゅかん、直七など)でつくる点が挙げられます。
高知は温暖な気候なので、酢を好む傾向があります。淡麗辛口で酸が高めの高知のお酒にも合うんですよ。
ーーどんなお寿司が、何種類くらいあるのでしょうか?
たとえば、山の幸を盛り込んだ「土佐田舎寿司」のほか、米を使わない「おから寿司」、「こけら寿司」、「つわ寿司」、「かぶ寿司」、「サバの姿寿司」などバリエーションに富んでいます。
一部の地域だけで作られているものもありますし、正確な数を出すのは難しいです。
書籍掲載のため、松崎先生がリストアップしたのは28種類です。もちろん、高知の郷土寿司はこれですべてではありません。
ーー28種類も!!高知の郷土寿司の定義はあるんですか?
書籍を出版にあたり、まずネーミングを見直しました。どうも郷土寿司ではしっくりこなくて、「土佐寿司」という名前をつけたんです。
高知県は東西に長く、場所によって食材や味付けが様々です。たとえば、寿司飯を作る際、東側の地域ではゆずを使いますが、西部では米酢を使うことがあります。種類が豊富すぎて、「これが土佐寿司の特徴」と一言で表現できません。
土佐寿司の定義として現在の案では、
・伝統的にその地域で作られている寿司であること
・または、高知県の食材を使い、寿司飯に香酸柑橘の酢を使っているもの(米を使わないおから寿司も含める)
としています。
気になる本の内容を聞いた
ーー出版プロジェクトの著書でもある松崎淳子さんとはどのような方ですか?
土佐学協会の副会長、高知県立大学の名誉教授、土佐伝統食研究会の代表など数々の団体で活躍されている方で、高知の伝統食について松崎先生の右に出る人はいないですね。
ーーまさに、「土佐伝統料理の生き字引」ですね。まだ出版前ですが、本の内容を教えてください。
まず、松崎先生が得意とするサバ寿司の作り方を掲載します。松崎先生は質の良いサバが手に入ると、誰に頼まれるわけでもなく作ってくれるんですよ。これがまた絶品なんです!
ほかには、土佐のおきゃく文化(土佐弁で「宴会」の意味)や一部の土佐寿司の作り方、土佐の酢みかん(食用でない柑橘類)文化などを盛り込もうと制作を進めています。
ーー今回の書籍出版プロジェクトを進めるにあたり、寄付金を募ったと聞きました。
はい。一口5000円で、200万円を目標額として寄付のお願いを呼びかけてきました。おかげさまで現在150万円ほど集まり、大変ありがたいです。もう一息です。
また、土佐寿司を盛り上げようと、行政も動き始めています。土佐寿司は家庭で作るものというイメージが強く、飲食店でお客さんに提供することはほとんどありません。
しかしそれでは認知が進まないので、地元飲食店関係者とも連携をとりながらやっていきたいですね。
東京から来たのか。食うてみや、食うてみや
ーー土佐寿司の魅力について、読者に向けてメッセージをお願いいたします。
食文化の専門家の中には、高知県は四季おりおりの海の幸、山の幸が豊富で面白い土地だと言う人が多くいます。
また、カラッとしていて、人との間に壁を作らない人間性も高知の魅力の一つです。大皿で料理を用意し、近所の人を気軽に家に招き入れて振る舞う皿鉢料理は、そうした人柄があって今もなお残っているんですよ。
たとえば東京から観光で高知に行くと、地元の人からいきなり話しかけられるかもしれません。
今後も高知伝統の「土佐寿司」の普及のため、自分ができることを精一杯取り組んでいきます。ぜひ高知へ足を運んでください。
書籍出版のご寄付(一口5,000円)をご検討いただける方は下記までご一報ください。
趣意書や振込用紙を送付させていただきます。
〒789-1201
高知県高岡郡佐川町甲1299
司牡丹酒造㈱
「松崎淳子先生の書籍を出版する会」事務局
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