カツカレー誕生100周年、その歴史を名店とともに振り返る

今年2018年は「カツカレー誕生100周年」と言われています。

いろんな料理の「発祥」や「元祖」には諸説あるのが通常で、日本独自のカレー文化の結晶とも言える「カツカレー」もまた然り。

カツカレーの発祥として広く知られているお店は「銀座スイス」。

1948年に、当時巨人軍の千葉茂氏の「カレーにカツを乗せてくれ」というアイデアによって、カツカレーが誕生したとされています。

しかし実は、さらに30年も遡った1918年(大正7年)に、カレーとトンカツを合わせて提供していたお店が浅草にあったのです。

そのお店の名は「河金」

創業1918年(大正7年)、屋台洋食としてスタートしたこのお店。

開業後まもなく、お客さんが「カツにカレーをかけてくれ」とオーダーしたことから生まれたのが、名物「河金丼」。

どんぶりのご飯にキャベツを敷き、その上にトンカツを乗せ、さらにカレーをかけたオリジナルスタイル。

ご飯、トンカツ、カレー、そしてキャベツの組み合わせで提供したという意味では、記録にある限り、この「河金丼」が最も古く、いわば「日本最古のカツカレー」とでも呼ぶべき存在であります。

今年は「河金」創業100周年。

しかし残念ながら、浅草「河金」は現存せず、創業者の河野金太郎さんの孫にあたる兄弟が、入谷と千束でのれんを受け継いでいます。

今回は、カツカレー誕生100年を記念して、東京でカツカレーの歴史を巡る旅へと出かけてみましょう。

(1)日本最古のカツカレー"河金丼"を今に受け継ぐ「とんかつ河金」

今はなき浅草「河金」の創業者である河野金太郎さんのお孫さんが正式にのれんを受け継いだお店がこちら。

日本最古のカツカレー「河金丼」の味を守り抜いています。

河金丼

河金丼

箸からこぼれ落ちないほどの粘度あるカレー、シンプルなカツ、脂を受け止めるキャベツ。

どれもが、イメージを裏切らない味わい。言い換えれば、ある意味「普通」。

しかし、よく考えてみれば、カツとご飯とカレー、当初は真新しかったであろう組み合わせが、今は普通と思えるほど広く普及しているとも言えます。

トンカツもカレーも、そしてカツカレーも、もはや大衆食にまで昇華している証です。感慨深いですね。

(2)浅草の伝統"河金丼"を受け継ぐ、もうひとつの老舗「とんかつ河金 千束店」

日本最古のカツカレー「河金丼」の伝統を受け継ぐもう一つのお店がこちら。

入谷「河金」の弟さんにあたる方が始めたお店です。

河金丼 ヒレかつ重 

河金丼 ヒレかつ重 

「並」の河金丼ではモモ肉を使用しているところをヒレ肉にアップグレードした、いわば「上」にあたる河金丼。

ベーシックでありながら、上質な美味しさを楽しめます。

こちらは現在親子二代の経営。つまり、若旦那は創業者の金太郎さんの曾孫にあたるわけですね。

創業100年を超え、未来へと受け継ぐ伝統の味。ぜひ入谷のお店と食べ比べてみては?

(3)新宿路地裏の超老舗「王ろじ」

創業大正10年(1921年)

「とんかつ発祥のお店」として紹介されることもある超老舗です。

こちらの名物は、どんぶりご飯にカレーとヒレカツをのせた「とん丼」。

その完成された様式美は今もなお、人々を魅惑し続けています。

とん丼

とん丼

サクッと薄くて硬い衣と、やわらかなヒレ肉。

そして意外にスパイシーなカレーとの組み合わせは、このお店だけの独特なバランス。

注意したいのは、カレーの下のご飯が意外と多いこと。普通に食べると余ってしまうので、豚汁を合わせてオーダーし、バランスをとるのがコツ!

(4)元祖カツカレーの名店「銀座スイス 銀座本店」(グリルスイス)

創業昭和22年(1947年)

「カツカレー発祥のお店」として知られる銀座の老舗洋食店です。

カレーとカツを合わせた最初の記録が「河金」なら、こちらは銀のお皿に盛られたカレーライスにカツを乗せ、それを「カツカレー」と呼んだ最初のお店。

いずれも「カツカレー発祥」として重要なお店であることに変わりはありません。

カツカレー誕生となったきっかけは、このお店の常連だった巨人軍の千葉茂選手のこんな注文。

「ポークカツレツとカレーを一つの皿に一緒にして出してくれ。早く食べられるし、ボリュームもある」

こうして生まれたカツカレー、今では「上カツカレーライス」にあたる「千葉さんのカツレツカレー」という名に受け継がれています。

千葉さんのカツレツカレー

千葉さんのカツレツカレー

注文を受けてから揚げる豚ロースのカツは、衣が分厚めのサクサクジューシー。

すりおろし野菜と挽き肉のカレーはかなり濃厚な味わいです。

「カツに合うカレー」として長年研究を重ねたというのですから、なるほどのマッチング。まさにカツカレーの原点にして、良き基準点です。

(5)五反田で60年。気品ある洋食カツカレー「スワチカ」

五反田にある、小さくて目立たない洋食店。

ですが実はここ、創業60年越えの老舗にして開業当初はカレー店だったという、見逃せないお店なんです。(「スワチカ」という店名も、戦前にあったとされるカレーパウダーの名前だとか)

かつカレーライス

かつカレーライス

程よい辛さ、甘さより苦みが立ったオトナのカレー。洋食カレーとしては粘りは少なくサラッとした舌触り。

カレーのソースにふやけない硬めの衣、その中に詰まった肉の旨みと、カツカレーのカツとしてのクオリティも抜群。

カツ自体は薄めで小ぶり(だから洋食カレーに合うのです)でありつつ、加えてゴロッと迫力の角切りポーク、カレーに溶け込んだビーフと、三位一体の味わいが楽しめるんです。

折り目正しい、品のある洋食カツカレー、是非ご賞味あれ。

(6)金沢カレーのパイオニア「カレーのチャンピオン九段三番町店」

ステンレスの舟形皿にドロッとしたカレー、ソースのかかったカツ、キャベツの千切り、そして先割れスプーン。

今や、ご当地カレーの代表格として有名な「金沢カレー」。

実はルーツとしての歴史は長く、金沢カレーの老舗と言われる各店の創業者たちはみな1950年代「レストラン ニューカナザワ」で働いていました。

この「ニューカナザワ」の初代チーフコックこそが、後に「カレーのチャンピオン」を創業する田中吉和氏だったのです。

田中氏が独立し、「洋食タナカ」を開業したのが昭和36年(1961年)

その後、「ターバン」「タナカのターバン」を経て1996年に「カレーのチャンピオン」という名に。

通称「チャンカレ」と呼ばれるこのお店が、金沢カレーのパイオニアとされる由縁です。

東京にある直営店は、麹町店と九段三番町店の2店舗。

Lカツミニカレー

Lカツミニカレー

濃厚ドロリなカレーにカラッと揚がった三元豚のカツ、付け合せにはキャベツ。

ステンレスの器&フォークでいただく金沢カレー独特のスタイルは、その起源が洋食屋にあることをはっきりと示しています。

リーズナブルな小盛りサイズがあるのも嬉しいところです。

(7)暖簾分け30店超え!東京庶民派洋食を代表する「キッチン南海」

創業昭和41年(1966年)の老舗洋食店にして、カレーの街・神保町を代表するカツカレーの名店。

30年以上も前に30店あまりの暖簾分け店を輩出。

時を経て、今ではそれぞれの暖簾分け「南海」もそれぞれの地で老舗洋食店となり、カツカレーの味もそれぞれに。

ラーメンで言う「天下一品」や「二郎」のように、各「南海」のカツカレーを食べ比べるのも楽しいのです。

カツカレー

カツカレー

神保町「キッチン南海」の名物といえば、この真っ黒な「ルゥ」のカツカレー。

薄めのカツは脂っこくなく、カレーの味わいを邪魔しないベストバランス!

暖簾分け各店の中で、この黒いカツカレーの独自性をよく保っているのは、「キッチン南海 向ヶ丘遊園店」「馬場南海」の2つ。こちらもぜひ訪問あれ。

(8)独自の研鑽を極めた“日本一美味しいカツカレー”「リッチなカレーの店アサノ」

創業昭和62年(1987年)

「日本一美味いカツカレー」として有名な町田路地裏の小さな名店。

通常カツカレーと聞いてイメージするトロッとしたカレーとは全く異なり、サラッサラでかなりスパイシー。その一方でほのかに感じる和だしテイスト。

欧風でも、インド風でも、和風でもない、完全にオリジナルとして独自に構築されたここだけのカツカレーなのです。

カツカレー

カツカレー

カツには神奈川のブランド豚「高座豚」のロース肉を使用。

肉も衣も薄めですが、旨みがギュッとつまった味わい。 言うまでもなく、スパイシーなカレーとの相性は最高!

独自の研鑽、一皿にかける手間暇、そして吟味された食材。

「日本一美味いカツカレー」の称号は伊達ではありません。

(9)シャバシャバのカレーと真っ黒なカツ、進化系カツカレー「般°若」(パンニャ)

創業平成21年(2009年)、俳優の松尾貴史さんが開いたカレー屋さん。

こちらのカツカレーは、カツカレー100年の歴史の中でも特に独創的。

ホールスパイスを駆使した多様なカレーがいただける現代だからこそ誕生した、進化系カツカレーの代表格と呼ぶべき存在です。

マハーカツカレー

マハーカツカレー

スパイスの香りが際立つシャバシャバのカレーに、イカ墨を用いた真っ黒カリカリ衣のカツ。

贅沢なのにもたれない、斬新なバランス。

ニッポンカレーライス、インドカレー、スパイスカレーといった、さまざまなエッセンスが再構築され、カツカレーの新しい可能性を感じさせてくれる一皿です。

(10)とんかつの名店が生み出す、カツが主役のカツカレー「いっぺこっぺ」

平成27年(2015年)、蒲田で行列のできる名店「とんかつ檍」(あおき)が、その隣にオープンさせたカツカレー専門店。

名店「檍」のとんかつが行列なしでいただけるとあって話題を呼び、たちまちのうちに行列店に(笑)。

ただし、カツカレーだけに客の回転は速いので、ご安心を。

ロースカツカレー

ロースカツカレー

こちらのカツカレーの主役は、やはりカツ。

「檍」同様に、レアでもいただけるという銘柄豚「林SPFポーク」を使用。

まぁその切り口の美しいこと・・・そして圧倒的な美味さ。

ただしここで注意したいのは、あまりのカツの美味さに「カレーをつけて食べるのがもったいない」という事態になってしまうのですよね。

私のオススメは、カツはシンプルに岩塩でいただき、合間にカレー&ライスをいただくという食べ方。

「日本一のカツカレー」ではなく「日本一カツが旨いカツカレー」の称号をあげたい名店(迷店?)です。

終わりに

2018年はカツカレー誕生100周年。

当時と変わらず愛されるカツカレーに加え、カレーが進化したカツカレー、カツが進化したカツカレーがどんどん増えてくることで、カツカレーの可能性が一気に広がりました。

この先、カツカレー200年を迎える2118年には、いったいどんなカツカレーが誕生しているのでしょう?

長生きしてレポせねばなりませんね。

ライター紹介

カレー細胞(H.Matsu)
カレー細胞(H.Matsu)
3000軒のカレー屋を食べ歩いた通称「カレー細胞」。生まれついてのスパイスレーダーでカレーはもちろんのこと、食のトレンドウォッチャーとしても分析力・発信力は折り紙付き。 カレー専門のブログ「カレー細胞-TheCurryCell-」を運営。
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