いま日本一新しいサバ缶、その名も「No.38(ナンバー・サーティエイト)」。
こだわりを尽くした缶詰の価格も、なんと「1200円」と日本一。
そしてパッケージの「カッコよさ」も間違いなく日本一!
そんなサバ缶を作り上げたのは、「株式会社アバランチ」。缶詰とはまったく無縁の広告制作会社である。
いったい、なぜ広告制作会社がサバ缶を!? その謎を探るべく大阪府大阪市にあるアバランチを訪ねると、「No.38 プロジェクト室」のみなさんが出迎えてくれた。
いきなりサバ缶渡されたらびっくりせえへん?
「アバランチはグラフィック、Web、ムービー、プロモーションなど広告にまつわることは、ほぼ全部手がけている会社です」と語るのは同社執行役員でもある、佐々木宏二さん。
サバ缶開発のきっかけは、「会社設立20周年」だった。
「アバランチは、これまでゆるやかな成長を続けてきましたが『単なる一地方の制作会社』ではなく、もっと『飛び抜けた存在』になりたいという思いがみんなのなかにありました。
日本中の、いや世界中の仕事にもチャレンジしていきたい。そのためには、インナーブランディングが必要、といろいろな話し合いを重ねていました」
そんななかで迎えることになった20周年。関係者に、ただ挨拶状や菓子折りを送るのではなく、アバランチならではのオリジナル記念品を作り上げようという話になった。
社員一同アイデアを出し合い、最終的に残った選択肢は2つ。
代表取締役である熊本樹稔さん発案のお菓子。そして、「サバ缶」である。
会社の代表とタイマンを張るアイデアを提案したのは、デジタルクリエイティブ室のプランナーである芋生宗丘さんだった。
――サバがお好きだったんですか?
「ぜんぜん」
――というと、サバ缶がお好きだったんですか?
「いや、そんなこともなく」
――・・・な、なぜサバ缶を?
「ダジャレです」
サバになんの思い入れもなかった芋生さんが続ける。
「うちの社名がアバランチなんで『サバランチ』という商品があったらいいんじゃないかと。配るんやったら、サバ缶がちょうどいいなあと思いまして」
まさかのダジャレアイデアは、社員みんなに刺さった。
「会社の記念品で、いきなりサバ缶渡されたらびっくりせえへん?」「なんでサバ缶なん?みたいな話にならへん?」「めっちゃインパクトあるやん」と社内で話題騒然。
満場一致で、2017年6月、設立20周年記念サバ缶「サバランチ」の開発が決まった。
試食を繰り返す日々、会議室は常にサバの香りでいっぱい
かくして「お前がアイデア出したんやから頼むよ」と開発チームのリーダーに任命された芋生さん。
当然ながら、缶詰をどうやって作るかなど知るよしもない。まずは、製造に対応してくれる缶詰メーカーや缶詰工場を探すべく、片っ端から問い合わせた。しかし、ことはそう簡単ではなかった。
「全部断られました」
ロットの問題だ。どこも受付は万単位から。記念品で制作する1000個レベルでは門前払い。
「あんなに盛り上がったのに……」と頭を抱えた芋生さん。「みんなにごめんなさい、と言わなあかん」と覚悟したものの、最後の最後にもう1日だけ頑張ってみようと朝から無我夢中でネット検索を続けた結果、ヒットしたのが京都の缶詰メーカー。
「小ロット対応可能」の文字を頼りにすがる思いで訪問すると、缶詰メーカーの社長は「面白い、一緒に取り組もう」とまさかの快諾。
協力な助っ人を得て、チームは勢いづいた。どうせ作るなら、本格的なものを作ろう。
缶詰に使用するサバは、メーカーが選んだものを試食して厳選。その結果、脂のりバツグン、身がプリプリした上質なノルウェーサバを使用することになった。
さっそく、工場で試作してもらうと、「缶詰」の難しさを知ることになる。
「缶詰になると、当然味わいが変わってきます。塩のちょっとした加減で、仕上がりの味が違ってくる」と芋生さん。
最高のサバ缶を作り上げるために試行錯誤の日々が始まった。
素人だからこそ怖いもの知らずの「妥協なし」。
コスト度外視で味を追求していった結果、「配合する調味料がどんどん増えていってしまい……」と芋生さん。
たとえば胡椒仕立ての缶詰に使っているのは、サバ、食塩、グリーンペッパー、白胡椒、黒胡椒、乾燥ローリエ……
お、多い……。
すべてはいいものを作るため。缶詰屋泣かせの配合だったのである。
チーム全員での試食の日々。会議室は毎日、サバの香りでいっぱい。当時を振りかえり、西川さんが語る。
「朝、会社に来たら開発会議でずらーっとサバ缶が並んでいて。外出して打ち合わせをして帰ってきたら、まだずらーっとサバ缶が会議室に並んでいて。『ああ、まだいるね、サバ』って言いながら試食していました……」
最高のサバ缶を作るには、他社の缶詰を研究しなければと「ありとあらゆるサバ缶を買い漁り、味を確かめました」と芋生さん。
食べた個数は100缶以上!
足の先から頭のてっぺんまでしみ込んだサバ。もはや、サバと一心同体になったメンバーは、「サバ缶プロフェッショナル」として、確かな舌で目指す味を極めはじめた。
味以外にもこだわっていることがあった。缶を開けたときの「見た目」である。
開けてテーブルに置いただけで、食卓が華やぐ缶詰にしたい。さすが広告制作会社。
クリエイターたちはビジュアルに厳しいのだ。ローリエは上! 唐辛子もまるごと上! ペッパーは見えるように!
「にんにくも苦労しました」と芋生さん。最初はみじんきりだったにんにくは、「ビジュアルのため」に、薄切りにして上にのせることに変更。
しかし、薄すぎると加熱したときに崩れる。美しく仕上がるほどよい厚さにするために試作を繰り返した。
「また工程が増えたよ……と缶詰メーカーには嘆かれました」(芋生さん)
「なんでここまですんの?しょうもなー」っ笑ってほしかった
思わず質問してしまった。
本業は……!?
「しばらくは、ほとんどこれだったような」と芋生さん。
広告制作会社の社員がヒマなわけはない。社員数20人。ほぼ全員がなにがしかでサバ缶制作に携わった。
「とにかくびっくりするものを贈りたかったんです」と佐々木さん。「20周年だからって、なんでここまですんの、しょうもなー、って笑ってほしかった(笑)」
念のため補足しておくが、関西人において「しょうもな」は、ほめ言葉である。
「ここまで本気でやるから、最高のクオリティやからおもろいんやって」。まさに「関西人パワー」、炸裂である。
かくして完成したサバ缶「サバランチ」がこちら。
さっそく、得意先に配った。反応はほとんど共通していた。
「20周年の記念品をお持ちしました」
「なになに、ありがとう。……は?サバ缶!なんでサバ缶!?」
「いやうち、アバランチなんで、サバランチ」
「ダジャレ〜!?」
そして2〜3日後に連絡がある。
「これ、めちゃくちゃ本格的で、美味しいやん!」
ダジャレや言うてたから、さして期待してなかったのに、と。
まさに、にんまりするほど目論見どおりである。
ダジャレからはじまったサバ缶は、あまりの美味しさに追加オーダーがたて続き、限定1000個が瞬く間になくなった。
そして品切れ後も「また食べたい」「どこで買えるのか」と問い合わせが殺到した。
日本初の「おもてなしサバ缶」誕生へ
そして、ここで終わらないのが、アバランチ精神のすごさだ。前代未聞の広告制作会社のサバ缶販売が決定。
「わたしたちは制作会社なので、自社コンテンツがなかった。でもあったらいいね、という話がずっとありました。今回せっかく自分たちでも満足できて、どこに出しても恥ずかしくないサバ缶ができあがったのだから、商品化していろんな人に食べてもらいたい、という話になったんです」と西川さん。
サバランチに関わったメンバーは再び、商品化のプロジェクトメンバーに任命された。
コンセプトは「おもてなし用の缶詰」。コスト度外視で作ったサバ缶の値付けは商品化となれば、高くならざるを得ない。
しかしそれは素材、製法、工程において、とことん完成度を追求したがゆえ。スペシャルな「ギフト」としてのニーズを狙った。
サバランチとして登場した2品に加え、新作として「カレー味」を追加することにした。
目指したのは「カレー味のサバ缶」ではなく、「サバのカレー缶」。それもきわめて本格派のスパイスがきいたカレーだ。
カレー味を追加して誕生した、サバを贅沢に堪能するおもてなしサバ缶「No.38」。サバ缶とは思えない高級感あふれるパッケージ!
商品名の「No.38」は、サバをストレートに表現するとともに、世界中の人にわかる名称として名付けられた。いつか、目指すは海外だ。
パッケージのこだわりもハンパない。
「高級感がありながら、これまで見たことのないデザインを」
と工夫を重ねた。缶詰はひとつひとつ、おしゃれなサバが描かれたパッケージで個包装。「ホームパーティーなどのニーズも考えて、遊び心も盛り込みました。箱を開けるとサバが笑っているんです」と西川さん。
箱の上ぶたを開くと、にっこり、口角の上がったサバのイラスト。思わずクスッと、微笑んでしまう。
「サバからのメッセージもあります(笑)」と西川さん。
なんと箱の反対側には「おつかれさば」や「おかげさば」「ごちそうさば」の文字!
さらにサバのイラストが箔押しされた、スタイリッシュなギフトボックスには秘密がある。「『隠れサバランチ』です。お伝えしないとわからないと思うんですけど」
「お伝えされても」相当わかりづらいので、ぜひ目を凝らして探していただきたい。
かくしてNo.38は6月4日から自社ECサイトにて販売がスタート。
サバランチだった「三種の厳選胡椒仕立て」「辛味引き立つガーリックオイル仕立て」と、新作「スパイス香る芳醇カレー仕立て」の計3種だ。
1缶1200円。日本一高いサバ缶にもかかわらず、日本全国から注文が入り続けている。もちろん、受注、梱包、包装も社員自ら行っている。
終わりに
最後に、サバ缶がアバランチにもたらしたものは?と、尋ねてみた。
「可能性ですね」と佐々木さん。
「新たなサバ缶という事業を、みんなで楽しみながらチャレンジしています。今後、この経験は僕たちにとって、絶対にプラスになると実感しています」
サバ缶をとおして、社内でのコミュニケーションも活性化したという。
社内を回遊し、そして日本各地への回遊をスタートしたサバ缶。隠し味は「本気でとことん楽しもう」の「アバランチ精神」。
すばらしく美味しくてカッコよくて、ハッピーなサバ缶「No.38」。プロではないからこそ作ることができた「ドラマな味わい」をぜひ楽しんでみてほしい。
ライター紹介
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池田陽子
- 薬膳アテンダント/食文化ジャーナリスト。立教大学卒業後、出版社などにて女性誌、機内誌の編集を手がける。国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。自身の体調の改善、ふだんの暮らしの中で手軽に取り入れられる薬膳の提案や、漢方の知恵をいかしたアドバイスを、執筆、講習会などを通して行う「薬膳アテンダント」として活動。また、日本各地の食材を薬膳的観点から紹介する活動も積極的に取り組み、食材の新たな魅力を提案、発信を続け、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。サバファンが集う「全日本さば連合会」の広報担当・サバジェンヌとしても活動。
■池田陽子公式HP
http://www.yuruyakuzen.com/
■全さば連
http://all38.com/