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平成最後の夏。クリームソーダと恋。

幼稚園からの幼馴染で、小学校が同じクラスで、同じマンションに住んでいた「さきちゃん」という子がいた。

ちょっとハーフっぽい顔立ちで、華奢なのに運動ができて、性格も良い。

クラスの男子の中でも人気があったが、幼馴染&同じマンションというアドバンテージを活かして、家族ぐるみの付き合いをしていた。

そんなさきちゃんの家族と「こどもの国」に行った帰り。

東京川崎インターチェンジを降りて家の方面に向かうとあった、今はなき「すかいらーく」。

「今日はここにしよっか、さきちゃんの家族と」

他の家族と食事をともにする。不思議な高揚感につつまれる。

席についた。さきちゃんは何を頼むんだろうと様子を伺う。

「あたし、クリームソーダがいいな」

あ、うちとは違うセンスだ。

うちにクリームソーダが並ぶことはまずない。

テーブルに降り立ったクリームソーダはなんだか大きくて、僕には不釣り合いな気がした。

けど、さきちゃんにはなぜかスッと収まっている。

おいしそうだなぁ。

「飲んでみる?」

あれ?声が出ちゃったかな。

でも口に出したわけではなさそうだ。

うれしさと恥ずかしさがこみ上げる。

おそるおそる、さきちゃんのストローに手を伸ばす。

正直、味のことは覚えていない。ストローに全神経が集中していた。

恋ともつかない、男女の思い出。

それが最初のクリームソーダ。わたしの最初のクリームソーダ。

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画像引用元:https://retty.me/area/PRE13/ARE17/SUB1701/100000849675/2306978/

「じゃあわたしクリームソーダ」

サークルで同期のちあきとコメダ珈琲にいくと、決まっていつも彼女はクリームソーダを頼む。

コーヒーは苦手で、でもコメダで紅茶も違うから、だそうだ。

それはきっと僕だけが知っている、ちあきの小さな秘密。

ストローから息を吹いて、ぶくぶくいわせてキャッキャと遊んでいる。

そういえば、しばらくクリームソーダ飲んでないな。

「どうぞ。わかりやすいなぁ」

無意識にずっとクリームソーダを見ていたようだ。

ひと口飲んで見る。変わらないあの味。

「へぇ〜」

え?

「意外と間接キスとか恥ずかしがらないタイプなんだぁ〜」

いたずらっぽい目つき。

意外ってどういうことだよ。

でもクリームソーダを渡されてから、口の中がカラカラになったのは秘密だ。

8歳から僕は、まだ何も変わらない。

このままちあきとは、仲の良い友達のままなのかな。

僕が抱いた恋心。これは僕だけが知っている、僕の小さな秘密。

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画像引用元:https://retty.me/area/PRE13/ARE1/SUB104/100000798780/32099759/

「おまたせ〜、トイレすっごい混んでて……あ、もうメニュー来てたのね。やっぱりこれ、超かわいいよね〜」

テーブルに置かれた3色のクリームソーダに、カメラが止まらない彼女。

「ほら、この写真とか……ねぇねぇ、話聞いてる?」

「え、あ、うん。聞いてる聞いてる」

2回言うとき、だいたい人は嘘をついている。

「でさ〜、私たちってこれからどうなるんだろうね?」

急に話題が変わるところも、今はイラッとしてしまう。

もうダメなんじゃないかな、と心でつぶやいた。

言葉を押し殺すために、クリームソーダに口をつける。

ああ、甘さは裏切らない。

さわやかさとクリームのしつこさが混ざり合って、口を幸せが包む。

「ね、どうなるんだろうね」

幸せが鬱々とした思いを押し殺した結果の、精一杯の答えだった。

彼女がトイレに持っていき忘れたスマホ。

ポンと映し出されたメッセンジャーのプッシュ通知。

知らない男のなれなれしいメッセージ。

彼女はクリームソーダすら1色に選べない。そういう女性だ。

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画像引用元:https://retty.me/area/PRE14/ARE34/SUB3401/100000004115/34609123/

バーで隣に座った彼女と僕は「西川貴教のオールナイトニッポン」をよく聞いていたことで盛り上がり、仲良くなった。

何度かバーで飲んだあと、そのまま僕は告白した。

そしてはじめての鎌倉デート。

ちょっと早めに行って、イワタコーヒーのホットケーキで腹ごしらえ。

「私はクリームソーダにしようかな。なんか『っぽい』じゃない?」

そういえばお酒を飲んでいない彼女を見るのは初めてだ。

「おいしいね」

「うん、おいしいね」

……………。

あれ?おかしい。

続かない会話。バーではあんなに続いていたのに。

バーで盛り上がった会話をまたするのも微妙だし。

でもなんでこんなに盛り上がらないんだろう?

……そうか。

「お酒を飲んでいない彼女を見るのは初めて」だ。

そして僕もお酒を飲んでいない。

ラフロイグソーダ割りを飲む彼女が、僕は好きだったんだ。

でも人生はお酒を飲んでいない時間のほうが長い。

2週間後、LINEを送る。

「今度ご飯いかない?」

返信がきた。

「ごめん、別れよう」

1ヶ月で終わった、短い恋。

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画像引用元:https://retty.me/area/PRE13/ARE1/SUB104/100000010163/18373947/

彼女はどこか変だ。

やたら寝るのが好きで、仕事はできるのに、料理をしている最中に火をつけっぱなしで放置してしまうなんてこともある。

飲むものは決まって「色のついた炭酸飲料」。家ではコーラばかり飲んでいる。

でも一緒に過ごしていて、飽きない。

いつも彼女に頼ってばかりだけど、不思議な生き物を飼っているような感覚になることもある。

今日は久々のデート。

「えっと、コーヒーと、クリームソーダ」

外食だと彼女はクリームソーダを頼む。

お互いの飲み物がなくなるまで話しても、話足りない感覚。

また新しい話題が生み出される楽しさ。

わからないからこそ、もっと知りたくなる。

今はアルコールも入っていない。

彼女とは、一生やっていけるかもしれないな。

「ねぇ」

「ん?」

「ちょっと話があるんだけどさ……」

夢もロマンチックもないプロポーズ。

日常に溶け込んだ、永遠への告白。

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平成最後の夏が終わる。

私が過ごした時間を振り返る。

クリームソーダと恋。

どちらもはじけて、日常になる。

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ライター紹介

坂口 淳一
坂口 淳一
飲食店の熱い想いを世の中に発信したい。タイ料理担当。好きな食べ物はパッタイだけど、豚の角煮も大好き。
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