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【相撲めし】元力士の店だけど、ちゃんこ以外も美味いよって伝えたい--赤羽「どすこい酒場 てんま」

大相撲の9月場所も終わり、本格的な秋の訪れを感じる今日この頃です。観るものがなくなった……と若干寂しくなっている方もいらっしゃるのでは?

福岡で開催される11月場所まで、まだ1ヶ月もあります。その寂しさを埋めるように、ときどき相撲グルメを食べ歩いて、相撲にふれることにしたいと思います。

赤羽OK横丁へ

赤羽OK横丁へ

赤羽OK横丁内の「どすこい酒場 てんま」へ

さて、元力士が営む飲食店を訪ね歩く本連載「相撲めし」5回目で伺ったのは「どすこい酒場 てんま」

オーナーは最高位幕下48枚目の元・千代天満さん(横山満さん、以下横山さん)。

1977年(昭和52年)生まれの41歳。1993年(平成5年)に初土俵を踏み、11年に及ぶ力士生活に幕を下ろしてからは飲食業界で働き、赤羽OK横丁にてんまをオープンして7年になります。

「力士引退後はまず栃木の飲食店で働きました。ホテルメトロポリタン エドモントの副料理長が、栃木に店を出すというので、その手伝いに行ったんです。それから5カ月後くらいに、今はもう閉店した青山のちゃんこ屋で働くようになりました。

その後は親戚が経営する自動車会社で一時的に働いて、赤羽で知人の店を手伝っていたのが、ちょうど2011年、震災の年でした。地震があったときに、この近所の別の物件を借りようとしたんですが断られて、たまたまそこの斜め前に見つけたのがここ(てんま)だったんです」

福島の悪ガキが名門・九重部屋へ

福島県東部、太平洋側沿岸に位置する双葉郡広野町で生まれ育った横山さんは、自身を「田舎の悪ガキでした」と振り返ります。2歳のときに両親が離婚。祖母に育てられました。

「頭も良くないですし、悪さをして校長室に呼ばれたこともありました。親代わりになってくれたばあちゃんには苦労をかけたと思います。それもあって親孝行したいなと思って、相撲界に進もうと決めました」

力士になるチャンスを運んできてくれたのは叔父でした。1998年に27歳の若さで引退した元巴富士関(最高位小結)の後援会を運営していた叔父は、元巴富士関が所属する九重部屋に入門する力士志願者を探していたのです。

当時から体格が良く、小5で始めた柔道は高校から推薦がくるほどの実力をつけていた横山さんは、中2の終わりに相撲で生きていこうと決心します。

相撲は自分の体ひとつで勝負するもの、と聞いてその道に進みたくなりました。当時、ドラマ『千代の富士物語』(フジテレビ系、1991年6月放送)を見ていたこともあって、(同年5月に引退発表した元千代の富士関が所属していた)九重部屋に入れる喜びもありましたね」

10代の稀勢の里関と闘った記憶

入門時すでに173cm、110kgと体はできあがっていました。厳しい柔道部時代を過ごしてきたせいか、「キツかったけど『番付を上げるんだ』と思ったらがんばれたし、同期生が20人くらいいたから楽しいこともたくさんあった」と話します。現在は谷川親方として知られる、元北東力関(最高位は関脇、2011年に引退)も同期のひとりでした。

最もキツかったのは食事。九重部屋のちゃんこ鍋では、肉や野菜と一緒にそうめんを湯がくのがお決まりでした。20〜30把のそうめんを皆で食べて、さらに三合窯ふたつ分の米も食べなければならない……食べることも力士の仕事のひとつとはいえ、なんともハードな食生活です。

土俵内のエピソードで印象に残っているのは、現横綱・稀勢の里関との取り組み。2002年(平成14年)に初土俵を踏んだ稀勢の里関は、序の口、序二段、三段目と場所ごとに番付を上げていました。横山さんと稀勢の里関が闘ったのは、まさに2002〜2003年にかけての時期。

一度は幕下まで上がったものの、ケガや手術、休場などで番付を下げていて、力士生活が終盤に近づいていた横山さんと、これから番付を駆け上がっていくことになる、若くて勢いのある稀勢の里関。

「今でも記憶にある取り組みです。土俵際で2回はたかれて負けました。彼の四股名が『萩原』だったときから、確実に強い力士になると思っていた相手だけに、なかなか忘れられない一番でしたね」

力士をやめようと決めて臨んだ場所

2018年七月場所では全休し、九月場所では幕下陥落も囁かれる蒼国来関(2018年8月23日時点では十両10枚目)との取り組みも、横山さんの脳裏に焼き付いています。

「僕が顎の骨を折るケガで手術をして、3〜4場所休場した時期があったんですね。結果、序の口まで番付が下がった、2004年頃だったと思います。当時、相撲界に入って間もなかった蒼国来関は、師匠から『千代天満さんを破れば優勝できる』と言われていたそうです」

完全な番付社会において、幕下という地位に上がるのも簡単ではありません。一度幕下に上がった力士だからこそ、一番下の地位である序の口、その次の地位である序二段の力士よりも強いに決まっている――蒼国来関がそう気を引き締めるのも当然のこと。この勝負に負けたのは横山さんでした。

「序の口で優勝しなかったら、力士を廃業しようと決めていました。未練はなかったですね。先代師匠からはもう少し続けろと言われましたが、部屋にやめたい力士がいたら、下の子たちの士気も下がるじゃないですか。だからきっぱりやめたんです」

スフレみたいな「だし入り玉子焼き」が大人気メニューに

引退後の仕事は飲食業と決めていました。というのも、幼いときの夢はコックさん(!)で、実家に住んでいたときから料理をしていたから。もちろん、相撲部屋で食事(ちゃんこ)を作る手伝いをしていたことも、飲食の道へ進む理由のひとつになりました。

季節ごとに変わるグランドメニューでとくに人気なのは、今年開発された「だし入り玉子焼き(ふわふわ玉子焼き、550円)」です。卵白でメレンゲを作ってから鉄板で焦がさないように焼く、難易度の高いふわふわした玉子焼き。

常連のお客さんからは、「腱鞘炎玉子」と名付けられているそう。厨房で女将が超高速で玉子をかき混ぜて、手動でメレンゲを作る姿を見ると、確かに注文がたくさん入ったら腱鞘炎になりかねない!? と思わされました。

「インスタ映え用(笑)に作りました。僕は一度焦がしてしまったので、今は女将が作るようになりました。時間が経つとふんわり感がなくなるので、撮影があるときは写真を撮る直前に(作ってと)言って、と伝えています」

その言葉通り、びっくりするくらいふわっとした玉子焼きが登場。スフレのような食感です。それでいてお出汁のこっくりした味わいが優しく、珍しい食感とあいまってリピートしたくなる一品。

「最初は2〜3ヶ月グランドメニューに入れておいて、注文があまりなければやめればいい、と考えていました。みんな最初はだし巻き玉子だと想像して注文するんですよね。でも、運ばれてくるのは鉄板に乗ったふわふわの玉子焼き。

『えっ!? 何これ! すごい!』って感じで驚かれるので、それを見た隣の席や近くの席のお客さんも『自分も食べたい!』と注文してくれるんですよ。今では店の人気メニューのひとつになりました」

ちゃんこ鍋と裏方鍋!?

人気メニューというと、夏は完全予約制のちゃんこ鍋も紹介しないわけにはいきません。この日出していただいたのは「スープ炊きちゃんこ鍋」(1人前1500円)。

鶏と豚、キャベツ、もやし、しめじ、えのき、ニラ、茄子、油揚げなどが入っています。肉も魚も……と、何でも入れる寄せ鍋ではなく、相撲部屋の本場のちゃんこ鍋です。

左が裏方鍋用の鍋。一見大きさは同じですが、右の一人前用の鍋のほうが具材を高く盛れます。

左が裏方鍋用の鍋。一見大きさは同じですが、右の一人前用の鍋のほうが具材を高く盛れます。

嬉しいのは1人前からいただけるところ。さらに、カウンター席でひとりで食事をする人限定で、「裏方鍋」(※)という1人前よりも少しだけ少ない量・金額で提供するちゃんこ鍋も用意しています。

※裏方=相撲用語で「一般人」の意味。

こちらは女将の発案で、ひとりで食事に来てちゃんこ鍋だけでなく、いろいろな料理を食べたい人向けに作ったそう。 

鶏と豚の出汁がしっかり出た、滋味に富むスープが心身に染みます。シメは横山さんおすすめの全粒粉の麺をチョイス。スープとの相性抜群です。美味しく完食しました。

日替わりのおすすめメニューも人気のてんま。赤羽OK横丁へ一度足を運んでみてください。きっと美味しい相撲めしに出会えるはずです。

(※金額はすべて税込となります)

ライター紹介

池田園子
池田園子
フリーの編集者/記者。女性向けメディア「DRESS」編集長。著書に離婚経験後に上梓した『はたらく人の結婚しない生き方』など。プロレスが好きで「DRESSプロレス部」を作りました。
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