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元常連が"消えゆく味”を継承。前橋の焼きそば専門店、20年ぶりに復活【あくざわ亭】

今からひと月あまり前の7月24日。

群馬県の県庁所在地・前橋市に、あくざわ亭という焼きそば専門店がオープンした。上毛新聞の記事によると、20年前まで前橋にあった「あくざわ(阿久沢)」という店の焼きそばを、一人のお客さんが再現したという。

同様の記事は朝日新聞デジタルでも報じられた。

前橋市の焼きそば専門店「あくざわ亭」

前橋市の焼きそば専門店「あくざわ亭」

元常連が今はなき店の味を継承して開業するケースは、多くはないが全国各地に例がある。

焼きそばだと愛媛県松山市の「じゅん」、大阪今里の「長谷川」、栃木県鹿沼市の「かりん」。

私は未訪問だが、今年5月にオープンした函館の「超特急やきそば」もそうだ。

「消えゆく味を残したい」というのは私の焼きそばブログのテーマでもある。

後継者不足や様々な理由で長年親しまれた味が次々と消えて行く昨今だが、こういう事例が徐々に増えつつあるのは、個人的にとても嬉しい。

実際にどのような焼きそばなのか、店主はどんな方なのか。気になるので、そのあくざわ亭を訪問してみた。

訪れたのは8月下旬の土曜日の正午前。群馬県庁や前橋市役所が集まる官庁街に隣接する通りで、あくざわ亭の看板を発見。

ちなみに定休日は日曜と月曜で、なおかつ当面は昼営業のみ。平日に来れない人は土曜の昼しかチャンスはない。また、駐車場は無いので車で訪れる人は注意が必要だ。

「あくざわ亭」店内の様子

「あくざわ亭」店内の様子

店内の客席はテーブルが大小5卓。卓上にはソース、青海苔、コショウ、唐辛子などが置かれている。

昼前の11時40分ごろで客席は半分くらい埋まっていた。持ち帰りの注文もたくさん入っているようだ。

メニューは焼きそばと飲み物のみ。焼きそばは並・大・特盛の3サイズあり、特盛は並の2倍とのこと。

他のお客さんの食べる分が減ってしまうのも申し訳ないので、特盛ではなく大盛(600円)を注文。

焼きそばはすぐに運ばれてきた。青海苔を適量振り掛けて、さて、いただきます。

焼きそば 大盛(600円)

焼きそば 大盛(600円)

麺は太い蒸し麺。ゴワゴワとした硬さで、噛みごたえのある麺だ。箸で持ち上げると、もっさりとした重みを感じる。

ところどころ焦げた切れっ端が混ざっている点も含めて、新宿・思い出横丁にあった若月の焼きそばを彷彿とさせる。

今年1月に閉店したあの若月の焼きそばを、まさか前橋で思い出すとは。オリジナルの「あくざわ」の味を知らない余所者の私だが、なぜか懐かしさを感じてしまう味わいだ。

具はキャベツと玉子と肉。この玉子の使い方が面白い。あらかじめ薄焼きにしておいた玉子を切り分けておき、それを麺やほかの具と炒めているようだ。

歯応えと風味にアクセントが加わって、この焼きそばを特徴づけている。味付けはさっぱりしたウスターソース。地元メーカーのミツボシソースというブランドらしい。

焼きそば自体にしっかり味付けはなされているが、さらに濃い味が好きならソースを少量、後掛けしても良いだろう。

ソースを後掛けしても良し

ソースを後掛けしても良し

食べ終えて、お会計は600円。あくざわの創業は昭和20年ごろらしいが、それがこうして復活したのは真に喜ばしい。

さらに詳しくお話をうかがいたく、ご主人にお願いして閉店した後に再訪させていただいた。

こちらがあくざわ亭のご主人、高橋英男さん。長年、前橋市役所に勤務し、当時の役職を兼ねて「焼きそば部長」と呼ばれていたそうな。仕事上がりでお疲れのところ、ありがとうございました。

「あくざわ亭」店主・焼きそば部長、高橋英男さん

「あくざわ亭」店主・焼きそば部長、高橋英男さん

お話の中で何度も出てきた言葉が、「自分が喰いたい一心だった」という焼きそば作りの動機。そのために麺やソース、油や焼き方などを調べ、研究してきたという。

「最初は美味い不味いのレベルじゃなかった。どれだけ捨てたか分からない」

探求を続けて何年か経った頃、「グンッ」と目指す味に突然近づいたという。そこから練習を兼ね、友達の店で知り合いに何度か試食させてみた。

もっとこうだったとか、自分も忘れていた細かな点を指摘され、改善を加えて「あくざわ」の味に近づけていった。

開業前にはあくざわの遺族の方にも試食してもらい、いただいた助言を反映した。ただ、本人的にはまだ100%ではないという。

近づくときは徐々にではなく急に、だそう

近づくときは徐々にではなく急に、だそう

「もともと自分が喰いたい一心で再現しただけで、正直、商売にする気はなかったんです」

実は前橋市の現市長、山本龍氏もこの「焼きそば部長」を応援している。山本市長がTwitterで初めて紹介したのが今から5年前の2013年。

この投稿でもわかるように、当初は自分が広めるつもりはなく「味を受け継ぐ人」を募集していた。(なお、Twitterには、他にもあくざわの焼きそばを探求している方がいる。その辺りからも、あくざわの焼きそばがどれだけ前橋で親しまれていたかが伺い知れる)

あくざわ亭を手伝う奥さんは、「お金より身体が心配。ハマり症で熱心にやりすぎるから……」とのこと。上毛新聞の記事によると、ご主人は大病を経験されている。

前述の通り、日月の週休二日かつ当面は昼営業のみというのも、負担を考えてのことだろう。ご主人も、「あまり宣伝してたくさん人が来すぎても、作れる分は決まっているから」とおっしゃっていた。

この記事の掲載は許可を得ているが、遠方から訪問する方はその辺りの事情も踏まえていただければと思う。

ただ前橋の味がこうして次世代に伝えられることを、「本人が一番楽しんでいる」とも強調していた。

「全国からどっと来られるよりも、地元の人たちが喜んでくれれば、ね」

高橋さんの熱意が結実した、あくざわ亭でしか味わえない渾身の一皿。

いつしか「あくざわ」の焼きそばではなく、「あくざわ亭」の焼きそばとして親しまれてゆくに違いない。

あくざわ亭
住 所
群馬県前橋市千代田町2丁目1−21
電 話
027-235-1530
営業時間
火曜~土曜:午前11時~午後2時
定休日
日・月

ライター紹介

塩崎省吾
塩崎省吾
焼きそばブロガー、ライター、編集者。本業はRettyのエンジニア。 2011年から、ブログ「焼きそば名店探訪録」を開設。日本全国の焼きそば名店を探しては食べ歩き、47都道府県を制覇。「焼きそば」達人として、TV・雑誌をはじめいま注目を集めている。
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