大相撲十一月場所が11月11日(日)からいよいよ始まります。九月場所を終えて大相撲ロスに陥っていたものの、「もうすぐ見に行ける」と思うと希望が湧いてきます。
本場所がないときでも、自分なりに“相撲イベント”を作りたい! そんな私がしているのが趣味と仕事を兼ねた「元力士がオーナーを務める飲食店巡り」です。
小田原出身の元力士が地元にオープンした食堂へ
今回は2018年5月に小田原にオープンした「どすこい力士食堂」へ行ってきました。出迎えてくれたオーナーの秋山隆司さん(元 秋乃峰將司さん)は現役時代、身長191.3cm、146kgと体格に恵まれた人物。
柔道に励んだ小学時代とは一変。中学時代はバレー部に名前貸しをしつつ、実質は帰宅部でした。それでも地元では体が大きいことで有名で、相撲未経験者ながらも相洋高校の相撲部監督からスカウトされ、特待生扱いで入学。
1〜2年生では結果が出ず、3年生になって県内大会で優勝、国体にも出場するまでに。高校卒業後は在学中から合宿へ参加していた峰崎部屋へ入門します。
「当時は『少し力が付いてきたから、大相撲でがんばってみようかな』という軽い気持ちでした。まさか18年も大相撲の世界にいるとは思っていなかったです」(秋山さん)
序二段の地位(一番下の序の口の上)にいたとき、巴戦(3人で優勝を争う)で見事優勝した秋山さんは、入門から約5年で幕下という地位へ上がります。最高位は幕下26枚目で、もう少し上に上がっていけば、関取になれる可能性のある地位にいました。
引退は2013年1月。体重は当時とあまり変わっていないそうで、立派な体格はひと目で元力士だとわかります。個人的な感想ですが、声や話し方が伊集院光さんに似ていて、ほのぼの感があって癒やされます……!
巨大すぎるふっくらジューシーからあげに歓喜!
ランチで伺ったこの日、いただいたのは「からあげ定食」(880円・税込)。どすこい力士食堂を訪れたお客様が、ブログやSNSなどにそのボリューム感を歓喜の声と共に投稿していました。
私もいかにも力士らしいその定食を食べたいと思い、「鶏の塩ちゃんこ鍋定食」(1000円・税込)などもあるなかで、あえてからあげ定食をチョイスしたのです。
す、すごい……巨大なからあげが6個も盛られています。この迫力、サイズ感、iPhoneや爪楊枝ケースと並べてみたので、どれだけ大きいかじっくり見てみてください。
「からあげ定食のこだわりはやっぱり大きさですね。店名が力士食堂ですし、いかにもお相撲さんっぽいサイズがいいなと思いました。大きくて火が通りづらいため、二度揚げしていますが、お肉のやわらかさを楽しんでいただけるよう工夫しています」
確かにふっくらしていて、とてもジューシー。外はサクサク、中はじゅわっ。最高な食感の組み合わせで、幸せな気分になります。
1日2升炊くというごはんはお代わり自由で、最初からセルフサービス。大食いな男性の中には5杯くらい食べる人もいるそうです。
セットでつくスープは、鶏ベースで優しい味わい。スープではなく味噌汁が提供される日もあるそうです。
ちなみに、「鶏の塩ちゃんこ鍋定食」にはスープ類が付かない代わりに、そのときどきの地魚で作った小鉢付。たいていお刺身で、取材当日はウニを出していただきました。豪華……!
峰崎部屋では「じゃがいも」料理が多かった
お店は、元々ラーメン屋だった店舗を居抜きで購入し、壁を白く塗って、相撲部屋のような雰囲気に作りかえたのだとか。
白壁は内装屋さんに依頼し、下のはめ板は秋山さんが自分で打ったという。なんと器用な……!
現在、昼営業はひとりで、夜営業はバイトをひとり雇って切り盛りする秋山さん。大相撲引退の約1年前から「ちゃんこ長」として、所属する峰崎部屋で腕を振るっていました。
ちゃんこ長というと、ちゃんこ番(料理担当)を務める力士たちの“上”にいて、味付けの最終チェックをするなど、一般社会でいうと“管理職”的なイメージがありますが、秋山さんは新弟子などに手伝ってもらいながらも、自ら料理を作っていました。自らも動いて、部下の管理もするプレイングマネージャー的な立ち位置だったと思われます。
「将来、自分の飲食店を持つのが目標だったので、ひとりで1から10までできるようになっておきたかったんです。稽古後の食事は鍋がメインで、ごはんと漬物を用意するほか、2〜3品のおかずを作っていました。夜の食事はお客様が来るときは、昼とは違う鍋を作っていましたね」
峰崎部屋のちゃんこ鍋は独特で、親方が甘辛い味の鍋が好きではなかったため、すき焼きを薄めにしたような“そっぷ炊き”はなく、塩ベースの鶏ちゃんこが主だったのだとか。
「具材は特に変わったものは入れていませんが、今思うとじゃがいもを入れていたのは、珍しいかもしれませんね(笑)。後援会の方などからたくさんいただいていたのか、じゃがいもを使った料理はけっこう多かったですね。僕も肉じゃがをよく作っていました」
親方のはからいで……力士時代に料理修行
大相撲の世界では引き際は自ら決めます。戦力外通告を受けることは基本的にありません。引退を決意したのは膝の怪我の影響が大きかったですか? そう聞くと肉体的苦痛よりも、精神的な問題が大きかった、と秋山さん。
「膝は手術すれば直ります。それよりも気持ちが土俵に向かわなくなっていたんです。納得のいく稽古がほとんどできなくなっていて、本場所で結果も出せなくなっていたので」
心では「体はまだ動く」と思いながらも、長年の力士生活で体は満身創痍。心と体の状態が乖離してしまい、力士として晩年に近づいている、と自覚した秋山さんは親方にやめる意志を伝えます。
やめたら何をするのか聞かれ、「将来自分の飲食店を持ちたい」と第二の人生について話すと、親方の先輩が切り盛りする「ちゃんこ北等」(埼玉県・上福岡)へ修行に行かせてもらえることに。
「毎日稽古が終わってから店へ行き、22時くらいまで夜営業を手伝い、相撲部屋に戻る生活を半年ほど続けていました。たくさん勉強させてもらいましたね。親方には本当によく面倒を見てもらいました。地方場所では『勉強になるだろう』と、なかなか行けないような飲食店へ連れていってくれましたし」
引退後はチムニー(海鮮居酒屋はなの舞などを展開する居酒屋チェーン)に半年勤めた後、小田原・箱根で様々な飲食店を展開する会社に4年勤め、独立に至ったのでした。
現在出しているちゃんこ鍋やからあげ、生姜焼き、豚キムチ、餃子、牛すじ煮、いかの塩辛など、大半は相撲部屋に所属していた頃から作っていたものばかりだといいます。
力士らしいボリューム感がある、満足感たっぷりの料理を提供してくれる「どすこい力士食堂」。
自称・マイペース、適当人間だという秋山さんですが、にこやかで親しみやすいオーナーです。美味しい料理を味わいに行ってみては。
- どすこい 力士食堂
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神奈川県 小田原市 中町
定食
ライター紹介
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池田園子
- フリーの編集者/記者。女性向けメディア「DRESS」編集長。著書に離婚経験後に上梓した『はたらく人の結婚しない生き方』など。プロレスが好きで「DRESSプロレス部」を作りました。