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日本のクロマグロ漁、95%は赤ちゃんを乱獲 いまマグロに何が起きているのか?

寿司や刺身で定番の魚といえば、真っ先に「マグロ」が思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。特に“マグロの王様”として知られているのがクロマグロ(本マグロ)で、マグロの中で最も大きく成長し、最も高値で取引されています。

クロマグロには、日本近海で産卵し、日本の太平洋側からカリフォルニアにかけて回遊する「太平洋クロマグロ」、メキシコ湾から地中海まで、北大西洋に分布する「大西洋クロマグロ」の二種類があります。

いま、前者の太平洋クロマグロが初期資源量の3.3%まで減少し、過去最低レベルにまで落ち込んでいるといわれ、大きな問題となっています。

このままでは近い将来、太平洋クロマグロが食べられなくなるかもしれません。

なぜクロマグロは大きく減ってしまったのでしょうか? 東京築地で開催された、マグロと漁業・魚食業の未来を考えるシンポジウム「まぐろミーティングVol.1」で、日本のマグロ漁業が直面している問題について語られました。

マグロに何が起きているのか? マグロ漁の歴史と資源量減少の背景

「まぐろミーティング」の主催は、食の文筆家・マッキー牧元氏による「日本の魚を考える会」、持続可能なシーフードの普及を目指した活動を続けるシェフとジャーナリストのグループ「一般社団法人Chefs for the Blue(シェフス・フォー・ザ・ブルー)」。

当日は築地仲卸業者の方や青森・大間の漁師の方、「すきやばし次郎」の小野禎一さん、「カンテサンス」オーナーシェフの岸田周三さんなど、漁業や飲食関係者が次々と登壇しました。

本記事では、「まぐろに何が起きているのか」というテーマで登壇した、東京海洋大学の勝川俊雄准教授の講説内容を書き起こしてお届けします。

***

【講演開始】

「日本の漁業が衰退している状況を何とかしたいと10年以上活動してきた」と話す東京海洋大学の勝川俊雄准教授。

「日本の漁業が衰退している状況を何とかしたいと10年以上活動してきた」と話す東京海洋大学の勝川俊雄准教授。

太平洋クロマグロ(以下、クロマグロ)は日本のまわりに非常に多く住んでいたことがわかっています。過去の古墳などからクロマグロの骨や、骨に銛(もり)が刺さっているものが出てきています。つまり、クロマグロは沿岸付近にたくさんいて、銛で突けるような魚だったんです。

これは江戸時代のマグロ漁の絵ですが、沿岸近くにやってきたマグロを地引網で獲る様子が描かれています。【出典元:山梨県立博物館】

これは江戸時代のマグロ漁の絵ですが、沿岸近くにやってきたマグロを地引網で獲る様子が描かれています。【出典元:山梨県立博物館】

このように、昔はクロマグロは日本の沿岸にありふれた魚だったんですね。ところが現在は、産卵場に行かないと獲れないという状況になってしまいました。

クロマグロ漁業の歴史。漁獲量は大きな増減を繰り返し、近年は減少傾向にあることがわかります。【出典元:ISC 2016】

クロマグロ漁業の歴史。漁獲量は大きな増減を繰り返し、近年は減少傾向にあることがわかります。【出典元:ISC 2016】

明治時代に沿岸の魚を獲りつくして、遠くに行かないと獲れなくなってしまいました。その後、魚群探知機ができ、海中の魚の群れが見られるようになって、東北の三陸辺りで一斉に獲るようになります。そして、それも獲れなくなると、今度はさらに高性能な用具を使って、未成魚を獲ったり、産卵場で獲ったりしはじめます。つまり、手近なところからどんどん獲っていったわけです。

太平洋クロマグロの卵を産む親の量。1990年頃にベビーブームが起きて一時回復するも、その後再び減少。【出典元:ISC 2016】

太平洋クロマグロの卵を産む親の量。1990年頃にベビーブームが起きて一時回復するも、その後再び減少。【出典元:ISC 2016】

太平洋クロマグロ、95%は赤ちゃんを漁獲!?

太平洋クロマグロに関しては、規制らしい規制が3年前までなかったんです。だから小さいものでも獲れるだけ獲っていいというのが続いていました。

最近は規制がかかるようになったんですけれども、そのクロマグロが特に2004年ぐらいから減ってしまった。その原因のひとつは、産卵場でマグロを獲るようになったことなのです。

クロマグロは夏(6月から7月ごろ)に、日本の排他的経済水域にある産卵場で卵を産みます。

産み終わったクロマグロは北に回遊して豊富な餌を食べて、体に脂を蓄えます。ですから1月2月あたりに津軽海峡など北の海で獲れるマグロは脂が乗っていて非常においしい。

夏に卵を産みにいく頃のマグロというのは脂が非常に少なく、赤身しかないような状態になっています。不幸なことに、太平洋クロマグロの産卵場は2ヶ所しかなく、しかも卵を産む温度が決まっているんです。

その温度の場所で待っているとマグロが勝手に来るので巻網(まきあみ ※1)で待ち伏せすると非常に獲りやすいんです。

写真の赤色部分が太平洋クロマグロの産卵場。【出典元:ウェッジ2015】

写真の赤色部分が太平洋クロマグロの産卵場。【出典元:ウェッジ2015】

マグロは、産卵期に入ると餌を食べなくなります。だから延縄(はえなわ ※2)や一本釣りでは釣れないのですが、巻き網漁なら産卵をしている魚群を一網打尽にできます。数が少なくなった今は、産卵場以外での漁獲が難しくなってしまいました。

※1「巻網」…魚の群れを網で巻く漁法。 ※2「延縄」…針がたくさんついた長い縄を流し、しばらく放置してから回収する漁法。

さらに、一日で大間の一年分に相当する漁を水揚げするなど、需要を無視して獲れるだけ獲ってきてしまう。産卵期は脂がのっておらず、巻き網で大量漁獲すると丁寧な処理ができないことから、市場でも大量に売れ残り、スーパーに安く流れます。

例えば、冬の一本釣りや延縄漁のクロマグロだと、1kg5000円以上が相場のクロマグロも、6月の産卵場で獲れた巻き網ものは、1kg1000円以下で取引されることが多いのです。

魚が余っているならまだしも、絶滅危惧種になって、漁獲規制がかかる中でこういうもったいない獲り方をしてもいいのかなというのは疑問です。

産卵場での捕獲問題に加えてもう一つの問題としては、クロマグロを幼魚のうちに獲ってしまうということです。実はクロマグロの漁獲というのは95%以上が0歳から1歳の卵を産む前の小さなうちに獲ってきています。

運よく産卵開始(3歳以上)までに生き残ったものも、産卵場に来たのを巻網で一網打尽にしてしまっている。それは魚が減るのも当たり前ですよね。

クロマグロの幼魚。手のひらに乗るほどの大きさしかありません。

クロマグロの幼魚。手のひらに乗るほどの大きさしかありません。

また、魚のポテンシャルが発揮できない状態で獲っているので非常にもったいないです。たとえばクロマグロの未成魚を、日本ではこれまで毎年5000トンぐらい獲ってきたんですね。

個体数にしたら160万個体。大体27億円ぐらいの産業です。もしクロマグロを6年間海に泳がせておいた場合、7歳のマグロは体重およそ100kg、幼魚の30倍ぐらいになります。

ただ個体数は自然死亡で3分の1になりますが、全体の重量で言えば10倍ぐらいになるわけです。5000トン我慢して6年待つと、4万4000トン獲れる。大体日本のクロマグロの年間消費需要が4万トンくらいですから、実はちゃんと漁獲すれば賄えるんです。

さらに100kgのマグロだったら価値は上がります。例えば1kg5000円ぐらいになるとすると、漁獲量が10倍、価値が10倍で27億円が2000億円ぐらいになるポテンシャルがある。

しかも、日本人が食べきれなかったら輸出するという選択肢も出てくるんですね。やはりそういう形で獲り方・食べ方についてもっと何かできるんじゃないかなと思いますね。

大西洋クロマグロの例から見る、資源量回復の可能性

一方で、大西洋クロマグロも絶滅危惧種で、2007年にはワシントン条約での規制が議論されたのをきっかけに厳しい漁獲規制が始まりました。

大西洋クロマグロは、厳しい規制を入れてからぐっと増えてきました。マグロは卵を産む量が多く、食物ヒエラルキーの一番上なので、ちゃんと規制をすれば短期的に増えるポテンシャルがあります。

漁獲をしっかりコントロールすれば、日本のクロマグロも比較的早く回復する可能性が高いんです。

大西洋クロマグロの漁獲量は大きく回復し、太平洋クロマグロ(緑色ライン)は低水準で留まっている。【出典元:水産庁・水産総合研究センターの右記PDFをもとに、勝川准教授が太平洋クロマグロの資源量(緑色ライン)を比較用に追記(http://kokushi.fra.go.jp/H27/H27_05S.pdf)】

大西洋クロマグロの漁獲量は大きく回復し、太平洋クロマグロ(緑色ライン)は低水準で留まっている。【出典元:水産庁・水産総合研究センターの右記PDFをもとに、勝川准教授が太平洋クロマグロの資源量(緑色ライン)を比較用に追記(http://kokushi.fra.go.jp/H27/H27_05S.pdf)】

いま大西洋では資源が増えたので、漁獲枠を増やすことが議論されています。大西洋クロマグロの場合、50万から60万トンの成魚が棲息しているのに対し、現在の漁獲枠が2万7000トンで、漁獲率は5%ぐらいです。それを3万6000トンまで増やしてはどうかということが議論されています。

一方、日本の場合、いま親が2.1万トンしかいないのに、設定されている漁獲枠は1万4600トンです。大西洋クロマグロと比べると、太平洋クロマグロの方が資源量が少ないのに、漁獲枠が高くなっています。

そういった中で、日本は国際会議で「太平洋でもクロマグロが増えたから(2.6%から3.3%)、漁獲枠を増やそう」と提案していたのですが、他国から「まだそんな状況じゃないよ」と却下されてしまいました。それはしょうがないことかなと思いますね。

また国内でも、今年から導入されたクロマグロ成魚(30㎏以上)の漁業間での限られた漁獲枠配分というのも問題になっています。漁獲枠全体の多くが大規模な巻網漁業に大きく配分されているため、6〜7月の品質の劣るマグロに生産が集中し、またその他の延縄や一本釣り、定置網などの小規模漁業者が困窮しているという問題が起こっています。

大西洋の規制のように大規模な商用的漁業を削って、小規模な伝統漁業者を守るというのは、国連が定めた責任ある漁業の行動規範やSDGsにも明記されており、国際的には当たり前のことなんですが、残念ながら日本ではできていない。質が高い魚を安定供給できる小規模漁業を残していく仕組みにしていかなければいけないと思います。

今、漁業はこういった問題を抱えているということを皆さんに知っておいてもらいたいと思います。

【講演終了】

大切なのは未来につながる魚食文化を広めること

太平洋クロマグロが減少した背景と、現在抱えている数々の問題について語ってくれた勝川准教授。

その後の登壇者の皆さんからも、卸業者や漁師、ジャーナリスト、料理人などさまざまな立場から、クロマグロや漁業の現状と未来を案じ、問題提起をする声が上がりました。

すべてのプログラムが終了し、締めの挨拶として勝川准教授が再登壇

すべてのプログラムが終了し、締めの挨拶として勝川准教授が再登壇

「皆さんに今日学んでいただいたように、我々の漁業や魚食は未来につながっていっていません。海の中の魚も減っているし、我々の食卓から魚がどんどん減ってしまっている。こういう状況を変えるために、未来につながる食文化・獲り方・食べ方を広めていくこと大切です。

今日は、皆さんに現状を知ってもらいました。今後は、協力して、未来につながる日本の食文化を作っていけたらと思います。

海の生産力には限りがあります。魚を獲る人、調理する人、食べる人みんなで協力して、海の生産力を維持しながら、魚を美味しく食べ続ける未来を作っていけたらと思います」(勝川准教授)

おいしいマグロを食べられることが当たり前ではなくなる。そんな未来を迎えないためには、私たち一人ひとりがマグロや漁業の現状を知り、理解し、広めていくことが必要不可欠といえそうです。

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