ーーー「ねぇ、たまにはディナーでもどう?」
付き合って2ヶ月の彼女から突然LINEが届いた。
ーーー「12月20日の18時に五反田駅ね。遅刻したら許さないんだから!」
僕たちは友達だった期間が長かったこともあり、付き合いたて特有の浮き足立つ感覚を味わうことなく、カップルとしての時間を過ごしてしまっている。
年末で忙しいけど、こういうのもたまには大事だよなと思ったので、「OK」と返事をした。
約束の時間に駅へ向かうと、彼女はすでに待っていた。いつも先に来て待っているのは彼女のほうで、「仕事柄、待ち合わせよりも少し前に到着していないと落ち着かないんだ〜」とか言ってたっけな。
こちらに気づくと、とびっきりの笑顔で手を振ってくれる。出会った頃から1ミリも変わらないこの破壊力抜群の笑顔にいつも癒されている。(なんてことは本人には恥ずかしくて言えないけど)
どこに行くのかと尋ねても、教えてくれない。とにかく彼女のあとをついていった。
ーーー「じゃ〜ん!ココ!なんかね、今日と明日限定のレストランなんだって。その名もつながらないレストラン!海外行くときにネット問題ってあるでしょ?そんな時に便利なイモトのWiFiが、あえてつながらないをテーマにしたらしいよ。面白いよね」
ーーー「入店条件は、スマートフォンを機内モードに設定して、インターネット環境を遮断すること。12月11日から4日間だったかな?事前に募集してたのをたまたま見つけて、面白そうだからダメもとで応募しておいたんだけど、340組から見事20組に選ばれるという快挙を達成しました〜☆パチパチ」
ーーー「クリスマスも近いし、こういう雰囲気のレストランでディナーもたまにはいいでしょ?ほら、座って座って!」
ーーー「席についたら機内モードに設定してね!」
ーーー「それから、こんな風にスマホの上にカード立てを置いておかないと、料理が運ばれてこないから注意してよ?あ、でも写真とか撮るのはOK。撮り終わったらまたカード立てを置いてくれたらいいからね♪」
席につくなりメニューを見始める彼女。いつものカジュアルな服とは違って、女の子っぽい雰囲気にドキドキしてしまう。
ーーー「ん?なに?あ、実はメニューを見るのは私も今日が初めてなんだよね。イモトのWiFiにちなんで、五大陸の食材を使った限定コースってことしか知らなくて(笑)。嫌いなか食べ物とか特にないって言ってたし平気だよね?」
ーーー「さっそく飲もう!カンパ〜イ!う〜ん、これ甘くておいしいね!最高!」
1品目はジャガイモのポタージュ。優しい味わいで、心もポカポカしてきた。
ーーー「ねぇ、撮って撮って!どう?いい感じ?」
普段と変わらずハシャいでいるのは緊張のせいなんだろうか?いつも大衆居酒屋でしか飲まない僕たちはこういう場所に不慣れだけど、ドレスアップした今日の彼女はとても綺麗だ。(なんてことは口が裂けても言えない)
2品目はダチョウのローストにクスクスのサラダという異国風のオードブル。もちろんダチョウもクスクスも初体験。
さっそく写真を撮り始める彼女。ていうか、なんか撮り方ダサいな(笑)こんなに体を斜めにして写真を撮る人、あんまり見たことないんだけど。(笑)
ーーー「ね〜見て!うまいでしょ!え?なに?撮ってる姿がダサい?うるさいな〜真剣なんです!」
3品目は魚のソテー。レモングラスが効いた酸味のあるトムヤムクン風ソースが白身魚とマッチしている。
続いてお肉料理が登場。付け合わせのビートルートという紫色の野菜が新感覚のおいしさだった。味もしっかりしているのでパクパク食べてしまったな。
ふと彼女のほうに目をやると、お肉を食べようとしている。
ーーー「ねえ、見て!おっきい」
おいおい、一口でいくの?それ一口は無理じゃない?ていうか口に入りきってなくない〜?
ーーー「も〜笑わせないで!食べるのに集中できないから!」
え、笑わせること一言も言ってませんけど(笑)。それにしても全ての行動がパワフルだな〜相変わらず。
チーズケーキとメイプルシロップがこんなに合うなんて!ヒンヤリしたアイスと濃厚なチーズケーキの相性が抜群においしかった。
ーーー「はい、あ〜ん♡」
ーーー「な〜んてね!あげないよ〜ん」
おいこら〜〜〜〜(心の声)
「おいしい〜甘い!チーズケーキ大好き〜幸せ」
ーーー「あ〜楽しい。お酒が進むわ〜。普段スマホの電源が入ってるってだけで、通知がきたらすぐに触っちゃいがちだけど、こうやってスマホが使えないことで、目の前の人としっかり向き合う時間が過ごせるよね」
確かに。知らない間にスマホを触る時間が増えたせいで、リアルな時間を大切にできていなかったことがあるかもな。反省だ。
ちなみに、ここの食事代は我々お客が決め、その食事代は全額「こども食堂」へ寄付されるらしい。なんて粋なレストランなんだろう。
お会計は入り口の箱に入れて帰るんだそう。今回は、期間限定の取り組みのようだが、反響がとてもあったらしいので、もしまた実施される機会があれば訪れてみたい。
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スマホ。それは現代を生きる僕たちにとって必要不可欠な存在。ときに便利であり、(速度制限になるとイライラが止まらないなど)ときに不便でもある。
いつの間にかスマホのある生活が当たり前となり、もはやスマホがない生活は考えられないほど、我々はスマホに依存している。スマホがないと仕事にならないなんてこともしばしば。
では、スマホがなかった時代はどうだっただろう?恋人と連絡を取るとき、どうしていただろう?デートの待ち合わせ場所を決めるとき、実家に電話をかけるしかなかったあの頃は、「お父さんが出たらどうしよう」なんてドキドキしながらダイヤルを回したこともあったはず。
誰かと食事をしているときに、仕事の電話が鳴ることもなかった。目の前にいる人とのかけがえない時間を、目一杯楽しもうとしていた。ほろ苦く、そしてほろ甘いあの時代が、もう遠い過去のようだ。
あなたは目の前の人を大切にできていますか?知らず知らずのうちに、携帯のバイブを気にしていませんか?インターネットにつながることはいつだってできるけど、人とつながることを忘れてはいけない気がした。
ライター紹介
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岡田隆太郎
- カメラマン→雑誌の編集→PRを経てRettyグルメニュース編集部へ転身。 好きな食べ物はナスの揚げ浸し。基本毎日飲んでます。