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「おいしいだけが取り柄の料理」が量産される時代に、僕がガストのチーズインハンバーグを愛する理由

チーズインハンバーグを「不合格」判定したシェフのとんでもない理由とは

ファミレスやファストフードの食べ物をプロのシェフだったり、食通の芸能人が評価するコンテンツがなかなか人気なようで、先日もたまたまネットでそんな内容の過去ログを発見して、ついつい読んでしまいました。
 

褒めるにしても貶すにしても、まあ、たわいもないと言えばたわいもない内容で、ふんふんと思いながら流し読みしていると、その中で気になって見過ごせない内容もちょいちょい出てくるわけです。
 

そのひとつが、某有名洋食店シェフによるガストのチーズインハンバーグ評でした。
 

その番組の趣旨は、ガスト側が「これは自信あり」と提示してきた人気メニューに、複数のプロのシェフがそれぞれ「合格」「不合格」の判定を下すというもの。
 

企画自体が少々悪趣味に過ぎる気もしますが、まあそこはいかにもテレビ的なわかりやすさということで見過ごすとしても、あるシェフがチーズインハンバーグに「不合格」の判定を下し、その理由として「チーズが多すぎてバランスが悪すぎる」とコメントしていたのは、僕にはどうにも違和感しか感じられませんでした。
 

僕はその時、反射的に「あなたみたいな人がおいしいだけが取り柄の料理を量産してるわけだな!」と思わず毒付いてしまったのです。
 

「おいしいだけが取り柄の料理」に足りないもの

自分で言っといてなんですが、「おいしいだけが取り柄の料理」というのはちょっと問題のある表現ですね。
 

料理はおいしいかどうかだけが全てだ、というほうがずっと正論めいています。そして僕自身も、やっぱりそれは正論には違いないとも思うんですね、基本的には。でも同時に料理というものは、どうしてもそれだけではつまらない、とも思うわけです。
 

しかし、じゃあ「おいしい」以外に必要な「取り柄」って何よ?と問われると、これがなかなか言葉にするのは簡単ではありません。
 

驚きとか個性とかインパクトとか物語性とか、キーワードになりそうな言葉はいろいろあります。が、どうもそういう言葉を連ねただけではなんとなくピンと来ない。
 

例えば、昨今はインスタ映えなんてことを最初から狙ったインパクト優先の料理なんてものもよくあるわけです。その中には実際にすごくおいしいものもあるのでしょうが、別にそういうことを求めてるんでもないよなぁとも思うわけです。
 

また別の角度からいうと、あくまで個人的には「ピーキー」な料理が好きです。万人受けを諦めた、好き嫌いのはっきり分かれそうな、いわゆる尖っている料理。
 

でも、四六時中常にそれを求めてるかというと、そういうわけでもない。なかなかうまく言語化できないなぁと思い悩むなか、僕はある時、それを説明するのにとてもしっくりくる言葉に気付いたのです。それが、
 

「エモい」
 

軽いなぁ。実に軽い。「あなたは料理においしさ以外の何を求めているんですか?」と聞かれて、「バイブスを感じるエモさです」と答えて良いものか。いい大人が。そうとも思うんですが、この言葉はその感じを実に的確に表現している気がするんです。
 

だいたい日本人は清少納言の昔から「いとおかし」で全てを片付けてしまったりしています。いとおかし=超エモい、です。今回、僕は開き直って堂々と「エモい」を使いたいと思います。
 

チーズインハンバーグは最初から最後まで徹頭徹尾エモい

前置きがずいぶん長くなってしまいましたが、そんなわけでガストのチーズインハンバーグです。
 

 

チーズインハンバーグ、超エモいです。何がエモいって、まずそのバランスの悪さです。チーズが多すぎて、料理全体としてのバランスが崩れていると言ってもいいほどです。
 

そう、件の高名なシェフのおっしゃる通りだと思います。でもほら、そこが最大の魅力なのにそれを理由に否定しちゃダメなんじゃない?あなたともあろう方が、と僕は思うわけです。
 

チーズインハンバーグにナイフを入れると、チーズがでろんと流れてきます。
 

 

それはもう計算し尽くされたような、というかおそらく、実際に温度や物性や量が綿密に計算された「でろん」です。
 

こんなの誰だって嬉しいじゃん!というあざとさも含めて初手から実にエモい。そして、チーズそのものがちゃんとおいしいという優等生的な魅力もまたエモい。
 

 

ちょっと専門的な話になりますが、僕が最初にチーズインハンバーグの存在を知った時、そのチーズというのはいわゆるチーズフードに分類される類の加工品だろうなと勝手に思ってました。
 

よく安い居酒屋のフライドポテトなんかににょろにょろかかっている駄菓子っぽい味の黄色いチーズソースとか、ああいう類の物ですね。実際はぜんぜん違いました。初めて食べた時、ほんとすみませんでしたと心の中で謝罪しました。
 

ハンバーグ自体は、ごく平凡なファミレスのハンバーグかもしれません。世の中のハンバーグ専門店ではナイフを入れた瞬間に肉汁(という名の脂)がドバーッと溢れる、みたいなのが人気なようですが、ファミレスのオペレーションや価格帯では、それはなかなか難しいものがあると思います。
 

でもいいじゃないですか、チーズが流れ出してくれれば十分すぎます。むしろ脂よりチーズの方がよりエモいと感じる人のほうが多い気もします。
 

ハンバーグの中には、チーズがパンパンに詰まってますので、出てきた時のボリューム感もエモいですし、どこをどう食べても持て余す程のチーズの量もまたエモい。
 

後半のお皿の上は、チーズとデミグラスソースの海に浮かぶ崩壊したハンバーグと付け合わせ、という天地創造直後のような混沌とした風景が広がり、これまたエモい!
 

チーズインハンバーグは奇跡のヒット商品

そういえば、このチーズインハンバーグの上面を丸く切り取って現れたチーズ部分に付け合わせのポテトやパン、別でオーダーしたソーセージを付けて食べるという「チーズインハンバーグフォンデュ」という食べ方が発明され、密かに流行しているという話も聞いたことがあります。
 

この食べ方は、別にガストが提唱したわけでもなく民間で自然発生的に生まれ、それが主にネットを通じて伝播したもののようです。こういう現象が起こることがまたエモいですね。これはまた、チーズインハンバーグがいかに多くの人々に愛されているかということの証のひとつだと思います。
 

ガストのような単価の安い、そして大規模なチェーン店でエモい商品が生み出されるというのは、かなり奇跡的なことだと思います。
 

なぜならこういう店の商品はいつだって原価とオペレーションのギリギリのせめぎ合いを強いられるうえ、常に誰からも嫌われないことが求められるからです。
 

エモさにパラメーターを振る遊びの余裕はあまりありません。どうしても「普通においしい」「悪くはない」といった着地になってしまいがちな宿命にあります。
 

そんな制約の中で、ファミレスの得意分野であり、お客さんの支持率も高いハンバーグという分野で、バランス崩壊とも言える極端さに振り切った逸脱的なメガヒット商品を生み出したというのは実に見事だと思います。
 

そしてバランス崩壊と言っても、そこにはおそらく何度となく試作を繰り返されたであろう緻密な計算と、一見何ら特別なことはないように見えるけれど誠実な素材選びという裏付けがあるのです。
 

チーズインハンバーグが生まれたのは、ある種の奇跡かもしれません。でも、それが発売以来、今に至るまでずっと不動の人気No.1の地位を揺るぎないものにしているのは、むしろ必然と言っていいのではないでしょうか。
 

ライター紹介

イナダシュンスケ
イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般承ります。和・洋・エスニック、ジャンルを問わず何にでも喰いつく変態料理人にしてナチュラルボーン食いしん坊。世の中のあらゆる美味いものを愛してますが、美味しくないものも同じくらい愛してます。「理想は高く、意識は低く」がモットーです。
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