カレーの宗教を食べたい
気づけば、カレー屋さんを1500店舗食べ歩いていました。
店主さんのカレーに対する宗教観が、料理から空間までをまるごと作り出す。
純粋にカレーを追い求めるその精神の根底には、はたして何があるのか・・・。
彼らを突き動かしているものはナンなのか・・・。
もっともっと、カレーの宗教を食べたい。そう思っていつもカレーを食べています。
今回紹介する銀座「ブラン亭」のカレーは、残念ながら、今の時代を生きている人にしか味わうことができません。ごめんよ紫式部。
なぜなら、そこで食べ、聞き、感じるものすべてが、ブラン亭の“色”になっているからです。
これからどれほどテクノロジーが発達しようが、ブラン亭は再現できない。ちょっとユニークすぎるお店なのであります!
「食べても帰らない」は良いか悪いか
机に置かれたお店のメニューはド・シンプル。
通常メニューは、5種類のカレーのみ。チキンカレー、ポークカレー、キーマカレー、ヤサイカレー、豆カレー。
あいがけも可能。だから、1人で来てもいろんな味を楽しめる。
このお店で一番人気なのは、飛び切りスパイシーなチキンカレー!
肉はふかふか柔らかく、枕か?と思うほど。
給食で出てくるような、ドロドロとした小麦粉の入ったルゥのカレーではない。
インドのラダックという土地のレシピを受け継いだ、さらさらとスパイシーで独特なカレー。
ああ、美味しい。。しみる。。
ひと口食べると、じんわりと辛く、からだが温まっていく。
油に移った唐辛子の香りが空気中に立ちのぼり、くらくら。刺激的で、日本人に媚びない味付け。
カロリーなんぞ気にする暇もなく、油まで飲み干していた。
*
さて、食べ終えた。
のに、お客さんはみな帰ろうとしない。なんでだろう?
すると、お客さん全員がママを囲んでカウンター越しに談笑をはじめた。
なんだなんだ。
割烹着を着て、大きなバンダナを目深にかぶり、元気に迎えてくれるのがブラン亭店主の佐藤さん。(以下、ママと呼ばせていただきます)
カウンターに目を移すと、オープン当初からの常連客だという経営者の野田さんが、カレーとおばんざいをつまみながら、ママとおしゃべりしている。
サラリーマンのニシヤンさんは、サクッと小盛のカレーで、お酒1杯をひっかける。(ママとは昨日偶然、酒屋さんで会ったという)
女性の4人組は、ブラン亭を宴会で利用する予定があるらしく、打ち合わせがてら、複数種類のカレーをがっつりと食べている。
はっ・・・!
そのとき、ママの凄さに気づいてしまった・・・!
ママは全員の名前と、特徴と、
“その人のカレー”を覚えていた。
飲み会後によく立ち寄るお客さんには、ごはん抜きの締めカレーを提供したり、
がっつり食べたいお客さんには、ボリューム抜群にしたり、
辛さが苦手なお客さんには、マイルドにしたり・・・。
また一人、また一人とお客さんが入ってきては、
「○○さん、いらっしゃい~!」
とママは声をかけ、カウンターに(いつもの?)メンバーが増えていく。
「自分にとってここは、休憩所みたいなものなんだよね。ママは商売のことを何も考えてない。そういうピュアなところがいいんだ」
そう話す野田さんは、接待の飲み会の後に、ふらっと1人で立ち寄ることが多いという。
たまに毒づいたり、歌ったり、料理に集中して会話がパタッと途切れたり、とにかく自由すぎるママ。
お店のみんなを巻き込んで話をするもんだから、気が付けば自分もお客さん全員と仲良くなっていた。
そんなに話すつもりなんてなかったはずなのに。
「私のためだけに」の嬉しさ
「さと2ちゃんスペシャル」
今ではママが、私のためにオリジナルのカレープレートを作ってくれる。
ダルカレーとキーマカレー、そしてチキンカレー2種という、盛りだくさんの組み合わせ。
カレー同士を混ぜて食べると、体験したことのない味が生まれて興奮する。
インドが大好きな私には、あえて油もスパイスも強めに、普通よりも辛く仕上げてくれたみたい。
オーダーメイドが過ぎている。でも、それが愛おしい。
ラブ。
私のためだけに存在するカレーなんて、ちょいとずる過ぎないかい?
きっとママは、自分だけを見てくれる存在がいる、その安心感を理解しているのだろうな。
「自分にとってここは、休憩所みたいなもの」
お客さんの言葉がストンと入ってきた。
今日もまたどうしようもなくママの声が聞きたくなって、食後に談笑つきの休憩所「ブラン亭」に訪れる。
- ブラン亭
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東京都 中央区 銀座
カレー