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婚姻届を出したあと、からあげと缶チューハイで花見をした〜僕らが町田に住む理由〜

北海道育ちの私が町田に住みはじめた理由

家がなかったことがある。

いきなり何を言い出すのかと思われたかもしれないけど、本当だ。私と夫は入籍してすぐにアパートを引き払い、海外へ長旅に出た。それが29歳のとき。

これからどこに住んでどんな仕事をするのか、まったくノープランのまま帰国。当時の私はすでに30代で、「大人なのに、こんなに先の見通しがない生き方をしていいのだろうか……」と、不安になった。

帰国後、まずは住む場所について話し合った。私の実家は北海道で、夫の実家は茨城県。お互い、地元に住みたいという気持ちはなかった。

夫は『町田に住みたい』と言う。町田市は、神奈川県と隣接する東京の都市。一般的にやや郊外というイメージだ。

町田は夫の出身地。彼は中学生のときに親の都合で茨城に引っ越したけど、生まれてから14歳までを町田で過ごしている。高校を卒業してからは東京の西側にばかり住んでいるけど、それも町田育ちのためかもしれない。

『都会の見える田舎が落ち着くんだよ』と彼は言った。

私は「町田は十分に都会じゃん」と思った。町田といえば町田駅周辺しか知らなかったので、ビルがたくさんあって人も多い印象があったのだ。新宿の縮小版のような。

だけど、夫が育ったエリアに行ってみて、「なるほど、たしかに都会ではないわ」と考えを改めた。

彼が育ったのは、町田駅から徒歩45分の「木曽」というエリア。

このエリアは団地に囲まれていて、人通りはわりと多い。けれど、町田駅周辺の喧騒とは打って変わって、どこかのんびりしている。住宅地には畑が点在していて、遠くには丹沢の山々が見える。

結論から言うと、私たちはそこから少し離れた場所に住むことになった。今から4年前のことだ。

趣味は散歩。定番コースは夫が育った辺り

それからというもの、私たちはたまにこの辺りを散歩するようになった。

町田駅周辺や町田リス園、薬師池公園や芹ヶ谷公園など、町田の名所(というにはマイナーかも)に行く町田市民は多いだろう。住民でもないのに木曽エリアを散策する人はあまりいないと思う。

歩きながら、夫はこの辺りに住んでいた頃の話をする。

『あっちのほう、昔は空き地だったんだよ。そこで釣りの練習してた』

ーーー「池とかあったの?」

『いや、原っぱでルアー投げる練習してた。一瞬だけ友達の間で流行ったんだよ。すぐ飽きたけど』

夫がここに住んでいた頃は、たくさんの同級生が同じ団地に住んでいたというが、消息のわかる人はいない。携帯電話もインターネットもない時代、引越しによって音信不通になったそうだ。

大きな道路沿いには、coco'sやステーキ宮、リンガーハットなどのチェーン店が多い。全国どこの地方都市にもあるような光景。私が育った街もチェーン店ばかりだったから、なんだかほっとする。

小さな通りに入ると個人店も多い。まるで昭和に取り残されたような、さびれた外観のお店が点在している。どこの駅からも遠く、大きな通りに面しているわけでもない。それなのに経営が成り立っているのが不思議でならない。

通るたび、夫と「この辺のお店、よく潰れないよね」と失礼なことを話す。

先日もそう言いながら歩いていたら、夫が『……もしかしたら、僕たちの“潰れそうなお店”のイメージが間違ってたのかもね』と言った。

ーーー「そっか。町田駅近くのお店の方がどんどん入れ替わってるもんね」

『そうそう。もしかしたら意外と、駅から離れてて古くて小さい店のほうが潰れないのかも……?』

たしかに、近隣の住民たちに愛され続けているお店のほうが、長く続けられるのかもしれない。

このエリアは決してお洒落ではなく、どこか垢抜けない雰囲気がある。だからこそ、私はここが気に入っている。

普段着でもすっぴんでも歩ける、肩の力が抜けた町。

それが、夫の育った町だ。

散歩の途中によく行く、お気に入りのお店

お気に入りと言っても「ここにしかないお店」ではなく、残念ながら私たちの行きつけはチェーン店だ。「町田じゃなくてもいいじゃん!」と思われるかもしれないけど、好きなのだから仕方ない。

からあげ専門店 鶏笑

テイクアウト専門のからあげ屋さん。"からあげの聖地"と呼ばれる、大分の中津からあげが楽しめる。実は最近まで、チェーン店だということを知らなかった。

ここを見つけたのは一昨年の春。散歩していて、桜が綺麗な空き地を見つけたときのこと。「お花見しようよ」ということになり、缶チューハイを買いにその近くのスーパーに向かうと、スーパーの隣にこの店を見つけた。

もも(3個320円)、むね(3個250円)、皮からあげ(250円)

もも(3個320円)、むね(3個250円)、皮からあげ(250円)

からあげは3個から注文できる。メニューはほかにも、チキン南蛮やとり天などいろいろ。

注文するとその場で揚げてくれる。私たちはもも肉とむね肉のからあげを3つずつ買って、空き地で桜を眺めながら食べた。アツアツのからあげはとても美味しかった。

それから桜が散るまで何度も、鶏笑でからあげを買っては花見をした。私は花粉症だから外でマスクを外すのはつらいのだけど、くしゃみに耐えてでも食べたい。私も夫も、晴れた日に屋外で食べたり飲んだりするのが大好きなのだ。

先日も鶏笑でからあげを買った。いつもの空き地はフェンスに南京錠がかかっていて入れなかったので、境川沿いのベンチで食べる。

私が作るからあげはどうしても衣がかたくなってしまうのだけど、鶏笑のは衣がパリパリだ。ももはジューシーで、むねはしっかりと味が染みている。私はもも派、夫はむね派。

そういえば婚姻届を出したときも、市役所の帰りにスーパーで缶チューハイとからあげを買って花見をした。町田ではない、別の街でのこと。どこにいたって、私たちは同じことをしている。

今年も桜が咲いたら、鶏笑のからあげをつまみに花見をしよう。

いくどん木曽店

引っ越してきてからというもの、結婚記念日に必ず行くホルモン焼き屋さん。もう少しお洒落なお店に行ってもいいのだけど、気づいたら恒例になっていた。

このお店のホルモン焼きはとても美味しい。とはいえ私は味オンチだから、どのお店で食べても美味しいのかもしれない。それでもここに来るのは、なんだか居心地がいいから。

小さなお店で、1階はカウンターと小上がり、2階は座敷席。散歩のついでにふらりと立ち寄れる、飾らないお店だ。

私のお気に入りは豚トロ(550円)。豚の頬肉らしい。トロトロで病みつきになる。

豚トロのほかは、シロ(430円)、カシラ(430円)、豚タン(430円)

豚トロのほかは、シロ(430円)、カシラ(430円)、豚タン(430円)

このあたりが我が家のレギュラー。牛カルビや牛ロースもあるけど、ここでは豚ばかり頼む。安いし、好きだから。

この日は、一眼レフで肉の写真を撮っていると、隣にいた50代くらいのご夫婦に『カメラやるの?』と話しかけられた。

そのご夫婦は野鳥の写真を撮るのが趣味だそう。薬師池公園にめずらしい渡り鳥のカップルがいたとか、いろいろな話を聞かせてもらう。それぞれの七輪で肉を焼き、食べながら、気づけば一時間くらい話していた。

『夫婦共通の趣味があるっていいわよ~、ずっと一緒に楽しめるもの』

奥さんはにこにこしながら何度もそう言った。おふたりはとても仲が良さそうだ。

私たちの共通の趣味は……なんだろう。ふたりとも好きだった登山も、最近は忙しくてめっきりできていない。かろうじて残っている趣味は、散歩と、散歩のついでの飲食くらい。今がまさにその最中だ。

『まだ新婚さんでしょう?』

ーーー「いえ、6年目です」

『あら、新婚さんかと思った!』

そう言われて、なんだか照れくさいような嬉しいような気持ちになった。

ご夫婦は先に店を出て、しばらくしてから私たちも店をあとにした。ほろ酔いの頬に夜風が気持ちいい。ふわふわした心持ちで家まで歩いた。

今はとても好きだけど、いつまで町田に住むのかなんてわからない。気分屋の私たちのことだから、来年には別の街にいるかもしれない。

どこに住んだとしても、その街を好きになりたい。

たくさん散歩して、居心地のいいお店や、桜のある場所を見つけよう。

少しずつ、自分が街を好きになっていくのを楽しみながら。

ライター紹介

吉玉サキ
吉玉サキ
北アルプスの山小屋で10年間勤務したのち、2018年からライターとして活動。不登校、精神疾患、バックパッカー旅、季節労働など、自身の経験を生かしたエッセイやコラムを書いている。好きな食べものはおにぎり。
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