中野駅北口は、無数の飲食店がひしめく東京屈指の飲み屋街。
その中に、女将さんがひとりで切り盛りし、美味しい料理とお酒が揃う、知る人ぞ知る名店があるとの情報を入手しました。
特に、女将さんおまかせコースのお得さがとんでもないことになっているらしい!
今回は、このお店のファンだというRettyグルメニュース編集者さんが、「今までで一番満足度が高かった」とおすすめする、4,000円の「女将のおまかせコース」(飲み物代別)を予約し、お店を訪れてみました。
繁華街の中、うっかりしていると見すごしてしまいそうな、つつましいのれんが目印の「美酒嘉肴 ゆきみさけ」。
入り口にこんなメニューが張り出されていました。
「本日のおばんざい」だけでこれだけメニューがある時点で、すでにすごい。
そして注目したいのが、左端のお通しに関する表記。この丁寧な文章を読んだだけで、お客を想う女将さんの人柄が伝わってきます。
階段を登り、2階へ。
扉を開けるとそこには、メインのカウンター席とテーブルが2席のこぢんまりとした店内。
そしてカウンター上には、先ほどメニューにあったおばんざいがズラリと並んでいます。
どれも食べてみたい!
こちらが女将の渡邉祐紀さん。優しい笑顔にいきなり癒されますね。
本日のコース、スタート!
まずは生ビール(500円)から。
銘柄はこだわりの「アサヒ プレミアム生ビール熟撰」。
かんぱ〜い!
ゴクゴクゴク……はい、うますぎる〜!
ところで、入店したときから気になっていたんですが、我々のテーブルの上、すでににぎやかなことになっています。
ひとつひとつ見てみましょう。
まずどーんと存在感を発揮しているのが、こちらの「生ハムサラダ」。
「こんなでっかいサラダ生まれてはじめて見た!」っていうボリュームです。
生ハムもどれだけつかってるんだろう……。
お店の名物のひとつ「どんぶり奴」は、取材班の人数に合わせて4当分にされていますが、それでも普通の豆腐一丁ぶんくらいはありそうな量。
ふわとろで大豆の味が濃く、めちゃくちゃ美味しい!
沖縄産の「もずく酢」は、自家製の土佐酢が優しい味わい。
そして「白子ポン酢」!
席についていきなり白子ポン酢がセッティングされているお店ってなかなかないですよね?
これまたとろりと濃厚でうますぎる。
ただし、ここからが本番!
我が目を疑う大皿がやってきました。
4人分というのが信じられない量の「刺し盛り」は、一品一品がキラキラと輝くような神々しさ!
女将さんは「普通に豊洲で仕入れてるだけよ〜」なんておっしゃられていましたが、相当な目利き、そして信頼関係がないと手に入るはずのない上等な魚たちであることが一目瞭然です。
あきらかに今まで食べた中で一番うまい気がする、天然本マグロの大トロ。
口に入れたとたんに溶けていってしまうようなすごいトロですが、天然ゆえか脂がしつこくないんですよね。
同じく天然本マグロの赤身。
これぞマグロ! という旨味が凝縮されていて、泣けます。
甘味たっぷりのホタテも、驚くほど味の濃いタコも、上品な脂の香りがたまらないブリも、心の底から美味しかったな〜
「ゆきみさけ」の真骨頂はまだまだこれから
さて、もうこの時点で、ひとり4,000円では申し訳ないくらいの贅沢をさせてもらっていますが、コースはまだまだ終わらないそうで。
巨大な「金目鯛の煮付け」が出てきました!
単品で頼むと6,000円はするメニューだそうで、「ちょっとサービスしすぎじゃないですか?」と伺うと、女将さん「私、計算できないから〜」とのこと。
ちなみにこのセリフ、このあとも何度も聞くことになりました。
魚が大きすぎてスプーンに見えてしまうレンゲでつつくと、肉厚ほくほくの身がたっぷりと!
そりゃ〜もう、筆舌に尽くしがたい美味しさです。
金目鯛のダシを吸った豆腐もたまらない……。
こうなってくるともう日本酒でしょうと、秋田県・浅舞酒造株式会社の「天の戸・超辛+18〈生〉」(1,600円)を。
あ、これはあれだ……「幸せ」ってやつだ……。
今回はせっかくだからとちょっと贅沢なお酒を選んでしまいましたが、地酒は1,100円くらいからあって種類豊富。
しかも、たっぷり2合は入るグラスになみなみ注ぐのがこちらのスタイルだそうで、「サービスしすぎじゃないですか?」と伺うと、またしても「私、計算できないから〜」とのこと。
こんな美味しい煮魚を前にすると、お酒はもちろん、ご飯でもちょっと食べたくなってしまうもの。
そんな絶妙なタイミングでやってきましたよ。
ご飯はご飯でも、まさかの「ウニ丼」が!
北海道は厚岸産の極上ウニを、見ての通りたっぷりとご飯の上に。
お米は、女将さんの故郷、福島県の古殿町から取り寄せるコシヒカリの玄米を、毎日お店で精米してから炊くというこだわり。
なぜそこまでするのか聞くと「それが一番美味しいから」だそうで、ただただ頭が下がります。
脳に電流が走るほどに甘く香り高いウニを、ご飯と1:1くらいの贅沢な分量で堪能したら、残ったご飯に先ほどの金目鯛をオン。
もはや思考停止状態……。
「ゆきみさけ」がここまでやる理由
すでに胃袋ははちきれんばかり。
4,000円でここまでしてもらって、申し訳なくすら感じはじめました。
そこで、いったん落ち着いて、女将さんにお店についてのお話を聞かせてもらうことに。
聞けば、女将さんは長く銀座のクラブでホステスをされていた方。
当時は出資者もいて、独立して銀座で小料理屋を出すことも決まっていたそう。
そんな女将さんの人生が急変したきっかけが、2011年3月11日に発生した東日本大震災以降。
福島県出身の女将さんは、被災地への具体的な支援はもちろん、今の自分の身の回りに対してできる範囲で人が集まれる場所を作り、少しでも多くの人を満足させてあげたい、と考えたんだそう。
そんな気持ちから、それまでの道から離れ、この小さなお店を作ることを決めました。
今では多くの常連さんが集まる人気店となりましたが、約7年前の開店当時からしばらくは、ご苦労もたくさんあったそう。
その人の良さからか、信じやすく騙されやすいのが悩みで、ずっと経営の相談に乗ってもらっていた人が、実は売り上げを横領していた、なんてことまであったとか。
が、持ち前の明るさと仕事への熱い想いでお店を軌道に乗せ、この奇跡のような名店が今存在しているというわけです。
なんて話をもっとゆっくりと聞かせてもらいたいと思っていると、「そんなことよりさ、お腹いっぱいになった? まだ食べられる?」と、有無を言わせぬ勢いで、ここにきてまさかの肉料理「豚の生姜焼き」が到着。
塩辛さを抑えた甘めの味付けがあとをひく絶品。
同行の編集さんがたまらず「白いご飯がほしくなりますね〜」とつぶやくと、「はいどうぞ」と。
苦しいんだけど、天国!
「お漬物もどうぞ」
いや、量、多っ!
「切りこぶとさつま揚げの炒め煮もどうぞ」
「がんもと厚揚げ煮もどうぞ」
「ブリかま煮もどうぞ」
永遠に終わらないの!? うまいから入るけど!
「塩むすびどうぞ」
もはや、意味不明!!(でも、絶品!)
ラストまで容赦ないサービス精神
さすがに本当にもう限界で、がっつり系の料理たちは同行の若い編集者さんたちにお任せしつつ、僕はお酒をもう一杯、と、黒麹を使った薩摩の芋焼酎「せごどん」(650円)をロックでいただきます。
例の2合グラスにたっぷり。
あぁ、うまい、いい夜だった……と、気持ちはすっかり締め&振り返りモードだったんですが、「お酒飲むならこれもどうぞ」と、自家製の「あん肝」が!
ひ、ひぇ〜!
女将さん、もうこれで大丈夫です! と、絶品なのでまたまた食べられてしまうあん肝をつまみに、芋焼酎を最後の一滴まで堪能させていただきました。
***
女将さんのご実家は、美容院だったそう。
幼い頃、一緒にどこかに出かける約束をしていても、急なお客さんがくればお母様は、散髪やパーマをあててあげたりと、ひとりひとり丁寧に時間をかけて対応していた。
そんな姿を複雑な気持ちで眺めながらも、お母様から「商売とはそういうものだ」という精神を受け継いだ結果、今のゆきみさけがあるのでしょう。
「絶対にお客さんを満足させてあげたい」そういう想いがあるから、コース料理の内容も決まっているわけではなく、基本的に「もう食べられません」となるまでは終わらないんだとか。
今回は、自分にしてはずいぶん贅沢をしてしまいましたが、もちろん単品料理も豊富ですし、ちょっと1、2杯飲んで帰るという使い方もできるお店。
中野で美味しいものを食べたくなったら、ぜひ訪れてみては。
「はい、これは持って帰って食べてね」
- 美酒嘉肴 ゆきみさけ
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東京都 中野区 中野
居酒屋
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