宮崎駿監督による、スタジオジブリの映画『となりのトトロ』。
あの「トトロ」の形をしたシュークリームをつくるお店が、都内にあるんです。お店の名前は「白髭のシュークリーム工房」。
ほとんど広報活動を行っていないお店なので、ジブリファンの間でも意外と知られていない印象です。
ジブリやトトロを好きな人はたくさんいるので、このお店のお菓子をおみやげにすると、みんな喜んでくれます。トトロ型のクッキーをおみやげにしたことがあるのですが「かわいすぎて食べられない!」という嬉しい悲鳴が続出しました!
お店は世田谷代田と吉祥寺に!
お店は2店舗。まず世田谷代田店は、小田急線の世田谷代田駅から歩いて3分程度の立地にあります。下北沢駅からだと歩いて7、8分。閑静な住宅街の一角にある、緑に囲まれた洋館風のお店です。
吉祥寺店は、吉祥寺駅から徒歩約5分。2018年11月にオープンしたばかりですが、お店はすでに大盛況。
どちらのお店でも、シュークリームは夕方には売り切れてしまいます。確実にゲットしたい方は予約するべし!
吉祥寺店限定で「猫バスサンド」も。あの猫バスが、バターサンドになっていて、こちらもすぐに売り切れてしまう人気商品。
猫がバスなだけでもすごいのに、そこにレーズンバターをサンドしている素晴らしいお菓子です。
今回は、創業者の初代・白髭さんにお話を聞いてきました!(現在の店主は、2代目の白髭さん)
ジブリマニアの筆者は初代・白髭さんにお話を聞く中で、ジブリの哲学を感じたんです。それはどんなモノ作りにも共通する「自分たちの手でつくる」という大切な教訓でした。
「最初は地域密着型のお店だった」
ーー本日はよろしくお願いします! 白髭さんは、顔出しNGですか?
「そうですね、恥ずかしいので、写真はごめんなさい!(笑)」
ーーお仕事内容は、どのようなものでしょうか?
「お店を立ち上げたのは私ですけど、今では二代目・白髭がお店を切り盛りしてくれるようになったので、私はシュークリームのクリームづくりをメインで担当しています」
ーーお店はどんなお客さんが多いんですか?
「少しずつ変わってきましたね。最初は高井戸で店を開いていたのですが、その頃は地元の方が中心。特に小学生が喜んでくれていました。それから段々とジブリさんのファンの方も訪れるようになりました。
そこで5年くらいやったあと、世田谷代田に移転しました。あそこは周りにお店もないから、近所の方が買い物ついでに寄ってくれることが減って、うちを目的に来る人が増えましたね」
ーー徐々にお店の評判が知れ渡っていったんですかね。
「ネットでは海外でも紹介されているみたいで、今では外国人の方も増えました。吉祥寺店は『三鷹の森ジブリ美術館』からも近いので、美術館の買い物袋を持ったお客さんも多いですね」
ーーちなみに、初代・白髭さんが一番好きなジブリ作品はどれですか?
「うーん……。なんだかんだ言ってトトロかなあ」
奥さんの一言でシュークリームに惹かれ、自らの発明で完成した
ーーそもそも、シュークリームづくりを始めたきっかけは?
「もともとはまったく別の仕事をしていました。あるとき車を運転しながら妻と話をしていたら、ふと彼女が『トトロのシュークリームがあったらいいな』と言ったんです。そのアイデアに衝撃を受けて、頭から離れなくなりました。それまでシュークリームをつくったこともなかったのに、シュークリームじゃないといやだった」
ーーゼロからのスタートだったんですね!
「シュークリームづくりを勉強するところから始めて、トトロの形のシュークリームをつくれるようになるまで3年かかりました」
ーー3年も!トトロの形を再現するのは難しかったんでしょうか?
「生地の配合はふつうなんですが、特殊な金型に押し込んで焼いています。それを使わないと、あの形にはならないんです」
ーーシュークリームに金型を使うことはふつうはありませんよね。
「通常は鉄板の上でつくります。だから、金型を使う発想にたどり着くまで時間がかかりました。でも、金型があるだけではつくれない。少しずつ天板が持ち上がっていく特殊な方法を私が発明したんですよ(笑)」
「自分でつくって自分で売る」にこだわったジブリ
ーーあのトトロは、汗まみれの努力の結晶だったんですね。
「そうして出来上がったプロトタイプを、ジブリに持っていって商品化の提案をしました」
ーーそのときはどんな反応だったんですか?
「はじめは首を縦には振ってもらえませんでした(笑)。けれど、ジブリの鈴木敏夫プロデューサーは、『シュークリームの見た目や、皮の食感がトトロのイメージとマッチしている』と密かに応援してくれました」
ーーあの鈴木さんが!それは心強いですね。
「紆余曲折ありましたが、最終的にはジブリからも『自分でつくって自分で売るなら』と許可が下りました。そこから量産できるようになるまでには、さらに2年かかりました」
ーーそんな苦労もあったのですね。量産にあたってどんなところに苦戦しましたか?
「当初はクリームづくりから焼くところまで、すべてひとりでやっていました。オーブンが一台しかなくて、そこに24個分をつくれる金型を入れて焼く。1日の目標生産量が20個でした。失敗ばかりで、販売できる分は20個がやっとだったんです」
ーー1日で20個。大変な作業だったんですね。
「今はノウハウが確立できたので、安定してつくれます。とはいえ大量生産には向かない面倒なつくり方なので、誰も真似しない(笑)。ジブリもそうだけど、我々はつくることに凝りすぎてしまうところがあります」
自分たちの手で、正直につくること
ーー白髭のシュークリーム工房のクッキーをおみやげにしたことがありますが、美味しくて、大好評でした。
「それはやっぱり、自分のところでつくるから美味しくできるんですよね。ジブリさんから『自分たちでつくるように』と言われていますが、そのおかげで原材料にもこだわって、美味しいお菓子を追求できています」
ーー全て自家製なんですね!
「クッキーなどの焼き菓子は卸さんにつくってもらいたいって考えたこともあるのですが、すべて自家製だと手間はかかるけど、結果的にクオリティは守れるんですよね」
ーーそうなんですか?
「卸で売るとデパートさんの取り分が出てくるので、お菓子の原価は半分以下に落とさないといけない。そうなるとバターではなくて他のものを使わざるをえなくなるから、美味しくなくなってしまう。だから数は少なくても、自分たちの手で、正直につくっているのがいいんです」
『自分たちで作る』はジブリの哲学
最後に話してもらった「正直につくる」という言葉がとても印象的でした。また、ジブリの「自分たちで製造・販売を行いましょう」という要望は、ジブリの哲学そのもの。
トトロの生みの親である宮崎駿監督は過去に、こんな風に語っていました。
「『魂にとって何が大切か』『魂とは何か』それが私達のいつまでも変わらない主題であり、課せられた問いだと思います。出来るだけかざらずに、あけすけにではなく、声高にもならず、笑いとやすらぎの中に表現することが、今、課せられています」
※引用元:『折り返し地点 1997~2008』2005年度国債交流基金受賞スピーチの原稿
内容がシンプルならば、使われる言葉も平易なもの。けれどシンプルな思想でも、守ることは簡単ではありません。そんな思想を愚直に貫いてきたのが、宮崎監督を中心とするスタジオジブリなのです。
その思想は、「白髭のシュークリーム工房」にも通じます。お店のリーフレットには、こんなポリシーが。
「可愛いだけのお菓子を作るのではなく、作っている私達が心から『美味しい』と思えるよう、原料にこだわり、基本を大切に、徹底した商品開発と品質管理を心がけています」
とてもシンプルだけれど、真摯で信頼できる言葉です。
またジブリは、過酷な労働環境になりがちなアニメ業界で、率先してスタッフを社員にしました。
大量生産にこだわらず、目の届く範囲で制作工程を担うことは、リスクを背負うことになります。しかし同時に、クオリティを保つために必要なことでもあるのです。
美味しいものは、多くなくても十分。ジブリはそんな哲学から、大量生産はできなくても自分たちの手で美味しくつくってほしいとオーダーをしたのではないでしょうか。
いや〜、トトロのシュークリーム、本当に美味しいんですよ!
シュー皮は軽い歯ごたえがあって、クリームの味と香りはとても濃厚。
生地をサクッと破ると、香りがふわ~っと広がってきます。
季節限定で販売される、旬のフルーツ味のシュークリームなどは、他ではなかなか食べられない逸品です。
ぜひ世田谷代田か吉祥寺のお店に足を運んでみてください!
- 白髭のシュークリーム工房 吉祥寺店
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東京都 武蔵野市 吉祥寺南町
シュークリーム
- 白髭のシュークリーム工房 代田店
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東京都 世田谷区 代田
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