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AppleやGoogleの重鎮を虜にしたパン職人!4日かけて作り、20分で完売する噂のクロワッサン

江東区の森下と清澄白河エリアを中心とした通称“フカキタ”は昔、運河の街として栄えた江戸の玄関口で、松尾芭蕉ゆかりの地としても知られる歴史深い街。海外からの観光客も多く、アートやコーヒーの街としても注目を集めています。

江東区が地元の私にとっては馴染みの街ですが、知名度はまだ都心に及びません。でも、フカキタにはもうひとつ地元民が声を大にしてオススメしたい名物があるんです!

それが「Boulangerie MAISON NOBU(ブーランジェリーメゾンノブ)」。2017年2月に誕生した下町らしからぬお洒落なパン屋さんです。

とにかく美味しいパンと近所の人たちの口コミから火がつき「アメリカのシリコンバレーで腕を鳴らしたパン職人が手がける絶品のパン屋さん」の噂は、瞬く間に広がりました。

圧倒的なまでの美味しさで地元民を魅了したクロワッサンは、パリパリの食感に口いっぱいに広がるバターの香りが堪らない至福の逸品。開店から20分程度で売り切れてしまうことも

でもどうしてこれほどまでに美味しいパン屋さんが、都心ではなく、下町にお店を出したのか?気になる!というわけで、店主のノブさんこと保要信勝さんにお話を伺ってきました。

東京オリンピックが見たいから!?シリコンバレーから緊急帰国

▲店主の保要信勝さん

▲店主の保要信勝さん

香ばしいパンが並ぶカウンターの奥に立ち、笑顔で迎えてくれた店主のノブさん。早速、シリコンバレーから日本に店を移した理由を聞いてみます。

東京オリンピックが見たくて東京に戻ってきたんです。江東区ってオリンピックの会場がいっぱいあるじゃないですか。僕、人間じゃなくて動物なんです。思い立ったらすぐに行動しちゃう。自国で開催されるなら間近で触れたい、あわよくば出たいなって(笑)

もちろん、それだけで帰国したわけじゃありませんよ。シリコンバレーで成功したことで、僕のパンが世界で通用するという実感が持てたので、競争相手の多い東京でもトップを取りたいなと思ったんです。東京は日本の情報の発信地、勝負するには持ってこいの場所です」

シリコンバレーで手応えを感じ、東京で勝負をかけるためフカキタに店をオープンしたノブさん。シリコンバレーの環境下でパンをつくることは、日本よりもはるかに大変だったそう。

「向こうは、小麦も塩も水質も日本とは違い、日本に比べると質が落ちます。それでもその環境に合わせて最高のパフォーマンスをするのが職人です。その不利な条件でも、その土地で一番のパンが作れたと思っています。1個5ドルのクロワッサンが毎日200個飛ぶように売れました。

だから今度は東京で、最高の食材を使って、最高のパフォーマンスを披露できたらと。僕はパンは生鮮食品だと思っていて。早朝の仕込み後に一度焼くだけでなく、1日に何度も焼き上げているんです」

東京では1個300円で販売されているこのクロワッサン。仕込みから仕上げまで4日もかかるんだとか。お店の上の階にはクロワッサンを作るためだけのクロワッサンルームもあります。そんな並々ならぬ情熱をパン作りに捧げているノブさん。なぜ、始めての自分の店に、シリコンバレーという土地を選んだのでしょうか。

サッカー日本代表選手のマネージャーからパン職人へ転身

▲サッカー日本代表選手のマネージャー兼ベルマーレ平塚の練習パートナー時代(写真右がノブさん)

▲サッカー日本代表選手のマネージャー兼ベルマーレ平塚の練習パートナー時代(写真右がノブさん)

シリコンバレーで成功を遂げ、その後フカキタで「Boulangerie MAISON NOBU」を開店。気になるのは、始めにシリコンバレーで店を開いた理由。お話はノブさんの学生時代まで遡ります。

「小学生の頃からサッカーを始めて、高校はサッカーの推薦で入学しました。当時からパンが大好きでしたね。サッカーの試合の前に必ずパンを食べていたので、当時のチームメイトからはパンオタクと呼ばれていました(笑)」

高校卒業後は神奈川県リーグに所属すると同時に、当時サッカー日本代表として活躍していた岩本輝雄選手のマネージャーに。

「輝さん(岩本選手)は高校の先輩で地元も同じ。兄貴と同級生だったので、中学の時から仲良くしてもらっていました。高校を卒業してしばらくした頃、プロとして活躍している輝さんから、マネージャーにならないかと誘われたんです。

世界で活躍するJリーグの選手たちを間近で見て、畑は違えど自分もいつか世界に行きたい。そんな想いもあって海外に店を出したんです」

岩本選手がベルマーレ平塚から京都のチームに移籍するまでマネージャーを務めたそうです。岩本選手のマネージャーを辞めた後ノブさんは一度、ヨーロッパへ向かいます。

「イタリアのチームにいるレオナルドってブラジル人選手に会いに行きました。そのとき、ミラノで立ち寄ったパン屋の雰囲気に感動して。向こうは店のつくりが対面式で、厨房でパンを作っている様子が見られるんですよ。

おはようからコミュニケーションが始まって、女将さんが常連さんの欲しいものを既に用意していたり。独特のスタイルにドキドキしました」

その情景を目にしたノブさんは、パン職人になることを決意。ブーランジェリーを開く目標を掲げます。ちなみにブーランジェリーとはフランス語でパン屋を指す言葉で、職人自らが小麦を選び、粉をこねて、焼いたパンをその場で売るお店のことなんだそうです。

そのときのノブさんが目指したのは、パリの裏路地に佇む地域の人に愛されるブーランジェリー。

▲有言実行。まさにパリのブーランジェリー

▲有言実行。まさにパリのブーランジェリー

「帰国後、ブレドールという店で修行を始めました。ブレドールは葉山で有名な店でパンのプロ集団なんです。専門学校に行ったわけでもないし、パンの知識もゼロ。だけど働くなら絶対にここと決めていたので面接に行きました」

このとき面接してくれたのが、ノブさんが今も師と仰ぐオーナーの橋本さん。熱意が伝わり、未経験にも関わらず、雇ってくれたのだそうです。

「先輩たちはみんな年下。その中で揉まれて、必死で勉強しました。僕にもし才能があるとしたら努力する才能。でも努力しているところは見せたくない。未経験でも雇ってくれた師匠には本当に感謝しています。研修でフランスやベルギー、ドイツにも行かせてもらいました」

IT先進国シリコンバレーでAppleやGoogleのトップたちを虜に

そんな師への恩返しも兼ねて、ブレドール入店から4年目に挑んだカリフォルニアレーズンレシピコンテストが、またもノブさんの人生の転機になります。

「その時の参加者はパン業界で有名な方ばかり。だからこそいつも通りオラオラでいこうと思って。コンテスト一週間前までハワイでバカンスを楽しみました。力まず、平常心で挑むことで、審査員特別賞を勝ち取れました。

受賞するとカリフォルニアでの研修に参加できるのですが、そのとき向こうで美味しいと評判のパン屋で食べてたパンが驚くほど不味くて。それで、ここに美味しいパンがないのなら自分で作ればいいと思い、ベイエリアで店を出すと決めました。夢じゃなくて目標です」

その後、ノブさんは日本に戻り十数年の修行を積みます。その間、ノブさんはアメリカに店を出すと周りに宣言し続けたそう。その甲斐あり、ある出会いに恵まれました。

「アメリカ在住の日本人から、ベーカリーカフェを出したいとオファーがきたんです。実際に店をオープンすることになって、運が良かっただけと言われたこともありました。でもその運は自分自身で引き寄せたと思っています。想いを口にし続け、やりたいと思ったら向かっていく。夢は叶わないこともあるけれど、目標なら努力次第でたどり着けるんです」

ベーカリーカフェの立ち上げから携わり、後にオーナーから株を分配してもらい共同経営者に。オープンほどなく、IT企業の名立たる重鎮たちがこぞって足を運ぶようになります。

「シリコンバレーはAppleやGoogleなどの巨大IT企業を抱える街です。毎日のようにAppleやGoogleのトップたちが、店で打合せをしていました。客席とキッチンの間がガラス張りになっているのですが、チップに100ドル札をペタペタ貼り付けていくんです。こんなウマいパン初めてだって。

週末にはサンフランシスコから車で1時間かけて通う常連客も。『お前のせいで毎週1時間もドライブしなきゃならない、けど俺はお前に感謝してる。それは彼女がハッピーだからだ』。そんなふうに言ってくれるお客さんもいました」

▲共同経営者となった「Voyageur du Temps」にて従業員たちと

▲共同経営者となった「Voyageur du Temps」にて従業員たちと

「帰国するときは申し訳ないという気持ちもありました。でも、下町は対面式のコミュニケーションが最も活きる場所なので、フカキタで店を営む意義も感じています。しかも、ここは成田からも羽田からも便がいいし、東京や銀座からもタクシーですぐ。

日本に店を開くなら、海外の友人が多いのでアクセスしやすい場所がいいなと思ったんです。実際にインスタを見て僕が日本でお店を出したと知ったお客さんが、日本に来たときに駆けつけてくれることもあります。パリやドバイから来てくれる方もいますね」

最後にパンやお店についての想いを語ってくれたノブさん。

僕のパンは技術と知識と愛で作られているんです。だから、妻や親兄弟、友人、これまで携わった全ての人に感謝しています。周りの支えと協力があるから美味しいパンが作れる。辛いこともあるけれど好きだから続けられる。いつでも最高のクオリティのパンを用意して待っています」

最高のパフォーマンスで食べる人を幸せにしてくれるノブさん。いつも最高のパンをありがとうございます。

ライター紹介

miyu(天野美雪)
miyu(天野美雪)
東京の東側を拠点に置くフォトライター。雑誌やムック、書籍、新聞などの紙媒体を中心に執筆。雑誌や地域情報誌にて連載を持つ。エンターテインメントの世界やサブカルチャー。楽しいことと美味しいものがとにかく好き。
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