ひしめくように居酒屋が並び、ひとつの独立した街のような雰囲気をつくる横丁。
駅からのアクセスがいいわけではないのに、目黒のはずれにある横丁が連日賑わっているとの噂。今回は、そんな「目黒新ばし」の魅力を探りに行きました。
目黒駅から10分も歩くのに常連が絶えない「目黒新ばし」
目黒駅から目黒通りを目黒川方面にまっすぐ10分ほど歩くと見えるのが、その一帯で目立っている「目黒新ばし」の看板。この敷地の中にいくつもの店舗が営まれている、屋内型の横丁となっています。
ドアを開けると隙間なく10店舗が立ち並ぶ光景が広がり、店はコンパクトながらも、それぞれ異なる個性が光ります。
気付けば深夜の2時!?「目黒新ばし」にいると時空の歪みを感じる
今回は「目黒新ばし」を愛する田中さんを案内役に立て、魅力を教えてもらうことに。田中さんは「目黒新ばし」に通いだして3年ほど。
本日の「目黒新ばし」ツアーは、手頃な価格のお寿司をつまみながらお酒を呑める「Sushi bar COZY(スシバー コージー)」から始まります。
- COZY sushi bar
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東京都 目黒区 目黒
寿司
入店するやいなや、田中さんはカウンターに座る常連さんと「緑茶豆乳ハイ」で乾杯。お二人とも田中さんとはもう見知った仲の様子。常連さんに軽く挨拶を交わしたところで、「目黒新ばし」について伺っていきましょう。
──早速ですがここ「目黒新ばし」の魅力って何でしょう?
田中さん:新参者でも溶け込みやすいところですね。というのも「目黒新ばし」は、この施設の中で定期的に店の入れ替えが起こるんです。2代目のオーナーさんも多いですよ。特に、最近オープンしたお店は初めて来るお客さんでも入りやすいと思います。
──お店で他のお客さんと仲良くなることも?
田中さん:常連さんはオープンな方が多いので、会話も交わしやすいと思います。5年以上通い続けているお客さんが、最近通い出したお客さんと笑いながら杯を交わしている姿もよく見ますね。
──都内には多くの横丁がありますが、他の横丁との違いは?
田中さん:私のイメージですが、例えば恵比寿横丁は男女の出会いの場、ゴールデン街はディープなバーが多い印象があって。一方で目黒新ばしは、もっと気軽に肩の力を抜いて呑める店が多い気がします。それに、隣の店にも5秒で行けちゃうからハシゴ酒もしやすい。
──呑兵衛にとってはちょっと危険かも。
田中さん:そうそう。私も一杯だけ飲むつもりが「もう深夜の2時!?」なんてこともしばしば。ここにいると時間の感覚が狂っちゃうんですよ。「目黒新ばし」は、時空が歪んでいると思ってます(笑)。
──料理も美味しそうなお店が多そう。
田中さん:ここのオーナーである、コージーさんの握るお寿司も絶品ですよ。それに、目黒新ばしの面白いところは、別の店にいながら他の店のメニューを出前できること。「Sushi bar COZY」で呑んでると隣の店のオーナーが来て、「あら汁を2杯分よろしく」なんて注文していたり。
──柔軟に対応してくれるオーナーさんが多いんですね。
田中さん:そうですね。「Sushi bar COZY」も、お客さんからのリクエストで今までなかったおいなりさんをメニューとして採用したりしています。お寿司を注文せず、乾き物をつまみにお酒を飲んでいくだけのお客さんも歓迎しているみたいですし。
──オーナーとのコミュニケーションも目黒新ばし呑みの醍醐味なんですね。
田中さん:コージーさんも、お客さんと一緒に呑んでいたら、いつの間にか店の椅子で横になって寝ちゃってたことがあるらしくて。目が覚めると、お客さんがカウンターの中に入って、お皿やコップを洗ってくれていたそうです(笑)。
美味しい料理に笑えるほど濃い酒。酒好きを廃人にする場所
2軒目は入り口付近にある、赤い暖簾が目印の「aki(あき)」に入店。「目黒新ばし」の魅力を伺った次は田中さんと「目黒新ばし」の出会いについて聞いていきます。
- あき
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東京都 目黒区 目黒
居酒屋
──田中さんが「目黒新ばし」に通い始めたきっかけは?
田中さん:以前目黒のオフィスに勤めていたときに発見して、それから通い詰めてます。目黒新ばしって駅とは逆方向にあるので、職場の人と会いづらいんですよ。
──羽が伸ばしやすい環境だったんですね。
田中さん:そうですね。ここに来るお客さんはこの辺りに住んでいる人や、目黒の飲食店に勤めている人が多いんです。目黒はオフィス街でもあるので、飲食店が終わった後に営業している呑み屋が少ないんですよね。だから同業者と会うことも少なくて。自由に会話できるのが楽しくて、今もつい通っちゃってます。
──「aki」も昔からよく通っているお店ですか?
田中さん:目黒新ばしデビューのお店が、ここ「aki」だったんです。ここは料理も美味しいんですが、笑っちゃうくらいお酒が濃くて面白いので案内してみました。うん、今日も濃い!
──本当だ! 飲んだ瞬間に喉が焼ける。
田中さん:ウイスキーをソーダ水で割ってるんじゃなくて、ソーダ水をウイスキーで割ってるくらいの濃さですからね。一杯で廃人になれるので、ここのハイボールのことは「廃ボール」って呼んでます。ここのオーナーのアキさんは「酒と愛情は濃いめ」というのが信条らしくて。
──酒好きを狂わせる愛ですね。あ、お通しが来ました!
田中さん:このミニチャンポン、一人前で食べたいくらい美味しいですよ。「aki」の料理は、何を選んでもハズレが無いんです。アキさんは蕎麦屋やタイ料理屋、和食屋など多ジャンルの飲食店で勤めていた経験があるので、料理のラインナップが多国籍というのも特徴ですね。
──また美味しそうな料理がテーブルに届きました。
田中さん:これは「aki」で、私がお気に入りの「鳥ステーキ サルサソース」。たっぷりマヨネーズとケチャップを乗せて、ジューシーな鶏肉と一緒に食べてみてください。青唐辛子の後引く辛さがクセになりますよ。
日中は一人でも集合場所があるから寂しくない
夜も更けてきた頃、3軒目に来たのが「La Oficina(ラ オフィシナ)」。本日の幕閉じを飾る店では、「目黒新ばし」と田中さんの思い出を語っていただきました。
- La Oficina
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Calle Sabino Berthelot, Santa Cruz de Tenerife, スペイン
カフェ
──「目黒新ばし」での印象深いエピソードはありますか?
田中さん:去年の年末、当時付き合っていた彼氏と別れたんですけど、実家に帰省する気分でも無かったので「目黒新ばし」に来たんです。ここだったら年末でも、私と同じような根無し草の人達がきっといるだろうなって思って。
──では年が変わった瞬間も「目黒新ばし」に?
田中さん:はい(笑)。実際に常連さんも集まっていました。年が明けたら、近くにある大鳥神社に、皆で初詣に行きました。その後「目黒新ばし」に戻ってまた呑んで。おかげで寂しい年末を過ごさずに済みましたね。
──心の支えにもなっているんですね。
田中さん:そうですね。その日の気分に合わせてハシゴする店を選べるのも、「目黒新ばし」の魅力だと思います。それに、店によってお客さんの年代も微妙に違うので、自分に合った店を見つけるのも楽しいかも。
──「La Oficina」はどんなときに来るお店?
田中さん:何軒かハシゴした後に、ここのテキーラでシメることが多いです。必ずトマトジュースをチェイサー代わりに呑むんですが、そしたら二日酔いにもなりづらくて。このトマトジュース、ほんのりスパイスが効いていてコクがあって美味しいんです。
教えたいけど教えたくない横丁。それが「目黒新ばし」
すっかり顔を桜色に染めた田中さんは、まだまだ飲みたりない様子。一足先においとまして、「目黒新ばし」を後にします。
カメラをぶら下げて歩いていると、「取材なの?ここはね……」と温かく迎えてくれるお客さん。でも、「とは言え、あんまり多くの人に知られたくないんだよなあ」なんて呟きも漏らしていました。そんな葛藤が、「目黒新ばし」への愛を感じさせます。
フードコートのようなリラックスしたムードに、大人がこっそり楽しめる秘密基地のような佇まいの「目黒新ばし」。その懐の深さ、ぜひ一度体感してみてください。
いちじく舞
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いちじく舞
- 1990年生まれ。フリーライター(編集) 音楽の専門学校を卒業し、銀座のホステスを経て OLを経験し、2006年ライターとして独立。 雑誌や、女性向けコラム、インタビュー記事 グルメレポート、体験記事など、幅広い分野で執筆活動を行う。