「パン・バーニャ」。直訳すると「濡れたパン」。
日本では、まだまだ知る人ぞ知るサンドイッチの一種ですが、南フランスのニース地方で古くから食されるスペシャリテ。
ルーツは港町・ニースの漁師たちが漁に出る際、持って出かけたボリューミーなランチからなんだとか。
パン・バーニャ保存のために伝統的な公式レシピがある
パン・バーニャは、オリーブオイルを染み込ませた丸いフランスパンにトマトやアンチョビ、ツナ、黒オリーブなどの地元食材が挟まれているのが特徴。
できたてよりも、少し時間をおいて具材とパンが馴染んだものを屋外で食べるのが定番で、ニース中のパン屋やキオスクで1個5ユーロほどで売られています。
公式レシピがあるほど、ニースの人々のソウルフードでもあるようです。
西宮のニースでパン・バーニャを見つけたよ
従来の、日本のサンドイッチの概念を覆すパン・バーニャを私が知ったのは、平成最後の春のこと。
出会いの場は、週末3日間のみの営業ながら多くのファンに愛されるベーカリーカフェ「オンコー アン マタン」。
お店があるのは灘五郷のひとつ、西宮郷の酒蔵通りのほど近く。
兵庫県下でも人気のお花見スポット・夙川沿いに位置し、もう少し足を延ばせば西宮ヨットハーバーのある浜側のエリア。
あら、なんだか港町・ニースっぽい…?
世界各国で活躍してきたシェフ、パトリス・ペゲロさんのこだわりとフランスのエッセンスが詰まったパンを中心とした品揃えで、パン屋激戦区の西宮でも個性が際立つ人気店です。
パン・バーニャはシェフと奥様の思い出の味だった
シェフはフランス語オンリーなので、奥様の路子さんに通訳してもらいながらインタビュー。
ーーパトリスさんはフランスのどちらのご出身ですか?
「僕はパン・バーニャに馴染みのあるニース地方ではなく、ブルゴーニュ地方のディジョンの出身。でも、家族は現在ニース近郊に住んでいるよ」
ーーじゃあ、小さい頃に食べていた懐かしの味とかではないんですね。なぜお店のメニューに加えようと思ったのですか?
「それは僕の一番好きなサンドイッチがパン・バーニャだから!」
ーーへえー、1番!何かきっかけがあったのですか?
「以前、2人でニースの近くのマントンという街に住んでいた頃、休みの日によくパン・バーニャを買ってあちこちに出かけたんだ。今日はどのお店のにしようか、って。フランス人は天気がよければすぐに出かけるし、外でランチをするのが大好きだからね」
ーーつまり、奥様とのデートの思い出と共にあるサンドイッチということじゃないですか!
「そうだね(笑)。それもあるけど、シンプルなのにクセになる美味しさでしょ?うちでもフランス人のお客さんはもちろん、日本人のお客さんでリピーターも多いんだ」
ーーサンドイッチが濡れている、しかも濡れているところほど美味しい、というのが衝撃的でした。パンに食材の水分が染みないように、という日本のサンドイッチとは全く違いますよね。
「フランスでもパンは普通、濡らさないよ(笑)。現代と違って、頻繁にパンを焼ける環境ではなかった時代に、固くなったパンを再生する庶民の知恵でもあったのでしょう。
いくつもある具材の中でも、トマトがパンに接しているのも特徴的です。うちではオリーブオイルやトマトの水分でパンを濡らしているけど、フランスの友人の中には水にくぐらせるという人もいるんだよ」
ーー他にも、具材で譲れないポイントはありますか。
「ニース風サラダとほぼ一緒の具材で、公式にも書かれている、伝統的なレシピにできるだけ則ったもので構成しているよ。ラディッシュは、日本では高価なので入れていないけど、その代わりに味のバランスを考えて紫玉ねぎを使ってる。日本の普通の玉ねぎだと甘いからね」
ーー全体的に柔らかな食感の中、紫玉ねぎと生ピーマンの食感と辛みがイイですよね。アンチョビの塩気や、具材の旨みを吸った固ゆで卵も最高です。
「持ち歩きを想定しているサンドイッチだから、卵は固茹でが基本。この店のパンは天然酵母を使ったものが多いけど、パン・バーニャには具材を引き立てるスッキリとした、白い味わいのパンが合うので、あえて天然酵母は使っていないんだよ」
ーーパン・バーニャと一緒に楽しめる、オススメの飲み物を教えてください。
「ニースのお酒、というと、やはりキリッと冷やしたロゼ。それから、フランスのモナンシロップをソーダで割ったものもポピュラーかな。ミントやカシス、桜なんかも合うよ」
どハマりしたので、自分でも作ってみた
「フランス人でもお家で作ってる人はほとんどいないわよー、結構めんどくさいわよー」と、路子さんに心配されながらも、今年のお花見に自分でも作ってみることにしました。
用意したのは、
・丸いフランスパン
・塩
・コショウ
・オリーブオイル
・ニンニク
・トマト
・バジル
・紫玉ねぎ
・ツナ
・ピーマン
・パプリカ
・ブラックオリーブ
・アンチョビ
・固茹で卵。
紫玉ねぎは、塩と酢でマリネしてみました。
具材を揃える時点で薄々気づいてしまったけど、路子さんの予想的中。結構めんどくさいぞ(笑)!
しかし、ここまできたら引き返せない。
スライスしたパンの内側にニンニクを擦り付ける。これをするのとしないのとでは大違いです。
パンに塩コショウをするのも新鮮な体験。そしてオリーブオイル。オリーブオイルはmoco's Kitchenくらい盛大に使います。
まずは刻んだバジルとトマト。
ツナやアンチョビ、ピーマン・パプリカなど、この辺りは特に順番にこだわらず、好みでのせていってOK!
昔はアンチョビの方がツナより安くて、ニースではどのご家庭にもあるものだったそうな。オリーブもグリーンではなく、特産品であるブラックオリーブを使うのが公式ポイント。
とことん、地産地消スタイルなところに、漁師メシっぽさが感じられます。
これで全部のったかな。
蓋をしてラップでぴっちり包みます。
手近にあったCDと比べるとこんな感じ。お店で買うのより、ふたまわりくらい大きい。
でも、フランスだとこれくらいのサイズは普通だそう。
ピクニックで他にもおかずがあるなら、このサイズを4〜6人くらいで分けて、ちょうどよかったです。
最初の準備段階ではめんどくさいと思ったのですが、大量に作るなら、むしろ食パンのサンドイッチより作りやすいやもしれません。
ラップでしっかり包むので型崩れの心配もなく、できたてじゃなくて馴染んでから食べた方が美味しいのも、持ち歩き時間が読めないピクニックにぴったりです。
作りすぎてしまった場合はラップをしたまま冷蔵庫で保存して、翌日にトースターで軽く温めるといいよ、と路子さんが教えてくれました。
中はしっとり、外はパリッと仕上がって、これもいい感じです。
ゴールデンウィークの10連休を終え、いよいよ本格化する行楽シーズン。
ぜひ、お出かけのお供に新感覚のサンドイッチ「パン・バーニャ」を!
- オンコー アン マタン
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兵庫県 西宮市 川添町
カフェ
ライター紹介
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かがたに のりこ
- 月に二度、あんこを炊くライター。グルメ・和装・教育・エンタメと幅広いジャンルで執筆中。 なかでも和菓子・あんこのおやつ取材に情熱を注ぐ。京都の現地ツアー「まいまい京都」では春と秋に、あんこのおやつをハシゴするツアーガイドも務める。金沢生まれ。15年の京都暮らしを経て、現在は兵庫県西宮市在住。