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大盛軒「鉄板麺」の味は、どう説明したらちゃんと伝わるのだろう。変わりながら変わらない味のひみつ

「大盛」と聞くと、にこにこしてしまう。ぱんぱんに盛られたほかほかごはんやおかず。それらを脳裏に浮かべるうちに、顔がほころんでしまうのだ。

お腹が空いていればなおさらだ。ダイエットも頭をよぎるが、生まれてこのかた、この超絶パワーワードに勝利できたためしがない。

そんな「大盛」という言葉を冠した『大盛軒(おおもりけん)』をご存知だろうか。名前のとおり、大盛メニューにあふれた東中野の定食屋である。JR東中野駅の東口から徒歩1分かからない場所で、なんとも滋味あふれた雰囲気を醸し出している。

もう、外観から店内のすみずみまでがTHE 昭和だ。BGMに『あの素晴らしい愛をもう一度』が流れていたり、コカコーラやオレンジジュースが瓶だったりする。

看板メニューの名前は「鉄板麺」。一部では「東中野名物」とも言われている。「鉄板麺」の名前を初めて聞いた人の脳裏には、一体どんな食べ物が浮かぶのだろう。鉄板の上に麺がのっかった姿だろうか。

実際はどうかといえば、キャベツと豚肉の鉄板焼きと、醤油味のラーメンが運ばれてくる。「鉄板」プラス「麺」なのだ。 大盛のご飯もついていて、おぼんの上は、店名にふさわしい炭水化物パラダイスだ。

大盛が好きだと言っておきながら、内心「ちょっと多いなぁ」とも感じるほど盛られている。かろうじてお椀からごはんははみ出していないが、そもそもお椀が大きい。だが、気がつくと全部しっかり平らげてしまっている。

テレビで取り上げられることも多いお店だ。だが、店内が常にお客でいっぱいなのは、メディアの影響だけじゃないように思う。地元の常連客も多く、老若男女幅広い客層が集っている。

良いものに、ちゃんと日が当たっていると感じる。これは、傍らから見ている者にとっても、嬉しい事態だ。

鉄板のじゅうじゅう音も、白い湯気もたまらない

そんな「大盛軒」に初めて訪れたのは、今以上に「大盛」という言葉に揺さぶられがちだった11年前にさかのぼる。店のすぐ近くに、友人数人とビルの一室を借り、そこをアトリエと呼び、制作スペースとして使ったり、ご飯やお酒を囲んで駄弁ったりしていた。ざっくりいえば、ちょっとした共同生活である。

ある時、アトリエのメンバーに「あの店は良い店だ」と連れてってもらったのが「大盛軒」だった。一見、穏やかな町の定食屋のようでいて、大盛の文字のインパクトは強く、なにより「鉄板麺」の何もかもに惹かれた。

「鉄板麺」を頼むと聞こえてくる、激しい「じゅうじゅう」という鉄板の音。あの音が、厨房から自分に向かって、近づいてくる時間は、遊園地のアトラクションにしてもいいくらいの興奮度合いだ。到着した途端、視界を覆い尽くす、激しい湯気にも毎回圧倒される。

鉄板にのっているのは、豚肉とキャベツ。レアな食材とは言い難いのに、そこに卵を割り入れ、にんにくチップをふりかけ、タバスコをかけ、ぐるぐるかき回すと、妙な独自性を放つ、異様に美味しい食べ物ができあがる。

組み合わせ次第で、世界っていくらでも広がるんだなぁ。そのバランスの妙にすっかり魅せられてしまい、作業の合間などに通っていた。

しかしこの食べ物、どう説明したらちゃんと伝わるのだろう。

野菜炒めのような見た目だけど、それだけだと全く説明がつかない。鉄板の熱でしんなりしたキャベツと豚バラ肉に、酸っぱさ、甘さ、辛さ、旨み、かけたもの全部の味という味が絡み合い、団結して押し寄せてくるんだけど、後味は妙にさっぱりとしている。

なんだろうこの味。たとえば、高級料理店で出てくるサラダにかかってるドレッシングも、知らない食材が混入していたり、複雑だったりで説明が難しいように思うのだが、それとはまた違ったベクトルで説明が難しい。複雑な味じゃないのに単純じゃない。

何回食べても、うまく説明ができない。むしろ、どんどんわからなくなる。ただ言えるのは「昔食べた味と同じだなぁ」ということ。「変わらずに美味しい」って、簡単じゃないはずだ。

店主に話を聞いてみた

「大盛軒」の創業は昭和57年という。今から約37年前だ。「鉄板麺」は創業時からずっとあるそうだ。なぜ、この魅惑の組み合わせが生まれたのだろう。長年の疑問を尋ねてみた。

「僕の父親が考えたんですけど、……よくわからないんですよ。これも入れてみよう、あれも入れてみようと、付け足していくうちに、こうなったみたいです」

そう答えてくれたのは、2代目店主の村上さん。「お店が出るのはいいんですけど、自分が出るのは苦手なんです」と照れ臭そうに笑う(なので顔写真は撮っていない)。

——とはいえ、なぜここにタバスコを入れようと思ったのかが不思議でならないのですが……。

「うちの家族、タバスコが大好きなんですよ。何にでもタバスコをかけるような人たちで。洋食系のものにはたいていかけちゃいます。ハヤシライスとか。

——えっ!

「合いますよ。ハヤシライスには、僕もかけちゃいます」

——初めて聞きました!今度試してみます。ところで、店名の由来はやはり、メニューが大盛なことに由来しているのでしょうか。

「はい。父からそう聞いています。ごはんとラーメンというのも、炭水化物と炭水化物で、今の世の中からすると、どうなのだろうかとも思いますけどね。けど、罪悪感ありつつも食べちゃったりするじゃないですか」

——……はい。食べちゃいますね。

「ちなみに『鉄板麺』の名前の由来もよく突っ込まれます。ただ、僕自身はあんまり不思議に思ったことがないんですよね。子どものころからずっと見ているんで」

——お父様は、ずっと飲食店を?

「ちがいます。もともとは不動産関係の仕事をしていて。飲食は、この店でいきなり始めたようです」

——ええっ。

「父親が子どもの頃に行った洋食屋さんに、『じゅう~~』って音のする食べ物があったらしいんですよ。『鉄板麺』の鉄板焼きは、その記憶を元にアレンジしてつくったものだと言っていました。真似たのはビジュアルで、味は別のものなんですけど。

……その辺がうまいのかな。センスがあるんですよ。見よう見まねでこういうの作っちゃうんですから」

「こだわりがない」と言いながらもこだわるところ

2代目の話を聞く限り、天才肌と思われる先代。数年前に店を引退したそうだが、キャベツを切る業務だけは、今も担当しているという。

——「キャベツだけは俺が切らないと!」的なこだわりがあるのでしょうか。

「いや、そういうんじゃないです。家にいてもごろごろしているだけだから、体動かした方がいいかなぁという。うちの店、こだわっていることとか、ないですよ」

——えっ!

「あ、でもラーメンの麺は特注でつくってもらっていて、お米は、米どころの美味しいものを使うようにしています。ごはんが美味しくない定食屋さんって嫌なんですよ。コストかかっちゃうんですけどね。でも、しょうがない。……変なところこだわっているのかな」

——いやいや、それ、変じゃありません。ところで「鉄板麺」の上にかかっているドレッシングのようなタレ、あれは一体何なのでしょうか(タレの外観は、下の写真で確認してほしい)。

「あれね。材料は、ちょっと企業秘密なんですけど……。お店で毎日つくっています。見た目と、食べた時とでギャップがあるみたいで、『思ったよりさっぱりしていた』と言われることもありますね」

そんな謎のタレを使った「鉄板麺」。村上さんは、味を確認するために頻繁に食べているというが、「個人的な話ですみません、僕、いまダイエット中なんですよ。でも、お店のものを食べると、太っちゃうんですよね……」と笑っていた。

これからも、変わりながら、変わらないでいてほしい

ほとんど変わらず、むしろ変わらないようにしているように見える『大盛軒』だが、変わった部分もあるという。

「ハード(見た目)は変わらないですが、ソフトの部分は変わってきています。僕は、昭和っぽい感じが好きなので、雰囲気はわざとそうしているんですけど、雰囲気以外のところでは、今の時代に沿ったことをやらないとと思ってて。例えば、昔はしてなかったような、インターネット上にある、店舗情報の更新作業をするようになったり。

そうしているうちに、(お客さんのお店に対する)感想も、つい気になってしまい、見るようになりました。星の数が低い時には、口に合わなかったのかなとか、何かしちゃったのかなとか、思うわけなんですよ。こういうことは、以前にはなかったことで、自分の中ではだいぶ違う業務。でも、こういう仕組みがなかったら、『ああ、こう感じる人もいるんだな』って気づく機会もなかったじゃないですか」

そういえば、アトリエを借りていた頃、大盛軒の様子をSNSにアップした記憶はない。当時はまだ、インターネットは今ほど身近ではなかったから。

「SNSとか……インスタグラムとかも、やったほうが良いのかなぁとも考えていて」と村上さんが言った。聞いて即「インスタはちょっと違うような気がします」と切り返してしまったが、「鉄板麺」の躍動感をより強く伝えられるのは動画なのでは、とも後々思った。

どんなに変わっていないように見える店でも、ずっと同じではないのだろう。

わたしたちの目に、変わらない姿でうつるために、見えないところで変化しつづけているのかもしれない。これからも、変わりながら、変わらないでいてほしいなと思う。

ライター紹介

ネッシーあやこ
ネッシーあやこ
群馬県出身、東京都在住のライター兼イラストレーター。食べものという食べものをすぐ口に入れたがる。特に好きなのは、派手じゃない郷土料理とカレー。スーパーと100円ショップが好き。
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