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大正10年創業の豆腐屋が「あつ揚げ四兄弟」「ソイレンジャー」を経てたどりついた答え

あなたは、毎日の食卓にのぼる豆腐をどこで買うだろうか。

スーパー?

コンビニ……?

いや、豆腐は必ず「豆腐屋」で買うよというというひとは、この令和にどのくらいいるんだろう。

かくいうわたしも、「豆腐なんて、どこで買っても大差ないでしょ」と思っていた。

「スーパーで全部そろうのに、わざわざ豆腐だけ別の店で買う意味なんてある?」と、確かに思っていた。

……この豆腐屋の、豆腐と厚揚げに出会うまでは。

福岡市・平尾にある「豆藤(まめふじ)・加藤本店」。

店頭には、「創業大正10年」と書かれたのぼりがはためく。

お店の窓には、こんなポスター。

ポスターには「豆腐屋の2階で豆汁はじめました」「試作を重ね、遂に完成しました」の文字が並ぶ。

いや、「創業大正10年」なんてのぼりの横に、こんな文言の洒落たポスターがあるとか、ギャップ感満載だし、気にならないわけがないじゃないか……。

そう、このお店、1階は商品を販売する「昔ながらのお豆腐屋さん」なのだが、2階はゆっくりと寛げる食堂になっている。

食堂へと続く道は、レジ横の階段。古民家ならではの狭い木造階段がたまらない。

「豆腐屋の食堂」で受けた衝撃

そんなふうに引き寄せられ、わたしが初めて豆藤の食堂に足を踏み入れたのは半年前のこと。

そのときの感動は、今でもはっきりと呼び戻せる。

まずは、揚げたての厚揚げ。

「サクッ」とした歯ざわりのあとに、とろり、と優しく広がるやわらかな豆腐のうまみ。わたしのなかに30数年培われてきた「厚揚げ」の概念をくつがえされた。そのくらいの衝撃があった。

そして、試作に試作を重ねて生まれたという、豆汁。

豚骨を豆乳で炊き、肉や野菜の旨味がしっかりと溶け込んだスープ。中に入っている大きな絹豆腐は、もっちりとしたやわらかさ。やさしい豆の甘さとコクが、舌の上でふるふると転がって、とろけた。

それから、さりげないお惣菜。

見た目は、どこの家庭の食卓にものぼるような、馴染みのおかずたち。

でもよくよく見てみれば、小松菜と油揚げのおひたしだったり、白和えだったり。ここにも、豆腐屋の心意気が忍んでいることに気づく。

初めてこの食堂を訪れたとき、わたしはそんな定食の献立すべてに、気持ちいいほど「豆腐屋のプライド」を見せつけられた気がした。

なんといったら伝わるだろう……。

誤解を恐れずにいうと、まずパッと見では「家でも見慣れた普段のごはん」なのだ。

豆藤定食(500円・税別)+揚げたての厚揚げ(80円・税別)。他に豆腐ハンバーグや唐揚げなどのがっつり系メニューもある

豆藤定食(500円・税別)+揚げたての厚揚げ(80円・税別)。他に豆腐ハンバーグや唐揚げなどのがっつり系メニューもある

だけど、そのひとつひとつが、いちいち「もう一段階、おいしい」。

むしろ見慣れたおかずだからこそ、その違いに気づいてしまう。いつものおかずに使うお豆腐が、厚揚げが、油揚げがおいしいと、これほどまでに「普段のごはん」のクオリティがあがるのかと。

たぶんこれは、日々のごはんを作りつづけている家のごはん係の方にこそ、わかってもらえる気持ちなんだと思う。

口にすればわかる。 “えっ、小松菜と油揚げのおひたしっていつも作ってるけど、油揚げが違うとこんなにおいしいの……?”って。

それを体感すると、「ああ、やっぱりお豆腐屋さんのお豆腐は違うんだ」と、舌で理解してしまう。

そんな感動を引きずって、お腹はいっぱいなのに、ついついスイーツにも手を出しちゃう。

豆乳ソフトクリームのミニサイズ、150円(税別)。

食後にちょっとだけ甘いもの食べたいなあってとき、このサイズ感とこの価格、嬉しいよね。

スプーンでひとすくい。口に入れると、「スッ」と溶ける。

牛乳でつくるソフトクリームと比べてくどくなくて、食後のデザートに絶妙にぴったりで、ぱくぱく口に運んでしまう。甘いのに、クリーミーなのに、さっぱり。

もうなんなの、ずるい。豆腐屋さんのポテンシャル、ずるいよ。

そんな謎のくやしさに包まれながら、豆腐屋のアイスクリームを堪能した。

食堂には雑誌や絵本、漫画の置かれた一角も。ひとりでもゆっくりしていいよという心遣いが嬉しい

食堂には雑誌や絵本、漫画の置かれた一角も。ひとりでもゆっくりしていいよという心遣いが嬉しい

深まる「豆藤」の謎

豆腐屋の心意気がつまった定食とスイーツに感動し、店内をよくよく見てみると。なんだかそこかしこに、気になる要素があった。

たとえば、こんなの。

「豆乳戦隊ソイ……レンジャー」?

あとは、こんなの。

「あつ揚げ……四兄弟」?

それから、こんなのも。

「四代目 信介の醤油」に「四代目 信介の柚子こしょう」。

ロゴが入ってるってことはオリジナル商品よね……?

いや、信介さんって一体……?

いろいろと謎を抱えたまま、そのときは店をあとにした。

でもその後、気になって調べているうちに、なんと「豆乳戦隊ソイレンジャー」や「あつ揚げ四兄弟」のYoutube動画まで発掘してしまったのである。

これを見たとき、わたしの脳みそは気持ちいい混乱を引き起こした。

“え、豆腐屋だよね? 大正10年から代々続く、昔ながらの豆腐屋さんだよね……。豆乳戦隊ソーイーレーンジャー♪って、えっ……?!”

あまりのインパクトに、数回再生したら妙に、脳内に残ってしまい、夕飯づくりで豆腐を切ったりすると自動的に脳内で“きーなこ♪黒ごま♪”と歌が流れるようになってしまった。

もはや、豆藤のことが気になりすぎて、どうしようもなくなってしまったわたし。

これはもう、話を聞くしかない。

そんなわけでついに今回、豆藤の店主にいろいろとお話を伺ってきた。

23歳で豆腐屋を受け継いで

こちらが、醤油や柚子こしょうの名前にもなっていた、豆藤「四代目」の加藤信介さん。

若い頃は銀座でバーテンダーをやっていたそうだが、1996年に家族の事情で福岡の八女市へ戻り、その流れで家業の豆腐屋を継ぐことに。

大正10年の創業当時は八女市の店舗で豆腐を売っていた豆藤。だがスーパーの普及などで、三代目は店舗をたたみ、工場で作った豆腐をスーパーに卸す形で営業していたそう。

そんな中、23歳の信介さんが社長になる。

「それまではスーパーで安く売らなければいけなかったから、凝固剤を使った、誰でも簡単に作れるような豆腐をうちでも作っていたんです。でもちょうどそのころ、豆腐ブームで豆腐が見直されはじめて。じゃあもう一度、こだわりの豆腐を作ってみようと、国産大豆と天然のにがりで作ってみたんですね」

天然のにがりを使う豆腐づくりは高度な技術を要するが、伝統の技術を大切にしてきた豆藤では、すぐに質の高い豆腐を作ることができたそうだ。

「で、行商みたいな感じで福岡市に売りにきたんです。そしたらもう、すぐに売れはじめて。じゃあ店舗を出そうかといって」

福岡市・平尾に店舗を構えた。

次第に豆腐のおいしさが評判をよび、飲食店からの受注も増えはじめる。

普通の豆腐「プレーン」に加え、「ごま」「ゆず」「しそ」「唐辛子」などのフレーバー入り豆腐を新商品として増やしていったのもこのころ。

どうして、フレーバー入りの豆腐を作ったのだろう?

「やっぱり、他の豆腐屋にないようなものを作ろうと思って。今は5種類ですけど、多いころは10種類くらい。週替わりでいろんなのを作ってましたね」

経営は順調に拡大し、その3年後には2店舗目を出店。その後、最大で11店舗を抱えていたときもあったのだとか。……四代目、すごい!

「店舗が多いと売る場所があるから、商品開発もしやすかったんですよね。それでいろいろとつくりはじめて」

なるほど、幅広いラインナップの商品が並んでいるのには、そんな背景があったのか。

――ところで「あつ揚げ四兄弟」や「豆乳戦隊ソイレンジャー」という名前は、どんな背景から生まれたんですか?

「厚揚げを大々的に売り始めたとき、ちょうど子どもが4人いたんですよね。だからまあ、四兄弟とかで売ったら、おもしろいかなあと思って」

――なんと。4人のお子さんのお父さんでしたか……!

「あ、でも、ソイレンジャー出したときには子どもが5人になってたから(笑)」

――おお、それで今度は5人の戦隊モノになったんですね。……そういえば、あの動画は、どんな経緯で生まれたんですか?

「ああ、えっと。もう10年くらい前なんですけどね。たまたま、当時うちで働いていた従業員の弟さんが、映像の勉強をしている学生だったんですよ」

――従業員の弟さんが。

「そうそう。それでアルバイトないですかっていうから、じゃあ売ってる横で流すけん、映像作ってみてよという話になって。その子に映像を作ってもらって、お兄さんの方に音楽を作ってもらって」

――そうだったんですね。こんな動画を作る豆腐屋さんがあるんだ!って衝撃で、おもしろかったです。当時、周りからも反響はありましたか?

「いやあ、あんまりなかったですね。もうちょっとこう、ポーンっていくかなと思ったんですけど(笑)」

なんと。

それは個人的にもったいなさすぎてちょっと耐えられないので、ぜひこのリンクからひとりでも多くのひとが見てくれることを願う。「あつ揚げ四兄弟」はほっこりなごむし、「豆乳戦隊ソイレンジャー」は豆腐屋という概念について混乱するよ(?)。

お漬物とお茶はテイクフリー。待ち時間にちょこっとつまめるの、嬉しい

お漬物とお茶はテイクフリー。待ち時間にちょこっとつまめるの、嬉しい

メニューも、混乱系

――食堂はいつからやられているんでしたっけ?

「2年前ですね。2017年の6月から」

――食堂をはじめようというのは、前から考えてたんですか?

「この『豆汁』っていうのは、もともとイベント出店とか、そういうときにだけ出してたんですよね。それがけっこう、ウケがよくて。お店出してよ、って言われたりとかしていて」

「あとは数年前に、一風堂のラーメン『白丸』とコラボして、麺のかわりに豆腐を使うという『白丸豆腐』みたいなのを出したんですよ、一風堂さんの店舗で。それもすごく売れて。そんな経緯でうちも、食堂でちゃんと出していけるようにしようかなって。で、店の2階を倉庫にしてたから、そこでやろうかなと」

――ちなみに、メニュー表って誰が考えたんですか? 初めて来たとき、解読に悩みましたけど(笑)。

「これは、家族会議で(笑)」

――家族会議で! どうしてこの形になったんですか?

「最初はきれいにデザインしてたんですけど。なんだか殺風景で寂しくて。わかりにくいけどこれでいい?みたいな感じで。みんなに言われます……わかりにくい、って(笑)」

動画にしてもメニューにしても、「えっ?」といい意味で混乱させてくれる。他にはないそんな豆腐屋だから、ますます興味を持ってしまう。

きちんと、作る

――おいしい豆腐をつくるために、こだわっていることってありますか?

「豆腐って、大豆と凝固剤と水の3種類だけでできているから、材料で差別化ってそんなにできないんです。だから、実は技術がすごく大切で。技術を大切にして、作ろうとしてますね」

――なるほど、技術……。

「凝固剤も、『凝固剤』って書けば何を使ってもいいことになってるんです。天然素材のにがりを使って作るのはすごく難しいので、それを作ってるところって、ほとんどないんですよ。パッケージの表示には『凝固剤』としかのらないから。でもやっぱり、食べたらわかるし。表には出さないけど、そういうのは誇りに思って仕事はしてます。特に打ち出しもしないけど、いつどこからつっこまれても、うちはきっちりしてます、って言えるようにはしてます」

ああ、これだ。

わたしが初めて豆藤の定食を食べたときに感じた、豆腐屋のプライドって、これだ。ほんとうに、食べただけで伝わってきたもんなあ、あのとき。

ちなみに信介さんの話では、豆腐屋は現在、日本全国に1万軒ほどあるそう。ただそのほとんどで、圧力釜で作られた豆腐しか売られていないという。

豆藤でも圧力釜を使った豆腐は売っているが、週に1、2度、直火の窯で炊いた「直火豆腐」も作っているのだとか。これを作るのは、1万ある豆腐屋のうちわずか100軒ほどらしい。

「ものすごく技術が必要で、作るのが大変なんです。そのぶん値段も、500円と高い。でもやっぱり、それがおいしいと言ってわざわざ買いにくる方も、いっぱいいるんですよね」

――それ、いつ来たら買えますか?(食べてみたい……)

「えっと僕しか作れないから……。僕がひまなときに作ります」

――えっ。曜日とか決まってないんですか。

「そう、決めてって言われるんですけどねえ」

そう言って笑い、信介さんはこう付け加えた。

「だからなんか、最終的には『きちんと作る』っていうのがこだわりみたいな感じですよね」

きちんと作る。そうだ。たとえネーミングや売り方だけにこだわっても、味がいまいちなら、継続して愛されることはないだろう。

コンビニでも豆腐が買えるこの時代に、500円の豆腐をわざわざ遠くから買いに来る。そこにあるのは、「きちんと作られた」豆腐の、他では買えないおいしさだ。

その技術を守り、おいしい豆腐をきちんと作り続けていくことこそが、信介さんの今のこだわり。

「やっぱり23歳で跡を継いだ当初は、新しいことに挑戦しようっていうのが大きかったんですよね。それで新商品を出したり、新しい売り方をいろいろ試したりとかして」

――おもしろい名前を考えてみたり、動画を作ってみたり。

「そうそう、そういうのをずっとしてきて。でも今はまたちょっと変わって……きちんと豆腐の伝統や文化も、広めていかないといけないかなあ、と思ってますね」

――なるほど……。すでに何かやられていることもあるんですか?

「いや、それがまだないんですよね、ははは(笑)」

――じゃあ、これからやってみたいこととか。

「なんかもう、口であれこれ言うよりは、おいしい豆腐を作り続けていくしかないのかなと。最近はそんなふうに思ってて。それ以外は特になにもしてないですね」

――新商品出したり、コラボしたり、いろいろ挑戦してきたうえでのその結論、説得力がすごいです……。

「15年くらい前に、燻製の豆腐をつくったんですよ。それ、日持ちもするし、空港の販売店にも置いてもらって、全国的にものっすごく売れたんです、本当に。でも結局、一過性で。1、2年で売れなくなったんですね。……だからやっぱり、長く愛されるようなものを大事にしないとなあと、今は思ってますね」

――なるほど……。

「いやあ、実は取材の話をもらったときも、いろいろ試してた若いころに来てくれると話しやすかったな、って思ってたんですよね(笑)。今は、何年も前にしたことを話さないといけないから、いまいちこう……」

――気持ちがのらないですか(笑)

「そうそう(笑)」

――でも、わたしはおもしろかったです。信介さんがたどり着いた結論。

取材の帰り、お土産にきぬ豆腐を買った。信介さんが、厚揚げもオマケしてくれた。

袋が「あつ揚げ四兄弟」の次男「ゆずじ」でほっこり。これ、信介さんの次男さんが昔描いた絵なのかな? こんど、聞いてみよう。

1丁のきぬ豆腐を、半分は冷奴にし、もう半分はお味噌汁に入れた。

夕食のとき、普段はあまり味にコメントしない夫が「お豆腐、おいしいねえ」と言い、2歳の娘はものすごい勢いでもくもくと冷奴を平らげて、空になった器をわたしに突き出した。おかわり!のしるし。厚揚げは、もちろん取り合いになった。

“食べたら、わかる”

そういうことだよなあ……と、思った。

ライター紹介

ぽこねん
ぽこねん
千葉生まれ。海外や湘南暮らしも経て今は福岡民。2017年より一児の母。育児や日常の話をnoteで更新中。書くこと寝ること食べることが好き。つまりおいしい食べものについて書くことは大好き。味を書くときはだいたい、脳内でもう一度食べてにやにやしている。
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