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スープカレー、ごはんをいれるか?ごはんにかけるか?

いきなりだが、僕には日々感じていることがある。それは、もはや食事が生きるために必要なものの範疇を超えてしまったということだ。

娯楽にまみれた現代社会。人とのつながりを求め、目の前に座っている人を無視してスマートフォンを触る人々。

まるで自身のSNSに餌をやるように、料理を撮ってはアップロードする。人々の食事は、インターネットに排泄されていく…。

ライター紹介

城戸
城戸
23歳です。友達と同人誌を作って販売したり、noteで文章を書いたりしていますが、まともな肩書きがひとつもありません。週に1度だけ外食をします。

「好きな料理は?」「行きつけの店は?」

…そう聞かれるたび、私はいつも敗北する。人々が当たり前に語る"食"というものを知らないからだ。食とはもはや、この現代を生き抜くための立派な武器なのだろう。

でも、それでも構わない。写真だけ撮って満足し、ひと口ふた口だけつまんで店を出るような、そんな化け物には決してなりたくないから。

写真になんか収める必要はない。承認欲求のために料理を食べたくない。むしろ寂しいという感情は最高のスパイスだとさえ思う。

そんなことを考えながら街を歩いていると、若い女性の声が聞こえてきた。

ーーー「あそこの侍、ほんといいよね」

侍…だと?近くに侍がいるのか?カタカナが渦巻く現代に、そして私に今必要なものは、侍の心。和の精神なのかもしれない。

侍の目に、今の世の中はどう映っているのだろう。ぜひ話を聞きたい。

ーーー「待ってくれ。侍はどこにいる?」

私が声をかけた若い女性は、怪しいものを見るような目で私に道順を教えてくれた。

教えられた通りに進んでみると、ある建物にたどり着いた。ここに侍がいるのだろうか…?

確かに「侍」の文字が店先の看板に書かれてはいるが、カレーの匂いがするし、カレーのメニューが置いてあるし、一体ここはなんなのだ…?

勇気を出し、中に入ってみた。

清潔感のあるキッチンに、無駄のない客席。今風な空間に、カレーの香りが立ち込めている。

侍が見当たらないどころか、かなり洋風だ。手渡されたメニューにはこう書いてあった。

"スープカレー"…。

これまでの人生で、一度も食べたことのない未知の料理名…。

き…聞き覚えはある。学生時代に私と目も合わせず、20歳で知らない男と結婚した同級生がSNSに載せていたアレだ。赤、緑、黄とカラフルで、写真を撮ってくださいと言わんばかりのビジュアル。怖い。

そもそも何が普通のカレーと違うのだろう。食べたことのない人でも簡単に食べられるのだろうか?不安が募る。

とりあえずメニューを確認してみるも、とにかく右も左わからないので一番楽しそうな『SAMURAI祭4種』を注文。

(13種の野菜に加え、豊富なトッピングの中からさらに4種類を選べるとのこと…。侍のショーが始まるわけではないようだ)

今回はカキフライ、豚の角煮、サクサクブロッコリー、チーズをトッピングすることに。

あとは待つだけだ。

改めて店内を見渡してみると、洒落た時計に洒落た照明。自分の存在だけが景観を台無しにしているような気がしてならない。

ほかの客が、食の強者のように感じて動悸が激しくなる。大丈夫…私は私。他者は他者だ。私はスプーンを握るのみ。

それに…見た目がお洒落なだけで、きっと味はそこそこなんだろ。見た目も性格も良い女など存在しないのと同じだ。

どいつもこいつもSNSに載せたいがために、この店に来ているに違いない。カレーの味など気にしている客などいない。私を見下すんじゃない!

…全方向に向け、敵意をむき出しにしていると、ついに料理がやってきた。

何だこれは…?

間違えて煮物が運ばれてきたのか?つーか野菜がでかい…。カラフルなうえに豆まで入ってやがる。

豆よ、お前は豆なのだ。カレーに入っていてどうする。もっとこう、ミネストローネとかに入っているべきだろ。

そして、何よりの疑問。これ、マジでどうやって食べるのが正解なんだ?

ごはんをスープに入れるのか?それともカレーをごはんにかけるのか?

ふう。一通り思考を巡らせたが皆目見当がつかない。それにしても大きい。

レンズに収まりきらず、写真を撮る際には立ち上がる必要がある。

あたかも写真を撮るのに必死であるかのようで、この上ない屈辱だ。

く…。とにかく食べてみなければ始まらない。

見た目がすべてで、本質を覗こうとしない現代の風潮を私が叩き切ってやる…!

とりあえずごはんを入れてみる

とりあえずごはんを入れてみる

???

ちょっと待て。うますぎる…。

確かにスープなはずが、口の中に物体として残っているような濃厚さ。

ゴロゴロ入った大きな野菜も、とろけるチーズに絡んで存分に素材の良さを発揮している。

こんなにもしっかりと野菜を味わったのはいつ以来だろう。

涙が出る…。

今度はごはんにかけてみよう

今度はごはんにかけてみよう

ああ…。めちゃくちゃうまい…。

カレーがしみ込んで茶髪になったブロッコリーは、米との相性も抜群。野菜とのバランスが計算しつくされている。

スープにごはんを入れてもよし。スープをごはんにかけてもよし。

これはどちらの食べ方で食べてもうまいぞ!

そして角煮がやわらかい。やわらかくて可愛い。なんかお母さんに会いたくなってきた。

…だめだ。信じられないくらいうまい。豚の角煮って、スープカレーに入っているべき存在だったんだ…。

ちなみに、スープは北海道で作っているらしく、そこから東京の全店舗に直送しているんだとか。

スープカレー発祥地の水や素材を、そのまま東京に届けることが一番のこだわりと言っていた。悔しいが、その本気度が伝わってくるクオリティなのは間違いない。

たくさんの驚きを楽しんでいる間に、LLサイズのライスもすっかり完食。

スープカレーには、見た目のお洒落さだけではない、確かな魅力があったのかぁ。偏見を持っていた自分が恥ずかしい…。

美味しいものは写真に収めたほうがいいし、みんなで共有したほうがいいに決まっている。そんな当たり前のことを、自分はまだまだ受け入れられていなかったのかもしれない。

スープカレー…。おそるべし。

お会計を済ませると、店員さんがお口直しの飴をくれた。

お口を直すのももったいない…と感じつつ、『お取り寄せジュース』というネーミングセンスが気になって食べてしまった。

スープカレー、ごはんをいれるか?ごはんにかけるか?

その答えを、これからも探し続けていくとしよう。

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