茶葉を食べるのがツウ!?INARI TEAに行ったら日本茶の未来が見えた

近年、日本茶を出すお店が増えてきたことを、ひしひしと感じる。日本人にとって身近な飲み物であるはずなのに、むしろ今まではお店が少なすぎた気さえする。

「お茶しませんか?」なんて言いながら、みんなが飲みに行くのはコーヒーである場合がほとんだし、「お茶しませんか?」と誘って、本当にお茶のお店に連れて行ったらびっくりされるだろう。

個人的にはお茶は好きだし、日本茶ブームも歓迎だ。ただ、せっかくなら今まであまり飲む機会がなかった、本格的な日本茶を飲みたい。

そう思っていたところ、恵比寿に九州のお茶を専門に扱う本格的な日本茶カフェがオープンしたと耳にしたので、行ってきた。

恵比寿駅から徒歩2分 日本茶カフェ『INARI TEA』

一見、日本茶をメインに提供するカフェには見えない外観。

しかし、看板にははっきりと「Japanese Tea」と書いてあるので間違いない。

店内は寿司屋のようなL字カウンターのみ。5人も座れば満席というこじんまりとしたお店だ。

日本茶をガヤガヤした空間で飲むのは違う気がするので、これくらいの規模感がちょうどいいのかもしれない。

メニュー表には、『INARI TEA』が扱う九州の日本茶がずらりと並ぶ。

「日本茶ってこんなに種類があるのか……全然分からない」

と困っていたら、店主の重松さんが

「お茶には旨み・甘み・渋み・香りがありますが、九州のお茶は旨みと甘みが強く、コクが深いのが特徴ですね。その中でも鹿児島の知覧のお茶なんかは、最南端の地域で育ち、陽の光がたくさん浴びているので、香りが強く立ちますよ」

と助け船を出してくれた。

その流れに乗ってそれぞれのお茶の特徴について聞いた結果、今回は特に旨みと甘みが強い知覧の「あさつゆ」(600円)という品種を煎茶でいただくことに。

お茶は注文と同時に目の前で淹れてくれる。

カウンター越しでお茶を淹れる姿を見ていると、まるでバーテンダーがシェイカーを振っているときのようなワクワク感がある。

70度のお湯で1分間しっかり蒸して、茶葉の成分がしっかりと溶け出たらグラスに注ぎ

完成。

「知覧 あさつゆ」(600円)

「知覧 あさつゆ」(600円)

九州の煎茶は、製茶の段階での茶葉の蒸し時間を一般のものの倍くらいとる「深蒸し」という製法でつくられているものが多いそう。普通より長く蒸すということは、それだけ茶葉の繊維がもろく、細かくなるということ。そうすることによって、繊維の断面が増えるので、お湯を淹れたときに茶葉の成分が出やすくなる。

つまり、「深蒸し」は短い時間でお茶の色や香りが出る作り方だということ。確かに、色も香りもはっきり出ている。

飲んでみると、一口でペットボトル飲料のお茶とはまったく違うことが分かる。濃厚だけど飲みやすい。そして何よりも香りが強い。そうか、お茶って香りも楽しむものなんだなあ。

「九州のお茶は、関東の人が飲み慣れてる静岡のお茶と比べて、味わいを濃く感じるかもしれません」

筆者はお茶と言えば、安直にも静岡のイメージしか持っていなかったが、九州もお茶の生産地として有名なのだそう。のど越しが良く、キレが良い静岡のお茶と比べると、九州のお茶はいい意味で味が濃くてコクも深いとのこと。

食べるお茶?福岡・八女で親しまれる玉露のおいしい楽しみ方

「お茶を淹れるとき、茶葉の成分は約20%くらいしか抽出されず、残りの80%は葉に残り続けるんです」

と重松さん。

聞けば福岡の八女というお茶の生産地で昔から親しまれている、玉露のおもしろい飲み方があるのだという。その飲み方だと、お茶を余すことなく堪能できると言うので、気になって頼んでみた。

目の前に置かれたのは、玉露の茶葉が入ったお猪口。

「昔作り本玉露」(1000円)

「昔作り本玉露」(1000円)

ここにお湯を注いでいく。

ふたをしてじっくり蒸らしたら、完成。

え?これで完成?ここから湯飲みに注いだりは…ないんだ。なるほど。

今まで見たことがないスタイルのお茶に戸惑いを隠せない。

どうやら、茶葉が出てこないようにふたを少しだけずらし、中のお茶だけを飲むのが正解なのだそう。

玉露は湯量が少ない分、凝縮されたお茶の味を存分に楽しむことができる。

味はなんというか、めちゃくちゃ濃い。お茶というよりはスープを飲んでいる感覚に近いかもしれない。

驚いたのが飲み終わったあとに、「最後に残った茶葉を、食べてみてください。塩かポン酢でどうぞ」と言われたこと。

余すことなく堪能ってこういうことか。
確かにお茶の成分が茶葉に残っているのなら、最後まで食べきるというのは理にかなっている。

正直、おつまみのようで美味しい。
例えるならおひたしだろうか。青菜のおひたしに近い。

「どこでも飲める飲み方ではないと思いますが、玉露の生産地では八女以外にも同じような楽しみ方をしてるんじゃないかな。普通の煎茶の茶葉だと味が薄いですけど、玉露だから美味しいんです」

話を聞きながらぱくぱく食べていたら、あっという間に空になってしまった。

お茶の間口を広げるために考案されたメニューの数々

店主の重松弘毅さん(写真右)とデザートメニューを監修したパティシエの田中俊大さん(写真左)

店主の重松弘毅さん(写真右)とデザートメニューを監修したパティシエの田中俊大さん(写真左)

『INARI TEA』は、九州のお茶に惚れ込んだ重松さんが、福岡・朝倉を拠点に九州の厳選した茶葉を取り扱う『山科茶舗』の代表である山科康也さんとタッグを組んでオープンしたお店。山科さんの他にも、有名店のパティシエやシェフなど、お茶以外にもさまざまなジャンルのスペシャリストが集う。

「いま、日本茶はブームになってますが、その中での僕らの立ち位置はどうあるべきか常に考えています。おじさんから女子高生まで幅広い層に、お茶を難しいものではなく、親しみやすいものだと思ってもらいたいんです。ただお茶を分かりやすく発信するのではなく、本格的なお茶の味も伝えていきたい」

意識したのは間口の広げ方なのだそう。確かに、本格的なお茶屋さんのイメージとは異なる可愛らしい外観な上、ガラス張りの入り口は店内の様子が外から見えるため入りやすい。

もちろん、間口とはお店の見た目だけの話ではない。

「お茶本来の大事な部分を残しながら、いまの時代に合った形でお茶を進化させることも重要です」

最高品質のお茶を提供するだけではなく、そのお茶をもっとたくさんの人に親しんでもらうためにはどうすればいいのか。それを追求した結果、生まれたメニューをここで少し紹介する。

まずは「INARI抹茶パフェ」。

「INARI抹茶パフェ」(お好みの日本茶とセットで1500円)

「INARI抹茶パフェ」(お好みの日本茶とセットで1500円)

お茶本来の風味や香りを残しながら、いかに今までにない素材を組み合わせられるかに、苦心したと言うパティシエの田中さん。

抹茶のソースや大葉とレモンのゼリー、抹茶とアニスのアイスクリーム、りんご、アーモンドなどによる11層のパフェは、層ごとにさまざまな食感があり、テンポよく食べてしまった。

理屈の話をしてしまったが、そんなことを言わずともただ単純に美味しすぎる。

次は、個人的に夏のベストアンサー「八女抹茶ソーダ」(800円)。単純明快、濃くつくった抹茶とソーダを合わせた飲み物だ。

抹茶をシェイカーに入れてシェイク。グラスに注ぐときのこの鮮やかなコントラストに気分が上がる。

主観で申し訳ないが、「夏」という感じだ。

注いだ直後は、抹茶とソーダの比重の違いで分離しているが、混ぜたらこの通り。

決して見た目だけのドリンクではない。抹茶とソーダがここまで合うのかと唸った。

ソーダの清涼感と、抹茶のコクの深さがめちゃくちゃ馴染む。どちらも存在感があるのに邪魔をしていない。

『INARI TEA』ではテイクアウトも対応しているので、恵比寿に来たときにはついつい足を運んでしまいそう。

最後は新しくメニューに加わったばかりだという「サンルージュ」。

「サンルージュ」とは、鹿児島・徳之島でしかとることができない超レアな品種。紫がかった茶葉のため、紫色のお茶となる。アントシアニンが豊富に含まれているそうだ。

このお茶に、エルダーフラワーのコーディアルシロップを加えて混ぜると

なんとピンク色に変化する。

酸性のもの(シロップ)に反応して色が変化

酸性のもの(シロップ)に反応して色が変化

比較用にストレートで抽出した「サンルージュ」と並べてみると一目瞭然。

美味しかったので、比較する前に結構飲んでしまった

美味しかったので、比較する前に結構飲んでしまった

渋みが特徴の品種ではあるが、シロップによって渋みを生かし、さわやかな味に仕上がっている。こちらも夏におすすめなお茶だ。

目指すは「未来の日本茶」

『INARI TEA』のテーマは、「未来の日本茶の創造」なのだという。

「未来の日本茶」とはどんなものなのだろうか。

「未来って、人それぞれで誰も見たことないものじゃないですか。

未来を思い描いていくためには、現在がしっかりしていないと未来も曖昧なものになってしまいます。なので、まずは今できる最高の日本茶をしっかり提供する。そして、協力してくれているさまざまなジャンルの才能ある人とともに、誰も見たことない日本茶の世界を描いていきたいんです」

すでに海外での出店も決まっている『INARI TEA』。これから世界へと羽ばたいていく最高級の日本茶への期待を持ちつつ、いま改めて日本人にとって身近な日本茶の美味しさに魅了された。

ライター紹介

早川大輝
早川大輝
1992年生まれ。Web系編プロを経て、フリーの編集者/ライター。食・エンタメ領域をメインに、記事の企画と編集、たまに執筆をしています。餃子とじゃがりこの話ばかりする。
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