古今東西、それなりにグルメを満喫してきた自信がある。そして最近、とあるラーメンにガチ恋している。
四谷三丁目の「がんこラーメン」である。
ラーメン裏世界の頂点「がんこラーメン」
現在のラーメン文化の表世界における頂点は、ミシュランガイドで初めて一ツ星を取った「蔦」、あるいは湯河原にある「飯田商店」あたりだろう。
だが個人的には「がんこラーメン」はこれらに負けず劣らず、というかはるか先の頂きに達しているように感じる。
ミシュランガイドには”絶対”に載らない日本ラーメン裏世界の頂点、それが「がんこラーメン」だ。
店の歴史は古い。創業者となる一条安雪氏のラーメンキャリアはおよそ45年であり、その詳細について書き始めると長いので、興味ある人は各自で調べて欲しい。
普通は老舗というと「昔ながらの味」を堅実に守っていくものだけど、がんこラーメンに関してはそれが当てはまらない。
いまだに進化の真っ只中にあり、その特徴を一言でいえば900円で飲める「佛跳牆(ファッティウチョン)」である。
旨味はちゃんと組み立てれば、ピラミッドのごとく立体化する
佛跳牆とは、中華料理が誇る史上最強のスープである。
その名の由来は、「修行で禁欲中のお坊さんですら壁を跳び越えてむしゃぶりつく」ような究極のスープという意味である。美味しんぼが大々的に広めたので、知っている人も多いだろう。
佛跳牆の特徴は、液体の中のスペースに、これでもかと旨味を敷き詰めている点にある。
普通は色々な食材の旨味を重ねていくと、そのうち旨味同士が喧嘩し始めて潰れた味になってしまう。
だが、佛跳牆は見事なバランス感覚でピラミッドの如く全ての味が調和している。あまりの完成度の高さに飲んだ人の多くは、美味しいという感想を超えて「味に立体感がある」という極めて摩訶不思議な感想に辿り着く。
これが中国4000年の歴史の凄みであり、佛跳牆は中華メシのサグラダ・ファミリアなのである。
さて、もったいぶってもなんだから、日本が誇る至高のラーメンの姿をお披露目しよう。
日本が生んだ佛跳牆「下品の100ラーメン」
がんこラーメンには、大きく分けて2種類のラーメンがある。1つは「上品ラーメン」という澄んだスープのラーメンで、もう1つは「下品ラーメン」という濁ったスープのラーメンだ。
まあ詳しいことを知りたければ各自でググって欲しいのだが、とりあえず初心者は「下品の100ラーメン」を頼んでもらえれば間違いない。
上の写真は、ある日の「下品の100ラーメン」である。「100ラーメン」という愛称は、カエシを入れずにダシ100%で作ったラーメンという意味からそう呼ばれている。
最近のスタイリッシュなラーメンを見慣れている人ほど、「なんか野暮ったいラーメンだな」と思うかも知れないが、これがいやはや、食べれば食べるほどによくできたラーメンなのである。
左の肉は悪魔肉と呼ばれるもので、まあ簡単に言ってしまえば、豚肉の生姜焼きである。濃い醤油タレで煮られたそれを麺と一緒にかっ喰らうと、脳内で豚肉の生姜焼きをほおばっている錯覚に陥る。
僕は以前から、ラーメンのトッピングの調和性が甚だ疑問であった。そもそもなのだが、なんでチャーシュー、味玉、メンマ、ノリが上に乗っているのだろう?
はっきり言って、どれもスープの味を濁らせる要素があるし、麺との調和もとれてないことが多い。少なくとも僕には、組み合わせという意味において、いま現在のラーメンのトッピングにひとつも必然性が見いだせない。
それがどうしたことか。がんこラーメンの悪魔肉は、麺と一緒に食べると尋常じゃないレベルで”合う”のである。
正直、単体で食べると塩っぱくて意味不明なのだが、麺と一緒に食べるとラーメンの箸休めとして最高にフィットする。
なお、心配せずともこの肉でスープのバランスなど1つも崩れない。
そして、右のチャーシューもこれまた見事。単体で食べると肉の臭みがちょっと強すぎて野暮ったいのだが、これをスープにガシガシ削り溶かして麺と一緒にかっ喰らうと「おお三位一体!」と妙な必然性すら感じてしまう。
このように、トッピングの時点ですでに他の多くのラーメン屋を圧倒的に突き放しているのだから、いやはや恐るべしである。
「塩っぱさ」という通過儀礼
肝心のスープについてだが、ひょっとしたら初めてこのラーメンを食べた人は「ただ塩っぱいだけ」に感じるかも知れない。
というか、僕も初めて食べたときは、何が凄いのかサッパリわからなかったのだ。
けど、何度か食べるとこの塩分こそが尋常じゃない量の旨味を1つに取りまとめていることがわかるだろう。ひょっとしたら、世界で最も旨味成分の含有量が多いスープかもしれない。
もともと旨味というのは、それ単体ではちょっとぼやけた味がする。かつお節で作ったすまし汁に適量の塩が決まると、物凄くシャープな味になるのがその一例だ。これは塩がかつお節の旨味を取りまとめる効用をもつがゆえである。
先程も言ったが、がんこラーメンは旨味のピラミッドである。尋常じゃないレベルで旨味を組み立てるがゆえに、塩もかなりキツめに決めなければ味が大反乱を起こして全くまとまりがつかなくなる。
だから初心者にはちょっとばかし塩っぱいのだけど、その塩っぱさを一度通過することさえできれば、その裏にある尋常じゃない旨味の立体感を感じられるはずだ。そうなると、スープを一口すするにつれ、深い溜息が出てしまうこと間違いなしである。
食後4時間、余韻が延々とつづく「1杯3500円」のラーメン
がんこラーメンの面白さを語るうえで、毎週土・日にスペシャルな具材で作るラーメンの存在は欠かせない。
基本のスープに、ある日はエビ、ある日はカニ、またある日は貝類といった様々な旬の具材を用い、スペシャルとして1杯1300円程度で提供される。
何を使うかは家元のブログで告知されるので、興味のある人はチェックしてみるとよいだろう。
元々の基本のスープも割とブレがあるのだが、スペシャルの具材が常に変わることも相まって、どれ1つとして同じ味がすることはない。これもファンが飽きずに通う理由の1つだろう。
その頂点ともいえるのが、今年のGW時に食べた1杯3500円のラーメンである。
金華ハムやら貝柱といった超高級食材を用いて作られた周年記念となるこのスープだが、今まで色々な旨いものを食べ歩いてきたと自負する僕ですら衝撃を受ける味であった。
何が凄いかというと、味の奥行きと余韻がとんでもないのだ。一口スープをすする度に味が七色に变化し、いつまでたっても味の変化に終わりが来ない。
そんな至福の時間が食べ終わるまで延々と続くのだが、凄いのはここからだった。なんと食後4時間もの間、余韻が延々と続いたのである。
「ラーメンは、徹底的にやればここまでうまくなるのか!」と、正直こんな頭のおかしい食べ物がこの世にあることに僕は衝撃を受けた。
これ以上行列がキツくなって欲しくないという気持ちが強く、あまり大々的には紹介したくなかったのだけど、こんなにも凄いラーメンがこの世にあることが周知されないのも勿体無いよなという断腸の思いで、今回は記事を執筆させていただいた。
みなさんも、ぜひ一度がんこラーメンの凄さを経験してみて欲しい。あまりのインパクトの強さにぶったまげること、間違いなしである。
- 一条流がんこ総本家分家 荒木町
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東京都 新宿区 舟町
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