カーテンの奥にある異世界! 新大久保には本物のネパールが存在した

かつて、「俺はカレーとチャイで天下をとる」と言い張る人と付き合っていたことがある。

夢が大きいのはいいことだと思っていたが、ある時期から、デートの予定がすべてカレーとチャイの研究や食材の買い物になってしまったのには参った。

ただ、時々気まぐれに作ってくれるカレーはたしかに本格的で、びっくりするくらいおいしかった。

彼がカレー作りを始めて半年ほど経過したころ、あることに気づく。当初は濃い味つけでどろっとした食感だったカレーが、だんだんと薄味でサラサラなものに変わってきていたのだ。

それを指摘すると、「よく気づいたな、これはネパール式だよ」と彼は言った。これまではインドカレーに凝っていたが、最近はサラッとしたネパールカレーがアツいらしい。

彼は、自分がネパールカレーにハマったのは、新大久保の「とある店」がきっかけだと教えてくれた。

隠れ家ってレベルじゃない「とある店」

長らくコリアンタウンとして知られてきたJR新大久保駅周辺は、数年前からネパール料理店の激戦区になっている……という話は聞いたことがあった。

「とある店」に初めて行った日、彼は先に着いてネパールの食材を調達しているとのことだった。

「駅からまっすぐ3分だから」というLINEを頼りに、私はひとりで新大久保の駅前から店へ向かうことになる。

マツモトキヨシを右手に、新大久保のメイン通りをまっすぐ進む。店は左手にあると言われたが、それらしい建物がなかなか見つからない。

ライオンズマンションの2階にネパールの国旗が一瞬見えた気がした。

まさかこれ……?

半信半疑でマンションの狭い階段を上ってみると、たしかに店があった。

看板は読めないけれどネパールの国旗が出ているし、「ハラル」と書いてあるような気がする。きっとここだ。

おそるおそる入ると、店内には所狭しと見たことのない食材が並んでいる。

決して広くはない店だけれど、レジ前にはネパール人と思しき店員さんとお客さんが数名いて、なにやら談笑していた。

彼の姿を探すが見つからない。

小さな店なので見逃すこともないだろうと思い、「もしかしてもう出た?」と連絡すると、「いや、カーテンの奥で飯食ってる」と返信がきた。

「…カーテン?」

あたりを見回すと、たしかにレジの隣の幅1メートルほどのスペースに、長いカーテンがかかっている。

え、でもこれ、お店の裏口とかでは……?と戸惑ってしまった。

悩んでいると、店員さんが「オク?」とカーテンを引いてくれた。

カーテンが開くと同時に、スパイスとラム肉のいい匂いがする。

……え、待ってここ、飲食店なの?

忘れられない「モモ」を味わいに、数年ぶりに訪れてみた

店の名前は「ソルティカージャガル」。

初めて訪れたときは何がなんだかわからなかったが、つまりは半分がネパールの食料品店、半分が飲食店という形態の店だ。

初めて来た日、店員さんに勧められるまま食べたネパールカレーと、ネパールの蒸し餃子である「モモ」が絶品で、感動した記憶がある。その後、私もネパール料理にハマってしまい、半年ほど足繁く通っていた。

今回、どうしてもあの「モモ」が食べたくなって、数年ぶりにソルティカージャガルを訪れた。

何回来ても、カーテン奥の意外な広さにはちょっと動揺する。

4人がけのテーブルと2人がけのテーブルがぽつぽつと並び、ひとりでランチをとりにきたお客さんや、お酒を飲みにきた2~3名のお客さんたちで賑わっている。

この日も、あとからネパール人らしき男性が数名やってきて、テレビを見ながらのんびりとカレーを食べていた。

とりあえず、ネパールビールの「リアルゴールド」&「ネパールアイス」

一時期は足繁く通っていたとはいえ、正直に言うとメニューにはあまり詳しくない。

店員さんの入れ替わりが激しいのか、来るたび新しい店員さんに接客されるので、毎回その人のオススメを聞いて注文することにしている。

ちなみに、店員さん・お客さん合わせて、この店で自分たち以外の日本人に会ったことはまだ1度もない。

とりあえず、ネパールビールの「リアルゴールド」と「ネパールアイス」を1本ずつ頼んで、飲みながらメニューを眺めてみる。

リアルゴールドはコクと爽やかさのバランスがよく、個人的にお気に入りのビール。ネパールアイスはかなりライトで、ごくごく飲めてしまう。

「ワイワイサデコ」「のうみそ」など、まったく味の想像がつかないメニューもあって、ちょっとドキドキしつつ、特に気になった「チョイラ」について店員さんに聞いてみる。

「ウーン、肉……」と言ったきり困られてしまったので調べてみると、チョイラとは肉を蒸してスパイスやチリソース、ハーブなどでマリネした料理らしい。

たしかにそれを説明するの難しいわ……!

「アヒルチョイラがいいよ」とのことだったので、アヒルチョイラとモモ、それからダル(豆)カレーを注文する。

「カレーはライス?ナン?チュラ?」と尋ねられて、「チュラ?」と聞き返してしまう。すると、店員さんが食料品店のほうのスペースに戻り、売り物の「チュラ」を持ってきてくれた。

どうやら、蒸した米をパサパサになるまで乾燥させたもののよう。隣がお店だと便利……!とちょっと感心する。

味の想像はつかないけれど、ここは冒険してみようということで、チュラを頼んでみた。

ピリッと辛いアヒルチョイラと、コクのあるダルカレー

数分で、テーブルにアヒルチョイラが運ばれてきた。

スパイスとにんにくのいい香りに食欲をそそられながら、まずひと口。

肉そのものは小ぶりで結構固めなのだけれど、爽やかな酸味にマスタードやマサラの辛味が加わって、おいしすぎる……!肉のコリッとした食感と、玉ねぎのシャキシャキ感のバランスが絶妙。

ビールにもぴったりなので、飲んで食べてを繰り返していると、一瞬で瓶が空いてしまう。

続いて、ダル(豆)カレーとチュラが到着。

まず先にカレーをひと口食べてみる。

いわゆるスープカレーのようにサラサラなのだけれど、ココナッツとにんにく、玉ねぎの風味が強く、どちらかと言うとコクのある印象。

ダル(豆)がモチモチしていて、こちらもおいしい!

チュラはどう食べるのが正解なんだろう……?と考えつつ、とりあえず小皿にとって、カレーを少量かけてみる。

チュラ自体に味はほぼなく、ほんのりと香ばしかった。カレーの味を引き立ててくれるのだけれど、なにせ量が多くお腹いっぱいになってしまうので、ネパール料理にあまり慣れていない方にはライスのほうが無難かも。

アツアツで肉汁たっぷりのモモ

そして最後にやってきたのが、いちばんの楽しみだったモモ!もっちりとしていて、食感としては小籠包に近い。

正直だいたいどこで食べてもハズレのない料理なのだけれど、ソルティカージャガルのモモはシナモンやハーブの風味がちょっぴり強いのが独特で、本当に絶品なのだ。

アツアツのうちに、まずはモモだけでいただく。数年ぶりの味に、思わず「あーほんとおいしい……」とつぶやいてしまう。

モモだけでなく、タレもすこし変わっている。ひと口目はピリッと辛い……と思いきや、あとから柑橘系の酸味が合わさる。

モモにタレをつけて食べると、モモ単体で食べたときとは印象の違う、コクがあるけれど爽やかな味に変わっていく。

モモをつまみに、2杯目に頼んだネパールのそば焼酎をちびちびと飲む。

店員さんと常連客とのあいだに飛び交うネパール語を聞いていると、ここ、もしかしてホントにネパールなのでは?という気分になってくる。

お会計を済ませてカーテンを開けた向こうが日本じゃなくても、たぶんそんなに驚かない。

ライター紹介

生湯葉 シホ
生湯葉 シホ
ライター・エッセイスト。1992年東京都生まれ。 酒、洋菓子、生湯葉が好き。 共著にエッセイ集『でも、ふりかえれば甘ったるく』(PAPER PAPER)。
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