突然ですが豚足、食べてますか?
豚足──。
見た目がなんだかグロテスク。どうやって食べていいのか、よくわからない・・・
そんな豚足に「無限の可能性」を感じて、24時間365日、情熱を傾ける男がいる。株式会社「栗山ノーサン」の池田吉啓さん。人よんで、「豚足王子」。
宮崎県都城市は、豚肉出荷量が日本でトップクラス。そんな畜産王国に居を構える「栗山ノーサン」では、さまざまな豚足加工商品を取り扱っている。
商品開発部部長の池田さんは日々、豚足をメジャーにするべく商品開発を重ね、日本全国を走り回っている。
なぜ豚足なのか?
大学時代から「生産者を応援する仕事がしたい」と考えていた池田さん。卒業後はJAの食品開発研究機関に就職。ハム、ソーセージなどの商品開発に携わっていた。
あるとき、池田さんは豚の「とある部分」を有効活用できないか、と思いたった。
「宮崎は全国においても有数の養豚王国。けれど、足の部分は見た目の印象や下処理に手間がかかることもあって、あまり活用されていませんでした」
しかし、豚足は健康、美容において絶大なパワーを誇る食材。肌の活性化や老化防止に役立つ「コラーゲン」をたっぷり含んでいる。
「コラーゲンは、若いうちから摂取することで、年をとってからも肌組織の再生力が高くなるとされています」
豚足の最大の魅力である、コラーゲンの知識を深めるべく、研究学会に足しげく通ったという。
「また、コラーゲンは24時間で体内における効果が切れてしまいます。効果を維持するなら毎日5gの摂取が必要。豚足なら25g。毎日食べてもらいたいんですよ」
なんでも、最新の研究によれば、コラーゲンは男性にも大変ありがたい効能があるらしい。
「増毛効果があるんです」
・・・・・・。
「毛根があるうちに、摂取すれば、です・・・」
自身の体で実証するには残念ながら遅すぎたが、日々豚足を摂取する53歳の池田さんのお肌は、つるつるピカピカ。シワがない美肌!
価格が安くて、健康で美しくなれる豚足。これを活用しない手はない!
豚足にときめいてしまった池田さんは、誰に頼まれたわけでもないのに、自宅で豚足のさまざまな調理にトライ。
それだけで終わらないのが豚足王子。
JA職員時代に、自作のテリーヌを携えて向かったのは、豚足加工にいち早く取り組み、豚足の骨抜き技術を有していた「栗山ノーサン」。
「こんな商品があるといいんじゃないか!」と熱弁を奮ったという。
2011年、池田さんは「栗山ノーサン」に、半ば押しかけ入社。名実ともに「豚足人生」がスタート。
目標はデートで食べられる豚足
「美容にもいいですが、とにかく豚足は美味しいんです。豚足は中国、韓国、そしてフランスやイタリアなどのヨーロッパでも、日常的によく食べられているんですよ。
日本でも、沖縄では豚足を煮込んだ『てびち』、福岡や宮崎では『焼き豚足』、熊本では『豚足のから揚げ』などの料理で親しまれています」
そう語る池田さんだが、豚足はまだまだ日本全国の「家庭のおかず」として一般的ではない。
そこで、怒涛の商品開発がスタートした。ヒントを探して、昼も夜も飲食店へ出かけた。生活費の半分を食費につぎ込む力の入れようだった。
まず、池田さんが開発したのが「やわらかひとくち豚足」だ。
厳選した宮崎県産黒豚の骨付き豚足を一口大にカットして、十分にボイル。
クセがなく、骨離れもよくて便利。そのまま焼いたり、煮たりといろいろな料理に手軽に使える。
さらには、営業活動まで自身で行う。
しかし、豚足を売るハードルは、想像以上に高かったという。
飲食店では、なんで「豚足?」と相手にされず、東京に出張して、飲食店を100軒回ったにも関わらず「成果ゼロ」だったことも。
スーパーのフェアでは、衝撃的な事件も起きた。2日間で食べてくれたのは、たったのふたり。
ショックで寝込んだ日もあったけれど、もはや豚足とは一蓮托生。まずは、調理の実例をと、考えうる限りのあらゆる豚足レシピを開発した。その数たるや300以上!!
池田さんが開発した「豚足レシピブック」を見るとトマト煮、ピンチョス、ハンバーグ、テリーヌなど・・・。おしゃれなイタリアンやフレンチ風のメニューがずらりと並ぶ。
「目標はデートで食べられる豚足でした」
本人は豚足に向き合うあまり、デートどころか「彼女いない歴」を着々と更新。でも「豚足王子」として、豚足を多くの女性に食べてもらうことこそが、彼の「使命」なのであった。
ウェルカム!豚足ナイト!
池田さんは、開発した豚足料理を試食してもらうためのイベントを開催することにした。
その名も「豚足ナイト」。おしゃれなバーやレストランを貸し切って、池田さんが自社商品を使ったメニューを提供する。そこに並ぶのは、「これが豚足!?」というメニューばかりだ。
野菜やフルーツと組み合わせたカラフルな「豚足のピンチョス風」「豚足パテ」「豚足サラダ」。
食感はとろっ、ぷりっ。クセはなく、バツグンの美味しさ。
そして、毎回イベントで大人気という、「豚足と鶏むね肉と豆のトマトソース」。トマトの甘みと酸味が、豚足の旨味により深いコクをもたらす絶妙な味わい。赤ワインがとまらなくなる美味しさ。
「豚足って・・・」と、おそるおそる参加した女性も大喜びだ。
楽しく、美味しい「豚足コミュニケーション」を目指す豚足ナイトでの、池田さんの活動は料理の提供にとどまらない…………そう唄うのだ。
宴もたけなわ、開催される「豚足ライブ」。
ピンクの豚のキャップをかぶり、ウクレレ片手に自作の「豚足ソング」を熱唱。
「がまんは身体に悪いのさ~♪
がまんをしないで豚足たべよう~♪」
(『僕は器用貧乏』より)
宮崎・青島ビーチでの豚足デートを綴った『青島モデラート』にはじまり、『僕はご機嫌、君は不機嫌』『明日の明日は明後日』・・・。数々の名曲オンステージ。
最後は「豚足ピース」で記念撮影!
会場は「豚足スマイル」でいっぱいだった。
次第に、「豚足は美味しい」「さまざまな料理に使える」「なんだか楽しい」と豚足ナイトが話題に。地元宮崎ばかりか、東京でも開催。
メディアにも取り上げられ、豚足商品は売れ行きを伸ばしていった。
骨を抜いて、こんがり炭火で炙ってポン酢で仕上げた「炙り豚足」は宮崎空港、鹿児島空港で人気となり、関東圏の高級スーパーにも進出。
「栗山ノーサン」の豚足商品の売り上げは右肩上がりになり、昨年10月9日(豚足の日!)には新工場をオープン。
気づけば、池田さんの肩書きは「取締役食品事業本部長」になっていた。
豚足が気づかせてくれた人生の深み
「栗山ノーサン」からこの夏、満を持して新作が登場した。
その名も「やみつきスパイシー豚足」。
新工場オープン時に採用した社員で構成された「開発チーム」が手がけた商品。やわらかひとくち豚足に下味をつけてこんがり焼いて、ブラックペッパー、レッドペッパーをきかせた「トロッ、カリッ、ピリッ」な豚足は、ビールやハイボールにぴったり!
都城市のふるさと納税商品としても、人気急上昇中だ。
次に、池田さんが目論んでいるのは「豚足海外戦略」。狙ったのは台湾。
台湾で豚足は、縁起物として誕生日などのおめでたい日に食べる風習がある。
さらに、出産後に食べるとよいとされ、台湾の産後ケアセンターでは、1日に5回も提供されるんだとか。
ただし、台湾での食べ方は、八角がきいた醤油煮のみ。新たな味わいで需要開拓を目指し、展示会に出店。現地での反応は上々だ。
豚足ひとすじの生活も、かれこれ8年。豚足に邁進するあまり、いまだ独身。まだまだ結婚はあきらめていないけれど、最近、ときどき思うことがあるという。
「『池田のことが好き』って言われるより、『豚足が好き』って言われるほうがうれしいんですよね」
池田さんは、こう続ける。
「そもそも、喜びが違うというか。豚足が好きって言われると、生きてる価値があるって思うんです。それにね、豚足を通して、素晴らしい出会いもあった。人生の深みに気づかせてくれたんです」
豚足のお導きのままにひた走る池田さん。
そして、最近、池田さんは新たにときめきをおぼえた。
豚の「頭」に。
「豚の頭肉は弾力があって、濃厚。餃子屋さんがよく購入されるんですよ」
イタリアでは塩漬けにするなどして、利用することが多いらしい。
「豚が恋人」の日々はまだまだ続きそうだ。
・「栗山ノーサン」の公式サイトはこちら
・「栗山ノーサン」の商品販売サイトはこちら
・「栗山ノーサン」の豚足を食べられる飲食店はこちら
- 釘本食堂
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福岡県 福岡市博多区 店屋町
定食
- Bar Restaurant 直樹
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宮崎県 宮崎市 橘通西
フランス料理
ライター紹介
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池田陽子
- 薬膳アテンダント/食文化ジャーナリスト。立教大学卒業後、出版社などにて女性誌、機内誌の編集を手がける。国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。自身の体調の改善、ふだんの暮らしの中で手軽に取り入れられる薬膳の提案や、漢方の知恵をいかしたアドバイスを、執筆、講習会などを通して行う「薬膳アテンダント」として活動。また、日本各地の食材を薬膳的観点から紹介する活動も積極的に取り組み、食材の新たな魅力を提案、発信を続け、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。サバファンが集う「全日本さば連合会」の広報担当・サバジェンヌとしても活動。
■池田陽子公式HP
http://www.yuruyakuzen.com/
■全さば連
http://all38.com/