老舗酒屋の角打ちが30年ぶりに復活!お客様ファーストな女性店主の想いとは

「店を畳もうかと思ったこともあったんだけどね……今は、角打ちを始めて本当によかったと思ってるの」

そう笑顔で語るのは、明治16年から続く老舗酒屋『明治屋酒店』の、角打ちを切り盛りする福田美加さん。

先代である父から兄妹で店を継ぐも、酒屋だけでは経営が成り立たず、借金がかさんでいく日々。そんな失敗が許されない状況の中、スタートした角打ち。今では毎晩、多くのお客さんで溢れかえる人気店に。

福田さんに、角打ちを始めた経緯やお店のこと、お客さんのことなどをたっぷりと伺いました。

角打ちは酒屋に併設する形

角打ちは酒屋に併設する形

アサヒの希少な生ビール「マルエフ」がなんと300円!

「明治屋酒店」は、スカイツリーがある押上と浅草の中間「本所吾妻橋駅」から徒歩30秒の場所にあります。

先代のときにも営業していた角打ちを、ビルの建て替えをきっかけに30年ぶりに復活させました。

1番の特徴は、希少な「マルエフ」が飲めること。「マルエフ」は「スーパードライ」の前身とも言われるアサヒの生ビールです。

一般的には「スーパードライ」の認知度が高いのでそちらを扱う店舗が多く、「マルエフ」はごく限られた店舗でしか取り扱いがないのが現状。その希少性も相まって、ビール好きの間では根強いファンを持つ銘柄だそう。

しかもこの「マルエフ」、明治屋酒店では中ジョッキで300円(税込)という破格のお値段で飲めるんです!

この価格で「マルエフ」を飲むことができるお店ってかなり貴重な存在なのでは……!?

「うちでは、『マルエフ』を飲む人が8割以上ね。他だとなかなか扱ってないみたいで。毎日『マルエフ』を1杯だけ飲みに来る人もいるし、『マルエフ』がないと帰っちゃう人もいるのよ! 1度飲むと癖になるというか、ハマっちゃうみたいなのよね」と福田さん。

そうまで言われると飲んでみたくなる! 

人気メニューのポテトサラダとホタテチャンジャも一緒に。絶対ビールに合う!!!と、表向きは平静を装いながらも心の中では小躍り。

人気メニューのポテトサラダとホタテチャンジャも一緒に。絶対ビールに合う!!!と、表向きは平静を装いながらも心の中では小躍り。

ということで、仕事中ですがちょっくら1杯。

昼から、しかも仕事中にお酒を飲むなんてすごく気が引けるんですが、味をきちんと伝えないといけないので仕方なくね……仕事中の方がこの記事を読んでいるかもしれない、と思うと本当に心苦しい……。

ヨダレがこんこんと口内に湧き上がってきたところで、まずはビールをひとくち。

やや苦味が強めでコクがありながらも、ゴクリと飲み下したあとにはすっきりとした後味。ポテトサラダやホタテチャンジャをつついて、またひとくち。喉を通り過ぎた後のすっきり感が堪らない!

これは癖になる味、というのもわかります。

調子に乗って、2杯目はアサヒの地ビール「TOKYO隅田川ブルーイング 琥珀の時間(とき)」をチョイス。こちらも人気の銘柄だそう。

美しい琥珀色のビールは、一口飲むと香ばしさがふわりと広がります。こちらもおいしい……!

壁には駄菓子や缶詰、魚肉ソーセージなど、角打ちならではのおつまみも。

角打ちのこの雰囲気、好きなんだよなぁ。小さい頃に駄菓子屋さんに行ったときのようなワクワク感がよみがえって、なんだか懐かしい気持ちになるんですよね。

ちなみに、夜はすごく混むので夕方までに来るのがおすすめ。土曜日も日中なら比較的空いているそうで、「ぜひランチを食べたあとに飲みに来て!」とのことです。

30年ぶりに角打ちを復活させた理由

ーーそもそも、30年前に角打ちを辞めてしまった理由は何だったんですか?

「今は角打ちと酒屋でスペースが分かれているけど、昔はお酒を売っているところでみんな飲んでたのよ。夕方ごろになると売り場のそこらじゅうに酔っ払いがいるもんだから、お客さんが寄り付かなくなってしまって」

ーーそれで角打ちを辞めたんですね。また復活させたのはどうしてですか。

「今の時代、酒屋だけでは経営が厳しくてね。借金もかさんでいくし、ビルの建て替えを機にいっそ酒屋を畳んでしまおうか、と思ったこともあったんだけど……」

ーースーパーやコンビニでもお酒が買えるようになってからは、町の酒屋さんが徐々に減っていきましたよね。

「このあたりの酒屋もみんな廃業しちゃったから、地域のお祭りのお酒の発注は、ほとんどうちで受けているのよ。色んな町会の人から『明治屋がなくなったら祭りができなくなるから辞めないで!』なんて言ってもらえてね。ありがたいよね、本当に。

でも酒屋だけだとどうにも立ち行かないから、何か新しいことをやらないと……って思って、角打ちをもう1度始めることにしたの」

ーー酒屋を続けるために角打ちを始めたんですね。

「そうそう。『借金もあるから失敗はできない』という気持ちで。ここは立地が良いから大失敗はしないだろうし、1日10人くらいでも来てもらえたらいいな……と思っていたら、ありがたいことに連日大盛況で!

オープン初日には全種類のお酒を1杯100円で出したんだけど、お店の前の歩道をふさいでしまうくらいお客さんが来てね。その後も順調に常連さんがついてくれて、定員12名の店内に、最高で27人いることもあったの(笑)」

ーー定員の倍以上!? すごいですね……! お店を作るにあたって、気をつけたことってありますか?

「最近は、すごくオシャレで値段も普通のお店と変わらないような角打ちも多いじゃない? うちでは、昔ながらの角打ちをやりたかったのよ。でも、昔みたいに酔っ払いがダラダラ長居するような雰囲気にはしたくなかったから、入りやすくて居心地の良い角打ちを目指そうと思って」

ーー店内に「ダラダラ飲みお断り」「酔った方お断り」など、注意書きが貼ってあるのはそういう理由からなんですね。でも、実際は飲みすぎてしまう人もいるのでは……?

「中には、長居したり酔っ払ってほかのお客さんに絡んだりする人もいるので、『もう今日は飲みすぎだから、これ飲んだら帰ってね〜!』って声をかけたり、あんまり酷い人は出禁にしたりしてる。注意するのは本当は怖いんだけど、マナーを守って飲んでるいいお客さんが寄り付かなくなっちゃったら困るから」

ーーきちんとお店の方が目を配ってくれるのは安心感がありますね! 明治屋さんの角打ちは、女性でも入りやすそうな感じがします。

「女性は全体の2割くらいかな? 入りやすい雰囲気にしたいと思ってはいたけど、実際に若い女性が来たときはびっくりしちゃった。以前、店内に女性のお客さんだけになったこともあって、『今日は女子会ね!』なんて盛り上がったこともあったわね」

ーー女性だけの角打ちって、なかなか見ない光景ですね! ちなみに、おつまみもお酒もめちゃくちゃ安いんですが、ちゃんと儲けは出ているんでしょうか?

「最初のうちは値段のつけ方もわからなくて、損しちゃってた時期もあった(笑)。

少しずつ調整して、なるべく安く、でもきちんと儲けも出るように……という値段設定にやっとなってきたところ。飲食店と違って原価で仕入れられるし、人も雇っていないから安く出せる、というのはあるわね。

あ、でもうちは税込価格でやってるから、10月の消費増税のタイミングで少し値段は見直す予定。それでも、そんなに高くはしないから安心して来てね!」

儲けよりも、お客さんに喜んでもらうことが1番

ーーどんなお客さんが多いんですか?

「近くの会社に勤めている人と、近所に住んでいる人が多いかな。もともと酒屋でお酒を買ってくれていたお客さんも飲みに来てくれるけど、ありがたいことに角打ちを始めてから来てくれるようになった新しいお客さんがほとんどなのよ」

ーーそうなんですね! 酒屋と角打ちとで、お客さんの違いってありますか?

「角打ちの方がお客さんとの距離が近い感じはあるわね。毎日のように来るコアな常連さん同士は仲が良くて、みんなでお花見に行ったり、常連さんの1人が経営している飲食店に行ったりしているんだけど、私もそこに混ぜてもらうことも多くて。

私はおしゃべりが大好きだから、酒屋でもお客さんとはよく話すんだけど、いままでお客さんと一緒に出かけたことはなかったからすごく新鮮で。

会社も家もうちから近いわけじゃないのに、気に入って毎日通ってくれる人もいるの。1度来て気に入ってくれて、出張のたびに寄ってくれるお客さんもいるしね。
たまに大変なお客さんも来るけど(笑)、常連さんは本当にいい人たちばかりだから、ありがたいな、と思う」

ーー角打ちを復活させてよかったと思いますか?

「もちろん! 気に入って何度も通ってくれるお客さんがいるのが嬉しくて。角打ちが人気になりすぎて毎日大変なんだけど、喜んでくれるお客さんがいるからがんばれるところはあるかな。

酒屋を続けるために始めた角打ちだから儲けも大事。でも、お客さんに喜んでもらいたい、楽しんでもらいたい……って気持ちが1番にあるから、これからも安くておいしくて、居心地よく飲めるお店を続けていきたいなって思ってる」

「いいお客さんばかりでありがたい」「お客さんが喜んでくれるのが嬉しい」と何度も言っていた福田さん。取材中も、ほかのお客さんと気さくにお話していました。

希少な銘柄がある、安く飲める……というのも魅力的ですが、福田さんの気さくで温かい人柄と、お客さんのことを考えたお店づくりこそが、人気の理由なんじゃないかと感じました。

本所吾妻橋の駅前すぐの「明治屋酒店」からは浅草やスカイツリーも徒歩圏内なので、観光がてらふらりと1杯、なんていかがでしょうか? おしゃべり好きの福田さんが、温かい笑顔で迎えてくれますよ!

ライター紹介

中村英里
中村英里
浅草出身・都内在住のフリーライター。下町グルメやレトロな純喫茶が好き。おさんぽWebマガジン「てくてくレトロ」運営。
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