「わらび餅」というと、どんな見た目を想像しますか?
わらび餅は、名前の通り”わらび粉”を使ってつくる和菓子。ところが、このわらび粉は希少価値が高く、100%使うことはなかなか難しい高級品なんです。わらび餅というと透明なものをイメージしがちですが、実はわらび粉の使用量が多ければ多いほど、見た目は黒に近い色になっていきます。
そんな、真っ黒の本格わらび餅が、和菓子のイメージとはかけ離れた街・下北沢で食べることができると聞いて、早速やってきました。
ライター紹介
下北沢東口から歩くこと約2分。劇場や雑貨屋、古着屋が立ち並ぶ下北沢らしい街並みを進みます。
「本当にここであっているかな…?」
そんな不安とともに階段を登ると、その先に現れたのは隠れ家のような入り口。ちょっとドキドキしながらえいっ!と扉を開けるとそこには想像を超える素敵な空間が待っていました。
テーマは大正ロマン。きっかけは「一枚の絵」
ステンドグラスにオレンジの暖かい光。流れる音楽にふわっと心を預けたらどこか遠くへ来たような不思議な気分。ちょっとドキドキするのに、なんだか落ち着く、とても心地よい空間です。
「うーん、どれにしよう…!」
生わらび餅を食べるぞ!と決めていたものの、ぜんざいやあんみつなど、目の前に並んだたくさんのメニューに心が揺らいでしまいます。しかし、まずはお目当ての生わらび餅を注文します。
「すいません、生わらび餅を一つお願いします!…それにしても、とても素敵な店内ですね!」
「ありがとうございます。『大正ロマン』をテーマにしているんです。そこにかかっている絵があるでしょう?この絵がとても好きで、いつか店をやるんだったらこの絵をかけたいって決めていました」
そう教えてくれたのは『甘寛』店主の青山さん。
店内に入って一番に目に入った一枚の絵。この絵がお店のコンセプトの決め手になった一枚だったとは。ちょっとドキドキするお店の雰囲気はこの絵が醸し出しているのかもと、お菓子を待つ間しばらく眺めていました。
とろっとろの生わらび餅にうっとり!
さて、お待ちかねの生わらび餅が目の前に到着!
赤い器にお花のように盛られたわらび餅たち。プルップルでなんとかわいいこと…右に黒蜜、左には菊の形のきな粉が添えられています。
このかわいい器は、お知り合いの方に揃えていただいた上で、レトロでかわいい、大正ロマンのテーマに合うものを青山さんご自身が選んだそう。和菓子のかわいさが引き立ちます。
わらび餅の真ん中と下の部分には氷が敷いてあり、最後の一つまで冷たいわらび餅を食べることができます。
黒蜜、そしてきな粉をたっぷりとつけて、いただきます…!!!
んーっ、たまらん!
黒蜜、きな粉の香りとともに、つるんと冷たい心地よさが口いっぱいに広がります。まるで「飲んでいる」ようななめらかさ。
おすすめの食べ方を青山さんに尋ねてみると、「何もつけずに、食べるのがオススメですかね」とのこと。
えっ何もつけずにですか…!?想像を超えた回答に驚いてしまいました。
「わらび餅を練るときに、和三盆を一緒に混ぜてるので、そのまま食べてもほんのりと優しい甘みを楽しめます。わらび粉の繊細な風味は、むしろそのまま食べないとわからないんです。いいわらび粉を使っているからこそ、何もつけずに楽しんで欲しいですね」
言われた通り、何もつけずに口の中へ。すると、何度かもちもちと噛むうちに、ふわーっと口いっぱいに優しい甘さが広がる瞬間が訪れたのです!
魔法にかかったような幸せなひと時を堪能しました。
慣れ親しんだ街につくったくつろぎの空間
和菓子職人になる前から一番好きな和菓子はわらび餅だった、という青山さん。
和菓子職人を職業として選んだ理由を伺うと、
「いろんな人との繋がりやご縁もあるんですけど、日本の文化や良さを広める仕事に就きたいと思っていました。あとは、職人という職業に憧れがあったんです。それらが重なって、”和菓子職人”への道を選びました」
そこで青山さんが選んだのがわらび餅の名店として知られる、京都の「ぎおん徳屋」。平日でも行列ができる人気店です。
“和菓子”というとどうしても敷居の高い業界なイメージ。修行中大変なことはなかったのか聞いてみると、意外な答えが返ってきました。
「はじめから、原宿店のオープンありきの京都本店での修行だったので、普通の修行とは少し違うものだったのかもしれません。でも、皆さん気さくだし、大将や当時の兄弟子がとても良い人だったので、やりやすかったですね。和菓子って厳しい世界を想像されがちなのは、ちょっと寂しいですよね」
京都本店での修行を終え、原宿店で店長として勤務された後、ご自身のお店をオープン。下北沢を選んだ大きな理由は、子供の頃から慣れ親しんだ街だったからだそう。
「自分がこの辺の生まれ育ちなので、下北沢は子供の頃から結構来てたんです。
昔は、”下北の人たちはここのあんこで育った”みたいなお店があったらしいんですが、そこがなくなっちゃって。そういった事情や、原宿とは人の系統が異なる新しい場所で挑戦してみたかった、という気持ちもありますね」
お店の名前である『甘寛(あまひろ)』には、”甘いものを食べて寛(くつろ)いでもらいたい”という思いが込められています。さらに奥様、”寛子”さんから一文字とってつけたんだそう。このお話をしてくださった時の青山さんの表情がとても柔らかくて素敵でした。
あんみつにかき氷。甘味屋さんだからこそ味わえる職人技
せっかくなので、お店の定番人気メニュー「あんみつ」と、夏にぴったりのかき氷「宇治金時」もいただきました。
あんみつには和三盆、抹茶、黒糖と3色の寒天が使われていて、最後までいろんな味を飽きることなく、楽しむことができます。
さらに、『甘寛』のあんみつは別添えスタイル。あんこや白玉、栗を一度に乗せて楽しむもよし、自分の好きなタイミングで好きな量を楽しむもよし。
一つひとつの素材がとてもいきいきとしているのが、『甘寛』の甘味の特徴。
「材料は国産のものでかつ、クオリティの高いものを選んでいます。基準はやっぱり、自分で食べて納得したものですね。小豆は、小豆屋さんと話してオススメされた何種類かを試して、いちばん気に入ったもの、北海道産のとよみ大納言を使っています」
そんなこだわりのあんこは、夏にぴったりのかき氷でも楽しむことができます。
ボリュームのある宇治金時は中にたっぷりのあんこ、別添えでできたての白玉がついてきます。白玉は注文が入ってからつくるためもちもち感がすごい!
また、はったい粉を使った珍しい白玉で、香ばしさを感じるちょっと大人な白玉です。
SNSの影響もあり、かき氷を目当てに訪れるお客さんも多いという人気商品。しかし、あくまでも『甘寛』は甘味屋さん。できればあんこやわらび餅を楽しんでほしいそうです。
ちなみに、お酒が大好きだという青山さん。メニューにはビールも置いてあり、甘いのが苦手な方でも、磯辺焼きとビールで一杯なんていう甘味屋さんならではの楽しみ方もできます。
最後に、これから『甘寛』をどんなお店にしたいか伺いました。
「わざわざ遠方から来られるお客さんもいらっしゃって、とてもありがたいなと思っています。
ただ、末長く商売するにはやっぱり、地元の人に愛される甘味屋になりたいですね。若い人からお年寄りまで、年齢層関係なく来たお客さんがくつろいで、喜んでもらえるのが和菓子のいいところだと思うので」
「ごちそうさまでした」
素敵な空間とおいしい甘味で心と体が満たされたので、家までの帰り道もなんだかちょっと嬉しくなってしまいます。夏のひと時を癒してくれる素敵なお店にあなたも迷い込んでみませんか。
- 甘味処 甘寛
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東京都 世田谷区 北沢
甘味処