2021年4月17日、銀座にあるShinwa Auctionという日本を代表するアートオークション会場において、日本酒の4合瓶1本が440万円という日本酒史上最高価格で落札されました。
これは日本酒の価値が、アートと同じくらいレベルの高い価値があると認められた歴史的瞬間です。
どうやって日本酒の価値を上げるのか
お酒の世界で高級なものとして有名なのは、高級ワインのロマネコンティです。1本のワインがレストランで飲むと100万を超えることはよくあること。しかし、日本酒はせいぜい高くて数万円です。
そこにはどんな違いがあるのでしょうか。
焼肉界のカリスマシェフであり六花界グループのオーナー、森田隼人さんは、そこの違いに真正面から取り組んで、ついに答えのひとつを見出しました。
優れた絵画は数億円で取引される。
「でも、それって物として残るコレクターっぽい物で、日本酒だと飲んでしまえば消えてしまうから比較にならないよね?」と思われますよね。
物として残らなくても、100万円を超えるようなものもあります。花道の作品です。花道の作品は枯れてしまえば残しておくことはできません。
絵画や花道の作品で高額なもの物の共通点は、アートとして多くの人から評価をされているということ。
日本酒をアートとして多くの人が評価をしてくれれば、同じような価値がつくのではないだろうか。
森田さんはそう考えました。
日本酒をどうやってアートとして認知をしてもらうか。
単に美味しいとか、希少性があるだけではなく、そこにはスートーリー性があることが重要だと森田さんは考えました。
日本酒をアートにするストーリーとして、人類史上初の試みに挑戦しました。
人類史上初、移動しながらお酒を作る。
そして、法律上、移動しながらお酒を作ることができる唯一の国、ロシアで「旅する日本酒」としてアート作品としての日本酒の製造に挑んだのです。
ー ロシアでの日本酒製造の詳しい奮闘はこちらでご確認ください
【往復2万km】日本酒の価値が上がらねえから、オレがロシアに行ってきた
【世界初】ロマネ・コンティを超えろ!ロシアを旅して生まれた日本酒の舞台裏
歴史的瞬間
そうして作られた日本酒がオークションで多くの方に評価される、歴史的な瞬間にRetty編集部も立ち合わせていただきました。
当日は、197の商品がオークションにかけられ、その内196の商品はロマネコンティを含むワインの中、最終品番の目玉として「十輪 旅スル日本酒」が出品されました。この一本のために作家さんによって作られた美しい龍のガラスボトルに入れられています。
こちらのオークション会場は、美術作品・漫画・バック・ジュエリー・時計などコレクターアイテムとなる価値の高いもののオークションに加えて、ワインのオークションも行われます。そのワインのオークションに、日本酒としては初めて、この「十輪 旅スル日本酒」が出品されることとなりました。
今回の「旅する日本酒」プロジェクトはロシアでの日本酒の製造を経て、このオークションで日本酒の価値をどこまで引き上げられるかというチャレンジ。
この日は、その結果の出る歴史的な1日です。
この取組みは日本酒造青年協議会、及び日本中の日本酒の酒蔵の応援を受けて、派閥やコミュニティに縛られることのない酒サムライを叙任している森田さんだからこそできたチャレンジです。
オークション会場は、ロマネコンティや、タイタニック号にも公式シャンパンとして搭載されていたエドシックなどが、数十万円、百数十万円という高額な金額で次々と落札されていく、目利きが集まる真剣勝負の場。
全ての商品の入札が行われ、ついに「十輪 旅スル日本酒」がオークションにかけられる順番となりました。
紋付の羽織袴に身を包んだ森田さんから、この日本酒のストーリーや日本酒の価値、このチャレンジを日本中の酒蔵が応援してくれていることなど、出品に対する思いが語られ、落札がはじまりました。
最初の価格は「44万円」そこから25秒ほどで100万円を突破し、40秒後には200万円。50秒後には300万円。1分を過ぎた頃、ついに400万円に。そして、ちょうど1分30秒でハンマープライス。
日本酒1本に440万円の価格がついた歴史的な瞬間です。
場内は、割れんばかりの拍手に包まれました。森田さん達のチャレンジが身を結び、日本酒に新たな価値のページが作られた瞬間です。
日本酒は高くても数万円というステージから、新たなステージへと昇格した、この歴史的なチャレンジに成功した森田さんに、この直後にインタビューに答えていただきました。
森田さんが今回のチャレンジに思うこと
まずは、
ー 率直なご感想から...
みなさんありがとうございます。
歴史的一歩を踏み出すことができました。オークション開催時には言うことができませんでしたが、今日この中で1番目標としていたのはロマネコンティでした。ロマネコンティの価値を超えたいというのがスタートだったんです。いまから2年前にほんと寝言のようにずっと言っていたようなことだったんですが、超えれた!
日本酒をやってきて良かった。日本酒はほんと素晴らしい、日本全国の酒蔵に伝えたい「みなさんのやっていることは、これだけの価値があることで、大変な「歴史・技術・思い」その3つが伴って、最高のプロダクトを作っていることだと思います。
是非、この「十輪」が、この酒を皮切りに、もっと日本酒の業界を皆様で盛り上げたいなと思います。
素晴らしい時間と機会を心からありがとうございます!
ー 440万という金額についてお伺いしたいのですが、全くの予想を超えた金額でしょうか?
超えてます!超えてます!全然こえました!途中から記憶がないです。
100万超えたあたりから、全く数字が入って来なくて。
ー ご自身のかなではこれくらいはいくかなというのはあったんですか?
100万です。
ー 440万という金額に関してはどうですか?
この酒を超えることが今後あるのか!信じられない!
ー 今回440万という金額がつきましたが、これを超える作り手やライバルに出てきて欲しいという思いはありますか?
ありますね!出てきて欲しいですが、このライバルは自分でありたい思っています。
酒サムライという称号を与えてもらった時点で、日本酒をプロモートすることを命じられたと思っているので。
これを超える活動や、ライバルが出てくれることも嬉しいですが、僕は歩みを止めずに頑張りたいなって思います。
応援してくれた皆様に、これからも応援していただくためにも、頑張りたいなって思います。
それはもう、ここにいる皆様にも一緒です。応援ありがとうございます!もっともっと、やっぱ森田やったね!って言ってもらいたい。ここで終わりたくない。
ー 「全国の酒蔵にこれだけの価値があることを伝えたい」というお話がありましたが、今一番この気持ちを誰に伝えたいですか?
育ててくれた日本酒造青年協議会の前垣壽宏会長と、このお酒を作るのに彼の力がなければ成り立ちませんでした南部美人の久慈浩介社長、この2人と、自分のことを産んで育ててくれた父と母に伝えたいです。
ー とんでもない金額が出たのですが、こちらはギネス世界記録に挑戦すると聞いていますが、いかがですか?
間違いなく正面突破した酒です。想像を絶する金額でしたが、今回ギネス世界記録の認定を是非いただけると嬉しい。
というのは、僕はこのお酒をオリンピックに持って行きたい。そのオリンピックに持っていくお酒は、やはり、ギネスワールドレコーズ社が認定したものでなくてはならないのではないでしょうか!
もう申請はしてあります。ただコロナの状況で認定員の方が来られなかったですが。
ー 今回このような結果がでましたが、次の目標や夢はありますか?
この記録を超えるのは、自分でありたいと思っています。次のプロダクトをクリエイターとして、今また作っている最中です。
このチャレンジは第12代酒サムライとしては、まだ終わりではないと思います。次の機会に日本酒の極みを目指したいと思います。
ー 何か落札者に伝えたいメッセージはありますか?
僕のお店で料理を食べながらの飲んで欲しいくらいですね!この価値を下回ることは多分ないと思いますので、この酒の価値はこれがアンダーだと思います。
ー 実際にオークションがはじまった時はどんな心境でしたか?
はじまって100万があっという間に過ぎて、自分の頭の中で100万という数字でストップウォッチが止まってしまっていて、ふっと気がついた時には、もう300万になってたので「え!」って我に帰りました。「誰の何の話してんだろーな」って。
350万くらいで1回とまって、そこから競ったんですよね。
競るってことは二人以上いるじゃないですか?欲しい人が何人もいるんだなと思って。
多分、ほんとに会ったこともない人が、この価値をみそめてくれて、何人かで競ってくれていたのは間違えのないことです。
きっとすごい楽しみにして、今日の最後まで待っていてくれたんだと思います。
ずっとオークショニアの人たちも電話が鳴りっぱなしだったんですよ。各海外と繋ぎながら、多分ご連絡をいただいていたんだと思うんです。悩んでいただいていたんだと思います。ほんと驚きましたね。
これでこのお酒の価値が決まったので。
1つ嬉しいのが、自分のやってきたことが評価されたこと。
僕は結構、異端児なので、酒エクスペリエンスってQRを付けてVRで酒蔵を旅できることとかも色々作ってきたんですけど、なんかやっぱり、価値として、アートとしてちゃんと認めていただけることって、真面目にちゃんとがんばってると、ちゃんと来るんだなと。
最後、競ってくださったみなさんには、心から感謝を申し上げたい。
あとはもう、彼らに一体どんな思いがあったのか?応援だったのか?価値だったのか?心から感謝したい。
ー 森田さんのファンは、もっともっと大きなサプライズを期待すると思うのですが、また驚かせていただきたいのですが、次はどんなことをやってくれますか?
実はもう次のプロジェクトを走らせようとしていて、そのプロジェクトを楽しみにしていただきたいです。
次はまた、すごいロジックを建てられると思います。きっと喜んでもらえると思います。
ー それはどんなものかは教えてはいただけないのでしょうか?
楽しみにしていてください!日本の酒蔵みんなと頑張りたいと思います。
ー 「旅する和牛」があって「旅する日本酒」があって、次全く違うプロジェクトになる可能性はありますか?
実はこのプロジェクトは、僕はやはり人生っていうのは「心の旅」だと思っていて距離だけじゃない。
この心が、いかにどこに動いていくかってことだと思っています。
例えば病院で、ずっと寝たきりだったとしても、心が旅をしていれば、多分それは豊かだと思いっていて、僕のテーマはやはり「旅」「挑戦」だと思っています。
次のチャレンジは、このコロナの中でできることを最大限に考えました。このコロナの状況、地球上の人みんな大変だと思いますが、今出来ることは僕たちには多分にあります。
それは、このコロナは基本的にはやはり、陸の上で起こっていることではありますが、まだ地球上の72%には海というものがあります。
僕はやっぱり色んな広い世界を見た時に、まだ世界中に可能性がある部分が多く存在していると思っていますので、その中でできることを最大限に、今年も来年も頑張りたいなと思います。
ー 森田さんのエネルギーと行動力の源泉となっているものっていうのは、どこから来ているのですか?
僕は元々料理人ではなかったところからのスタートで、他の方々よりも自分は劣っているという気持ちが、当然常にありました。でも、その劣っていることが原動力ではなく、頑張っていることに対して色んな方が応援してくれていて、このチャンス、可能性というのは、僕が出来たんだから、世界中のみんなができるチャンスだと思います。
今回僕が特別なことをしたように、この数字は凄いことをやったように映るかもしれないんですが、皆様のまわりにもこういうチャンスや発想性、応援をしてくれる人たちっていうには、今僕が何もなかったところから、これだけお応援していただけたので。みんな絶対もっていると思います。
なので、僕の原動力というのは彼らに対しての恩返しであり、「森田隼人というのは僕たちが育ててやったんだよ」って一人一人に言って欲しいのが僕の夢なんですね。
きっとこれはみんなに出来ることだと思うので、そのうちのひとつのモデルケースだと思っていただけると。
決してこれは特別なことではない。ひとつづつ積み重ねていくと、自分も料理は全くやってなかったけれど、年月はかかっても、みんなできることだと思う。
このメッセージを育ててくれた人達に、恩返しと共に送りたいと思います。
ー 一緒に酒作りに参加した学生たちに、伝えたいメッセージは何かありますでしょうか?
彼らも菌のひとつなので「よくがんばったね!君たちが頑張ったものの価値は今決まったよ。誇れ!誇れと!誇りを保て!」と。
今この状況下で新入社員で働いているんですよ、2年目とかなんです。きっと自分の力を全くだせてないと思います。
世の中にいる、今年・去年入社したみんなが、全力を発揮できていないと思います。でもみんなに言いたいと思います。
「誇れ!」と。
生きてることを誇ってください。「こんなお酒を作った人たち、こんな人たちもいるよ」と。
また次のあなたたちを僕は待っています。一緒に旅をしましょう!
ー 購入した人にはいつ手元に届くのでしょうか?
ちゃんと封入して、冷凍で送らなきゃいけないので、1週間以内に。
冷凍庫の中でマイナス10度以下で保存していただかないと劣化が進みますので。
マイナス20度くらいまでしないと劣化をするので、マイナス30度以下で僕たちも保存していますが、それでも熟成が進んでいくものなので、ちゃんと入れておいてあげないとだめですね。日本酒って結構思ったより菌の力が強いです。
ー 残りのロットはどうする予定ですか?
オリンピックにご提供させていただきたいと思っています。世界の方々にこの価値をわかっていただきたいというのが次の目標になります。
今年やはりこれ以上に自分にできる世界に対して革命っていうのは、なかなかないと思うので、まずはそこですかね
余った部分は、別のオークションの機会に、これ以上の価値を付けていただけそうであればお出ししたいと思います。
ー どのようにオリンピックに持って行きたいという計画はもうありますか?
料理人なので、オリンピックで料理と一緒に振る舞いたいですね。自分自身も提供したいと名乗りをあげておりますが、その時に持って行きたいと思います。もし自分がだめでも、自分の仲間の料理人に託して、このお酒は自分の思いとして持って行ってもらいたいと思っています。これが世界に届けるには一番いいことだと思っています。
ー 正直なところ、オリンピックの開催はゆれているが、オリンピックに関するメッセージや思いを教えてください。
このお酒も菌によって発酵してできていて、菌というのは地球上の環境をやっぱり維持しているものだと思っていて、ただ人類にとって今のコロナというのは、とてもセンシティブな部分あって、開催自体がいいかどうかっていうのは、世論だったり政府の方々に判断をまかせたい。
もしも、なにかの形で開催ができるのであるのであれば、私としては全力で応援をしたいなと思っています。「アスリートの方々ときっと同じような状況なのかもしれない」というメッセージです。
ー 改めて、日本酒の価値を大きくあげることができましたが、いかがですか?
ここから先、またこのお酒がどこで誰に飲まれるかというのもアート的な価値だと思っていて、また、誰にもっていてもらうのかも重要なことだと思っています。万人に飲んでいただきたい気持ちはあります。ただ、僕の使命は日本酒の底上げをすることだと思っているので、「日本酒は素晴らしいよ」と。皆さん1,200の酒蔵の方々が、ようやくこの時期、お酒作りを終えたところだと思います。
今はコロナの影響でお酒の売れ行きも、それほど良くないかもしれないが、今は歯を食いしばってでも耐えていただいて、そして、「自分が作ったお酒が、それだけの金額になる可能性があるものなんだよ」「僕たちが森田を育ててやって、出来た酒なんだよ」って全国の酒蔵に言ってもらいたいです。
全ての酒蔵に愛を。
そして日本酒の極みをこれからも作って行きたいと心から思います。
ー 今日の夜はどのように過ごすのですか?
おにぎり食べたいな。お米について、すこしちょっと考えたい。あとやはり酒蔵の方々にお礼を伝えたいなと思います。
次のチャレンジ楽しみにしていてください。
インタビューを終えて
すごいことをやり遂げた森田さんですが、人間としての温かみがある人懐っこいキャラクターがインタビュー中にも、ずっと伺えました。
こんな森田さんだからこそ、すごい方が次々と協力者になってくれるのでしょうね。
森田さんの地球を舞台にした新たなチャレンジが、いつどのような形で始まるのか、今から楽しみでなりません。
その大きなチャレンジと、これからの日本酒の新たなステージでの展開を、これからもRettyは見届けていきたいと思います。
日本酒の価値観を大きく変えてくれた今回のチャレンジは、これからの食の価値を変えてくれる、歴史的に意義のある一歩となりました。
(注)この記事は「清酒」を表現上「日本酒」として記載しております。