なぜ、人はこんなにも焼き肉に惹かれるのか。
肉が好きだから? ただ焼くというシンプルな調理法だから? それともみんなでワイワイ焼くというプロセスまでも楽しめるから?
国民支持率No.1メニューと言っても過言ではないメニュー「焼き肉」の極め方を、焼き肉マニア小関氏が語り尽くすこの連載。
今回は、いま大いに盛り上がっている焼肉界で、新星ともいえる「塊肉を焼く」お店について紹介する。
ライター紹介
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小関尚紀
- リーマン作家/MBA/Yakiniku Journey(焼肉探検家) サラリーマン、作家。早稲田大学大学院修了。経営学修士。『焼肉の達人』(ダイヤモンド社)、『世界一わかりやすい「ゲーム理論」の教科書』(KADOKAWA 中経出版)など単著5冊。趣味の焼き肉は、予約困難店含め200店舗以上を訪店。日々、セクシーミートを探索しつつ、美しく、美味しい焼き方を独自に研究している。
肉を焼く時の新しい単位「1ファイヤー」
「まずは、赤身の塊肉をこのように鉄板で転がすように4面ずつ焼いていってください。15往復です」
おまかせ肉マニアコース(10,000円)をオーダーし、目の前に登場したのは赤身の塊肉。この日は、外モモのシキンボウ150gでした。
店員さんの指導のもと、鉄板の端から端まで、ゆっくりとトングで転がすようにやさしく焼いていきます。15往復すると、少し焦げ目がつくくらいの焼き色をした塊肉。これで完成か、さぁ切りにかかろうと思いきや、ステンレスの器具の上に塊肉をのせて休ませます。
「赤身肉は一旦休ませて、余熱で火入れをしていきます。その間に、霜降りの塊肉を焼いていきましょう。こちらは焼き方を変え、表裏の断面を焼きます」
次に登場したのは霜降りの塊肉のリブ芯です。肩ロースから背中に続く部位になります。肉質は柔らかく、霜降り具合の見栄えもよい人気のスター部位です。
「片断面10ファイヤーで、裏返します」
「え?片断面10ファイヤー?」
「片断面を焼いていくと霜降りなので、火に脂が落ちます。その時に見た目にわかる炎が上がるので、それを1ファイヤーとカウントし、10ファイヤーあがれば、裏面を焼きに入ってください。裏面も10ファイヤー、カウントしてください」
霜降り塊肉を焼き上げると、赤身肉に戻り、更に15往復転がし焼き上げます。霜降り塊肉を戻し、今度は5ファイヤーの裏表で焼き上がりです。
仕上げにガーリックソルトオイルに肉塊を浸し、鉄板に戻すと炎があがり、ガーリックソルトにコーティングされた塊肉の香ばしい香りが漂うと、完成です。
カップルシートの着座した本日の私の相方は、塊肉を自分で初めて焼き上げたと、キャッキャキャッキャ無邪気に喜んでおりました。残念ながら、白髪のナイスミドルでしたが。
両方の塊肉が完成し、肉の切断に入ります。まずは、真ん中に包丁を入れ、豪快に切り分け、ピンクがかったビジュアルを確認します。
切断した塊の片方を繊維に沿って等間隔で切断し、もう片方の塊を荒々しく乱切りにします。このように、1つの塊で2つの食感を楽しむのが、塊肉の極意です。
焼肉店経営者の中で異色の存在、女性店長が司る「D29」
D29は、滋賀県竜王町の澤井牧場の近江姫和牛をはじめ、全国の黒毛和牛牝牛の霜降り、赤身塊肉29部位を仕入れる肉焼屋です。
訪問当日の肉マニアコースは最初にキムチ盛合わせ、海苔サラダと始まり、塊肉、レバー、千切りキャベツ、タン元、ツラミ、小腸、サーロイン、ハラミ、ランプ、スープと続きます。
そしてお待ちかねの締めの時間。ご飯の上にお店オリジナルの卵と醤油のソースをかけて食べるハンバーグです。ほぼ牛肉と言って過言ではないハンバーグをご飯に乗せ、ソースをかけ、卵かけハンバーグ丼の完成です。これは、「BUONO」の言葉を連発しるしかありません。
雑多な慶応中通りの中にあって、白でデザインされたD29は、店内も白で統一され、スタイリッシュなお店です。お店を取り仕切るのは、女性店長の信濃屋祥子さんです。多くの焼き肉店は、男性中心、その中では異色の存在です。
肉ソムリエでもある信濃屋店長が、その日の仕入れ状況により、すべてのコースをアレンジし、塊肉の焼き育て方も優しく伝授してくれます。
同じ塊肉でありながら、赤身と霜降りで焼き方の違いを焼き育てながら楽しむことができ、香り、味わい、食感の違う塊肉をD29に再訪して、また体験したい。そんな楽しく、美味しく肉学を学べる肉焼屋さんなのです。
- 東京食肉市場直送 肉焼屋 D-29
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東京都 港区 芝5
焼肉